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地域に根ざした共生社会の実現 CBID事例集

特定非営利活動法人 いけま福祉支援センター

(沖縄県宮古島市)

キーワード 高齢化、島の資源、民泊事業

池間島は、沖縄本島の南西に位置する、周囲10キロの島。宮古島と大橋でつながっている小島で人口672人。高齢化率が5割近く、限界集落である。島ではこれまで介護サービスがなく、要介護になると島を出ざるを得ず、一度島を離れると戻ってこれなかった。2006年に島出身の主婦たちがNPO法人を設立し、島に小規模多機能居宅介護事業所を開設した。このことにより要介護の高齢者が安心して島で生活することができるようになった。しかし、それだけにとどまらず、高齢者の生きがいづくりや所得創出のために、高齢者世帯による民泊事業を行い、島の経済を活性化させつつある。現在では、高齢者を中心とした島おこしに取り組んでいる。

◆背景

池間島はかつて鰹釣り漁業が盛んで、1980年には人口1,200人であったが、漁業がすたれ、島は急速に人口が減少し現在670人まで半減した。これは、若者の流出と少子高齢化のためである。現在高齢化率は50%に達し、これまで介護サービスがなく要介護になると島を出ざるを得なかった。地域住民が、地域の介護ニーズを満たすために、さまざまな難問をクリアして自分たちで居宅介護事業を立ち上げたが、さらなる課題が明らかになり、地域おこしへとつながっている。

◆事業概要

高齢者のためのサロンが設置(2003年)され、高齢者のニーズ調査を実施。その後、島出身の主婦を中心にNPO法人いけま福祉支援センターを設立。NPO法人で「きゅーぬふくら舎」(小規模多機能居宅介護事業:定員25名)を開設(2006年)。さらに、高齢世帯を中心にした民泊事業を開設した(2011年)。現在、日本生命の助成を受け、高齢者を中心にした、地域おこし事業を展開している。

写真 おとしよりと児童の交流
おとしよりと児童の交流

地域の基礎データ

●カバーする地域:沖縄県宮古島市字平良池間(漁村地帯)

●人口:672人(2014年3月)。うち、65歳以上、307人。15歳未満、54人

●地域の課題:島の高齢化に伴う、介護ニーズの増加。若者の島離れによる人口減少や漁業や農地の後継者の問題がある。若者のニート化も課題である

■設立年

2004年、NPO法人 いけま福祉支援センターを設立。

■事業内容

●事業の目的:池間島の高齢者に対して居宅介護サービスを提供することから発展し、島の地域おこしに取り組む。

●事業の目標と対象者:2006年に小規模多機能居宅介護事業「きゅーぬふくら舎」を開設し、要介護高齢者を対象に居宅介護サービスを提供。その後、高齢者一般の生きがいづくり、所得向上をめざした民泊事業を展開。現在は、島全体の地域おこしに取り組み、学童を含む島全体の島民が対象になっている。

●関係当事者:主婦を中心にしたNPO法人の会員及び職員、要介護高齢者が居宅介護事業の関係当事者である。民泊事業ではさらに、事業に参加する高齢世帯、これまで修学旅行で訪れた4,000以上の児童生徒及び関係者が含まれる。また島おこし事業においては、自治会や、漁業組合、婦人会、PTA等、島の多くの団体と島民が対象になっている。さらに沖縄県内の大学関係者が、学生ボランティアの派遣や池間島の取り組みをテーマとした研究活動を展開している。

●事業の主な財源:介護保険制度による事業報酬と民泊事業による職員の給与、その他独自事業の収入。

●実施したこと:島出身の主婦たちが、高齢者のためのサロンの設置(2003年)をきっかけに、島における介護サービスの必要性を痛感、NPO法人いけま福祉支援センターを設立し、「きゅーぬふくら舎」(小規模多機能居宅介護事業:定員25名)を2006年に開設した。介護事業はうまく軌道に乗るが、2010年に島から高齢者の孤独死が出る。介護サービスだけでは、孤独死は防げないことがわかり、高齢者の社会参加促進を考える。2011年に高齢世帯を中心にした民泊事業を開始、高齢者世帯の所得を高める効果があった。島全体では、3年間で4千人以上の修学旅行生を受け入れ、3,700万円以上の経済効果があった。それでも民泊事業に参加できない高齢者がいるため、できるだけ多くの高齢者が参加できるよう、高齢者を中心にした島おこしと高齢者の生きがいづくり活動を、日本生命からの助成金(400万円)を得て実施している。

