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CBID研修プログラム開発事業2016年報告書

3-3 地方創生の視点

上智大学教授 大塚 晃

CBID(Community-based Inclusive Development地域に根ざしたインクルーシブ開発)は、障害のある人をはじめとする、すべての脆弱な人々やグループを含めてインクルーシブに社会やコミュニティに受け入れていくことを意味している。また、それは、社会やコミュニティが変革されていることをも意味している。これらの視点は、国が推進している地方創生の考え方と一致するものである。地方創生の考え方を見てみることにする。

2014年9月3日、第2次安倍改造内閣発足と同日の閣議決定によって「まち・ひと・しごと創生本部」が設置された。その基本方針には「地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服する。そのために、国民が安心して働き、希望通り結婚し子育てができ、将来に夢や希望を持つことができるような、魅力あふれる地方を創生し、地方への人の流れをつくる」とされている。そして2014年12月2日に「まち・ひと・しごと創生法」が施行されたことにより、「まち・ひと・しごと創生本部」は、内閣設置の法定組織になり、地方の活性化を目指す方法論として「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。「まち・ひと・しごと」関して、「まち」は、国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会を形成していくこと。「ひと」は、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保。「しごと」は、地域における魅力ある多様な就業の機会の創出である。これらを一体的に推進していくことが地方創生である。

地方創生の基本目標は、「人口減少問題の克服」と「成長力の確保」を長期ビジョンに掲げ、2020年までの具体的な取り組みは、大きく4つに分けられる。

1.地方において安定した雇用を創出する

地方における安定した雇用の創出、特に若者(15~34歳)の正規雇用数の向上と女性の就業率の向上を目指している。具体的な施策としては、地域産業の競争力を高めることを目的として包括的創業支援、中核企業支援、地域イノベーション支援、金融支援、対内直投促進といった業種を横断した取り組みの他、農林水産業の成長産業化、サービス業の付加価値向上、観光産業の活性化、地元名産品のPR、文化・アート・スポーツの振興推進などに分野別に取り組んでいくことである。地方での雇用や人材育成のサポートとしては、「地域しごとセンター」「プロフェッショナル人材センター」の整備と運営も施策として挙げられている。

2.地方への人の流れをつくる

地方から首都圏への人口流出を減らし、首都圏から地方への転入を増やすことを目的とした地方創生のための諸事業が挙げられる。「移り住みたくなる地域」「そこで働きたくなる」地域をつくっていく活動が重要である。具体的な施策として、地方への移住推進のため、全国移住促進センターをオープンし移住情報一元提供システムを整備すること、地方居住推進国民会議を開催すること、アメリカで普及しているCCRC(継続的ケア付きリタイアメントコミュニティー)を日本社会の特性に合わせてアレンジし普及させていくことなどが施策として挙げられている。また、地方での雇用を創出し就労を拡大するために、企業の地方拠点強化、政府関係機関の地方移転のほか、テレワークやサテライトオフィスといった、新しい働き方の促進などである。

3.若い世代のファミリープランを実現する

若者が安心して結婚・出産・子育てができる社会をつくることである。特に子どもを持った後にも、ワークライフバランスが保てることを目指した取り組みといえる。具体的な施策としては、ファミリープランの経済的基盤づくりとも言える若年者グループの雇用対策、正社員化実現にはじまり、子育て世代包括支援センターの整備、育児休暇の取得促進、長時間労働の抑制といった、子育てやワークライフバランス実現のためのサポートが挙げられている。

4.地域と地域を連携させる

「時代に合った地域づくり」「誰もが安心して暮らせるまちづくり」を実行するとともに、地域間の連携を図っていくという視点である。例えば、子どもからお年寄りまで様々な人々が分け隔てなく交流できる「小さな拠点」の形成のような施策が挙げられている。

CBIDの実現のために、このような地方創生の視点から見てみよう。「長期ビジョン」では、「地域の特性に応じた地域課題の解決」が挙げられている。従来、まちづくりは、行政が中心となって担ってきたが、地域の特性に応じた地域課題を解決し、住民が望むまちづくりを実現するためには、地域住民と行政が協働してまちづくりを担っていく必要がある。そのためには、それぞれの地域が異なることを理解し、地域の課題やニーズを適格に把握し、市民と行政が相互に連携し地域課題の解決を目指していくことは、市民生活をより一層充実させる魅力あるまちづくりの実現に向け期待できるものである。このような地域診断のために、CBRマトリックスを活用することは、大きな可能性を秘めていると言えるだろう。また、上記の「地域と地域を連携させる」をために、子どもからお年寄りまで様々な人々が分け隔てなく交流できる「小さな拠点」の形成のような施策が挙げられている。福祉分野においては、年齢や障害の有無にかかわらず、誰もが一緒に身近な地域でデイサービスを受けられる「富山型デイサービス」が頭に浮かぶ。

富山型デイサービスは、平成5年7月、惣万佳代子さん、西村和美さんら3人の看護師が県内初の民間デイサービス事業所「このゆびとーまれ」を創業したことにより誕生した。民家を改修した小規模な建物で、対象者を限定せず、地域の身近な場所でデイサービスを提供した「このゆびとーまれ」は、既存の縦割り福祉にはない柔軟なサービスの形として、開設当初から全国的に注目を集めた。

このように、富山型デイサービスなどの実践は、福祉の観点から地方創生を実現していくことにも大きな可能性があることを示していると考えられないだろうか。