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WHO西太平洋地域事務所によるCBRワークショップ

(財)日本障害者リハビリテーション協会 国際部 上野悦子

はじめに

6月24日から26日まで、マニラにあるWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務所が開催したCBRワークショップに筆者は参加したので報告する。参加者は、17か国から21名、国際機関および国際NGOからの参加を含めて約40名であった。

今回のワークショップを開催したWHO西太平洋地域事務所(WHO WPRO)がカバーする国と地域は、カンボジア、ラオス、ベトナム、モンゴル、中国、香港、韓国、日本、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、サモア、ソロモン、バヌアツ、パプアニューギニアなどの太平洋諸国含めて37で、タイ、インドネシア、ミャンマー、北朝鮮は東南アジア地域に属している。

ワークショップの背景

今回のCBRワークショップは、2月にバンコクでWHO、タイ政府、APCD(アジア太平洋障害者センター)財団、国連ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)によって開催された第1回アジア太平洋CBR会議の成果を西太平洋地域でフォローする目的で開催された。

CBRワークショップ会議風景 (写真1)

第1回アジア太平洋CBR会議では、CBRがコミュニティでの様々な開発に障害を含めること(community inclusive development)を推進するために重要な戦略であることが確認された。これはWHOが2003年に開催したCBR再考会議および2004年に採択された、WHO、ILO、ユネスコによるCBR合同方針、および合同方針の実施のためのガイドライン作成の議論の成果として到達したことである。ガイドライン作成のプロセスには障害者団体、専門家、実践者が参加した。

ガイドラインでは、保健、教育、生計、社会およびエンパワメントの5つのコンポーネントのそれぞれに5つの具体的活動である要素(element)が示されている。(CBRマトリックス表:http://www.who.int/disabilities/cbr/matrix/en/index.html)実施者が持ち運びやすいように1つの要素ごとに冊子にするそうで2009年12月3日の完成を目指している。

新たなCBRの概念で示された開発に障害問題を含めることとは、コミュニティの保健や教育などの領域で、障害者が排除されずに平等にサービスを享受できるように企画し実施されることによって開発全体に障害問題が含められること(インクルーシブな開発)を促進する活動である。モデル論でいえば、障害当事者を中心に医学モデルへの批判から社会モデルが台頭し、障害者権利条約の制定により権利モデルへと変化してきたというとらえかたに対し、インクルーシブな開発では、あらゆるモデルが統合される包括的なもので、どのモデルがどのくらいの割合を占めるかは、国または地方によって異なるという総合的かつ柔軟な考えに基づいている。

WHOのチャパル・カスナビス氏(障害とリハビリテーションチーム)は、「CBRが国際協力で行われる際、先進国の専門家が実施しているのは、理学療法、福祉機器、教育、就労などで最後に収入創出が位置するのに対し、途上国の障害者のニーズをみると、まず収入を得ること、食糧、衣類が先決で、理学療法への要望は一番最後に位置することが明らかであると述べている。途上国の障害者と家族のおかれた状態は貧困問題と切り離せず、そして貧困はコミュニティの多くの人たちの課題でもある。ゆえに、開発全体で取り組むアプローチが不可欠である、と繰り返し述べている。

2月のCBR会議の最大の成果は、アジア太平洋地域のCBRネットワークが誕生したことである。すでにCBRアフリカネットワーク、CBRアメリカネットワークは設立されており、アジア太平洋地域のネットワーク作りの話し合いが進められている。事務局はバンコクにあるAPCDに置かれ、担当者も決まった。

ワークショップのプログラム

1日目は2月のCBR会議での成果のレビューが行われ、カスナビス氏から、CBRが開発に障害を含めるインクルーシブ開発の戦略であることに関する発表があり、続いて、参加者によるカントリープレゼンテーションがあった。各国の発表について全体的な印象では、CBRが国の政策に取り入れられているのは参加した17か国中15か国あり、国が実施していない場合でもNGOが実施しており重要な取組みとして取り上げられていることがわかった。一方障害の定義が国により異なり、障害統計が取られている国は依然として少ない。またCBRに関する各国の主な課題は、次のとおりである。