事例1 図1(図の内容)

■特徴

■島出身の主婦たちの力

子育てが終わった40代の島出身の主婦が、「島の若者は島を捨てる」という島の高齢者の言葉をきっかけとして、島の問題を考えるようになった。病院や介護施設のない島では、加齢に伴う病気や介護の不便さから、子ども達が暮らす島外へ身を寄せたり、宮古島にある施設に入る要介護高齢者が多くなった。島出身の主婦数人がボランティアで、高齢者が自宅に引きこもらず元気を取り戻す場としてサロンをはじめた。そして、島の60歳以上の方々を対象に介護に関するアンケート調査をしたところ、「昼間はみんなと一緒に遊びたい、夕方になったら住み慣れた我が家に戻りたい、病気になっても島でみてもらいたい」という希望があり、その願いに答えるために、「小規模多機能型居宅介護事業」が企画された。この様に、島の窮状を察した、数名の主婦の行動がいけま島の画期的な取組へと繋がっていった。

■最新情報の収集と人材の獲得

しかし、主婦の思いだけでは居宅介護事業を始めることはできない。まず、NPO法人を設立し拠点をつくった。廃墟化していた古い防衛庁の建物を自力で再生させ拠点とした。居宅介護事業の設立には、情報ネットワークを駆使して、小規模多機能型居宅介護事業に関する最新の情報を取得し市の認可を得た。また、必要なケアマネジャーも、首都圏のネットワークから紹介を受けて獲得。沖縄県の遠隔地である宮古島の小島から、最新の情報と人材の獲得が可能であった裏には、一人の主婦の存在がある。いけま福祉支援センター代表は、宮古島に学童保育の導入を実現した人である。彼女は、島外や県外の人脈を構築して、情報を取得し、東京の団体による、宮古島市における学童保育に関する調査を実施させ、宮古島において学童保育の普及を図った。この時に得た人脈が、居宅介護事業の立ち上げにもフルに活用されたのである。どのような遠隔地においても、最新の情報、有能な人材の獲得が可能であることを示している。

事例1 図2(図の内容)

■PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクル(スパイラルアップ)の実現

最初、島の要介護高齢者の介護ニーズを解決するために、「きゅーぬふから舎」を立ち上げた。立ち上げから4年、島の高齢者の拠点として次第に頼られるようになるが、2010年の夏、島で初めての孤独死が出た。そのため、次のスパイラルアップサイクルが立ち上った。それは、高齢者の役割づくりや社会参加を促進する試みである。子ども達への民泊事業が考えられた。2011年、はじめは8軒の高齢者家庭で修学旅行生の民泊受け入れが始まった。3年後には、民泊受け入れ世帯も8軒から38軒に増え、島に大きな経済効果をもたらしている。

しかし、高齢化の進行、人口減少など島にはまだまだ多くの課題が残った。ここまでくると、島全体の取り組みが不可欠である。そこで、第3のスパイラルアップサイクルが始まった。島おこし事業である。島には、高齢者という最高の資源が存在している。アマイウムクトゥ(高齢者の知恵)の掘り起こしから、池間島古来の食材の存在が分かった。その一つ、ウツマミ(下大豆)は、琉球王府時代から作られていた豆である。それを復活し、新たな特産品開発が期待される。島おこし事業として、その他に、イーヌブ(湿地源)の復元、耕作放棄地の再生、緑化活動などがある。

写真 民泊での団欒のようす
民泊での団欒のようす

事例1 図3(図の内容)

