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インクルーシブな地域社会=力強い地域社会

第19条:地域社会における生活とインクルージョンの権利に関する世界報告書

2012年10月

インクルージョン・インターナショナル(国際育成会連盟)

訳:石川ミカ

監訳:長瀬修

ライブラリー・アンド・アーカイブズ・カナダ(LAC)

インクルーシブな地域社会=より力強い地域社会:第19条:地域社会における生活とインクルージョンの権利に関する世界報告書
ISBN 978-0-9917430-0-1

スペイン語版
ISBN 978-0-9917430-0-8

©2012 インクルージョン・インターナショナル 無断複写・複製・転載を禁ず。

各ページの写真は、ウルリッヒ・エイグナー(Ulrich Eigner)氏のご厚意により掲載を許可していただいたものである。
www.ulricheigner.com

プロジェクト・ディレクター:コニー・ローリン‐ボウイ(Connie Laurin-Bowie) 翻訳:お客様の戦略的言語パートナー ALFANEX社 マティアス・バッティストン(Matías Battistón)、アンドレア・クインタナ(Andrea Quintana)及びマルタ・トレヨ(Marta Trejo)

原文に関する問い合わせまたは冊子(英語版、スペイン語版)請求先:
Inclusion International
KD.2. 03
University of East London
Docklands Campus
4-6 University Way
London E16 2RD
電話番号:44 208 223 7709
FAX番号:44 208 223 6081
E-mail: info@inclusion-international.org
ウェブサイト:http://inclusion-international.org/

目次

図表一覧

略語一覧

謝辞

報告書発行によせて

序論

第一部:世界の状況

第1章:世界調査について

第2章:知的障害のある人々と家族及び地域社会;それぞれの役割と関係の理解

第3章:地域展望

第二部:インクルージョンのビジョン

第4章:知的障害のある人々と家族が決める、地域社会における自立した生活とインクルージョンの意味

第三部:我々はインクルージョンへの道のりをどこまで進んできたのか?

第5章:障害者権利条約第19条:選択の機会、支援、インクルージョン

第6章:地域社会におけるインクルージョンの枠組みを促進するための今後の方向性

第7章:施設収容:疎外という悪循環の終焉

第四部:インクルージョンを達成するために

第8章:変革とインクルージョン促進における家族団体の役割

結論

付録

付録1:世界調査参加国及び参加者一覧(省略)

巻末注

参考文献

書誌(省略)

図表一覧

表1 情報源

表2 それは自立生活ではない

表3 施設の婉曲表現

表4 意思決定の権利 課題と今後の方向性

表5 どこで誰と 課題と今後の方向性

表6 高所得国の人々に対する支援 課題と今後の方向性

表7 低所得国の人々に対する支援 課題と今後の方向性

表8 家族に対する支援 課題と今後の方向性

表9 インクルージョンを妨げる障壁 課題と今後の方向性

表10 第二次脱施設化

表11 すべての人のためのより力強い地域社会

表12 地域社会での生活とインクルージョンの権利に関するインクルージョン・インターナショナルの研究結果の利用 インクルージョンへのステップ

図1 第19条概略図

図2 知的障害のある人々はどこで暮らしているのか 国別調査の結果

図3 知的障害のある人々のための地域に根ざしたプログラムとサービス 国別調査の結果

図4 家族に対する支援の形 国別調査の結果

図5 障害のある成人の雇用 国別調査の結果

図6 障害のある人々の雇用を促進する政策や法律 国別調査の結果

図7 障害のある子供の教育 幼児教育 国別調査の結果

図8 障害のある子供の教育 初等・中等教育 国別調査の結果

図9 インクルーシブな教育 国別調査の結果

図10 障害のある成人のための教育プログラム 国別調査の結果

図11 障害のある人々のための医療サービスの特徴 国別調査の結果

略語一覧

ADHD 注意欠陥多動性障害

AKIM イスラエル全国知的障害者・児ハビリテーション協会(National Association for the Habilitation of children and adults with intellectual disabilities Israel)

API インクルージョン促進協会(Association for Promoting Inclusion)

ASNIC ニカラグア国コミュニティー統合のための会(Asociación Nicaragüense)

ASDOWN コロンビアダウン症協会(Asociación Sindrome de Down de Colombia)