カンボジア:CBRは比較的新しく導入されたため、CBRへの理解が不足している。CBRに関する人材養成が必要。

バヌアツ:建築物および交通に関する法律、補助具・財源の確保と継続的補助具の支給。

韓国:CBRの進んだ国の事例から学ぶこと

マレーシア:スタッフの入れ替わりがあるために頻繁なトレーニングが必要、家族の関与および支援グループの不足、コミュニティの関わりの不足

パラオ:査定、機関間のコーディネーション、(子供から)障害のある大人への移行に関する課題、社会経済生活への統合、持続性

パプアニューギニア:政府のサポート、リソースおよびパートナーとのネットワーク、意識向上や能力向上

というようなことが挙げられた。

2日目は、午前中に2月のCBR会議で採択されたバンコク・コミットメントのレビューを行い、午後はフィールドビジットが組まれ、会場から徒歩で行けるマニラ市内にあるフィリピン大学の病院内にある義肢装具研究所を訪問した。義肢装具の評価をテレビ電話で病院内の別の場所にいる患者さんとつなぎ、評価のデモンストレーションが行われた。続いて義肢装具ラボラボリーでは制作風景を見せていただいた。4人のスタッフと2人のボランティアが制作にあたり、地元の材料を使用するジャイプール方式とプラスチックを使用する方式で制作されていた。担当しているフィリピン大学のジョセフィーヌ・ブンドックさんとご主人で医師のラファエル・ブンドックさんが熱心に説明してくださった。ラファエルさんは、フィリピンには現在義肢装具養成校がないため、カンボジアなどで研修を受けているが、いつか自国に養成校ができることを夢見ているという。

フィリピン大学病院内義肢装具研究所 (写真2 )

3日目は、西太平洋地域事務所が草案したCBRのアクションプランについて4つのグループに分かれてディスカッションを行った。アクションプランの枠組みとして次の6つの領域が示された。これらはバンコク・コミットメントに堤示されている内容でもあり、CBRを分析する際に必要な項目であると言えよう。

  1. 意識向上・アドボカシー
  2. 能力向上
  3. パートナーシップとネットワーキング
  4. 政策とプログラム開発
  5. バリアフリー環境の創設と補助具と支援機器の提供(支援的環境)
  6. 調査とインフォメーション管理

それぞれの領域に関して、各国の取り組み、WHOの役割、ドナーや国際協力機関の役割が各アクションプランで議論された。筆者が参加したグループではアクション4から6までを話し合った。内容に関する議論だけでなく、用語の使い方の違いについての意見交換も行われたため時間が足りなかった。各参加者は異なる背景をもっているが、開発全体の中で実施するためにはどうしたらいいかという視点で議論した。

最後にグループディスカッションの発表とワークショップの成果として採択する文書への修正などを話し合った。議論のひとつであったアクションプランを達成する期間は、2010年から2020年までとし2015年には中間評価を実施することが了解された。最終版は事務局によってワークショップ参加者および西太平洋地域の政府機関に送られ、各国でフォローされることになる。

おわりに

CBRのガイドラインが完成したのちにはWHOはガイドライン実施のための研修を各地域で予定している。また現在アジア太平洋地域ネットワークに関する議論も同時に進められており、2011年には第2回アジア太平洋CBR会議がフィリピンで開催される。また国連ESCAPが決議した第二次アジア太平洋障害者の十年は2012年に最終年を迎える。2013年以降の枠組みづくりのインフォーマルな話し合いはすでにはじまっている。権利条約の批准国もさらに増え、CBRとの関連についても活発な議論が展開されるであろう。そのような地域での転換期の中で、CBRへの取り組みが促進されることを認識し理解を深めていきたい。

障害者権利条約の促進や実施では「障害者のことを障害者抜きで決めないで」というスローガンが主張されたが、開発に障害を含めるための戦略としてのCBRの促進では多くの関係者が関わることが障害者の社会へのインクルージョンにつながるという考えから「障害者のことに障害者を含む私たちすべてが関わる」ことの促進が示されている。

関連ウェブサイト

バンコク・コミットメント(英語、日本語):http://www.normanet.ne.jp/~jannet/cbr_net/index.html

Community-based rehabilitation (CBR), World Health Organization(WHO本部のCBRのページ):http://www.who.int/disabilities/cbr/en/

WHO/Regional Office for the Weatern Pacific(WHO西太平洋地域事務所):http://www.wpro.who.int/

JANNET(障害分野NGO連絡会):http://www.normanet.ne.jp/~jannet/