音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

CBRガイドライン・エンパワメントコンポーネント

政治への参加

はじめに

狭義の「政治」という言葉は、政府、政治家、または政党の活動を指す。他方、広義の「政治」という言葉には、人間関係(男と女、親と子、障害のある人とない人)、そして対人関係のあらゆるレベルにおける力の作用という意味合いも含まれている。

政治参加には、幅広い活動が含まれる。私たちはさまざまな活動を通じ、社会のあり方に対する意見を育み、表現し、生活を左右する決定に参画し、社会を形づくろうとする。その活動は、個人や家族というレベルで、障害やその他の社会問題についての考えを深める、障害当事者団体やその他のグループまたは組織に入る、地元、地域、国レベルで運動を起こすことから、投票や、政党への参加、立候補などの正式な政治プロセスまで多岐にわたる。

一般の人々は政治に参加することができ、障害のある人を含むすべての個人がその権利を有している。障害者権利条約第29条「政治的及び公的活動への参加」も、「締約国は、障害者に対して政治的権利を保障し、及び他の者との平等を基礎としてこの権利を享受する機会を保障するものと」すると定めている(5)

障害のある人が、政治に参加しようとしても多くの障壁に直面し、多くの人は政治に関わらない選択をしている。なぜなら、障害のある人に関わる問題はしばしば切り捨てられ、自分たちが変革や政策決定に与えられる影響力は限られていると感じているためである。障害のある人の政治参加を促進することは、エンパワメントの過程の重要な一部である。より多くの障害のある人が参加しない限り、障害のある人の声に耳が傾けられるようにはならないし、平等への権利や、健康、教育、生計、社会といった分野へのアクセスの権利も制限され続けることになるだろう。

BOX11 ウガンダ

グルでの経験

ウガンダ全国障害者連合(NUDIPU:National Union of Disabled Persons of Uganda)は、障害のある人の機会均等と、政府・市民社会・一般市民との緊密な連携を通して障害のある人が障害関連プログラムの政策、企画と実施に関与し、参加することを提唱する目的で1987年に設立された。NUDIPUによる長年の政治的ロビー活動により、現在では障害のある国会議員が5名、地方議会でも、県や副郡レベルでも障害のある議員が大勢いる。

他の多くの国と同様、ウガンダにも障害のある人に関連する法律が存在する。例えば、2003年障害評議会法(Council for Disability Act 2003)、2003年障害政策法(Policy on Disability 2003)、2006年障害者法(Persons with Disabilities Act 2006)、2007年機会均等法(Equal Opportunities Act 2007)などである。2006年障害者法は、アクセシビリティに関する規定と、それに違反した場合の罰則について定めている。

多くの国が同様の法律を有してはいるが、実施となると多くが不十分な状況であり、一般の人々は法律の存在やそれが意味するところについて知らないままである。NUDIPUは、「もし当事者が前に出てきて自らの権利を主張、要求しなければ、関連する法案はすべて紙切れのままであり、対象となる人々は永久に恩恵に浴することはないであろう」と考えている。

ウガンダのグルにあるセンテナリー地方開発銀行(Centenary Rural Development Bank Ltd)は、障害のある人にとって利用しづらい施設であった。移動障害のある人、特に車いす使用者にとって、建物の階段が入店することを困難にさせた。NUDIPUはこの問題を銀行と話し合ったが、銀行は入り口を利用しやすいように改良することを拒んだ。

2006年障害者法には、「公私を問わずすべての機関は障害のある人に対し適切なアクセスとユニバーサルデザインを取り入れたトイレを提供する責任を負う」と定められている。NUDIPUは上述の問題を裁判に持ち込み、一連の審理を経て勝訴した。銀行は、建物を障害のある人でも利用できるようにし、法廷費用を全額負担することになった。同裁判の結果として、センテナリー銀行の経営者は、全国の支店に対し障害のある人が利用可能な環境を保証するよう指示した。

グルでの経験は、障害当事者運動の好事例である。障害のある人とその家族は、権利を獲得するために政治意識をもつ必要がある。また、障害のある人の権利を擁護し、コミュニティに変化をもたらすためには、障害のある人が動員され、組織されなければならないことをも示している。

目標

障害のある人が他の者との平等を基礎として、政治的および公的活動に参加する。

CBRの役割

CBRの役割は以下のことを保証することである。

  • 障害のある人とその家族が、政治に参加するため、また参加する機会へのアクセスを得るために必要な情報、技術、知識を手にすること。
  • 障害のある人に関する問題が政治的な政策決定に組み込まれ、かつ開発政策やプログラムの中心に据えられるよう、それらの問題が目に見える形になっていること。

