音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

EPUBアジア太平洋会議2011レポート

濱田麻邑
NPO法人支援技術開発機構
2011年11月11日

EPUBアジア太平洋会議の様子

はじめに

 2011年10月24日、台湾の国立中央図書館でEPUBアジア太平洋会議(2011 EPUB Asia-Pacific Summit)が開催された。
会議の目的は、デジタル出版と電子書籍産業における、アジア太平洋各国での連携と情報交換、経済発展の促進である。約100人の参加者が、台湾、香港、中国本土、韓国、日本、北米等から参加した。
 EPUBは、無償で公開された、互換性のある、W3Cの規格を採用した電子書籍の国際標準規格であり、EPUB3のアップデートで多言語対応も促進され、また、 DAISYi との連携でアクセシビリティも考慮された規格となった。台湾、香港、中国本土、韓国では、国家戦略として、電子書籍を活用して教育環境をより良くし、次世代を担う人材育成を行うと共に、これをビジネスチャンスと捉えているようだ。

 台湾の経済省工業局局長のJang-Qin Leu氏は開会のあいさつで、台湾はIDPFii の会員団体がアメリカに次いで多い。台湾においてはIII(Institute for Information Industry )iii の研究で、EPUBの中国語への対応が進んでおり、EPUBは電子書籍の標準フォーマットになりつつあると述べた。

 IDPF執行役員のBill McCoy氏は基調講演で、規格だけでは価値がないが、規格があれば、安く、早く作ることができ、また、より多くの人に本を届けることができる。アジアの人たちのリーダーシップでEPUB3では多言語対応が実現でき、Webkit等によるルビ・縦書きの実装もすぐに行われた。HTML5を採用したweb基板の技術なので、ビデオやインタラクティビティの活用等、これまでの本の既成概念を超える様々な活用方法が考えられる。また、アクセシビリティが考慮された規格なので、障害者の需要が見込めるだけでなくだけでなく、高齢者、更には車の運転中等様々な状況での活用を考えると、大きな市場があるので、収益を上げたり、より多くの人に届けることもできる。規格が統一されることで、出版者は特定の企業の規格に占拠されることがなくなり、読者は選択肢が増え、好きなデバイスで読みたい図書を読むことができる。困難も多いと思うが、今後の展開に大きな期待を抱いている。みんなで前に進みましょうと述べた。 次に、各国からの現状報告があった。

日本

 EPUB3の多言語対応作業委員会のリーダーを務めた村田真氏が日本の現状について講演した。日本においては、2005年ころから、携帯電話の電子書籍市場が拡大し、650億円規模となり、増え続けている。他国と比較して、漫画と携帯電話での利用の占める割合が大きいことが特徴だ。インプレスの予測では、新たなプラットフォームや漫画以外の書籍も増えて2015年には2000億円の市場となる。
 Amazonが2011年末に日本市場に参入すると予想されている。EPUB2はルビや縦書き対応をしていなかったが、EPUB3では対応したため、世界のIT製品での日本語組版のサポートが可能になる。合法的な漫画の国際取引も加速するだろう。最近の国内の動きでは、ACCESS がEPUB3に準拠した電子書籍ビューワ「NetFront BookReader v1.0 EPUB Edition」を発表したり、イーストがJEPA等と協力して日本語の出版物を制作するための指針であるJBasicを発表したり、パピレスの「電子貸本Renta!」や、「Yahoo!ブックストア」、SONYの「Reader Store」でEPUB配信が始まったりしている。
 EPUBは国際規格であるため、質の高いアクセシビリティも実現された。より多くの人に図書を届けることができる。今年か来年の年末商戦に新しいものがたくさんでることを期待していると述べた。

香港

 ASTRI副代表のShen-chang Chao氏が香港の現状について講演した。
 9月から、電子教科書・電子ランドセルの3年間のプロジェクトが始まっている。 電子書籍のマルチメディア化をして、学生に最も適した方法で提供したい。インタラクティブなものは、勉強の意欲を上げる。また、クラウドで、欲しい時に、ほしい方法で入手できるようにしたい。香港ではEPUBがまだあまり普及していないが、EPUB3は「マルチメディア」「インタラクティビティ」「クラウド」という3つのトレンドに合致している。
 EPUB3を活用すれば、読むだけでなく、本の感想を共有したり、新しいコンテンツを作ったりして、エンドユーザーも参加できる(双方向性)。例えば、同じ本を読んで、感想を書き、学生と先生の間で小さなソーシャルネットワークを構築できる。そのようなグループスタディが流行ってきていると述べた。 ASTRIのKing Wai Chow氏が香港で製作された図書のデモを行った。EPUBの再生ソフトとして、ASTRI readerの開発を行った。Windows、 Mac、 Android対応バージョンがあり、無償でダウンロードできる。
 文字・絵・録音・録画で、図書内にメモを入れたり、テキストをハイライトしたり、下線をひいたりもできる。ビデオが入ったコンテンツの再生もでき、また、TTSによりセンテンスごとにテキストを読み上げる機能もある。Media Overlay(録音音声の同期)にも対応している。
 Breakthrough香港のMa Chun Mui氏は次のように述べた。青少年の読書環境が変わってきている。そのような環境の中で、若者の生活に良い影響が出るような電子書籍を提供していきたい。また、情報リテラシーを向上させたい。

