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インド初 村で始まったコンピューター教育

アナンド・パルタサラティ(Anand Parthasarathy)

項目 内容
転載元 インドのナショナルペーパー”THE HINDU”(2003年8月4日の記事)

マラップラム地区(ケララ州)

今日より10日後、ケララ州、マラップラム地区、トリプランゴデ行政区内チャムラヴァットム村は、ユニークな名声を手に入れるであろう。バラタプザ川岸の景勝地に広がるこの小村は、インド初のコンピューターリタラシー100%の村となる予定である。その日、850世帯ある村の各家庭のうち最低1人が、コンピューターリタラシーの基礎トレーニングを修了している予定となっている。村民達は、今ではパソコンを駆使して、画像の作成や編集、マラヤーラム語で特別に設計されたツールを使ってのテキスト文書の作成、インターネットの閲覧、Eメールの送信、インターネット電話などができるようになった。

彼らはこれらの技能を5台のコンピューターと1台のダイヤルアップインターネット接続とプリンターサーバー機能を持たせたサーバが装備された地元のワンルームのアクシャヤ・センターで学んできた。チャムラヴァットム村が自ら定めたコンピューターリタラシー100%を達成する日を、正確に予言できるわけは、村の人々がこれまで2カ月の間、日曜を含め毎日、1日あたり9から10シフト制の90分授業を組みセンターに通い続けたからである。時間割は、すべて事前予約制で、家庭の主婦は、午後、男たちは、夕方遅くやってくる。すべての人が10段階の課程を修了するようになっており、マラヤーラム語のコメントや動画のゲームが収録され、特別に開発された魅力的な対話式チュータリングCDを使ってマウス、キーボード、マイク一体型ヘッドフォンといった機器の概念を学ぶ。15時間の授業を終えると、学習者はオンラインテストを受ける。すべての質問に正しく答えられたら、スクリーンは、待望のメッセージを表示してくれる。「おめでとう。あなたはコンピューターリタラシーを獲得しました!」

チャムラヴァットム村は、インドで実施された最も革新的な識字キャンペーンが達成した最初の成功物語にすぎない。その他4つの村が、最初のコンピューター識字の行政区として認定される栄誉のために、しのぎを削っているところだ。その栄誉の行方は、マラカラか、それともチェレンブラ、 クーティランガディ、マンパドか競争は熾烈を極め、日中働いている人がレッスンを終了できるようにと、アクシャヤ・センターは、ときには、深夜すぎても開館しているほどだ。クーティランガディ行政区のパディンジャットゥムリ・センターは、一日中車を走らせている原付軽三輪車の運転手がコンピューターを夜に習えるよう、深夜の特別授業を始めている。

このような活動はすべて、現在のところ、州のコンピューター識字キャンペーンを試験的に行っているマラップラム地区に限られている。まさにそれは、この地区の人々によって着想され、提供されたある識字キャンペーンであった。ちょうど1年前、マラップラム地区の行政は州政府に、「民間計画イニシアチブ」のもと、資金の貸し付けを申し込んだ。「この地区のすべての行政区がコンピューターテクノロジーにアクセスできるように、7千台のコンピューターをリースしたいのです」と。この申し込みは、数週間のあいだ、部署間をたらいまわしにされたのち、政府は、州情報技術委員会(State Information Technology Mission)に助力を求めた。その結果が、アクシャヤ計画である。

慢性的財政難に陥っている州は、それがいかに価値があろうと、壮大な計画に寄与できない。マラップラム地区の行政は、新進の企業家を巻き込むことを決め、魅力的な提案を出した。それは、およそ65万世帯をかかえるマラップラム地区の、千世帯に1つ、アクシャヤ・センターを立ち上げるというものだ。どのセンターも、誰の家からも1~2キロの範囲内に置かれる。すべてのセンターが、最低5台のパソコンを置き、10レッスン、15時間、一人あたり、1レッスンにつき2ルピーの、全コース20ルピーの訓練コースを提供する。

しかし、住民全員が訓練を受けるためには、行政区の、アクシャヤ・センターに対する120ルピーの援助が必要であった。新進気鋭の若手企業家を支援するために、IT委員会は、その地区の主要な銀行、トラヴァンクレ州銀行、カナラ銀行、南マラバル・グラメーン銀行、マラバル地区協同銀行などに対し、15万ルピーから20万ルピーの前貸し金融を請け負ってくれるよう説き伏せた。行政区の助成金によって、各センターとも、最低12万ルピーは支払い可能となっているので、銀行はさしたるリスクを負うことにならなかった。

また、IT委員会は、今後、アクシャヤ・センターが置かれる地域で、特別にコンピューター・ショーを主催し、運営者が、ハードウェアを見たり、安く手配したりできるようにした。それは、数百のコンピューターメーカーの景気が向上するほどの、巨大な消費者層を意味している。興味深いことに、80パーセント以上の注文を、小さな企業出身のケララ州の組立工が受けており、間接的にPC業界の景気促進につながった。

長く「遅れている」と言われてきた広大な丘陵地帯は、今日では、車を走らせれば、数キロごとに、「アクシャヤ・e-サービス・センター」の真新しい青い看板に出会う場所になった。驚いたことに、アクシャヤを支える中核メンバーはわずか20人強である。そこには、取りまとめ役で、理学修士のヴィノド氏も含まれる。彼は一年前に州都からマラップラム地区の町へ越してきて、あまりの忙しさに州都へ戻ることができずにいる。地区企画役員のアンヴァル・サダト氏は、マラヤーラム語による二冊のコンピューター教材の著者でもあるが、彼は今、ソフトウエアツール「フェーズ2」のリリースを指揮している。このツールで、センターは、基礎的な訓練目標を達成した後の新たなコースを提供できるようになる。委員会役員のギータ・ピオウス氏は次のように言う。「11月までに、マラップラム地区の目標である65万世帯がコンピューター識字能力を持つことになると確信しています。」マラップラム地区の実験は州全土にたちまちに拡大され、1月から、二年以上の期間をかけて他のすべての地区で、実施される。州にはおよそ65万世帯が存するので、この課題は、モデル例のちょうど10倍の規模となる。

その日までに州は、この計画のうち、主に、中核メンバーと情報技術開発センター(CDIT)とソフトウェアのツールの作成を補助してくれるケルトロン(Keltron)などの共同機関の支援として、ちょうど1500万ルピーを費やすことになる。現金は、各行政区の財源から捻出された。すべての費用を勘定してみれば、この計画は、自らが支払った税金から、1世帯につきおよそ100ルピーをかけて、州民が自らの力とするという、どこよりも最も消費効率のよい学習実験となっているのである。

*訳語の行政区は、地区(District)の下に位置する行政単位である、panchayatをさしている。