CACL カナダ地域生活協会(Canadian Association for Community Living)

CBR 地域に根ざしたリハビリテーション

CIS 独立国家共同体

CRPD 国連障害者の権利条約

DECLOC 脱施設化と地域社会における生活-成果と代償(The Deinstitutionalization and Community Living - Outcomes and Costs)

DPOs 障害者組織

EEC 特殊教育学級

IDA 国際障害同盟(International Disability Alliance)

II インクルージョン・インターナショナル(国際育成会連盟)(Inclusion International)

INGOs 国際的非政府組織

MDAC 精神障害アドボカシーセンター(Mental Disability Advocacy Centre)

MDRI 精神障害権利インターナショナル(Mental Disability Rights International)

MENA 中東・北アフリカ

MENCAP 英国におけるインクルージョン・インターナショナルの会員組織

MHI メンタルヘルス・イニシアティブ(Mental Health Initiative)

NGO 非政府組織

OSF オープンソサエティ財団(Open Society Foundation)

PWID 知的障害のある人々

RTE 教育を受ける権利

UK 英国

UN 国際連合

UNICEF 国際連合児童基金

UNESCO 国際連合教育科学文化機関

UNRWA 国際連合パレスチナ難民救済事業機関

USA アメリカ合衆国

WHO 世界保健機関

ZAPDD ザンジバル発達障害者協会(Zanzibar Association for People with Developmental Disabilities)

国連障害者権利条約 第19条‐自立した生活及び地域社会へのインクルージョン

この条約の締約国は、障害のあるすべての人に対し、他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を認める。締約国は、障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適切な措置をとるものとし、特に次のことを確保する。

(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと。

(b) 障害のある人が、地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)にアクセスすること。

(c) 一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害のある人にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人の必要に応ずること。

同条約についてさらに詳しく知るには、http://www.un.org/disabilities/へ。

謝辞

女性の写真この報告書は、大勢のボランティアと職員、知的障害のある人々とその家族、各国の会員機関及び連携機関による2年間の取り組みの集大成である。幸運なことに、インクルージョン・インターナショナルには、知的障害のある人々の生活を変えるために自らの時間を惜しみなく捧げて下さる、才能ある献身的な人々の世界的ネットワークがある。

まず、インクルージョン・インターナショナルの地域コーディネーターで、体験談とデータの収集及びフォーカスグループの調整に関する支援のみならず、地域の問題と課題の貴重な分析もして下さった、シクク・オボシ(Shikuku Obosi)、パレサ・ムフォーレ(Palesa Mphohle)、長瀬修、ファディア・ファラー(Fadia Farah)、リマ・アルサラー(Rima Al-Salah)、カミール・ラティミエール(Camille Latimier)、ジュリア・ホーキンズ(Julia Hawkins)、デヴィッド・コーナー(David Corner)及びイネス・E・ド・エスカロン(In?s E. de Escall?n)の各氏に感謝申し上げる。

ラクエル・ゴンサレス(Raquel Gonzalez)及びマニュエラ・ハッセルクニップ(Manuela Hasselknippe)の両氏は、書面や映像及び画像で寄せられた何百もの投稿を共有するためにウェブページを開発するという大任を果たして下さった。また、パット・ステイプルズ(Pat Staples)氏には、報告書に掲載する投稿写真をまとめていただいた。アシュウィニ・ナマシヴァヤン(Ashwini Namasivayam)氏は、分析における実質的な基礎資料となった文献の見直しをして下さった。各氏の献身とひたむきな努力に感謝申し上げる。

編集に関する専門知識を、ボランティアとして提供して下さったジェリ・ロックスタイン(Geri Rockstein)氏のご厚意に、心からお礼を申し上げる。スペイン系の会員が報告書を利用できるように、極めて厳しいスケジュールの中、作業に取り組んで下さった翻訳者のマティアス・バッティストン(Mat?as Battist?n)、アンドレア・クインタナ(Andrea Quintana)及びマルタ・トレヨ(Marta Trejo)の各氏と、やはり不可能なスケジュールの下で、専門的な質の高い出版物を製作するという奇跡を成し遂げて下さったトム・スキャンラン(Tom Scanlan)及びゲイル・ベグリン(Gail Beglin)の両氏にも感謝申し上げる。

