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第6章:地域社会におけるインクルージョンの枠組みを促進するための今後の方向性

料理しているところ

第19条は、地域社会における自立生活とインクルージョンの権利の達成における障壁と機会を理解するための枠組みを提供する。知的障害のある人々とその家族からは、この人権の実現に影響を与える問題について意見を聞くことができた。報告書のこの項では、第19条の実現を可能にするための今後の方向性を示す。

選択の機会

女性の写真地域社会における生活とインクルージョンでは、選択の機会とは、地域社会における生活とインクルージョンに関する個人のビジョンを満たす住宅の選択肢と支援の選択肢があること、そしてそれらの選択肢に関する意思決定において支援を受けられることを言う。経済力や居住地など、住宅の選択肢を制限し、決定づける現実を誰もが抱えていることを認めれば、選択肢は無制限にはなりえないことがわかる。すべての人の選択の機会は、社会経済的、文化的及び地政学的現実によって形作られる。しかし、真の選択の機会は、自ら声を上げ、自分自身の生活をコントロールする時、そして利用可能な選択肢が、地域社会の他の人々が利用可能な選択肢と同じである時にのみ、可能なのである。つまり、知的障害のある成人に、知的障害のない成人と同じ、地域社会における生活とインクルージョンのための選択肢と選択の機会を確保するということである。知的障害のある人々にとっては、これは一人で生活することや友人と生活することを意味する場合もあれば、家族と生活することを意味する場合もある。重要なのは、選択とは個人の好みを反映するものであり、選択肢及び/あるいは支援の欠如によって制限されるものではないということだ。

家族と本人は、可能な選択肢のビジョンを開発するための支援及び/または現在利用可能な選択肢を超える選択肢を考案するための支援を必要とする場合がある。政府は、住宅の選択肢と支援を、知的障害のある人々が地域社会における生活とインクルージョンについて抱いているビジョンに対応させ、これを反映した方法で利用できるようにし、提供することを確保するために投資しなければならない。

男性の写真どこで誰と生活するかに関して、真の選択の機会を可能にするために必要なのは:

  • 人生と自分の希望に関して決定を下すためのエンパワメントと支援を得ること
  • どこでどのように生活したいか、そして何をしたいかに関する積極的なビジョン
  • 他の人々に意見を聞いてもらい、認めてもらい、尊重してもらうこと
  • ビジョンを補う多様な選択肢
  • 意思決定を実現するための支援
  • 地域社会におけるインクルージョンのための革新的かつ創造的な機会

表4:意思決定の権利 課題と今後の方向性

課題今後の方向性
成年後見と代理的意思決定 支援ネットワーク、本人活動運動及び支援付き意思決定のメカニズムへの投資
後見制度を廃止する法改正
代理人による意思決定の文化 知的障害のある人々の立場を強化し、自分達の生活や地域社会において意見を聞き入れてもらえるようにするための、本人活動ネットワーク及び家庭を基盤とする組織の開発
支援付き意思決定のモデルとインフラストラクチャーの欠如 支援付き意思決定におけるグッドプラクティス開発のためのパイロットイニシアティブ、モデルとなる法律及び個別支援への投資
契約を結ぶ権利の否定 雇用法、家族法及びその他の関連法における制限を撤廃するための、国レベルでの法律及び政策の見直し
契約における支援付き意思決定を認めさせるためのメカニズムの設立

表5:どこで誰と 課題と今後の方向性

課題今後の方向性
家族が唯一の支援者 公式(国が出資)及び非公式(友人、隣人及び地域社会が提供)の、日々の生活に関する個別化された柔軟な支援への投資
公営住宅という選択肢は、隔離型「施設」 グループホーム及び「施設型」住居から、自宅での家族との生活に対する支援を含む、より個別化された住居形態への、投資の焦点の移行
不動産に付随している日常生活支援 住宅の支給から他の支援を切り離す
選択肢に関する限られたビジョン 地域社会、国内及び世界全体での経験と事例の共有を可能にするための、家庭を基盤とする組織及び本人活動グループの結成と支援
安全と暴力 障害のある人々に、自分達の権利について教育する
障害のある人々による司法へのアクセスの確保(障害者の権利条約第13条)

