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CBRガイドライン・教育コンポーネント

ノンフォーマル教育

はじめに

ノンフォーマル教育とは、正規の学校教育の枠外で行われる教育のことをいい、コミュニティ教育・成人教育・生涯学習・2度目の教育機会などとも呼ばれる。在宅学習から行政機関提供のもの、または地域による取り組みに至るまで、地域における広い範囲の教育活動を指し、定評のある教育機関が運営する認可された講座や地域に根ざした小規模な予算の活動も含まれる。

ノンフォーマル教育は多様なため、この要素は他の要素、特に生涯学習と多くの共通した側面がある。本ガイドラインの目的として、この要素は子どもと若者のための正規の学校教育外でのノンフォーマル教育に焦点を当てる。しかし、CBRスタッフは、ノンフォーマル教育は周縁化とスティグマを強めることを理解しておく必要がある。そのため、可能であればそれが障害のある子どものための唯一の選択肢として提供されるべきではない。すべての子どもの権利として、主流の学校でのインクルージョンが優先されるべきである。

ノンフォーマル教育がしばしば正規教育の次に良い選択肢とされる一方で、正規教育よりも質の高い教育が提供されうることを特筆すべきである。ノンフォーマル教育は、すべての子どもにとって正規教育に先立つ補完的なものになったり、状況によっては正規教育に代わる素晴らしい選択肢になりうるのである。

BOX43 バングラデシュ

楽しく柔軟に学べる環境づくり

バングラデシュ農村向上委員会(BRAC:The Bangladesh Rural Advancement Committee)は、バングラデシュ全土で5万校以上もの幼稚園および小学校を運営し、その生徒数は150万人以上に及ぶ。学校は通常、竹や土で作られた一部屋の建物で、生徒たちの家から半径1キロメートル圏内にある。授業時間は生徒たちの都合に合わせ、早朝6時から始まり、2交代制のところもある。

2003年以降、BRACの学校は、「インクルージョンは特別な支援が必要な学習者、先住民の子供、障害のある子ども、女児や貧しい家の子どもも含めたすべての学習者のニーズに応えるアプローチである」という基本理念で運営されており、農村での暮らしとの両立が可能なスケジュール構成になっている。教師は地元で採用され、スケジュールの作成から学校建設にかかる場所の選定、労働力および資材の調達まで、コミュニティが参画する。指導方法は音楽やダンス、芸術、遊びや読み聞かせなどを使った学習者中心の参加型である。正規教育を受けたことのない子どもを対象とした学校もあれば、正規教育を中退した子どもを対象としている学校もある。

BRACの学校の課程を修了した子どもたちは、正規の学校教育へと戻っていく。障害専門の非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)や政府は、スロープや広いドア、大きな窓の設置、教師やスタッフのトレーニングの実施、補聴器や眼鏡、車いすなどの低価格の支援機器の提供、啓発ポスターや絵本を含めた学習者中心の教材や指導方法の充実によって学校をアクセシブルにし、インクルージョンへの障壁を取り除いた「障害のある人にとってやさしい環境づくり」を促進している。

目標

障害のある人が知識や技能を習得し、生活の質を向上させる。

CBRの役割

CBRの役割は、障害のある人もインクルーシブな環境の中でそれぞれの興味やニーズに応じた教育機会が得られるよう保証するため、ノンフォーマル教育プログラムと協働して取り組むことである。

望ましい成果

  • 障害のある人がノンフォーマル教育プログラムに参加し、より良い生活状態につながるための読み書きや計算、その他の技能を学ぶ。
  • ノンフォーマル教育プログラムは障害のある人も含め、彼らのニーズを考慮したプログラム内容にする。
  • 障害のある人とその家族、障害当事者団体、親の会がノンフォーマル教育プログラムに関する意思決定や実施に携わる。
  • 在宅学習が、正規の学校教育を補完するものとして、または準備のためやそれに代わるものとして利用可能である。
  • 障害のある生徒と障害のない生徒が交流し友情を築くことによって、社会的一体性が強まる。

主要概念

ノンフォーマル教育は、良い教育すべての根底にあるべき中核的な本質を明示している。ノンフォーマル教育とは以下のすべてである。

ノンフォーマル教育は学習者の生活や社会のニーズと関連があり、将来にも関連する。何を教えるかを決める際、教育者だけでなく子ども、親、地域をも巻き込む形は、ノンフォーマル教育が地域のニーズと密接な関係にあることと、地元のリソースや人材の活用を確実にするだろう。

ノンフォーマル教育は学習者の発達レベルに適切で、学習者に合わせて新しい内容や体験を取り入れていく学習者中心で生徒主導のものである。

ノンフォーマル教育は内容や手法が柔軟であり、働く大人や子ども、路上生活者、病人、犯罪者、障害のある人、戦争や災害被害者など異なるすべての学習者のニーズに対応し、伝統的あるいは現地の学習スタイルにも柔軟である。

