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地域に根ざした共生社会の実現 CBID事例集

チャイルドデイケア ほわわ(社会福祉法人 むそう)

(東京都世田谷区)

キーワード スペシャルニーズ、重度医療依存児、医福連携

どんなに障害が重くても地域で一生涯暮らせるシステムを創るという法人ミッションを実現する事業の一環として、在宅診療の医師・訪問看護ステーションの看護師との連携体制を構築し、病児デイケア施設「ほわわ」を拠点として、医・福連携で医療対応の必要な子どもの生活や年齢に応じた発達を支援することにより、将来の生活の質の低下を抑止する。

◆背景

死ぬまで人間らしく看取られるような社会システムが整備されていない中で、特に医療対応が必要な病気や障害を抱えた子どもにとっては、発達段階に応じた体験ができ、どんなに病気や障害が重くても生きている間を充実させることができる、“生き切るための支援”が求められている。

◆事業概要

訪問医療を行う小児科医、訪問看護ステーションと連携することにより、福祉団体だけでは24時間365日の支援が難しかった医療対応の必要な重症病児を対象としたデイケアを行う「チャイルドデイケア ほわわ」を東京都墨田区内および世田谷区内に開設。いずれの施設も、愛知県半田市でのむそう事業と同様に、賃貸物件を一棟借りして改修したもの。

写真1

地域の基礎データ

●カバーする地域:東京都特別区内(中核都市)

●人口:23区内約900万人。うち医療対応の必要な子ども約1,500人

●地域の課題:医療対応の必要なスペシャルニーズの子ども(0~6歳)の昼間の居場所不足と病児をかかえる家族の孤立・疲弊

■設立年

2013年1月、墨田区吾妻橋に、6月、世田谷区瀬田に開所。

■事業内容

●事業の目的:医療と福祉の連携により、医療対応の必要な子どものQOLを高める。

●事業の目標と対象者:医療対応の必要な0~6歳の子どもを対象に、医療と福祉が連携してその生活を支え、地域コミュニティとつないでいくことで、病児とその家族の生活の質を高める。

●関係当事者

  • 医療対応を必要とする病児およびその家族70人
  • 在宅診療所(医師)および訪問看護ステーション(看護師)
  • 日中活動を支援するスタッフ
  • 地域の人々

●事業の主な財源:障害福祉サービス報酬、補助金。

●実施したこと:病児デイケア「ほわわ」(吾妻橋・瀬田)では、在宅医療を専門とする小児科医、訪問看護師(訪問看護ステーション)、理学療法士と、福祉のエキスパートとして「むそう」の支援スタッフとの医福連携で、医療対応の必要な子どもたちの日中活動を支援している。支援スタッフは、痰の吸引など必要な研修を受けた「むそう」常勤職員を、原則マンツーマン対応が可能な体制で配置している。

事例6 図1(図の内容)

■特徴

■東京での新事業展開(スペシャルニーズへの対応)

愛知県半田市で事業展開している福祉サービスの理念を突き詰めると、どんなに障害が重くても、あるいは親亡き後でも、死ぬまで人間らしく地域で暮らして看取られる、というところまでを支援する必要があると思われた。特に、24時間365日必要なときに必要なところへ支援を届けるという「むそう」のミッションに鑑みれば、日常生活に医療対応を必要とする子どもたちへの支援は、「むそう」のめざす福祉の手が届いていない分野であったことから、これらの人々への支援をおこなうため、医福連携体制での「ほわわ」事業立ち上げを決意。

一方で制度的な背景として、介護保険と児童福祉の狭間にあって支援が立ち遅れているのが「ほわわ」事業で対象とする医療対応の必要な子どもたちであり、連携する看護師の「東京を変えないと日本中の子どもは救えない」との言葉に強く共感し、東京都内での事業展開が決断された。

■既存の地域資源の利用

何十億という資金を投入して大規模収容施設を建設するのではなく、賃貸物件をバリアフリーに改修してデイケア施設として使用し、定員5人の小規模拠点としている。

特に「ほわわ瀬田」は、外国人向け住居として賃貸されていた西洋建築の一軒家であったため、エレベーターを設置するだけで、そのままバリアフリー施設として使用することができた。

■地域社会システムの構築(医福連携体制の実践)

「ほわわ吾妻橋」は、訪問診療クリニック「あおぞら診療所」の目と鼻の先という立地にあり、物理的にも緊密な連携体制での支援が展開されて1年8か月ほどになる。

事例6 図2(図の内容)

近隣は都内でも下町情緒に富み、地域ぐるみで「あおぞら診療所」や「ほわわ」とそこを利用する子どもたちを見守る素地があった。

また「ほわわ瀬田」も、2013年7月に開所して1年あまりになるが、インターナショナルスクールに近い土地柄もあり、子どもを含め外国人居住者も多いことから、多様な人々を抵抗なく受け入れる精神風土があったことで、すんなりと地域コミュニティに溶け込んでいるように見受けられた。

写真 「ほわわ」の様子

「ほわわ」のような医福連携の支援体制がなければ外出すらままならない子どもたち。「ほわわ」で家の外の世界を知り、“おともだち”との遊びを通して「社会」の一員として生きることができる