支援

知的障害のある人々とその家族のためのサービスと支援は、国の文化、歴史及び伝統によって異なる。物事を実行する「モデル」や方法は一つに限られないが、半世紀にわたる研究と実践からは、施設でのケアはうまくいかない、またうまくいくはずのないモデルであることが判明している。障害者の権利条約、特に第19条は、知的障害のある人々とその家族が、サービスと地域社会に対して、社会の他の人々と同じアクセスを持つことを求めている。第19条は、すべてのサービスと支援を一つの種類にしたり、すべて同じようにしたりすることは求めていない。先進国では、第二次脱施設化などの課題が残されている(下記表10参照)。また、もう一つの課題として、個人の希望やニーズが何であるかを決めることと、これらに対するサービスや支援の提供とを切り離すことがあげられる。サービスや支援の受給資格と計画が、それらを提供している団体によって定められている地域があまりに多すぎる。これは明らかに利益相反である。また、知的障害のある人々が「行儀よく」しなければ、生活の場を失う危険がある地域もある。これは完全に担当者が決定権を握っており、利用者の要求に応じていない。さらに他の地域では、知的障害のある人々は、依然として大規模なワークショップやデイプログラムに隔離されており、これらは企業とのサービス契約からの収入や、政府から本人に支給される給付金に依存している。したがって、本人が生活に関してほかのことをしたいと考えても、それを実行するための選択の機会や、管理の自由は否定される。サービスと支援を、真に人中心のものとするためには、政府からの資金を、当事者の希望とニーズに沿って使用しなければならない。障害者の権利条約は、サービスと支援を提供する機関の権利ではなく、障害のある人々の権利に関する条約なのである。そこには大きな違いがある。

作業している男性施設のない国では、政策決定者、人権擁護者及び国家政府と地方政府が、施設を建設することなく、第19条の約束の実現に向けた道を決定し、実施するのを支援する取り組みがなされなければならない。知的障害のある人々が生活する大規模施設の創設という試みは素晴らしく、表面上は、人々を支援する敏速な解決策に見える。しかし、無数の調査研究や新たに明らかになった事実、政策決定者及び専門家の経験と、過去に施設に収容されていた人々との会話から、費やされる資金量に関わらず、施設のその存在そのものが、知的障害のある人々を地域社会と家族から切り離し、隔離することがわかった。さらに、一度施設が建設あるいは改築されれば、一つの選択肢として地域の能力を構築し、人々を施設から出所させ、選択肢としての施設を廃止するまでには、数年どころか、数十年はかかるのである。

大規模な居住型施設がある国では、第19条は、すべてのニーズを満たす地域の能力を開発しなければならないということと、現在施設に入所している人々は、地域に根ざした場へ移行するために支援を受けなければならないということ、そしてそのような場は、社会の他の人々がアクセスできる場と一致していなければならないということを意味している。施設が存在する限り、それは、地域に根ざした支援において一層活用できるはずの重要なリソースを消費し、第19条の意図を侵害するものとなる。

施設が閉鎖された国や、知的障害のある人々のためのサービスと支援のシステムを開発している国の課題は、代替策の開発である。この開発は「第二次脱施設化」と呼ばれている。過去数十年にわたり開発されてきたサービスと支援の多くは、施設内で行われていたことの規模を小さくしたイメージがある。家庭に基盤のある組織は、サービス及び支援システムを、知的障害のある人々とその家族のニーズに合うよう改善していく推進力となり得る。

表6:高所得国の人々に対する支援 課題と今後の方向性

課題今後の方向性
待機者リスト 必要なサービスと支援へのタイムリーなアクセス
所得によって決まる障害関連の支援の利用資格 客観的に評価されたニーズによって決まる適格性
インクルーシブなサービスへのアクセス 「デフォルト」の選択肢としてのインクルージョンと隔離型の選択肢の段階的廃止
政府による経費削減と緊縮政策 障害のある人々に対する支援の保証
施設 地域社会における一般住宅の支給と家族に対する支援