望ましい成果

  • CBR人材が政治制度についてより高い意識をもつ。
  • 障害のある人とその家族がより高い政治意識をもつ。
  • 政府と市民社会が障害問題について、また、障害のある人とその家族が政治の過程に参画する権利についてより高い意識をもつ。
  • 障害のある人とその家族が政治プロセスに参画することを妨げている障壁が、軽減、もしくは撤廃される。

主要概念

権力と意思決定

権力とは、きちんとした情報に基づく選択をする能力と、行動を起す自由のことである。決定は権力をもつ人々によってなされ、どの社会にも他の人々より大きな権力を握る人々が存在する。それは、年齢、性差による役割、民族性、所属政党、経済状況などが要因となる(13)。権力は、家庭から政府に至るまであらゆるレベルの社会に存在する。そして、誰が政策決定をする権力をもち、なぜ彼らがその権力を握っているかを理解することは、政治参加への最初の重要なステップである。

政治参加への障壁

人々が直面している政治参加への障壁は、CBRガイドラインの他のコンポーネントにおいて言及される障壁と似ている。要約すると以下のようになる。

  • 貧困:貧しい人々には、生きのびるための活動が最重要課題である。政治参加の前に、まず基本的ニーズが満たされる必要があるため、時間や関心が限られていることがある。
  • 教育:情報や知識がない場合、政治への有意義な参加は難しい。
  • 社会的孤立:政治参加を支援し奨励するためのネットワークが限定されている。
  • 個人的要因:参加する自信や意欲が限られている場合がある。
  • スティグマと差別:大多数の人が、偏見、恐れ、戸惑いなどを、障害のある人に対してもっているため、障害のある人の参加を支援しない場合がある。
  • 障害のある人に優しいプロセスの欠如:アクセスの障壁のために、障害のある人の参加が難しくなる場合がある。(例:投票ブースへのアクセスの欠如)
  • ロールモデルの不在:多くの国やコミュニティにおいて、政治的に注目される立場にある障害のある人はほとんどいない。
  • 法的障壁:多くの国において、障害のある人は投票を許されていない。(例:精神保健上の問題を抱える人々など)

CBRプログラムは、現実的に可能なレベルで、貧しいコミュニティに住む障害のある人の参加に取り組むこと、また、その活動については、起こりうる障壁を考慮した上で企画することが重要である。

政治的課題としての障害

障害のある人とその家族が直面している不利な状況の多くは、政府や政策立案者が障害のある人に関する主たる問題(社会的な障壁や差別など)に取り組まないために生じている。障害のある人のニーズが政策アジェンダの上位に来ることはほとんどなく、リソースが限られている場所においてはなおさらである。結果として、インクルーシブな主流のプログラムや障害に特化したサービスはめったにない。障害が政治的に取り組まれていても、実施となるとしばしばお粗末であり、結果として障害のある人にとっての障壁は依然多く残っている。

政府

政治がどのように機能しているかに関する実際的な理解(例えば、政治の仕組みとそのプロセスに関する知識、その中で権力がどのように働いているかを知っていること、彼らに影響を与える方法を理解していること)は、ネットワークを作り、変化を生みだすためのアドボカシー活動に役立つ。政治には、概して3つの部門がある。立法府(国会・議会)、行政府(政府や官公庁)、司法府(裁判所)である。国はいくつかの行政区分に分かれており、そこには異なるレベルの政治機構がある。(例:地区、地域、国)。それぞれのレベルにおいて、これらの部門が民主的に選出された法律を通過させる立法機関を有している。立法府は地域の人々によって選出され、もっとも身近なレベルにおいては村議会があり、区や地方議会、国レベルの議会と続く。

政治的割当

政治的な影響力を確保することを目的として、多くの国が、地区、地方、国家レベルで、周縁化されたグループ(女性、少数民族、障害のある人など)のために一定割合の議席や公的雇用を確保している。これらは、「割当」、「差別是正措置」、「積極的差別」などと呼ばれる。

推奨される活動

CBR関係当事者の政治制度に対する意識を確実に向上させる

CBRプログラムの実施には、パートナーシップを構築し、変革につながるよう、政府がどのように機能するかを、実際的な観点から理解する必要がある。CBRプログラムの実施にあたり、以下の活動によってそれらの意識を高めることが可能である。