■波及効果(モデル化できること)

“フランチャイズできるシステムづくり”を当初から意識して、「ほわわ」事業を立ち上げてきている。医療ケアの必要な子どもたちの生活支援は、えてして医療モデルに陥りがちだが、「ほわわ」事業では、嘱託医や訪問看護師、理学療法士と福祉(介護ヘルパー)がそれぞれの専門性を連携させることで、一人ひとりの子どもたちが暮らしをきちんと感じることのできる生活モデルでの支援を実践している。愛知県半田市での障害者支援と東京都での病児デイケアとをあわせて、宮城県仙台市でも事業を展開する計画で、「むそう」モデルが着実にその実践フィールドを拡げつつある。

また2014年9月には、病児保育の先駆例である認定NPO法人フローレンス(東京都千代田区)が杉並区で障害児専門の長時間保育事業「障害児保育園ヘレン」を開始している。競合事業者のようにも受け取れるが、「ほわわ」事業向けのスタッフ育成研修で「ヘレン」の職員を受け入れるなど水面下で連携関係が築かれており、「ほわわ」事業のノウハウがじわりと広がり始めていると言えるかもしれない。

◆変化したこと

●本人への働きかけ

「ほわわ」は、日常生活において医療ケアを必要とする0~6歳までの“重度医療依存児”(前田医師による造語)を預かるデイケアサービス事業である。戸枝理事長によれば、受け入れに際して行われる綿密なヒアリングでは、訪問看護師から必ず「2人目、3人目(の子ども)はいつ産みますか?」と質問されるという。初めての子どもが医療ケアの必要な障害児であったことで、ほとんどの人が次の子を持つことを当然のようにあきらめてしまうが、「ほわわ」では、“重度医療依存児”だからこそ兄弟姉妹がいることがその子の人生にとって良いと考えている。親亡き後までの障害児の人生のQOLを念頭に、“本物の環境”を感じながら生きている生活主体者として暮らしにきちんと参加していけるよう、どんなに重度の医療依存児であっても、医療モデルではなく生活モデルで支えていく伴走者としての機能を重視していることから、2人目、3人目の出産に際しても、「ほわわ」と連携している在宅診療所・訪問看護ステーションを挙げて支援していく方針を取っている。

●地域への働きかけ

愛知県半田市での取り組みと共通して、「むそう」が事業性(採算)に優先させても貫く信念がある。それは、拠点の小規模展開ということである。障害のある人ばかりが集まる“特別なエリア”を創ってしまうと、「地域の中で障害者だけが孤立した暮らしになってしまう」というのが、戸枝理事長が起業した根源的な想いである。特に「ほわわ」事業の場合、対象としている0~6歳児の生活環境はその先の育ちに大きな影響を与えることから、常時5人までの受け入れにこだわって子どもたちのQOLを高い水準に維持している。同時に、既存の賃貸物件というインフラに必要最小限にしか手を加えずに小規模展開することで、重度医療依存児であっても地域で“普通に”暮らすことができるのだという理解を、拠点の近隣住民に深めてもらうことにもつながっている。また、「ほわわ」事業2拠点目となった瀬田は、ターゲット人口が都内でも最も多いと見込まれる世田谷区内で、近隣にインターナショナルスクールがあり住民層に多様性を受け入れる素地があることなどから、戦略的に選ばれた立地である。

■課題と展望

現状の課題として就学年齢の子どもの放課後の居場所開設が挙げられているが、「むそう」の事業理念が「誕生から看取りまで」の伴走であることに鑑みれば、「ほわわ」事業による0~6歳の重度医療依存児デイケアサービスは、「むそう」が理想とする支援の限られた一部分であると言える。重度医療依存児でも夜遅い時間まで自宅と同じように「ほわわ」で過ごすことができ、必要に応じて宿泊もできるような、トータルなケアサービスをめざす「むそう」の理念を実現するためには、小規模事業所での宿泊や、医療技術の進歩に伴い当然に変化する障害区分に対応可能な制度整備等、法令上の制約を緩和もしくは取り除いていくことが求められる。

■CBRマトリックス使用による分析

◆「ほわわ」でカバーされていること

重度医療依存児を対象とするデイケアサービス事業「ほわわ」は、医療と福祉の連携体制をとりながら、主として「保健」の領域をカバーしている。その他の領域については、間接的に効果を生んでいる構成要素もあるかもしれないが、起業から1年余りの現時点では、まだ事業目的としてカバーされているとまでは言えないと思われる。

(図1)

事例6 図3(図の内容)

◆「ほわわ」のめざす成果

「ほわわ」事業を現時点で限定的にとらえればカバーされる要素は図1のとおりだが、重いハンディを抱える子どもたちとその家族のための“セカンド・ハウス”をめざすという「ほわわ」のビジョンは、社会福祉法人むそうが法人本部を置く愛知県半田市で展開している事業モデルと重なり合うか、もしくは補完し合うような形になるのではないだろうか。

(図2)

事例6 図4(図の内容)