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CBID研修プログラム開発事業2016年報告書

3-2 SDGsの視点

東京女子大学非常勤講師 林 早苗

「地域に根差したリハビリテーション(Community-based Rehabilitation: CBR)」は、1980年代に世界保健機関(World Health Organization: WHO)が開発に着手したプログラムであり、当時の目的は、開発途上国の障害者が地域社会にある既存の資源を活用してリハビリテーションサービスにアクセスできるようになることであった。その後、社会参加と包摂、生活の質を高めることを目指す障害者の幅広いニーズに応えるための多分野戦略へと進化し1、2006年の国際障害者権利条約制定後には、その目的は、社会が障害者を含むすべての脆弱な人々を含めて包摂的なものに変わること、「地域に根ざしたインクルーシブ開発(Community-based Inclusive Development: CBID)」であると表明するに至った2。つまり、CBRあるいはCBIDは、「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」や「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」に先駆けて、地域社会の重要性と潜在能力に注目し、障害者を含む脆弱な人々への取り組みなしでは開発課題は解決しないという認識のもと、多分野にわたる様々な課題に様々な関係者と共に取り組んできた。

MDGsからSDGsへ

「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」は、2000年9月に採択された「国連ミレニアム宣言」とその他の国際開発目標を統合し、国際社会が取り組むべき開発指針として策定された。極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げ、具体的な21のターゲットや60の指標を提示した。

図1. ミレニアム開発目
図1. ミレニアム開発目テキスト

MDGsは、開発途上国が抱える課題に国際社会が取り組むきっかけとなった。障害については、障害と貧困の密接な関連が特に国際機関において認識されるようになった。例えば世界銀行が、「障害者が世界人口の15%を占める一方で、障害問題は世界の貧困の20%に関与している」という調査を報告するなど3、障害者がMDGsの政策や施策に参加しない限りMDGsが達成されることはないであろうと国際社会に働きかけた。これらの課題解決に向けての協働の結果、達成期限の2015年までに全ての目標において一定の成果をあげた4

しかし、改善は見られたものの目標達成できなかった課題も数多く残った5。国際社会は、未達成課題を含め、2015年以降の新たな国際開発の枠組みについて議論を重ねた。2015年9月25日、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、193の加盟国によって、2030年までの新たな国際開発目標となる「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(Transforming Our World:2030 Agenda for Sustainable Development)」が採択された6

SDGsの概要――「誰も置き去りにしない(Leaving no one left behind)」

2030アジェンダは、通称、「持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Development Goals)」と呼ばれる。MDGsに続き、次の15年間で17目標達成を目指す。目標には、169のターゲットを設定している。

図2: 持続可能な開発目標(SDGs)
図2: 持続可能な開発目標(SDGs)テキスト

SDGsの特徴は、「就労、就学および職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす(ターゲット8.6)」など、開発途上国だけでなく先進国も対象としている点や、一人一人に焦点を当て、「誰も置き去りにしない(Leaving no one left behind)」ことを表明している点である。また、様々な関係者の連携を求め、特に市民社会や民間セクターの関与を重視している点が挙げられよう。

障害に関しては、「障害」の表記がなかったMDGsとは異なり、5つの目標において明記している。具体的な目標課題は、教育(4)や雇用の機会の確保(8)、能力強化および社会的、経済的および政治的な包含の促進(10)、普遍的アクセスの提供(11)、データの入手可能性の向上(17)である。また間接的には、子供、高齢者、難民などと共に障害者を「脆弱な人々」として言及している7。かつ、「障害者の80%以上が貧困下にある」と明記するなど、障害者の抱える課題を開発課題として取り扱い、具体的には、障害者を含む脆弱な人々の能力強化を目指している。

日本の取り組み(推進本部、実施指針、地方創生との関連)

日本国政府は、2016年5月20日、関係行政機関相互の連携を図り、総合的かつ効果的にSDGsに係る施策を実施するため、内閣総理大臣を本部長とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置した8。2016年12月22日には、実施指針を策定し、「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」という目標を掲げた9。8つの優先課題は、表1の通りである。

表1: SDGs実施指針

1 あらゆる人々の活躍の推進 5 省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
2 健康・長寿の達成 6 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
3 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション 7 平和と安全・安心社会の実現
4 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備 8 SDGs実施推進の体制と手段

障害に関しては、優先課題1に、「障害者の自立と社会参加支援」と明記している。また、「地方創生」は、あらゆる人々が活躍する「一億総活躍社会」を実現する上で最も緊急度が高い取り組みの一つとして位置付けている10


1 世界保健機関(WHO)2010 『CBRガイドライン』 訳:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会

2 日本障害者リハビリテーション協会 2014 「CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)・CBID(地域に根ざしたインクルーシブ開発)」

3 Braithwaite J. and Daniel Mont. 2008. ‘Disability and Poverty: A Survey of World Bank Poverty Assessment and Implication’. Washington D.C. : World Bank

4 極度の貧困状態にある人口割合の半減などが成果として挙げられる(United Nations. 2015. ‘Millennium Development Goals Report 2015’)。

5 5歳未満児や妊産婦の死亡率削減、女性の地位や環境問題などについては課題が残った(United Nations. 2015. ‘Millennium Development Goals Report 2015’)。

6 国連2015「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(国連文書A/70/L.1を基に外務省作成、仮訳)

7 同上。「障害」記載するターゲットは4.5、4.a、8.5、10.2、11.2、11.7、17.18であり、「脆弱な人々」として障害者を言及するターゲットは1.3、1.4、1.5、6.2、11.2、11.5である。

8 首相官邸2016 「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部の設置について」

9 首相官邸2016 「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」

10 国際協力機構2016 「SDGs達成への貢献に向けて:JICAの取り組み」(JICA SDGsポジション・ペーパー)