ノンフォーマル教育は学習意欲のある参加者による参加型で、その家族やコミュニティもプログラム運営に携わるものである。

ノンフォーマル教育は子どもたちを危険から保護し、彼らの生きる権利や発達する権利を守るものである。ノンフォーマル教育が行われる場所は、健全かつ安全で、適切な栄養や衛生設備が備わっており、危険から守ってくれる場所でなければならない。

ノンフォーマル教育は生い立ちや能力に関わらずすべての子どもにインクルーシブで、その違いを尊重し、リソースとして指導や学習に役立てる。ノンフォーマル教育の多くは、遊牧民族や女子、障害のある人、学校を中退した人や働く子どもなどの周縁化された者を対象としている。障害のある子どもやその他の周縁化された者にとって、ノンフォーマル教育は彼らのニーズに対応した非常に有益なものである。

品質:ノンフォーマル教育は個人や地域の特定のグループのニーズにより応え易いため、非常に質の高いプログラムが提供できる可能性がある。

推奨される活動

既存のノンフォーマル教育プログラムをインクルーシブに

すでに地域で幅広いノンフォーマル教育プログラムが進行している場合、それらは読み書きなどの基礎教育や健康増進(生殖に関する問題、性感染病、HIV/エイズ)、環境問題、農業、漁業、農村開発や地域開発などに重点を当てているだろう。ノンフォーマル教育は、障害のある人たちが障害のない人たちとともに学ぶことのできる素晴らしい機会を提供する。

CBRプログラムは、障害のある人たちのために並行してプログラムを設けるのではなく、既存のノンフォーマル教育プログラムをインクルーシブなものにすることを奨励することができる。ノンフォーマル教育プログラムをインクルーシブにするということは、すべてのタイプのプログラムへ障害のある人の入学を奨励することや、指導がアクセシブルな場所で行われ、指導形式もまたアクセシブルであることを保証することを含む。

政府よるプログラム

ノンフォーマル教育プログラムの多くは、社会福祉や教育、青少年関連の政府省庁の監督下にある。プログラムは通常読み書きや成人教育、職業教育に重点を置いており、CBRプログラムは既存のノンフォーマル教育の政策の実施の責任者が誰であるか、最近の重点課題、障害のある人たちが含まれているか、参加のための奨学金やローンが利用可能かについての情報を得る必要がある。このことは、CBRプログラムが既存のノンフォーマル教育プログラムの中に障害のある人を含める方策を形づくるのに役立つだろう。

BOX44 ネパール

政策措置を通しての利用

ネパールにおけるノンフォーマル教育政策(31)では次のように述べている。「ノンフォーマル教育センター(NFEC: Non-formal Education Centre)は、民族的背景や言語、ジェンダー、身体障害などによって生じる問題を抱えた人々に特別に配慮し、ノンフォーマル教育プログラムをインクルーシブにするために奮闘してきた」

政策8:インクルーシブな教育政策は、利用を促し、質、共存を保証するために採用される。

次の政策措置は、上記の政策を実施するために採用される。

  • カースト、民族、性別、言語、および障害関連の差別を排除するために特別な教育対策と教授法を採用する。
  • さまざまな障害を抱えた子どもたちや紛争の影響を受けた子どもや大人、そして児童労働者のための良質なノンフォーマル教育への機会を確実にするために、特別な措置をとる。

地域に根ざしたノンフォーマル教育の取り組み

これらには、さまざまな開発または啓発活動を行うNGO、宗教系の学校、託児所やデイケアセンター、女子教育を促進する学校や障害のある青年のための学校(早期に障害が発見されなかった、または小学校教育を受けられなかった)、正規教育を中退した者や児童労働者のための学校が含まれる。CBRプログラムは、さまざまな形式での地域に根づいたノンフォーマル教育の取り組みを把握し、子どもを含めた障害のある人のインクルージョンを促進することができる。

CBRスタッフは、ノンフォーマル教育のファシリテーターたちとともに協働し、教材がすべての生徒に対応していること(大活字、点字、録音テープ、音響設備など)、環境がアクセシブルで心地良いこと、そして生徒たちが学習する上で支援されるようノンフォーマル教育のファシリテーターと協働することができる。

実用的で適切なカリキュラムにする

正規教育のような厳密な制限がないため、ノンフォーマル教育のカリキュラムはより柔軟性があり個人のニーズに適応しやすい。CBRプログラムはノンフォーマル教育が次のことを保証するのを支援できる。

