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スウェーデン国際開発協力庁(Sida)の障害児者のための開発協力に関するガイドライン

Sidaの障害児者のための開発協力に関するガイドライン

1. 背景

1982年に国連が「障害に関する世界行動計画」を決議して以来、 Sida(注2)は障害分野を開発協力の一部として統合する努力を重ねてきた。 このことはさまざまな方法や経路、予算配分を通じて行われてきたのである。 この文書が目指すのは、 過去の蓄積をまとめ、 開発協力の枠組みにおける現在の国際的政策上の課題を記述し、さらにこの分野におけるSidaの今後の計画の基盤を確立することにある。 この課題は、この分野での開発協力において長い経験を持つ多くの重要人物との面談及び、文献によって作成された。

この文書は、2の基本概念の記述から始まる。Sidaの活動にとって重要な制御手段となる国際的な原則は3に要約されている。4では、SIDA(注1)の1987年ガイドラインが記述され、5では、障害分野でのSidaの協力から得た経験の見直しを行っている。6と7では、今後3年間の目標に関する提案と結論が提示されている。 これらの提案は、 面談から得られた情報とSidaの全体的目的およびねらい、今日の開発協力の構想を基にしたものである。

2. 基本概念

障害分野では多くの概念が様々な方向性や脈絡で用いられている。 disability(能力障害)もhandicap(社会的不利)も、 日常の会話で広く使われている。しかし、この領域の専門家はより正確な用語を用いている。 下記の概念は、 例えば国連の標準規則に頻出する。

2.1 DisabilityとHandicap

戦争は多くの場合、身体的ならびに心理的な機能障害(impairment)の原因となる。 病気や機能障害はその性質からして恒久的なのも一時的なのもある。 日常会話では、disabilityとhandicap は、 大した使い分けなしで用いられている。 これが強い反発を招いたことは障害に関する歴史の中で明らかに示されている。

Handicap という用語は、 周辺環境の問題を無視した医学上の取り組みから発生した。

Disabilityという用語は、 世界中のどの国のどんな人にも起こる多くの様々な機能的な制約をふくむ。 それは個々の人間に関わってくる。人は、 身体的、 知的、 視覚又は聴覚機能障害あるいは疾病、 医学的な問題、 精神病の結果として障害(disability)をもつに至ることがある。 これらの場合も原因は様々である。
標準規則や他の関連文献では、 handicapという用語は障害をもつ人達とその環境との 間の相互作用を記述するのに用いられる。 障害者が地域社会における参加がほとんど阻まれている時、 handicapが存在する。 この定義のねらいは、 人々が同等の条件で参加する可能性を妨げるような環境の欠点に人々の関心を集めることにある。

2.2 予防策とリハビリテーション

予防策が目的とするのは様々な障害が発生するのを予防すること(第一次的な予防)もしくは、 現存する障害が悪化ないしは恒久化するのを予防すること(第二次的な予防)にある。
そうした方策は数多くある。 プライマリー・ヘルス・ケア、 母子保健、 医薬品、 手術、予防注射、 安全装備はいくつかの例である。他にも戦争防止や環境汚染の低減があげられる。

リハビリテーションは、 最適の身体的、 知的、 精神的、 社会的機能能力を獲得し維持し、それにより生活を改善し、 最大限に可能な自立が達成出来るようにすることを目標とする。
リハビリテーションには、 また多くの異なる方法が取り入れられるかもしれない。これには、 地域社会に再順応すること、 障害を矯正あるいは補うこと、 そして、 参加支援技術や補装具を提供することを含んでいる。(1995年 標準規則10、11)

2.3 地域社会に根ざしたリハビリテーション-CBR

もう一つの主要な理念は地域に根ざしたリハビリテーション-CBRである。 これは、「障害者に対するサービスの改善や、 より均等な機会の創出、 人権の尊重かつ擁護により、障害者の生活の質を改善する戦略」である。 (E. Helander, NU2:95)
CBRの考えは1970年代当時の、施設におけるケアという従来型の思想の不適切性に対応するために発展した。 かつての取り組み方では、 リハビリテーションの必要性のうちごく僅かしか充たすことが出来なかった。 従来の施設は主要都市にのみ存在し、しかも質がよくないことがしばしばであった。 それらの施設は、 人々を地域社会から隔離し、またそれにより、隔絶した存在になった。 Sidaの障害分野における協力ではCBRは重要であり、5でさらに詳しく述べられている。