調査の調整をして下さったイネス・E・ド・エスカロン氏には、情報収集と分析への不断の努力に感謝申し上げる。同氏の洞察と視点とは、報告書全体に反映されている。

脱施設化に関する経験と教訓、そして自国で新たに発生した課題を共有して下さった、マーティ・フォード(Marty Ford)、トリッシュ・グラント(Trish Grant)、ドナルド・トンプソン(Donald Thompson)、ドン・ギャラント(Don Gallant)、サイモン・パーキンソン(Simon Parkinson)、ヘドヴィグ・エクバーグ(Hedvig Ekberg)及びクリスティン・ヴィエルリ(Kristine Vierli)の各氏に感謝申し上げる。この方々の地域社会における実体験は、重要な課題と今後の方向性を明らかにする上で極めて貴重であった。

インクルージョン・インターナショナルとともに、グローバルキャンペーンや、コロンビア、イスラエル及びケニアにおける試験的イニシアティブ及び地域イベントなどの支援に取り組むことに長期研究休暇を捧げ、キャンペーン期間中、助言と支援を提供して下さったスティーヴン・エイデルマン(Steven Eidelman)氏には、特に深く感謝している。

おもな執筆者であるスティーヴン・エイデルマン、ドン・ギャラント、アンナ・マクアリー(Anna MacQuarrie)、ダイアン・リッチラー(Diane Richler)及びデヴィッド・トウェル(David Towell)の各氏には、原稿の執筆、書き直し、見直しと編集に多くの時間をかけて下さったことに感謝申し上げる。この報告書は、この方々の洞察と分析によって、寄せられた何百もの提案を批判的に分析し、今後の課題を具体化することで完成した。コニー・ローリン‐ボウイ氏は、終始一貫してプロジェクトの方向性を示し、最終稿をまとめ、寄せられた生の資料を基に結論を導き出して下さった。

インクルージョン・インターナショナルの連携機関及び資金提供者からの財政支援に、心から感謝申し上げる。NFUノルウェー(NFU Norway)からは、アフリカの会員機関の参加と貢献を実現するための支援を賜った。サルダリアガ・コンチャ財団(Fundaci?n Saldarriaga Concha)は、南アメリカにおける地域活動を支援し、同地域の会員へのサービス提供に力を貸して下さった。オープンソサエティ財団は、プロジェクト資金の提供を通じて、地域フォーラム、試験的イニシアティブと、この報告書の作成及び印刷に貢献して下さった。これらの協力機関なくしては、この出版物と、第19条を促進するインクルージョン・インターナショナルの活動は、実現できなかったであろう。

インクルージョン・インターナショナルのすべての会員機関と知的障害のある多くの人々及びその家族の方々には、その希望と夢と懸念とをお伝え下さった勇気と意思に感謝申し上げる。この報告書が、これらの方々の将来のビジョンと地域社会における生活の体験、そして地域社会をすべての人のためにより力強いものとしていくあらゆる努力を、正当に評価するものとなることを願っている。

最後に、この報告書にはご意見を掲載できなかった方々に対し、感謝申し上げる。知的障害のある人々は、今も施設に入れられ、あるいは自宅に隠され、人目に触れることなく、声も上げられずにいる。この報告書によって、そのような人々が声を上げる機会を得、意見が聞き入れられるようになることを願っている。

報告書発行によせて

女性の写真2年前、インクルージョン・インターナショナルは、知的障害のある人々の地域社会での生活とインクルージョンの権利を促進するキャンペーンに乗り出した。世界各地の本人と家族に手を差し伸べ、彼らの話に耳を傾け、その困難な課題について聞き取りをしたのである。知的障害のある人々にとって、地域社会へのインクルージョンとは、基本的に、家族、友人そして地域社会との関係づくりを意味する。インクルージョンの支援とインクルーシブな地域社会の構築において、家族は重要な役割を果たすが、知的障害のある人々が疎外感を感じているように、家族自身も孤立感と敗北感を感じている。

この報告書で語られている、知的障害のある人々とその家族が直面している孤立と疎外は目新しい問題ではないが、我々は、地域社会へのインクルージョンを阻む新たな難題にも直面している。現在の情勢を受けて、既に貧困生活と失業に陥りやすい傾向にある知的障害のある成人の負担がさらに高まっており、地域社会で支援を受けることなく障害のある家族を介護し、支援している家族の負担も、また、政治的・経済的危機に直面している分裂した地域社会の負担も増加している。