  • 基本的な読み書きや計算を優先する。
  • より実用的な技能や生活技能、個人の発達を目指す。
  • 意思決定技能を教えるのに効果的である。
  • 職業訓練や所得創出活動、仕事創出に焦点を当てる。
  • 自信やプログラムやプロジェクトに対する主体性をつけさせながら生徒に力を与える。CBRプログラムは障害のある生徒のエンパワメントの促進に障害当事者団体が関わることを保証することができる。
  • 基本的な手話や点字、そしてはっきりと話すことによって、障害のある生徒とその家族、仲間、コミュニティとの間の効果的なコミュニケーションを促進する。

BOX45 バングラデシュ

2度目の教育機会

バングラデシュのあるノンフォーマル教育プログラムは、ダッカやチッタゴン、ラジシャーヒなどの大都市部の地域で行われている。プログラムは、インフォーマル部門(しばしば危険な仕事)で働く子どもや路上で生活や労働をする子ども、そしてさまざまな障害がある子どもたちに特に重点をおいている。通常の正規教育の半分の期間に凝縮した小学校教育プログラムにすることにより、年長になってからプログラムに参加する子どもたちにとってより適したものとなっている。ほとんどの生徒にとってこれは2度目の教育機会なのである。10歳以上の男女がプログラムに参加でき、クラスは少人数制で、働いて家計を支える子どもたちも通えるよう毎日3交代制で運営される。小学校教育プログラムが終わると、子どもたちはプログラムが同時に運営している疑似職業センターでの約6か月のパートタイムの職業訓練で学ぶか、または1~2年の技術研修に申し込むか選択することができる。このノンフォーマル教育プログラムには、プログラム修了後の就職先を斡旋する職業紹介担当者もいて、障害のある生徒も障害のない生徒もサポートを受けることができる。

在宅学習へのサポート

在宅学習は、補完的、予備的あるいは正規教育に代わることができるものである。基本的な日常生活技能や基本的なコミュニケーション、基本機能などの学習を優先とした広範囲なニーズを要する生徒に適している。これらの技能は、人工的な環境よりも実際の現場で学ぶのが最適である。CBRスタッフは、在宅学習を効果的なものにするために、家族や教師、生徒と密に連絡をとり、定期的に家庭訪問を行い、家族全体の協力を得る必要がある。在宅学習は幅広い手法の1つとしては効果的であるが、孤立して運営すると、どんなに家族や教師と密に連携していても、下記の例のような障害のある子どもの排除や孤立を促進してしまう場合もある(27)

在宅の重度重複障害のある子どものインク―ジョンの例 在宅の重度重複障害のある子どもが社会から排除されている例
  • CBRプログラムが、誕生から家族と子どもを支援している。
  • ボランティアや周囲の子どもたちが、その子の家で日常生活活動の習得を手伝っている。
  • 子どもは外出し、地域の活動や宗教的、社会的な行事に参加している。
  • 教師が家族を訪問し、CBRスタッフや家族とともにその子に合った学習目標を設定している。
  • 子どもが適切な年齢で保育園に通っている。
  • 地区教育チームが、その子どもを考慮に入れた計画や供給、リソース配分を行っている。
  • 保護者が地域の保護者会や障害者グループの活発なメンバーで、子どもの将来のために計画やロビー活動などをすることができる。
  • 子どもの誕生時に家族は汚名を着せられる。
  • その子どもの世話をするために、姉が学校を中退する。
  • 隣人や子どもたちが怖がり、近づかない。
  • 家の中で寝たきりになり、徐々に依存が強くなりますます萎縮していく。
  • 家族は無意味な治療にお金を費やす。
  • 父親は恥と感じて母親を責め、家を去る。
  • 母親の負担が大きくなり、その子どもをどのように世話したら良いかわからなくなる。
  • 負担となった子どもに対する母親の育児放棄や虐待が始まる。
  • スティグマによって兄弟姉妹が結婚できなかったり、仕事を得ることができない

特殊な学習グループへの支援

生徒が手話や点字などの特殊な技術の習得のために同じような人とのグループを作って学習する必要な場合がある。CBRスタッフは、これらのグループを作り、持続を支え、障害のある生徒の学習を促すために役立つ障害当事者団体との橋渡しをすることができる。

手話利用者は、正規の学習環境の中での教育言語は難しいと感じる。多くの聴覚に障害のある人は、自分たちを障害者というよりも言語的マイノリティであると考えている。国際NGOの経験から、低所得国における聴覚に障害のある学習者のほとんどが手話を母国語である手話で教わらず、外国語(口語)で教えられていることがわかっている。手話を教えるノンフォーマル教育プログラムは、特に聴覚障害のある大人が教師として参加している場合は、聴覚障害のある人とその家族にとって重要な支援を提供することができる。CBRプログラムは次の事柄を保証する。

