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障害がある人の人権と欠格条項-「問題の本質を清算しての見直しを」

松友了
(社福)全日本手をつなぐ育成会 常務理事

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2001年5月号掲載

 「障害者に係わる欠格条項」の見直しが実現しようとしています。政府の障害者施策推進本部がその方針を決定し多くの法律について改正案が国会に提出されているため、あとは時間の問題の感があります。この件について、以前から取り組んできた私たちは、願いの実現を目前にして喜びを抑え切れません。しかし、もう一つ釈然としないものがあります。それは、推進本部の「案」が中央障害者施策推進協議会(以下、「中障協」という)で論議されたとき、障害のある本人諸氏等が一致して指摘し、それゆえ「意見」という形の文書が会長と企画調整部会長名で添付されることになった背景と同じくするものです。

 「中障協」での議論は、事務局(総務府)の原案を評価しつつも、ただ一点において本人諸氏等の強い反発を受けました。そしてそれに関しては、私も全く同感でした。それは、素案に「欠格条項は、原則としてすべて撤廃する」という一文が基本になっていなかったからです。原案が科学技術の進歩等の理由を羅列し、「真に必要であるか否かを再検討し」となっていることに対し、欠格条項の歴史的な目的とそれゆえの障害者の苦しみについて真摯な反省がなされていない、という批判であったのです。原案では、欠格事項は「これまでは意味があったが、時代が変わったので見直す」という当局の自己正当化が前提にあり、これに反発が集中したのです。

 この議論は、欠格条項の本質を指摘するものであり、この総括を抜きにしては、真の問題解決にはならないでしょう。すなわち、本人諸氏等が指摘されたように、欠格条項は障害者に資格や免許、機会を与えることは、社会の安全を脅かすという、社会防衛思想に基づくものである、明らかに彼/彼女らを社会から排除する狙いがあったのです。典型的な法制度による障壁(バリア)であり、行政施策における差別であったのです。それゆえに、欠格条項は単にある資格や免許、機会が与えられないことにより、社会参加に著しい困難が発生したのみでなく、法制度上に明示されることにより、国民大衆の間に障害者に対する誤解や偏見を生み出したり、助長・強化する役割を担ったのです。この影響をまともに受け、多大な苦悩の中で人生を過ごすことを強いられた本人諸氏等が、一致して強く「原則撤廃」を主張されたのは、歴史的背景を考えると必然だったのです。

  歴史を紐解けば、障害のある人は社会の中で無能者としてだけでなく、平穏を乱す存在として見られてきたことが明らかです。知的障害者における収容(入所)施設の目的は、「彼らを守る、彼らから守る」と表現されたように、社会大衆の迫害から知的障害者を守る役目と、彼/彼女らが社会へ与える混乱を防ぐ意味を関係者は意識していたのです。これを明確に再認識し、その意識(思想)を清算しないことには、「地域でのあたりまえの生活」の実現は絵に描いた餅でしかありません。この社会防衛思想に基づく施策のうち、もっとも酷いものがハンセン病に対する「らい予防法」や優生思想がむき出しにされた「優生保護法」であったことはご存じのとおりであり、それゆえに廃止や全面改正になったのです。欠格条項の問題は、まさにこれらの法制度の延長上にあり、それゆえにその本質(思想)を清算しなければ、真の解決にはなりません。すなわち、これまでの施策への反省と障害者への謝罪の弁が前提となるのです。

 逆説的な表現として、障害者の存在の意味として、まさに社会的矛盾の真の原因を隠蔽し、表面的な納得と平和を与えるスケープゴート(犠牲羊)の役割があったといわれています。彼/彼女らを忌み、迫害する中で、社会は平和を幻想することができたのです。その最もたるもので、あたかも正当性があるかのごとく装いを保ち、今日まで生きのびてきたものが、この欠格条項であったのです。それゆえ、人権思想の高まる中で、この問題は避けて通れなくなったのです。私は以前から、多くの人が期待するように、(障害のあるアメリカ人法)のような差別撤廃法がわが国に成立したら、最初の被告は政府自身であろうと主張してきましたが、それはここに理由があるのです。

 ノーマライゼーションの理念に基づく施策を進めようとする政府が、法制度による差別である欠格条項を見直すことは当然であり、その高い人権意識に敬意を表し、その結果に期待をするものです。そうであるとすれば、何らかの形で従来の施策、すなわち欠格条項を無内容・無批判に乱発してきた歴史と思想についての明確な反省と、苦渋にみちた人生を強いた障害者のある人々への謝罪の罪の弁があって然るべきと考えます。私たちは無謬ではないし、歴史の進歩によって誤りを認識し、それゆえに正すことができるのです。事実を認め、そこから出発する勇気をもってほしいと、政府の方針にも期待したのです。このたびの、各省庁の具体的な見直し作業について、とくに最も多く欠格条項をもっている厚生労働省の改正の結論を評価し、改正法案の国会での成立を期待したいと思います。

 障害者施策推進本部(本部長:内閣総理大臣)は、平成十一年八月九日、「障害者に係わる欠格条項の見直しについて」として、対象となる六十三の制度について一斉に見直しを行うこと及び見直しの方針を決定した。