台湾

 経済省工業局部長Lon-Fon Shieh氏が台湾の現状を話した。
 台湾の経済省は、全国民に読書してもらいたいという理念のもと、デジタル出版を重要項目に指定した。台湾のICTは力強く、ソフトウェアとハードウェアで、産業イノベーションを推進している。
 都市から離れた農村では、子どもの読書機会が少ないので、リテラシーを向上するため、電子書籍を全土に効率的に配信することを国家政策に挙げ、プロジェクトを実施している。
 大統領夫人も関わっているプロジェクトで、社会福祉機構との連携など、弱者団体への配慮もしており、トレーナーの派遣も行っている。同じシステムをアフリカでも活用できるのではないかという考えもある。

 政府の刊行物は、フォーマットにEPUBを使うことを推奨しており、990冊の政府の出版物を、紙の印刷物と同時にデジタル版で配信した。EPUBであればワンソース・マルチユースができる。
クラウドベースで配信され、都市、町、学校、個人の単位で、それぞれ決められたレベルでデータベースにアクセスできる。
 中央の図書館が、各市町村の図書館につながっていて、1万冊以上の電子書籍が提供されている。ビジネスモデルの構築や、フルカラーのeインクの技術開発も行っており、国際化を目指している。
 IIIのMeili Chen氏が、IIIでのプロジェクトの紹介をした。台湾では9割の出版者が中小企業であり、各出版社が研究開発を行うのは困難なため、国の政策的な仕事をしているIIIが研究開発を行っている。EPUBのオープンソースの製作ツールであるSigilで、SSMLを入力できるようにするプラグイン等を開発中である。
 TDPFのSophie Pang氏が、百年千書のebookプロジェクトの紹介をした。著作権が切れた紙の図書をスキャンして、EPUBフォーマットのサンプル図書を製作した。Android, safari, chrome, firefoxで動くビューア、EPUB3toyも開発した。クラウドベースで、検索、リフロー、SNSv の活用ができ、間違いを報告できたり(間違っている個所に印をつけられる。また、修正されたものをリアルタイムで見られる)、注を追加したり、設定によっては他の人の注を見たりもできるのが特徴だ。10年前に書いた注も、10年後に見ることができる。また、再生ツールを選ばない。課題は中国語のOCRの困難である。

韓国

 SMARTiv プロジェクトの研究者であるYong-Sang Cho氏が、韓国の現状を話した。
 韓国での電子書籍の市場は2006年から2013年に、32.3%大きくなる予想である。教育と学習方法が多様になり、学校のデジタル図書館で、マルチメディアのインタラクティブな教材をテレビで見られる時代になった。3歳の子どももipadを使って、コンテンツをナビゲートして、リテラシーを得ている。
 韓国政府においては、デジタル教科書が最重要課題に挙げられ、2007年からSMARTプロジェクトが実施されている。パイロットプロジェクトが終わり、来年から、実際にデジタル教科書を提供することとなった。コンセプトは、個別対応教育の実現である。21世紀の生徒は、創造性(クリエイティビティ)を享受できる環境にいる。  2007年から製作されたデジタル教科書は、全てのコンテンツを含むため、1学期、1科目2GBもの大きさになっている。しかし、これからはシンクライアントが使われるので、小さくしなければならない。EPUBを基盤にしてサイズを小さくし、外部の教材にリンクしたり、SNS とつなげたりできる。教育クラウドで、学校や家から、図書館やwebリソース、公共機関の情報にアクセスできるようにする。
 費用をどう捻出するかは悩みであったが、サムスンや通信関係の企業が、社会貢献として割引を行うことで解決された。
 EPUBを活用する利点は、ワンソース・マルチユースである。EPUBフォーマットの教科書をクラウドで配信し、利用者は、テレビ、タブレットPC、PC、スマートフォン、シンクライアント等多様なデバイスで再生することができる。
 11月14日に、SMART on ICT International Open Forum 2011を開催する。IDPF執行役員、IMSvi 代表者等も講演する。

最後に

 EPUB3を活用したデジタル出版、電子書籍産業の発展は、遠隔地への配信や多様な読み方に対応し、これまで本を十分に読むことができなかった人に、本をたくさん読む機会を提供し、また、新たな産業を創出する。社会と産業双方にとって、ウィン・ウィン・シチュエーションである。
また、ワンソース・マルチユースにより、効率よく一人ひとりのニーズに合った読書環境を整えて、子どもの教育環境をより良くしていくことができる。
 アジア太平洋においても、EPUB3の多言語対応で、急速に普及しつつある。
 この会議に参加して、各国の勢いを肌で感じることができた。今後の展開が楽しみである。


i. DAISY: Digital Accessible Information System (http://www.daisy.org/)(英語)
ii. IDPF: International Digital Publishing Forum (http://idpf.org/)(英語)
iii. III: Institute for Information Industry (http://www.iii.org.tw/english/introduction.asp)(英語)
iv. SMART: Standard, Market, And Research Trends (http://smart-on-ict.net/main/main_en.php)(英語)
v. SNS: Social Networking Service
vi. IMS: IMS Global Learning Consortium (http://www.imsglobal.org/)(英語)