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CBID研修プログラム開発事業2016年報告書

3.総 括

3-1 地域に根ざした共生社会づくり(CBID)について

日本障害者リハビリテーション協会 上野悦子

1980年代から世界保健機関(WHO)は、主に途上国で障害のある人と家族の生活の質の向上のために地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)に取り組んできた。CBRは保健分野からはじまったが国や地域によりさまざまな形で実施され、規模も拡大された。そして共通の理解とアプローチの提供のため、合同政策方針(1994年、WHO, ILO, UNESCO)が策定され、定義や目的が明らかにされた。2004年には合同政策方針の改定版が出され、定義はほぼ変わらないが、障害者権利条約制定への議論の影響を受け、人権や貧困への対応、地域社会の参加に重きがおかれるようになった。

CBRの定義と目的

CBRの定義は、2004年改訂合同政策方針の中で、このように述べられている。「CBRは、障害のある全ての人々のリハビリテーション、機会均等、ソーシャル・インクルージョン(社会的統合)のための総合的な地域社会開発の一戦略である。CBRは、障害者自身とその家族、組織や地域社会、そして関連する政府・非政府の保健、教育、職業、教育、社会的その他のサービスの一体となった取り組みにより実行される。」

そしてCBRの目的は次の2つであることが示された。

  1. 障害者が能力を最大限発揮でき、通常のサービスと機会を利用でき、地域社会において積極的な貢献者となるよう促進すること。
  2. 参加の障壁を取り除くなど地域社会での変化を通して障害者の人権を促進し保護するよう地域社会を活性化すること。

2010年には、WHO,ILO、ユネスコ等は専門家や障害者団体とともに協議の結果、障害者権利条約の実践戦略としてCBRガイドラインを発表し、CBRの目的はCBID(次頁参照)であることが明記された。CBRガイドラインの作成過程でCBRマトリックスが開発され、包括的に状況を把握するツールとして示された。

障害者権利条約は政策を提供するのに対し、CBR・CBIDは権利条約を地域で実践するための戦略としてボトムアップで行われる。同ガイドラインでは地域社会の参加の必要性を強く訴えている。(右図参照)

「コミュニティを動かすこと」の4段階(CBRガイドライン)
図 「コミュニティを動かすこと」の4段階(CBRガイドライン)テキスト

また、持続的なCBRプログラムに必要な要素として、効果的なリーダーシップ、連携、地域社会の主体性、地域の資源利用、文化的要因への配慮、能力開発、財政支援、政治的支援などを挙げている。

CBIDはCommunity-based Inclusive Development(地域に根ざしたインクルーシブ開発)の略で、Community-basedは地域社会を基本とすることを示し、インクルーシブ開発とは、誰もが排除されず開発に組み込まれることである。地域社会には障害者と家族だけではなく、高齢者、社会的に孤立した人、貧困、性的マイノリティの人々等など様々な困りごとを抱えた人が暮らしている。CBIDでは誰もが生き生きと暮らせるように地域社会が変わり、変えることを示している。言い換えると、地域社会において共生社会を実現することである。

CBIDを実現する方法としてCBRガイドライン1では、ツイントラックアプローチが重要であると述べている。ツイントラックアプローチとは、ひとつは障害に特化した支援で、もうひとつは障害者を含む困難を抱える人々のインクルージョン実現を示す地域社会が活性化されることである。例えば、CBRガイドラインの「教育」では、障害のある子どもが十分な教育を受けられるような方法と並んで、地域全体がインクルーシブな小学校教育を開発するために参加を促すことが重要であると書かれている。ツイントラックアプローチについては、CBRの合同政策方針の改訂版(2004)でCBRの目的としてすでに示されていた。(前頁参照)

2015年に第三回アジア太平洋CBR会議が東京で開催され、それに合わせてCBID事例集2が作成され、アジア太平洋地域の事例だけではなく日本の活動でもCBIDのエッセンスが取り入れられた実践が紹介された。それらに共通していたのはツイントラックアプローチが見られたことで、当事者の変化だけではなく、地域社会の変化もある程度示された。変化をみるため地域課題からインクルージョン実現のためのプロジェクト概念図を開発した。それは実践から抽出されたものである。またCBRマトリックスの使用によっても変化の動きを明らかにした。インクルージョンの実現では他分野の人たちとの連携やパートナーシップが欠かせない。障害以外の分野の人たちとつながることはコミュニティの人たちの参画する機会が広がることになり、そのことが事業の持続性の確保につながるのである。CBRガイドラインではまたインフォーマルな支援も重要視される。

国内でのCBIDへの取り組みへの期待

日本では地域での課題が複合化し、既存の福祉制度では対応が難しくなってきたと言われており、多くの地域社会でさまざまな試行錯誤が行われている。よい活動が続けられている地域がある一方、地方の衰退を大きな課題として抱える地域も多く政府は地方創生に取り組んでいる。日本の地域社会で継続されている良い実践をCBIDの視点で見直すことで価値の再発見につながるかもしれない。また地域課題の解決のため新たな取り組みを見出したい地域ではCBIDの理念や手法を取り入れることを検討していただいてはどうだろうか。


1 2010年WHO,ILO,UNESCO,IDDCにより発表。日本語訳:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/un/CBR_guide/index.html

2 国内CBID事例集:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/cbr/cbr_jirei_2015/index.html