■課題と展望

介護事業や民泊事業は順調に進んでいる。NPO法人の職員は27人。介護事業が活動の中心で、この事業の収益で他の活動の職員の給与をまかなっている。民泊事業で職員1人を雇用している。また学童保育も新たに始まり、対象者の層が広がりつつある。民泊事業の課題として、受け入れ高齢世帯のさらなる高齢化により、夫婦では負担が大きく、民泊受け入れを断わる世帯が増えてきている。この事業は夫婦の高齢世帯が対象であり、単身高齢者は対象でないので、事業の拡大には元々限界があった。これからの課題として、島の若者への対応がある。雇用の機会が広がれば、若者の参加が期待できると思われていたが、難しい。支援センターの職員の多くはIターン組で、島内の出身者ではない。池間島でも他の島嶼地域同様、若者が島を離れ戻ってこないという問題がある。戻ってきても問題を抱え、引きこもる若者が多い。島おこし活動に島の若者をどのように参加させるかが、今後の課題である。

今後の展望としては、学童保育の拡充と、学校との連携強化が挙げられる。現在、アマイウムクトゥ(高齢者の知恵)による地域おこしに一番関わっているのが、小中学校の子どもたちである。これらの活動によって島を思う子どもたちが増え、将来島に戻ることを願うばかりである。

◆変化したこと

●小規模多機能居宅介護事業による変化

これまで要介護になった島の高齢者は、島を離れざるを得なかったが、小規模多機能居宅介護事業の導入により島で介護サービスを受けることができるようになり、島に高齢者が残れるようになったことは大きな変化である。またこれまで島外の施設で生活している高齢者も、島の自宅に帰るケースが出てきた。「きゅーぬふくら舎」では、介護スタッフは地域の人々が担っているため、自宅に戻った要介護高齢者の見守りは地域ぐるみでできるようになった。またこの事業が始まったことにより、地元の人に雇用の場を提供することができた。この介護事業で、21人の職員と6人の非正規職員の雇用が可能になり、介護事業以外の事業の企画運営ができるようになった。

●民泊事業による変化

民泊事業の効果は絶大である。2011年6月から始まり、2014年2月までの受け入れ学生の数が4,087名(延べ7,358泊の民泊受入れ)に達し、この3年間で島に3,679万円の収益をもたらしている。これは直接的な収益であるが、島での物品の消費など副次的な効果はそれに匹敵するであろう。民泊受け入れ高齢世帯も最大43世帯に増えている。これまで月3万円程度の年金で生活していた高齢世帯に、多くの追加の所得をもたらしたのである。

また経済効果のほかにも、島に高齢者世帯の子どもや孫が戻ってきて民泊受け入れを一緒に手伝うという家族も出てきた。これまで、43軒の民泊を受け入れ世帯において、9軒は子どもたちが戻っている。また、4軒は、民泊の受け入れ時に島に戻って両親の手伝いをするようになった。このことにより島外で暮らす家族との絆が深まり、島の活動に積極的に参加するようになった。

■CBRマトリックス使用による分析

◆「きゅーぬふくら舎」設立当時(2006年~)

きゅーぬふから舎を始めた頃のマトリックスは、居宅介護事業により、健康増進、医療、リハビリテーション、支援機器の保健領域に関わっている。そして、パーソナルアシスタント(池間では介護サービス)がカバーされる。以下のマトリックスでは、緑色で表される。

◆民泊事業を開始した頃(2011年~)

民泊事業により高齢者世帯の所得が大幅に増え(所得創出)、島を出た子どもたちや、孫との関係も回復(交友関係、結婚、家族)。また、高齢者の社会参加が増え、介護予防の効果もでてきた(障害原因の予防)。修学旅行生と高齢世帯との関わりができた (ノンフォーマル教育)。

事例1 図4(図の内容)

◆島おこし事業開始当時(2013年~)

伝統文化の発掘、慣習、祭りの掘り起こしが始まり(文化・芸術)、エンパワメントの領域でも高齢者が中心になっての活動が増える。しま学校の教師としての役割(生涯教育)、手工芸のインストラクター(スキル開発)、在来種の食材の調理のインストラクターなどが加わる(アドボカシーとコミュニケーション)。さらに、島おこし活動(コミュニティを動かす)。学童保育、子ども達への伝統文化の伝達などは、(小学校教育、中・高校教育)に関係している。

CBRマトリックスが、障害分野以外に高齢者、児童、青年など広範な地域活動を分析するツールとして活用できることが分かった。

事例1 図5(図の内容)