音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

モンゴルにおける障害者の事情

隈井香奈
(財)日本障害者リハビリテーション協会 企画研修部研修課

項目 内容
発表年月 2007年7月

2007年4月にモンゴル・ウランバートルを訪問しました。今回の訪問の目的は財団法人広げよう愛の輪運動基金の委託を受け当協会が実施しているダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業の来期候補生の面接、同研修事業の過去研修生のフォローアップ及びモンゴルの障害者団体訪問などです。その際モンゴルの障害者の現状について、訪問した団体の活動内容などを紹介しながら報告します。

中央広場
中央広場

社会福祉労働省・国立リハビリテーションセンター

国内で唯一の障害者リハビリテーションセンターとして、1999年に障害者職業訓練センターと義肢製作サービスセンターが合併して設立されました。同じ施設内でリハビリ病院と職業訓練のセクションに分かれており、病院では電気治療や道具を使った様々な訓練による肢体障害者のリハビリテーションや、義肢義足製作及び装着訓練などを行っています。職業訓練コースでは1コース約1年の期間でコンピュータ、クッキング、アクセサリー作成、ガーデニングなどの9コースを実施しており、年間約200名を受け入れています。訓練生のためのドミトリーも併設しています。病院の主な利用者は切断、脊髄損傷、CP、背中の痛みのある人などで、職業訓練クラスの主な利用者は肢体障害者、知的障害者、その他若干名の聴覚障害者や視覚障害者です。利用者は全国各地から募られ、職業訓練コースの年齢制限はコースによって16歳から45歳までと幅広く設けられています。 センター病院医師の話によると、近年のモンゴルにおける主な障害の原因は交通事故による中途肢体障害で、特に過去10年の間に車の普及率が約10倍増加した影響を受け、障害者の数も比例して増加しているという事です。またセンターとしてはPT(理学療法士)、OT(作業療法士)、医師の3人がチームとなって働くことが理想であるとしているが、モンゴルでは十分な教育を受けた医療従事者が不足しており、スタッフの数が足りていないという現状にあります。スタッフ育成・確保はセンターの最重要課題の1つとなっています。

リハビリテーションセンターであるにも関わらず現在の建物にはエレベーターやスロープ、音声誘導、点字案内などの設備がほとんど整備されておらず、リハビリ訓練用の部屋の1つは冬季になると寒さのため使用出来なくなるという事でした。建物は全体的に薄暗く、また通路や部屋も狭く衛生面などもあまり良くないという印象を受けました。今年の5月から政府の援助により新しい建物の建設が始まるという事でしたので、少しでも早く完成することが期待されています。

現在は使われていないリハビリルーム
現在は使われていないリハビリルーム

ツムールモンゴリア車いすサポート財団

(“Tumur” Foundation Support for people with wheelchair of Mongolia) 2001年に設立され、理事5名、事務員1名で運営している団体です。モンゴル全体で約13000人のる車いす常用者のうち約2000人がこの団体の会員となっています。主な活動内容は、理事が会員の家庭を訪問し、車いすの修理・カウンセリング・団体の活動紹介・障害者の法律の紹介などを行う、また手工芸品製造及び国内外や在モンゴル大使館の物産展などでの販売、チャリティ音楽コンサート開催、交通アクセシビリティに関する政策提言など様々な活動を行っています。しかし実際には交通アクセスが悪く、会員はなかなか事務所に集まることが出来ず在宅で個別に活動しているというのが現状です。理事は全員無給で、それぞれ別に仕事を持ちながら団体の活動をしており、活動資金は手工芸品の売上、コンサートでのファンドレイジング(資金調達)、助成申請などから得ているということです。 

今後は国内外の団体とのネットワークの強化、車いす利用者が使用できる車の輸入・普及などその他様々な事を計画中との事でした。 この団体では素晴らしいアイデアによる草の根の活動をたくさん行っていますが、一時的で理事の有志活動に頼っているのが現状です。今後継続的・定期的な組織活動としていくには、資金調達や活動計画などを行える組織マネージメントの充実が大変重要だと感じました。

モンゴル障害者団体連合

(Mongolian National Federation of Disabled Persons Organization’s;MNFDPO) 1997年に設立された障害者団体のまとめ団体で、2007年4月の時点で44団体が会員となっています。前述のツムールモンゴリア車いすサポート財団も会員団体の1つです。主な活動内容は国の政策を障害者に紹介・宣伝する情報提供、またそのための新聞などの広報誌の製作・発行、国への政策・法案提言、保険や年金がきちんと障害者に給付されているかどうか管理・モニタリング、国会議員や政府と交渉出来る人材の育成、経済的自立支援(21各県にある起業支援センターにて障害者中小企業支援、3つの工場での毛や革製品などの製作)などです。活動資金は主に国際団体からの支援、メンバー団体からの会費、工場製品及び発行している新聞の売上などから得ています。
この団体は、国内外の団体や政府と強いネットワークがあり、団体として高い評価を得ているという事ですが、資金はまだまだ不足しており、またスタッフ教育などを今後促進していきたいとの事でした。

就労について

モンゴルでは就労年齢にある障害者の多くは無職の状況にあります。従業員50人以上の企業で3%という企業の障害者雇用枠はありますが、ほとんどの企業では違約金を支払うことで済ませているのが現状です。その違約金の一部(10%)が前述したMNFDPOへ支給され、間接的に障害者に還元されていますが、残念ながら雇用率制度としては十分に機能していません。 公務員の平均月収は月8万から10万トゥグルクで、(日本円で約8,000円から10,000円/10トゥグルク=約1円)最低賃金は6万トゥグルクで、前述のMNFDPOでの初任給も6万トゥグルクです。また障害者年金は支給されてはいますが大変少ない額で、やはり家族に頼って生活をしているというのが現状です。

交通アクセス

アクセシビリティについて、ウランバートル市内ではバリアフリーといえる場所や施設などはありませんでした。入口やドアの前にはほとんどの箇所で段差や階段があり、障害者団体の事務所でさえも入口ドアの前に階段があり、車いす利用者は抱えられて運ばれていました。

階段を運ばれているところ・障害者団体入口
階段を運ばれているところ・障害者団体入口

現在ウランバートルは建設ラッシュにあるので、建設の際には少しでもユニバーサルデザインが取り入れられる事を願っています。

アクセスに関する提言ペーパー
アクセスに関する提言ペーパー

国レベルでの動き

近年、国会議員29人が参加する障害者の為の委員会が発足し(総議員数は76名)、昨年12月には大統領が若い障害者を集めた意見交換の会合を開催しました。また社会福祉労働省が2007年を“障害者年”として打ち出していくなどの動きが始まっています。

今後の課題

今回ウランバートルを訪れて、モンゴルはアジアの国々の中でも特にこれから改善されるべき課題が多くあると思いました。その中で特に感じた事は、「人材育成」、特にアクセシビリティや法整備などについて政府や国などに働きかけることの出来る強い障害者リーダーの存在が必要ではないかという事です。 モンゴルは日本の約4倍の国土に260万の人口しかいませんので、(内約100万から半数がウランバートルに在住)個々による草の根活動をしていくには、人員・移動共に限界があると思います。また、訪れたどの団体でも青年の人材育成という課題を挙げていましたが、組織運営を担う人材の確保も必要だと感じました。今回多くの障害当事者、また関係者の人達の話を聞く機会がありましたが、彼らの希望や願いが一日も早く実現し、状況が改善されることを願っています。