2.4  統合教育(Integrated Education)とインクルーシブエジュケーション(Inclusive Education)

統合教育という用語は1970年代の終わりから使われてきた。 サラマンカ声明(The    Salamanca Statement)の成果の一つは統合教育が、 インクルーシブエジュケーションに取って替わったことである。 それは同じ理念の延長を成している。 スウェーデンでは、 「すべての人のための1つの学校」という言い方をすることがある。

もう一つの共通の理念は、 特別なニーズに対する教育、 すなわち、

特別なニーズを持つ児童のための教育である。スウェーデンではこの用語は、 読み書きが困難な児童のための別の教育を指している。 一方、 英語では、 この用語はもっと幅広い使われ方をしている。
インクルーシブエジュケーションの考え方は、 特別なニーズをもつ児童は、 普通学級であれ、 特殊学級であれ、 一般校に就学すべきだということである。 しかしながら、この構想の実践においてはニーズと資源によるところが大きい。例えば、 児童は一般校に就学出来るが必要に応じ、 特別な支援や参加支援技術を提供されることが出来る。 また、一般校の特殊学級に通うことも出来る。

3. 障害分野における世界的課題

国連の推定では世界には障害をもつ人は約5億人いると言われている。 その内、 約80%は開発途上国に住んでおり、 その中でサービスやリハビリテーションを受けられる人は極めて少ない。

 障害問題は、 最近の国連会議でより多くの注目を浴びてきている。 このことは1994年のサラマンカ会議(Salamanca Conference)、注1995年のコペンハーゲンにおける世界社会開発サミット(Social Summit Meeting in Copenhagen 1995)、 1995年の北京での第4回世界女性会議(Women's Conference in Beijing 1995)と1996年の第2回国連人間居住会議(HABITAT 1996)の会議でもあてはまる。

 最近では、 いくつかの重要な文献も出されている。 子供の人権条約は1989年の国連総会で採決された。 この条約は今では、 191ケ国で批准されている。 すなわち、 2ケ国を除くすべての加盟国により批准されたことになる。 これらの諸国は、 こうして障害児に対して他のすべての児童と平等の権利を与える措置を講じたのである。 さらに、 1993年に、国連は、 障害をもつ人の参加と平等を確実なものとするために標準規則を採決した。 しかしながら、 国連の活動における障害分野への国際的な関心は最近弱くなってしまった。 資金提供の多くは国連機関をとおしてではなく、むしろNGO(非政府団体)を通じて拠出されることを望む人が多い。

3.1 障害者に関する世界行動計画

国連は1981年を国際障害者年と宣言した。 この結果、 障害をもつ人の活発な社会参加を確実にすることを目標とした障害者に関する世界行動計画が策定された。 この計画の結果、 障害者問題に関する見解に根本的な変革がもたらされた。 以前は、 障害をもつ人は主として施設において世話されて来た。 従来の普遍的な見解では、 handicapは当事者自身にあるという考えであった。
1960年代の末にはすでに障害者団体は、環境構成や人々の態度の結果として能力障害が社会的不利になるという新しい見解を示した。 この見解は誰もが社会に参加できる機会を持てるような環境作りをする必要があると主張した世界行動計画の基盤となったのである。国連は各国に対して、 国内委員会を設置し、 国内行動計画を開発し、 障害者に彼ら自身の組織を設立することを奨励したのである。 国際障害者年の目標を達成するため1983年から1992年までを国連・障害者の十年と宣言したのである。
多くの国は国連の呼びかけに応じたものの、 障害問題への特別な関心はまもなく衰退した。障害をもつ人の権利に関する条約を準備すべきだという提案は国連によって拒否されたのである。それには2つの理由が挙げられている。 第一に、 障害をもつ人を特別に扱うのではなく、統合すべきであるということ。 第二に、 国連子供の権利条約が完成間近にあって、 それ以上の条約を考える余裕がないということであった。 条約の形をとる代わりに、 別の国際的な手段として標準規則のリストが設定されたのである。(1994年 Bengt Lindqvist氏との面接から)

