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しゃべる触地図(2003年4月)

小林和正
株式会社地理情報開発

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年4月号掲載

触地図の写真
「地図がしゃべる」と言うと、どんなイメージをお持ちになりますか?カーナビのようなGPSを使ったハイテク、最先端のイメージでしょうか?パソコンで操作するデジタル地図のイメージでしょうか?残念ながら、視覚障害者の方がこれらのハイテクで地図を利用するというところまでは至っていないのが現状です。しかし今、紙に印刷された触地図と電子技術を組み合わせた、個人向けの「しゃべる触地図」が開発されつつあります。ハイテクでありながら、視覚障害者の方や高齢者の方にも無理なく利用できる簡単なインターフェースになっています。
開発元は、株式会社地理情報開発という地図製作の専門会社です。

装置の概要

装置は、触地図をセットするボード状の部分と、箱型の装置部分でできています。ボードの部分のタッチセンサーで地図上の座標を認識し、箱の部分で座標に対応した音声を登録・再生する仕組みです。パソコンを接続する必要はありません。装置に電源を入れ、地図をセットするだけです。駅などにある大がかりな装置ではなく、個人が家庭などで外出前に利用する、あるいは学校での地図学習などを想定した小型装置です。しかも、地図上の好きな位置で音声をメモとして自由に登録できる機能も持っています。また、地図を差し替えれば、対応する音声に自動的に切り替わります。

地図と音声

地図は、晴眼者の一般の紙地図上に、透明の点字や凸記号を付加して製作されています。ベースとする地図は、専門技術を生かして製作された本格的なもので、文字や色遣いは、高齢者や弱視の方にも見やすくなっています。一方、点字と凸記号は、背景の地図上の位置に合わせて、建物や道路や信号などを表現していますので、位置関係や距離感、方向などが正確につかめます。
触地図の写真
写真で白い丸が並んだように見えるのが、実は透明な凸記号や点字で、道路や公園を表しています。道路上の大きな丸は、点から点まで20メートルを表しています。5つ数えれば100メートルであることが分かります。地図上の点字や凸記号を指先で軽く押し込むと、そこに登録された音声が再生されます。たとえば、鉄道路線図では、駅の記号のところを押し込むと、駅名前はもちろん、何線に接続しているかなどをしゃべります。道路であれば、通りの名前や、音声付の信号、バス停名やバスの行き先をしゃべってくれます。駅の構内図では、改札口の位置はもちろん、駅員のいる位置、トイレの位置などを案内しています。駅やバス停の案内に、時刻表のデータを入ることも可能です。

音声の登録

音声登録は、図面上のどの位置でも自由にできます。スイッチを録音モードに切り替え、録音ボタンを押しながら、登録したい位置で指先を押し込んでしゃべるだけです。どの位置に登録したか、あとで分からなくならないように、凸上のシールを貼っておきます。

ユニバーサルデザインの地図

触地図の写真
このように作成された地図は、晴眼者と視覚障害の方が一緒に使えますから、まさにユニバーサルデザインの地図といえます。今のところ、装置は持ち運べる大きさではありませんが、家庭や学校の机の上で使うには不便のない大きさです。外出時には、紙の触地図だけを持ち出せば、いざというときに周辺の方にヘルプを受けることができます。
カーナビのように現在地を知らせたり道案内ができるわけではありませんが、現在のGPS技術では、実際に街なかで視覚障害の方が知りたい、何メートル先の角とか、どこのお店の前、など細かい道案内ができるほどの精度はありません。
やはり、人によるヘルプに勝るものはありませんし、今回の触地図がそうした人によるヘルプを引き出しやすいものになってほしい、と考えています。

次の開発

現在、次の開発が進行中です。次のテーマは、より小型化し携帯性を持たせること。音声情報の登録などの操作性を向上させること。据え置き型の案内板などへの応用性を高めること、等々です。また、GPSとの連動もどこまでできるか、検討中です。
先に書いたように、現在のGPS機能では位置情報の精度があまり高くありませんので、視覚障害者の方が本当に欲しいと思っている、街角の歩道の様子など細かい情報を正確に伝えることが出来ません。しかし、およその現在地を示すことは出来るわけですから、現在地付近で使える触地図を教えてあげることは可能です。この辺を、どこまで現在の「しゃべる触地図」に機能として取り入れることが出来るかも、研究テーマとなっています。このように、ハイテク技術をしっかりと応用しながらも、視覚障害者の方が直感的に利用しやすいインターフェースを持つ、そうした触地図にできるよう、開発を続けます。
近いうちに、また、その成果を発表できるかもしれません。ご期待ください。

なお、「しゃべる触地図」の開発は、2002年度の財団法人テクノエイド協会の福祉用具研究開発助成事業によって実施されているものです。」