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タイ 世界盲人連合アジア太平洋地域総会でのセミナーとシグツナ DAR(DAISYソフトウェア)講習会

千葉寿夫
国連ESCAP 障害者問題準専門官

項目 内容
発表年月 2001年
概要 2001年9月24日の世界盲人連合アジア太平洋地域総会において、ESCAPの高嶺氏講演のセミナーが開かれました。また、それに伴ない9月25~27日にデイジー(シグツナ DAR 3.0)の講習会も続けて開催されました。これはその時の報告書です。

セミナー:
国連アジア太平洋経済社会委員会の「アジア太平洋障害者の10年(1993-2002)」が、
視覚障害者の為に働いている盲人や団体に与えた影響

本セミナーは9月24日、午前9時から12時半まで、国連アジア太平洋経済社会委員会(以下ESCAP)の障害者問題専門官である高嶺豊氏とアシスタントの千葉寿夫によって開催されました。本セミナーでは、高嶺氏はESCAPの障害問題に対する取り組みを簡単に説明した後、特に「障害者の10年」における視覚障害者問題に対する取り組みを中心に紹介しました。その後、三つの小グループに分かれ、各グループは視覚障害者に対する10年の目標の達成度を検討し、達成度の低い目標に対し、目標達成にはこれから何が必要か、各国の現状を視覚障害者の視点から討論してもらいました。その後、各グループの討論内容を発表する形でセミナーは終了しました。

ほとんどの参加者が視覚障害者ということもあり、ESCAPの障害問題に対する一般的な取り組みの説明も行われましたが、高嶺氏のプレゼンテーションは特に視覚障害者に関することが中心になりました。小グループ討論会では、各グループが11の目標の中から3、4つの目標を担当し討論しました。

第一グループは、ほとんどタイ人の参加者で構成され、国内調整、法律の整備、情報、および国民の認識について検討しました。彼らの分析によると、タイでの現状の目標達成度は低いと判断されているようで、厳しい意見が相次ぎました。例えば法律に関し、法律はあるが立法を担当する官僚が、盲人が何を必要としているかを把握しておらず、あっても実効性のない法律が多いということでした。他国でも似たような現状が多く見受けられるそうです。

タイにおける情報システムもあまり整備が行き届いていないようで、彼らは、障害者の総合的な統計資料が必要だと主張していました。既存のものでは現状を把握するには精度が低いということです。あらゆる情報へのアクセス向上の必要性も述べられました。例えば、音声現金自動支払機やコンピューターの音声読み上げ機能などが必要だということです。

各国の代表(日本、オーストラリア、ヴェトナム、マレーシア、カンボジア)がバランス良く混合した第二グループでは、リハビリテーションサービスの為の公共施設、福祉機器、自助団体について話し合いました。また、社会環境を改善する為には何が必要かという指摘がありました。例えば、公共施設の多くの場所に点字はあるけれども、それを見つけるのが難しいとのことでした。また、音声交通ガイドは旅行者にも有益であるが、盲人の外出にとっても極めて重要であるということです。しかし、音声ガイドには統一された規格がなく、それが却って視覚障害者に混乱を招いているということです。また、多くの政府は視覚障害者への福祉器具提供サービスを実施していないという不満も挙げられました。確かに、福祉器具提供サービスは幾つかの途上国で改善されていますが、未だに満足のいくものではなく、多くのNGOがそれらのサービスを代行しているそうです。

第三グループは、教育、雇用と訓練、障害原因の予防について話し合いました。視覚障害者への教育については、いくらかの向上は認められましたが、更なる教育機会の提供が望ましいということです。実際多くの国で、視覚障害者が教育や訓練を受けられる機会は、晴眼者より少ないのが現状だそうです。視覚障害者に対する特殊教育を希望する声も大きく、一方で統合教育の重要性も指摘されていました。また、学生の視覚障害者には、大学入学機会の更なる提供も必要だということです。

セミナーは、上記の内容を含んだ各グループからのプレゼンテーションをもって終了し、それらは、ESCAPによって記録、確認され、10年の目標見直しの材料として活用されるということです。

加盟国はデイジー(Digital Audio Information System (DAISY))
録音図書によってどのような恩恵を受けられるのか?

上記セッションは、同日午後2時半~4時半まで、デイジーコンソーシアムのウイリアム氏と日本障害者リハビリテーション協会情報センター長の河村 宏氏をパネリストとして開催されました。

両氏は、デイジー録音図書についてプレゼンテーションを行いました。会場の視覚障害者は、デイジー録音図書に対する期待感が大きく、おそらくそれは、彼らが現状の録音図書や書籍の利便性に満足していないからだと思われます。実際、週末のデイジー展示会に訪れた多くの人からデイジーに対する期待の高さが伺えました。河村氏は、今回のプレゼンテーションで、特にデイジーの開発史に焦点をあてて説明し、参加者にデイジーのバックグラウンドについても理解してほしいと促しました。参加者の多くは、デイジーについて好感触を得て、録音図書の規格統一の重要性などに付いても理解しているようでした。結果として、多くの参加者から、更なるデイジー録音図書の普及が期待されました。

シグツナ DAR 3.0講習会、バンコク、2001年 9月25-27日

新しくリリースされたシグツナ DAR 3.0の視覚障害者に対する講習会が、9月25-27日まで三日間に渡り開催されました。ほとんどの参加者が視覚障害者や盲人でしたが、ジョーズ(音声読み上げソフト)によるコンピューター操作に熟練している人たちで、彼らはジョーズを使ってウインドウズとシグツナを操作していました。ジョーズの補助によって、全ての講習生はコースを終了し、最後に講習終了認定書を受け取ることが出来ました。

11人の受講者は、アジア太平洋地域のフィジー、オーストラリア、カンボジア、インド、およびタイから参加し、タイの一人の受講者を除き、全て視覚障害者でした。

トレーナーは、デイジーコンソーシアムのマーカス氏とJSPRDの東氏でした。講習前には、視覚障害をもつ受講者が、晴眼者と同じペースで講習を全て終了できるのか一抹の不安もありました。トレーナーも、10人の視覚障害者に対して、一度に講習を開いた経験がありませんでした。しかし、講習会はほとんど滞りなく進み、受講者も講習のほとんどを理解していたようでした。彼らはジョーズの操作に精通していましたし、コンピューターの知識も豊富だったので、講習も問題なく進んだようですが、それ以上に、彼らのデイジー(シグツナ)を習得したいという熱意が成功の大きな要因だったのではないでしょうか。

講習会の終了後、全ての受講者は、講習終了認定書を受領し、またシグツナ DAR・ソフトウェアーのライセンスも供与されました。これで、彼らは自国に帰っても、勉強を続けることができ、より大切な事は、デイジーを母国で紹介することも可能となりました。