インクルージョン・インターナショナルの会員となっている国内家族団体の多くが、地域社会へのインクルージョンを主張するために設立されて以来、60年以上が経過した今、我々は社会的・経済的圧力と流行遅れの支援モデルによって追い詰められ、重大な転換期を迎えている。世界的な金融危機と、それに伴う金融引き締め政策により、地域社会と家族に大きな負担が強いられ、民族、所得、宗教などの違いによって地域社会がますます分裂しつつあるのを、我々は目の当たりにしている。社会インフラストラクチャーと社会資本は、地域社会を一つにまとめるもので、社会的・経済的インクルージョンに不可欠であるが、これらに対する投資の削減は、既に社会から取り残されている人々と家族に直接的な影響を与えている。

同時に、政府と地域社会が知的障害のある人々の支援に採用しているサービスと支援のモデルは、施設における保護主義的なサービス提供システムの遺物であり、人々を差別し、孤立させ続けている。

これらの新たな課題を前に、我々は選択を迫られている。より少ない労力でより多くの成果を上げることを試み、サービスの提供に対する投資を重視した取り組みを続けることも可能であるし、あるいは、障害者の権利条約、特に第19条の約束を実現するために、価値の高い支援とサービスを重視する戦略を根本的に再編し、刷新することも可能である。

本人と家族は、この報告書に貢献することにより、地域社会での生活とインクルージョンが何を意味するのか、明確なビジョンを示してくれた。それは、選択の機会、支援そしてインクルージョンである。彼らはまた、より力強い、インクルーシブな地域社会の構築に向けたロードマップも提供してくれた。この新たな道を進むに当たり、リーダーシップを発揮することが、我々の国際運動における課題である。

会長
クラウス・ラシュウィッツ(Klaus Lachwitz)

序論

序論

人は皆、所属したいと願っている。そして、家族、隣人、学校の同級生、職場の同僚、クラブやスポーツチームの一部であることと、自分を気にかけ、面倒を見てくれる友人や隣人の存在を重視する。しかし残念ながら、知的障害のある人々は、取り残されてしまうことがよくある。彼らは隠され、疎外され、あるいは地域社会の他の人々から常に引き離されているのだ。このためインクルージョン・インターナショナルは、障害のある人々の地域社会へのインクルージョンの権利が、基本的人権として認められるよう闘ってきた。地域社会は、私たちの立場を根本から支えるものである。そして、私たち全員が受け入れられる時、また、誰もが参加し、貢献し、尊重されることが可能となる時、地域社会はより力強いものとなる。

障害者権利条約(CRPD)第19条では、自立した生活と地域社会へのインクルージョンの権利を明確に述べている。そして政府と社会に対し、以下を義務づけている。

  • どのように、どこで生活するかを選択できるようにすること。
  • 障害のある人々が地域社会で生活できるよう支援すること。
  • 一般向けのサービス及びシステムが、障害のある人々にとって、他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、アクセシブルであるようにすること。

インクルージョン・インターナショナル(II)は、知的障害のある人々とその家族を代表する国際組織である。その会員は、知的障害のある人々の地域社会へのインクルージョン促進に取り組んでいる、115カ国における各国の家庭を基盤とする団体である。インクルージョン・インターナショナルは、知的障害のある人々とその家族が、地域社会の生活のあらゆる側面に平等に参加することができ、尊重される社会というビジョンを約束し、記憶するものとして、その名称を1994年に採用した。インクルージョン・インターナショナルは、会員組織とともに、知的障害のある人々とその家族の生活に影響を与える、以下の4つのおもな原則に基づき改革を進める組織として活動する。

  • 日常社会のあらゆる側面におけるインクルージョン
  • 個人の人権の責任を尊重する完全な市民権
  • 個人の生活に影響を与える決定を管理するための自己決定
  • 障害のある人を抱える家族に対する適切なサービスと支援のネットワークを通じた家族への支援