  • 聴覚に障害のある学習者の権利と意向が尊重される。
  • これらの特別な対策が社会的排除や家族と地域からの孤立を促すのではなく、むしろ障害のある子どもが地域生活に参加できるようにする。

BOX46 ベトナム

ズーンによって継承される技能

ズーンはベトナムのホーチミン市の外れにある村の明るい青年である。彼はろう者だが、子どもの頃から手話と英語の読み書きを学び、25歳の時にはフルタイムの仕事をもち充実した生活を送っていた。ホーチミン市聴覚障害者クラブ(Ho Chi Minh City Deaf Club)のメンバーとCBRプロジェクトのリーダーたちは、文学の世界を切り開き、またベトナム語の音声表記の代わりとして、ズーンに英語の教授を頼んだ。CBRプロジェクトと地元の慈善団体、役所の協力を得て、30人のろうの若者が週2回の夜間クラスに登録した。ズーンは、「第2言語としての英語」のカリキュラムと教材に従った。継続して受講した20人は、レッスン毎にズーンに約1ドル相当を支払った。2年間で基礎英語を習得した彼らは、母国語の手話の開発と記録に取りかかり始めた。

地域のデイセンターを適切なものにする

地域のデイセンターは、その多くが24時間の介護を必要とする障害のある子どもの親に一時的な休息を与えるために設立される。これらのセンターが障害のある子どもの親にとって多大なサポートとなる一方で、子どものための活動や学習の質は大変乏しい。CBRプログラムは、センターが子どもの年齢に合った遊びや活動中心の学習を提供し、その子どもの利益を最優先させるための手助けをすることができる。また、センターは可能な限りインクルーシブな環境づくりに努め、地元の障害のない子どもたちやその保護者とも交流をもつようにすべきである。

正規教育とのつながりを促す

多くの国において、国の教育システムがノンフォーマル教育を正規教育と同等に評価することはない。ノンフォーマル教育プログラムでは、それぞれの学習者に有利なさまざまのより柔軟なカリキュラムや指導方法を使用しがちだが、それはまた生徒の正規教育への移行を危うくすることになりかねない。正規教育とノンフォーマル教育システム間の体系的なつながりがなければ、ノンフォーマル教育は障害のある人の分離の一因になりうるだろう。

BOX47 インド

政府によるアウトリーチ計画

障害のある子どものための在宅教育は、通学が困難であるか、または何らかの理由で教育からはずれてしまった子どものための教育の代替の形としてインド政府からも認可されている。また、政府のプログラムは、保護者のカウンセリングを通してサポートし、子どもを学校に通わせることの重要性についても啓発している。地域のボランティアの選定は、教育省が地元のNGOの協力と調整のもと、責任をもって行っている。ボランティアはそれぞれ3名の子どもを受け持ち、学校当局から謝礼金が出る。在宅教育が始まると、子どもは近隣の学校に登録し、その学校がその子の担当になる。この方法を通して、政府は学校に通えない子どもたちにも教育を届けることができ、その子どもが通えるようになるまで、または生活に必要な技能を習得するまで面倒をみる。政府のこの取り組みが、ノンフォーマル教育と正規教育の効果的なつながりを生み、インクルージョンを促進し、新しい学習機会を提供している。

ノンフォーマル教育と正規教育は個々に存在し、どこか異なるイデオロギーをもつが、多くの面でお互いを補い合い支え合うことができる。CBRプログラムは次のことによってそのつながりを促すことができる。

  • インクルージョン戦略を策定するためのCBRプログラムに、ノンフォーマル教育と正規教育の両方のリーダーを招く。
  • 保護者と教員を対象としたインクルーシブな学校づくりのための研修を実施することによって、正規の学校教育を強化しながら、家庭と学校の強いつながりを維持する。
  • ノンフォーマル教育から正規教育への移行を手助けする。
  • 障害のある生徒が正規教育の中でもやっていけるように、補足的なノンフォーマル教育プログラムを策定する。
  • 高等教育や安定した生計、ノンフォーマル部門によって提供される課程への移行を促す。
  • 建物や施設の共有を奨励する。例えば、ノンフォーマル教育プログラムが、使用していない時間帯の学校を使うことができる。
  • ノンフォーマル教育と正規教育プログラムの関係者が、そのサービスと経験を共有できるように促す。

BOX48 ホンジュラス

放課後の個別指導が刺激となる

ホンジュラスのエルポルベニールのCBRスタッフが、障害のあるなしに関わらず、1年生を落第しそうな子どもたち向けに放課後の個別指導を実施した結果、子どもたちは年度末に試験に合格することができた。地区の報告によると、その学校の留年率は75パーセント低下したという。この留年率の減少は、地区にとってCBRプログラムと連携し、小学校で障害のある子どもを受け入れることへの励みとなった。