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地域に根ざした共生社会の実現 CBID事例集

社会福祉法人 こころん

(福島県西白河郡泉崎村)

キーワード 地場産業の衰退、ビジネスパートナー、対等性

こころんは福祉事業所だが、立ち上がりから地域づくりを意識している。福島県南部地域で精神障害者のニーズに対応するため、誰にとっても住みやい地域づくりを進めるためNPO法人を設立。その後カフェ・直売所を設立し、障害のある人の働く場と生活の場づくりを実践している。地域の課題である高齢化による後継者不足を機会ととらえ、新事業を開発し実践している。企業と連携して、障害のある人の対等性の確保をめざす。東日本大震災以前から農地を借りて農業に着手し、生産から加工・販売まで取り組んでいる。

◆背景

福島県南部地域には精神障害のニーズを抱える人が多かったことを受けて、どういう施設や地域を作ればいいか、NPO立ち上げ後にワークショップを3年連続で開催し、カフェ・直売所を設立することにした。

◆事業概要

障害のある人の相談事業、生活と働くことへの支援を、「直売・カフェこころや」・グループホームの運営により実践。惣菜やお菓子作り、養鶏、野菜栽培を実施し、近くの牧場と連携して新しいお菓子の開発や販売も行っている。農業生産者とつながり、里山再生プロジェクトでは地域の人たちとも関わりを持っている。地域住民も参加できるさまざまなイベントも実施。

写真 直売・カフェこころや
直売・カフェこころや

写真 農業風景
農業風景

地域の基礎データ

●カバーする地域:福島県南部地域(白河市、泉崎村、矢吹町、中島村)。農村地帯

●人口:カバーする地域全体で約11万5千人

●地域の課題:精神障害のある人の課題解決、高齢化に伴う農業従事者の後継者の問題、遊休農地の活用

■設立年

2002年、NPO法人 こころネットワーク県南を設立。2005年、NPO法人 こころんに変更。2011年、社会福祉法人 こころん設立。

■事業内容

●事業の目的:精神障害のある人の生活・就労支援の実施及び地域全体を支援の対象として、誰もが暮らしやすい地域づくりを理念としている。

●事業の目標と対象者:精神障害者の自立支援が主な目標だが、エンパワーされる対象者には、高齢者、身体障害者(視覚を含む)、知的障害者、発達障害者などが含まれている。事業でカバーする人数は100人に上る。

●関係当事者:県内の福祉関係機関、自立支援協議会、就労関係ネットワーク、医療機関および行政、農家を含む取引事業所、直売店・カフェこころやの客、里山再生プロジェクトに関わる人たち、大木大吉本店(酒造)、白河園芸総合センター、地域住民。

●事業の主な財源:障害者総合支援法事業報酬と事業売上である。

●実施したこと:泉崎村を含む県南地域の利用者もカバーする相談事業。障害者が働く場として、直売所・カフェの運営と農産物や地域の特産物の販売。白河市の空き店舗でこころやで扱う製品の販売。移動販売カーによる仮設住宅での巡回販売。菓子工房、惣菜づくり(作業所なごみ)、養鶏、農業・農家支援などの実践。生活支援ではグループホームとホームヘルプサービスの運営。一般企業への就労支援とそのためのジョブコーチ派遣。事業では地域住民の参加も呼び込み、関係するすべての人の利益につながることをめざす。

個人のニーズに対して生活全般にわたる総合的なきめこまやかな支援を行いながら、福祉・農業・食育を組み合わせたビジネスモデルを展開。牧場と提携してジャージー種の牛乳を使い、菓子を共同開発し、生産・販売も行う。企業との共同による新事業の開発を行う。実績を見ると、就労支援を利用して働いている人は62人。一般企業へ就職した人は10年間で38人である。

事例4 図1(図の内容)

■特徴

■地域づくりに重点

NPO法人を立ち上げた後、自立支援法の施行により新しい事業を始める必要が出てきた。その方向性を見出すため、地域づくりで全国を飛び回っていた清水義晴さん(『変革は、弱いところ、小さいところ、遠いところから』著者)をファシリテーターに招いて、2004年から3年続けて泊り込みのワークショップを行った。その結果、精神障害者が地域を変える起爆剤にすること、精神障害者のみでなくさまざまな障害のある人に対応するため「直売・カフェこころや」を作ることにした。話し合いには近所の農家の人や精神医療従事者も参加した。

■地場産業の衰退への取り組み

高齢者から引き継いだ養鶏場では、2,000羽の鶏の飼育に障害のある人が従事している。そこで生産される質の良い卵を利用するため、菓子工房を作り、お菓子を作って販売している。

こころんの周囲は農家が多いが、後継者不足に悩んでいる。こころんと取引のある事業所は170ヶ所で、そのうち120ヶ所が農家である。こころんは生産者会議を主催している。東日本大震災のzx前から農業に取り組んでいたが、現在は農地を借りて開墾し、有機栽培で約50種類の野菜を生産している。農場(こころんファーム)で働く15人のうち12人が障害のある人である。ここで生産したかぼちゃと卵を使ったかぼちゃプリンは、賞を取るほど評判が良い。遊休農地を利用する里山再生プロジェクトでは、酒造店・園芸店との連携で、料理酒用の米を栽培するイベントも開催している。

このように、高齢化にともなう後継者不足という地域の課題を障害のある人の仕事を創り出し障害のある人を社会につなぐ機会ととらえ、生産から、加工・販売まで行う六次産業化を実現している。

事例4 図2(図の内容)