  • 障害と開発の分野に関する主要な法律や政策を特定する。
  • 政府の役割や各省庁の所掌(どの省庁が何について責任を負い、誰が決定権を有しているのか)を調べる。
  • 地方レベルでの政治構造(政府の決定が地域レベルまでどのようにして及んでいくのか、政策決定につながる権力が地方に存在するか)などについて明らかにする。
  • 自分の支持政党に関係なく、野党議員も含め、定期的に政治家と意見交換の場をもつ。CBRプログラムは「無党派」的(中立的)立場を保って実施されること、つまり、特定の政党や勢力を支持せず、また「支持していると思われない」ようにすることが必要である。

政治意識の向上を促進する

障害のある人を含む多くの人々、特に貧しい人々は低い政治意識をもっている可能性がある。投票の仕方、障害のある人がもつ権利や、「障害者権利条約」などの国際条約に関連する国内法の存在についての知識が無いこともある。政治参加を促進するため、CBRプログラムは以下のことができる。

  • 障害のある成人に対し、識字プログラムへの参加を奨励する(教育コンポーネント参照)。
  • 障害のある人が、権利擁護や障害のある人の権利に関する研修にアクセスできるようにする。
  • 障害のある個人と、政治参加(弁論、問題解決、キャンペーンなど)のために有益なスキルを学べる自助グループや障害当事者団体とを結びつける。
  • 子どもや青少年が意見を発表し、考え、政策決定し、自らの行動の結果を知る機会がもてる様な活動に参加できるようにする。

政治制度における障害に関する意識を高める

障害のある人に対する差別と排除は、しばしば政府レベルにおける無知と知識の欠如によるものが多い。そのため、障害のある人が政治に参加できるようにするための戦略の別の部分では、政治制度の内部から障害への意識を高めなければならない。推奨される活動には以下のものがある。

  • 地域の政治家や官僚に対し、障害に関する法律が存在することを教える。
  • 地方自治体で、障害に関する意識向上研修を実施する。障害のある人がこの研修においてリーダーシップを発揮することが重要である。
  • 政治的リーダーや政治家をCBRプログラムや障害のある人が実施する活動に巻き込む。(例えば新たなCBRプログラムの発足式や国際障害者デーのイベントに招待するなど。)彼らは有権者の福祉に貢献しているように見られたいため、CBRプログラムはこの点を利用すると良い。

政治過程へのアクセスを促進する

CBRを実践する者は政治参加に関わる無数の障壁を理解しなければならない。また、自助グループ、障害当事者団体、その他の団体と連携し、これらの障壁が緩和もしくは撤廃されるよう努めることができる。推奨される活動には以下のものがある。

  • 選挙が予定されている場合、地元の当局者に対し障害のある人にとって利用しやすい投票所や手続き方法を用意するための助言を与える。これには、さまざまな機能障害を有する人たちにとって物理的に利用しやすい建物であり、投票に使用する用紙や用具などをわかりやすく、かつ使いやすくするよう助言することなどを含む。
  • 国家選挙委員会や権利擁護団体が、障害のある有権者に対し、彼らにも投票権があることや、彼らが投票に参加するためのサポート体制について情報を与えるよう、働きかける。
  • 政治指導者や政党が障害のある人にも利用可能な広報材料を開発し、かつそれらの中に障害のある有権者を描き込むよう勧める。
  • 障害のある人、特に移動に困難を有する人たちが投票所まで来られるよう、交通手段のオプションについて検討する。
  • 周縁化されたグループのために割当てられた議席や公職枠を明らかにし、これらの立場を活用するよう障害のある人を促すこと。

BOX12 ガーナ

視覚障害のある人の投票を可能に

国際選挙システム財団(IFES:International Foundation of Electoral Systems)は、フィンランド外務省から、ガーナで視覚障害のある有権者が他人に知られることなく1 人で投票できる投票用紙を開発、試行するための助成金を授与された。ほとんどの低所得国と同様、ガーナの視覚障害のある有権者は投票するにあたり他の人に助けてもらわなくてはならない状況にある。試験的に使用された投票用紙は、ガーナの視覚障害のある成人の識字率が1パーセント未満であることを考慮し、点字ではなく触覚に頼るものであった。この投票用紙は2002年の選挙で試験的に導入され、ガーナ選挙管理委員会、ガーナ障害者団体連盟(Ghana Federation of the Disability Associations)、ガーナ障害開発行動グループ(Action on Disability and Development of Ghana)とともに開発された(14)