3.2 標準規則

障害者の機会均等に関する標準規則は1993年12月の国連総会で決議された。 これらの規則は、 国連・障害者の十年の間に得られた経験から発展したもので、 人権の国際法を基礎としている。 22の規則に法的な拘束力はないが、 過半数の国家が採択し順守するに至った時には国際慣習法となり得るのである。 世界各国の道義的、 政治的約束を要求する。 この規則によれば、 社会が障害者を含めるように適合すべきであるとしており、 責任、 行動、 協力についての重要な原則を表している。

規則の目的は、障害をもつ女性・少女・少年、女性、男性が、社会において他の人々と同じ権利と義務を享受できることを保障することである。国連加盟各国政府は従って障害をもつ人が完全に社会活動に参加するのを妨げる障壁を除去する責任がある。規則はその過程において障害者や障害者団体が積極的な役割を果たすべきであると強調している。

規則によれば、女性、児童、老人、貧困者、移民労働者、二重あるいは重複の障害をもった人、先住民、少数民族に対して格別の考慮を払うべきとしている。さらに、難民の中には考慮されるべき特別なニーズを抱えている障害者が多数存在している。(スウェーデン版標準規則 1995:7-8参照)

標準規則の2つの主要な理念は参加と平等である。 一つの原則は、 各個人が社会参加において平等の機会が与えられるように資源が用いられることを社会計画が基盤とすべきこと。社会分野と我々の環境は誰にとっても利用しやすくあるべきである。 障害者は居住している場所に引き続き留まる権利がある。 彼らは、 通常の教育、 病院でのケア、 労働市場、 社会福祉サービスの制度内で必要な支援を受け得るべきである。 他の人々と同じ権利を享受する障害をもつ人は、 それに並んで同じ義務・責任を負うべきである。

3.2.1 参加の前提条件

22の規則のうち、 4つは、 同等の条件での参加の前提条件に関するものである。 その4つとは、a) 意識向上 b) 医療 c)リハビリテーションとd) 支援とサービスである。意識の向上を促進するために国は、 とりわけ障害問題が総ての児童のための教育並びに教師やその他の専門家グループの訓練項目に含むことを確実にすべきである。


3.2.2 参加の領域

平等な参加への目標として8つの分野が示されている:すなわち、アクセシビリティ、教育、就労、所得保障と社会保障、家庭生活と人間としての尊厳、文化、宗教、レクリエーション・スポーツ。アクセシビリティは、 これら総ての領域における底流をなしている。

3.2.3 実施のための10の規則

  • 情報と調査を拡大し、統計を収集する。(規則13)
  • 政策:障害者のニーズと関心は、一般の開発計画に含めて考慮されるべきで分離して取り扱うべきではないこと。(規則14)
  • 立法:一般法と特別法の結合が望ましい事があり得る。(規則15)
  • 予算:国は一般予算に障害分野を含むこと。(規則16)
  • 調整:国は障害問題の調整が実施されることを確実にすること (規則17)
  • 障害をもつ人の組織:国は障害をもつ人の組織が持つ諮問的役割と障害者の立場を代表する権利を認めるべきである。 (規則18)
  • 職員研修:国は障害分野の総てのスタッフに対する適切な研修の実施を確実にする責任もある。開発途上国においては、ことに地方レベルでのスタッフ研修は重要である。(規則19) 
  • 評価:国は国家プログラムとサービスについて継続的に監視し、評価する責任がある。また、国は評価の背景やその結果についての情報を提供すべきである。国は、障害分野で国の評価として共通のシステムを開発するための国際協力に参加すべきであり、そのため調整委員会を奨励すべきである。(規則20)
  • 技術・経済協力:国は開発途上国における障害をもつ人の生活条件の改善について共同の責任を負うものである。難民を含む障害をもつ人の参加と平等を達成するための方策は開発計画に統合されるべきである。このような方策は、あらゆる形の協力に含まれなければならない。障害をもつ人の技能、共通する知識、能力の開発、また、適正技術とノウハウ(技術知識)の開発および提供が優先されるべきである。(規則21) 
  • 国際協力:国は、国連、国連機関、他の政府間組織内での障害政策の開発に参加すべきである。適切な場合には、国は、基準作りや情報交換、開発計画などの話合いに障害問題を含めるべきであり、また知識や経験の交流を奨励・支持すべきである。(規則22)