■ビジネスパートナーと対等性

こころんは、共感する企業との出会いから、新事業を開発し実践してきた。

森林ノ牧場は⑭アミタという会社が事業を開発し、牧場が始動した矢先、東日本大震災に見舞われ開業をとりやめようとしたが、一人の若いスタッフが経営を継続して今に至っている。アミタの社長は地球資源の持続性に対して強い危機感を持ち、「地域に根ざした、持続可能な事業を行う」ことを会社のビジョンとしている。こころんの施設長 熊田芳江さんはそのことに深く共感し、こころんのめざす方向と同じだと感じている。そのような考えを持つ企業とは、つながるのが早いと言える。こころんと森林ノ牧場の良質の牛乳との共同開発で作られたのが、白いプリンとヌシュクルールである。また里山再生プロジェクトでの連携および普段からつながりのある酒造メーカー、大木大吉本店とは卵酒を開発。中華料理店と共同開発したレトルトのタイカレーもある。福祉ではサービス提供者と受け手という一方通行の関係になりがちだが、こころんは「働く」ことを中心に据えると、あらゆる立場の人にメリットがあり、障害のある人が対等な関係を結べると考えている。また企業と組むと、開発や販売までの動きが早いという利点もあるという。

写真 里山再生プロジェクトのイベント風景
里山再生プロジェクトのイベント風景

■福祉と生産性

こころんは、目の前の一人の障害のある人が、ちょっとした助けで今よりできることが増えるように向かい合う。病気だけを見て、どう治したらいいかという視点を持つのではなく、どうしたらできるようになるかを考え、最終的には障害のある人が地域に出て行けることをめざしている。またビジネスとしてうまく運営する必要があるので、経営力をつけることが大事であり、そのため農業、加工、販売の専門知識がさらに必要と考えている。六次産業化を達成してきた要因の一つとして、スタッフを雇う際、福祉人材というより関わる分野の専門性があることに優先を置くことを挙げている。

写真4 写真5 写真6

◆変化したこと

地域との関わりを見ると、泉崎村は負債を抱えていたが、分譲地を売り出し、2013年に完済した。都会から移住した人たちは、文化的な活動を求めていた。こころんは音楽コンサートやアート展を開いて地域住民にもオープンにしたことで、同時に障害への理解を促進してきた。今ではアート展のほかカラーセラピーや茶道教室を開いて、地域住民との交流をはかる場を持ち続けている。もともと偏見が強い土地だったが、地域のためにできることを行うことで、少しずつ理解を深めてもらった。偏見はむしろ障害のある人とその家族の方が強く持っている場合も多い。こころんの活動に参加することで本人たちが自信を深めるにつれ、偏見は減ってきたという。

農地を借りている農家とは日常的に交流や情報交換を行い、畑の草取りを手伝うこともある。そのようなつながりから、地域の人たちに自然と溶け込むようになってきた。

泉崎村のふるさと納税申し込み者に贈られる特産品の一部に、こころやで扱われる野菜が含まれている。このことはこころんの価値が認められ、村の主流の中に位置づけられたことと考えられる。こころやから全国に野菜パックが届けられている。

●障がい者はどう変わったか

こころんによると、当事者の働く意欲が高まり、元気を取り戻し、健康になったそうだ。こころんでは、障害のある人が自らの力を高められるような機会を作っている。月1回開かれる会議には、利用者を含めて誰でも参加できる。また利用者交流会は、お互いに助け合う場になっているという。今回の取材で、こころやで働いている障害のある人たちにインタビューをさせていただいた。8年前から働いている男性は、こころやでは不良品の見きわめを担当している。近所のお客さんとの会話が楽しみで、こころやに出ていない時にはお客さんから「今日はどうしたの」と気にされるようになった。別の男性も、8年前からこころやで働いている。こころやで働くようになり、安心で居心地がよく、マイペースで働ける。大変だったことは、と尋ねると、空き店舗で販売していた時、仕入れから販売までを切り盛りすることが大変だったという。つまり障害ではなく、働くことに関する答えが返ってくる。

このように地域の人との関わりを持つことにより、普段の暮らしの中で会話が生まれ、地域で活動することに自信が持てる要因になっていたのではないかと考えられる。

■課題と展望

こころんの今後については、時代に合うように変化していくのがよいと熊田さんは考えている。関係者と醸成している事業化手前のアイデアが豊富にある。いずれも、地域にあるものを利用して循環できる仕組みにつなぐことだ。そのような将来構想をどう共有していくかが課題だという。

また福島県の沿岸部で、原発事故後孤立している精神障害のある人へのアウトリーチによる支援の取り組みがあり、こころんもその活動に協力している。

■CBRマトリックス使用による分析

◆NPO設立当初

精神障害者が地域で暮らしやすくなるために、地域全体を支援することにした。そのため地域住民に障害者のことを理解していただく活動を行った。はじめからツイントラックアプローチに取り組んでいたと言える。

事例4 図3(図の内容)

◆社会福祉法人設立以降

こころんが実施しているのは、障害のある人の就労支援(生計の項目)、安定した生活を支えるためのコミュニケーション支援(スキル開発)、理解促進(アドボカシーとコミュニケーション)、地域の人たちがこころんの活動に参加する仕組みづくり(コミュニティを動かす、アドボカシーとコミュニケーションおよび社会の項目)、障害者の状態が悪くなった時には医療機関につなぐこと(医療)、自立した生活のための支援(リハビリテーション)である。またCBRマトリックスに欠けている項目として、こころんは自然環境を挙げている。

事例4 図4(図の内容)