表7:低所得国の人々に対する支援 課題と今後の方向性

課題今後の方向性
貧困 ビジネスチャンスと所得支援
国家貧困削減計画における障害のある人々のインクルージョン
国連ミレニアム開発目標と今後の貧困削減戦略に関する企画と投資における障害のある人々のインクルージョン
国際開発援助の企画と資金調達における障害のある人々とその家族のインクルージョン
不可視性 地域社会に参加し、存在感を示す
政府と国際NGOによる意識向上戦略
障害の医学モデル 障害者運動、家族団体及び本人活動グループによる、障害問題への人権に根ざしたアプローチを促進するためのキャパシティ強化
隔離型プログラムへの投資 地域に根ざしたリハビリテーションやシェルタードワークショップなどのNGOによる戦略とプログラムを、地域社会の能力を開発するための支援と、参加を可能にするための支援を提供するプログラムへと転換
施設と施設収容の危険性 国際機関及びドナー政府による、施設への新たな資本投資を行わない政策の採択
施設に対するニーズを排除するための、個人、家族及び地域社会に対する支援

表8:家族に対する支援 課題と今後の方向性

課題今後の方向性
短期休暇の必要性 家族が、非公式な支援または国の出資による支援のいずれかを通じて、短期休暇を取れるようにするための支援と選択肢を、手頃な価格で利用できるようにする
貧困 障害関連の追加費用を相殺する政策の開発
親が日中自由に働けるようにするための、学校と職場におけるインクルージョンプログラムの促進
全般的な貧困削減の取り組みの一環として、小規模企業及びベンチャー企業などのビジネスチャンス
社会的疎外とナチュラルサポートの欠如 家庭を基盤とする組織、本人活動グループ及び地域社会による計画プロセスのキャパシティ強化
情報へのアクセスの欠如 学校、地域センター、診療所、親のための支援センター、宗教施設などで、利用者が使いやすい複数のフォーマットで情報を提供

インクルージョン

国連は、どの事業体も単独では障害のある人々の平等という目標を達成できないとし、CRPDは「谷間のない」政策を要求していると主張してきた。「谷間のない」政策の確保がどこよりも必要とされるのは、地域社会における生活とインクルージョンの権利の追求においてである。「障害のある人の置かれた状況に対する社会全体(家族を含む)の意識の向上、並びに障害のある人の権利及び尊厳に対する尊重の促進と、あらゆる生活領域における障害のある人に対する固定観念、偏見及び有害慣行との闘い、そして障害のある人の能力及び貢献に対する意識の促進」(障害者の権利条約第8条)が必要である。

社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョンという一般原則は、「障害のある人々が地域社会で生活する権利の完全な享有を容易にするため」、社会に大きな変化を引き起こさなければならないことを意味する。これは、地域社会を完全にアクセシブルにし、知的障害のある人々とその家族を受け入れる場にするということである。地域社会が完全にアクセシブルである時、障害のある人々とその家族だけでなく、誰もがその恩恵を受ける。これは、当事者と家族が直接的な支援を必要としていることもあるが、それに加えて、アクセシブルな住宅の幅広い選択肢が利用可能であることと、以下が保証されることを意味する。

  • 作業している男性法律の前における平等な承認(第12条)
  • 司法へのアクセス(第13条)
  • 身体の自由及び安全(第14条)
  • 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由(第15条)
  • 搾取、暴力及び虐待からの自由(第16条)
  • 個人のインテグリティの保護(第17条)
  • 移動の自由及び国籍(第18条)
  • 個人の移動性(第20条)
  • 表現及び意見の自由並びに情報へのアクセス(第21条)
  • プライバシーの尊重(第22条)
  • 家庭及び家族の尊重(第23条)
  • 教育(第24条)
  • 健康(第25条)
  • ハビリテーション及びリハビリテーション(第26条)
  • 労働及び雇用(第27条)
  • 適切な生活水準及び社会保護(第28条)
  • 政治的及び公的活動への参加(第29条)
  • 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加(第30条)

表9:インクルージョンを妨げる障壁 課題と今後の方向性

課題今後の方向性
社会の態度 国民の意識向上、インクルーシブな政策及び実践などのさまざまな方法を利用した、態度を変容する取り組み(教育、娯楽及び文化的プログラム、政治的措置及び労働市場などにおけるインクルージョン)
インクルーシブな教育の欠如 家庭を基盤とする組織、本人活動グループ及び地域社会による計画プロセスのキャパシティ強化
雇用 小企業の開発、支援付き雇用、地域機関及び民間企業との連携を通じた、一般労働市場における一般賃金による雇用