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アジア知的障害会議と日本の本人活動

鈴木薫
東京都知的障害者育成会 本人部会ゆうあい会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年10月号掲載

2003年8月20日(水)~25日(月)、茨城県つくば市(日本)にて第16回アジア知的障害会議(以下、アジア会議と略す)が開かれました。この会議は従来、アジアを中心とした地域における知的障害者のための医学、福祉、労働、教育についての研究や実践について紹介し、討議する場でありました。知的障害当事者(以下、本人という)を抜きにしたところで、本人のためにといろいろ議論してきたことでしょう。今回のアジア会議では、本人の声を聞き、いっしょに話し合う第一歩として、本人プログラムを用意し、招待講演には本人である国際育成会連盟副会長ロバート・マーチン氏をお招きしました。

ではまず、本人プログラムが設けられたことの意義とねらいについて確認しておきたいと思います。ついこの前まで、知的障害のある人は自分で物事を考えたり決めたりすることが出来ないと思われ、支援の側(職員と言われる人、親、行政など)が本人のためにと、本人の暮らしのさまざまなことを決めてきました。ところが近年、日本の知的障害者福祉の領域でも本人意思の尊重が大きな流れとなり、本人活動の成果および関係者の努力により、施策検討の場においてさえ本人の声を取り入れる試みがなされています。今回のアジア会議において、日本では本人たちが声を上げ、自分たちのことは自分たちで考えようとし始めている姿を示すことをねらいとしました。日本における本格的本人活動の芽は1991年の育成会全国大会本人部会(本人分科会)にあると言われています。その前年、パリでの育成会世界会議に日本から5人の本人の方が参加し、スウェーデンの方に「自分たちのことなのに、どうして親まかせにしているの。これからは自分たちも話し合いに参加するようにしたらいい」と言われ、衝撃を受けたそうです。この思いを持ち帰り、仲間たちに伝えていったことにより、本人活動が生まれ、広がっていきました。今度は、日本からアジア各国へ衝撃が広がって行く。そんな願いを込めて企画しました。

本人プログラムで発表する参加者達

次に、本人プログラムの当日(8月23日午後)の様子を少しご紹介します。1.ふだんの暮らしのこと。2.本人の会のこと。3.知的障害者であることで、悲しい思いをしていないか。この三つをテーマにシンポジウムを行いました。東京(ゆうあい会)の方が司会を務め、シンポジストは台湾、シンガポール、タイ、そして日本の北海道の方に参加していただきました。話し合われた内容で印象に残ったところでは、まず、施設の暮らしのことです。場内の日本人から「小さい頃から施設で暮らした。それは、まわりの人の都合だと思う」という意見が出ました。ロバート氏はご自身の体験を踏まえ、自分たちの人生が健常者の人生とどうしてそんなに違うのかという疑問を示し、「本当の人間として、現実の生活を、現実の地域の中でしたい」と訴えていました。また、いじめのことを巡って、日本の人からいじめられた時に相談できなかった悲しさが語られ、タイの人から「いじめる人にはいずればちが当たる」というお国柄からと思われるアドバイスが出たりしていました。国籍を問わず、皆さんうなずいていたのは、「ホテルで働きたい」とか「結婚して子どもは二人ほしい」といったような、夢を話しているところでした。夢を失わず、夢をつぶされずに生きていくことが大切だと感じました。そして、話し合いの後は交流パーティーでした。日本を含め三つの国から太鼓や踊りの出し物があり、楽しいひと時を過ごしました。

はっぴを着て、交流パーティーを楽しむ海外からの参加者

最後に、日本の本人活動の現状について少しお伝えします。日本では本人活動を「知的な障害がある人たちを構成員とした、本人たちが決定権を持ったグループ活動」と捉えています。全日本育成会の調べでは、現在全国に約150のグループがあります。実際の活動は幅広く、ボウリングやカラオケ、日帰り観光、料理教室、 パソコン教室等のレクリエーションや勉強。福祉の制度や自分たちの権利について学んだり、行政と話し合いの場を持つなどの学習活動や行政交渉もあります。本人活動は、仲間と共に自分らしく活動していくことを通し、自分たちと社会の関係を見つめ、社会への働きかけをしていくような、そんな広がりを持っています。本人のグループは人数も成り立ちも様々ですが、ピープルファーストを標榜する人たちは、全国組織を作るための準備もしています。本人の皆さんが声を上げ始めたことにより、まだまだ一部ですが、都道府県の地方障害者施策推進協議会のメンバーに、本人が加わるところも見られるようになりました。国でも、新障害者計画策定の過程で本人が意見を述べる場が設けられ、現在進行中の「障害者(児)の地域生活支援のあり方に関する検討会」でも、傍聴や意見を述べる機会が設けられています。ここ3~4年は、年に1回程度ですが、厚生労働省の障害者福祉担当課長と本人の代表との懇談の場も設けられるようになりました。

ロバート・マーチン氏(右から二人目)と参加者

日本の本人が発言する場面では、欧米の知的障害者の当事者活動の影響を受け、「私たちに関することは私たちを交えて決めていくようにしてください」という内容の声が、必ずといってよいほどあがります。今回の本人プログラムでも、日本のシンポジストからそういう発言がありました。これには二つの思いが込められているように思います。日々の暮らしの小さなことでも、本人の気持ちを聞いてください。本人の暮らし全体に関わる施策検討の場に、本人の代表を入れてください、ということです。知的障害のある方たちと関わりのあるすべての人が、まず本人の表現に耳を傾ける。2年後のアジア会議がそこから支援を考える場になるよう願って終わります。