言及された総ての分野において、 国は、 障害をもつ人が積極的に参加する機会を促進し、 障害者団体に協力することを勧奨されている。

3.3 国連子供の人権条約

子供の人権条約では、 特にその23条で障害をもつ児童について述べられている。本条は、精神もしくは身体障害をもつ児童が価値ある生活を享受し、 地域社会に積極的に参加する機会が与えられ、 そうした児童と保護者に必要なケアが与えられ、必要な援助を受ける権利を持つことを明記している。 この支援は、 可能な限り、 無償であること。 国は、教育、就職の準備、 保健、 リハビリテーション、 レクリエーションが彼らにとって利用し易いようにしなくてはならない。 ここで言う支援とは障害をもつ児童が可能な限り完全に社会への統合と、個人の発達を達成出来るよう努力することである。 同時に、 文化面かつ精神面の発達も促進されるものとする。 国は、 予防医学・治療方法、 リハビリテーション、 教育、職業訓練の分野での情報交換の促進を勧奨されている。 そうした交換は特に開発途上国にとって価値あるものである。
条約は、 ただ一つの条項で障害をもつ児童に焦点を当てているに過ぎないが、 他にも関連する条項がある。 子供の人権条約の基本原則の一つに、 総ての児童が平等の権利を持ち、誰一人差別を受けないということがある。 これは、 条約の総ての条項が障害をもつ児童にも適用することを意味している。
どの程度まで、 各国が、 この見解に同調しているかは明らかではない。 報じられている方策はしばしば教育面に限定されていることが多い。(Lillemor Anderson-Brolin 1996)。 しかしながら、 就学前の幼児は、 とりわけ初期に障害の医学的治療をすることの利点を考えても、 重要な対象グループである。

3.4 サラマンカ声明(The Salamanca Statement)

1994年6月、 スペインのサラマンカで92か国政府と25の国際機関が参加して特殊教育世界会議(the World Conference on Special Needs Education)が開催された。 参加者が合意したのは、 とりわけ次のことである。すべての児童は教育を受ける権利を有し、 特別なニーズを持つ児童も一般の学校制度中で実施される教育に参加する権利があること、である。 さらに、 この会議では、 一般校への統合は、 差別と戦い、 障害者に対する態度を変えるのに効果的な手段であることを認識したのである。
サラマンカ声明は各国政府、 世界共同体(world community)にインクルーシブエジュケーション(inclusion education) を推進し、 特殊教育の指導方法を総ての教職者教育の構成部分として取り入れることを勧奨している。 このことの責任は特にUNESCO(国連教育科学文化機関)が委任された。 NGO(非政府機関)は政府当局と協力し、 特別なニーズを抱えている人達の教育に関わりを持つよう奨励されたのである。

3.5 共通の基本原則

上記の国際的な文書にはいくつかの共通の原則が盛り込まれている。 その一つは、 障害をもつ成人・児童はリハビリテーションを受ける権利を有し、 また、 障害をもたない人々と同等の条件で地域社会での生活に参加する権利を持つことである。 障害者および障害者団体自体が社会計画や政治決定に積極的に参加することが大いに重視されたのである。
障壁やハンディキャップを最小限に留めるために、 統合化と特別な支援の提供との間に均衡を保つ必要があるが、 統合化は隔離を伴う特別な解決策より高い優先順が置かれるものである。 社会情報、 サービス、 教育、 文化、 仕事を得やすいことは、 障害者が充実し満足が行くような生活をし得るためのさらなる前提条件である。

これらの権利の実現のために誓約する国々は、 自ら進んでそのことを障害分野における開発協力の基礎にすべきである。