歌を歌っているところ私たちが障害者の権利条約の交渉へ参加した結果、これらの原則は条約全体に反映されている。

私たちにとって第19条は、単なる人権の明確な表現ではない。それは、権利の意味やその権利を支持する政策をどのように開発し、実施するべきか、そして進捗状況をどのように監視するべきかを理解するための枠組みを提供するものである。私たちの会員は、優れた事例と実践にもかかわらず、知的障害のある人々の地域社会における生活とインクルージョンという目標を完全に達成した国は、世界にはないと報告している。

地域社会におけるサービスとナチュラルサポートがなく、インクルーシブなシステムの構築に地域社会が失敗した場合、世界の知的障害のある人々の大部分は、生涯にわたる支援とケアを家族に依存することになる。すると、「自立生活」と地域社会へのインクルージョンという我々のビジョンにおいて、関係性が重要になってくる。つまり、本人とその家族、そして本人及びその家族と地域社会との関係が、ともに重要となる。

条約と第19条の規定にもかかわらず、現実には知的障害のある人々の大部分は、ほとんど常に、どこで誰と生活したいかを決める権利を否定されている。地域社会による支援は受容的ではなく、また配慮もないため、さらに/あるいは、これらのサービスの利用に必要な支援(アクセシブルな交通機関、個別支援、経済力など)がないため、(家族が提供する支援以外の)サービスや支援はほとんど利用できないか、あるいはまったく利用できず、地域社会への参加と貢献から疎外されている。

この報告書に寄せられた、知的障害のある人々とその家族の体験談と情報からは、多くの課題が浮上したが、本人と家族からの主要なメッセージは以下のとおりである。

  • 選択の機会‐知的障害のある人々は、どこで誰と生活するかを選択し、コントロールする権利を必要とし、また持っている。彼らは意思決定を支援してもらう権利を有し、地域社会の他の人々が持つさまざまな選択肢と同じ、幅広い選択肢から選ぶ権利を持っている。
  • 支援‐地域社会における生活とインクルージョンのために、本人は日常的に障害関連のサービスと支援を必要としている。これらのサービスの一部は、現在、国が提供しているが、多くは家族による支援である。家族は、障害のある家族の地域社会へのインクルージョン促進において役割を果たすため、政府と地域社会からの支援を必要としている。
  • インクルージョン‐教育、雇用、社会的・文化的及び政治的措置を通じて、地域社会を障害のある人々にとってインクルーシブなものへとしていかなければ、サービスへの投資だけで、地域社会における生活とインクルージョンの権利を実現することはできない。

疎外の歴史

歴史を振り返ると、障害のある人々はその障害のために疎外され、迫害され、恐れられ、差別されてきた。「古代スパルタでは、身体的な違いのある子供は、神の怒りの表れであると考えられ、多くが山腹の崖に置き去りにされて死に、あるいは山から投げ捨てられた。古代ローマでは、テベレ川で溺死させられた。」1

19世紀半ばには、工業化した国々が、知的障害や精神障害のある人々に住む場所を与え、「治療」し、「保護」するための施設や、精神病院及びその他の大規模居住型施設を建設し始めた。その後、イングランドで始まり、ヨーロッパ、北アメリカ及び世界のその他の地域へと広まった優生学運動が、障害のある人々を欠陥があると見なす社会認識に影響を与え、人類の質は障害のある人々の存在を阻止することによって高められるとする考えが促進された。その結果、障害のある人々はレッテルを貼られ、社会から隔離されることになった。

1920年代から1980年代にかけて、経済的に発展した国々では、知的障害のある人々に対する公的支援の形態として施設が優勢であった。知的障害のある人々とその家族の生活における施設にまつわる話と、それが果たした役割は、国や文化によって大きく異なっている。大部分の知的障害のある人々は、常に家族と暮らしてきたが、家族と住むことができない場合、世界の多くの国で、おもな居所として施設が利用されており、また、これまで利用されてきた。特に北アメリカ、ヨーロッパ及び旧ソビエト連邦など実に多くの国で、施設収容という対応が受け入れられ、知的障害のある子供が誕生した際の望ましい行動とされるようになった。

これらの国のいたる所で耳にした家族の話によれば、親は、知的障害のある子供を施設に入れ、その子のことは忘れ、前向きに生きていくことと、そのような一連の行動が、関係者全員に最大の利益をもたらすとの助言を、専門家から受けたという。多くの国で障害のある子供を育てる家族への支援が一般に不足していることもあいまって、施設収容率が高まり、多くの地域の施設で、忌まわしい、非人道的な状況が見られるようになった。このような忌まわしい、非人道的な状況が続いている所が、あまりに多すぎる。

