医療専門職に障害者への門戸開く
(財)日本障害者リハビリテーション協会
項目 | 内容 |
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備考 | Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2001年6月号掲載 |
「耳が聞こえない」「口が聞けない」「目が見えない」などの障害を理由に一律に免許や資格を認めない「欠格条項」を見直すため、医師法などを一括して改正する法律が2001年6月22日、衆院本会議で可決、成立した。
1998年12月に、政府に「中央障害者施策推進協議会」が設置され、1999年8月「障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう、欠格条項の見直しを検討する」ということを決定してからの動きであった。
点字や手話通訳などの補助があれば業務ができる可能性を認めるもので、障害がある人たちにも門戸を開くことになる。ただ、完全に欠格条項が無くなるのは、調理師、栄養士、衛生管理者など7制度だけで、残る医師免許などの26制度では「心身の障害により業務を適正に行うことができない者として、厚労省令で定める者」に、免許や資格を「与えないことがある」とする文言が代わりに入る。一律排除でなく、制限つきで認めるという相対的欠格条項が残された。薬剤師、歯科技工士の免許などでは、聴覚、言語の障害者は資格試験に合格すれば、免許が得られる。一方、視覚や精神の障害者は、試験合格後に厚労省の個別審査を経て、業務が適正に行うことができると認定されれば認められる。医師、歯科医師、看護婦などの7制度は、視覚や聴覚、言語、精神のいずれの障害でも個別審査が必要となる。
厚生労働省、参議院審議までの動き
2000年12月26日、厚生省医療関係審議会が「障害者に係る欠格条項の見直しについて」と題する文章を出し、「欠格条項の見直しに当たっては、それが障害者の社会参加を拒む要因とならないようにすることは重要であるが、患者の安全の確保を第一に考えるべき」とする基本的な姿勢を示した。
この文章がさきがけとなり、厚生労働省は2001年2月14日に「障害者に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律試案」を発表し、約一ヶ月の間をパブリックコメント募集期間とした。
この試案は、表面上は、これまで障害を特定し絶対的欠格としてきた法律条文を相対的欠格へと改正する方向を示しながら、政省令としてこれまでどおり障害名、病名を列記し、特定の障害を持つ人を特定の資格から排除するものとなっている。(一部、欠格条項が全面撤廃された法律、また、特定の障害に関する欠格条項を廃止した法律がある。また、これまで受験資格すら閉ざされてきた医師国家試験などからは、受験に際する欠格条項が撤廃されている)。
厚生労働省は、パブリックコメントへの回答として、政省令のレベルで障害を理由にした欠格条項を残すことの合理性について、「業務を適正に行なうことができないもの」の範囲を無制限にすることは、相対的欠格事由に該当しうる者の範囲を不明確にし、対象が広がるおそれがあるため、としている。しかし、この回答は障害を理由にした欠格を設けることの合理的説明には到底なり得ない。
この方向性は、参議院の審議を終えた現在もなお維持されたままであり、法律条文から表面上消えた「欠格条項」を今後どのように問題化していくことができるのか、ということが、大きな課題となっている。厚生労働省は、パブリックコメント期間中に寄せられた60通の意見に対する回答を後にホームページを通じて公開し、改正案を発表したが、改正案は試案とほぼ同じ内容のまま提示され、必ずしも試案に対する意見を反映させたものとはなっていないように感じられた。
欠格条項は医師や歯科医師、看護婦、保健婦、薬剤師、救急救命士の免許など、下記のように、一定の障害があった場合、免許を与えない旨を定めていた。
医師法第3条及び歯科医師法第3条
未成年者、成年被後見人又は被保佐人、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者には、免許を与えない。
薬剤師法第4条
次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えない。
2.目が見えない者、耳が聞こえない者又は、口がきけないもの
そんな中で、聴覚障害により免許申請が却下されていた早瀬久美さんにようやく2001年7月17日薬剤師免許が交付された。早瀬さんは1998年、東京都内の薬科大学を卒業後、同年4月に国家試験に合格していたが、薬剤師法には「目が見えない者、耳が聞こえない者、口がきけない者」には薬剤師免許を与えないという絶対的欠格条項により免許の交付は却下されていた。しかし、早瀬さんら聴覚障害者の訴えで実現した欠格条項の見直しの法改正により免許交付の実現となった。坂口力厚生労働相から免許を受け取った早瀬さんは「3年間待ったが、無駄な時間とは思わない。障害がある子どもたちに専門職への道を開けたことをうれしく思っている」と語った。