集合写真知的障害に対する社会の統一見解が変化し始めた頃から、施設の役割が厳しく問われ始めた。この変化は、スカンジナビアで始まり、世界中に広まった概念であるノーマライゼーションの原則によって一部加速された。ノーマライゼーションの原則は、知的障害のある人々は、他の人々と同じ様式、同じ日常的な手順、同じ慣習に従った生活をするべきだとしている(Wolfensberger 1972)。この新たなアプローチにより、知的障害のある人々が地域社会において、家族の近くで生活できるようにする社会的対応への、親と当事者の要求が高まり、知的障害のある人々を本人のために隔離し、孤立させ、あるいは集める必要があるとする考え方への拒絶反応が増加した。

特に北アメリカとヨーロッパでは、施設の価値に対する疑問が高まり、多くのことが暴露され、調査や訴訟によって、これらの施設で日常的に発生していた驚くべき虐待と不当な扱いが明らかにされた。そしてこのことがさらに、施設閉鎖(脱施設化)の要求促進につながった。多くの国が脱施設化の取り組みに着手して以来、50年ほどの間に、調査研究の結果や証言から、大規模施設は知的障害のある人々に最大の利益をもたらすものではないということ、また、それ以外の小規模でより適切な、より個別化されたさまざまな選択肢の開発と維持が可能であること、適切な支援があれば、知的障害のある人々は家族と生活できること(一部の文化においては、本人が家族と離れることを選択するまで)、そしてすべての知的障害のある人々は、必要な支援の程度やレベルに関わらず、地域社会でうまく生活できることが、確認され続けている。

テーブルを拭いている写真大規模施設が建設されなかった国では、歴史的に見て、知的障害のある人々は、地域社会において偏見と差別に苦しみ、基本的人権を否定されてきた。世界の多くの地域において、障害の医療化の名残として、障害は、予防し、矯正し、治療されるべき健康問題と引き続き見なされている。そのため、多くの場合、実際の治療やリハビリテーションが2、3時間実施されるが、教育者や雇用者ではなく医療専門家に依存しており、家族への支援は、ほとんど、あるいはまったくない。

世界的な障害者運動で、障害への人権に基づくアプローチが採用され、支持されてきたとはいえ、この疎外と孤立の歴史は、障害のある人々とその家族の社会や地域での扱われ方や、さらにはサービス提供における政策やリソースの利用方法に、依然として強い影響を与えている。


報告書の目的

インクルージョン・インターナショナルとその会員組織は、地域社会における生活とインクルージョンの権利が、国連障害者の権利条約(CRPD)の一部とされることを確保するため、懸命に闘ってきた。この権利を世界中で実現するに当たり、我々が直面する課題は多数あり、また複雑である。

障害者の権利条約は2006年に発効し、120を超える国によって批准された。しかし、同条約、特に第19条の実施の意味を完全に理解している政府はほとんどない。障害のある人々の歴史的かつ組織的な疎外に取り組むには、地域社会と政府及び社会は(障害者の権利条約に反映されている)新たなパラダイムを受け入れる必要がある。障害のある人々が政策の受け手や対象者となるプログラムや課題分野として障害を見ることから、誰もが参加し貢献する、より力強い地域社会を築く助けとなる改革のプロセスへと移行するのである。それは、障害のある人々だけでなく、その家族と支援の輪、そして彼らが生活する地域社会にも目を向けることを意味する。そして、私たちの社会の構造を強化する方法を理解するということである。

これまで、脱施設化と地域社会での生活を成功させるために必要なサービスと支援の理解に関する重要な調査研究と活動が実施されてきた。欠けているのは、疎外と孤立を経験しながら生きてきた、疎外の原因と影響を理解している、地域社会での生活とインクルージョンのあるべき姿についてビジョンを持っている、知的障害のある人々とその家族の声である。私たちが知りたかったのは、以下のことである。

  • 地域社会におけるインクルージョンに関する知的障害のある人々とその家族の現状
  • 疎外と孤立の理由についてわかっていること
  • どのような進展が見られたか
  • インクルージョンを脅かす、新たに生まれた課題は何か
  • 世界中で第19条の実現に必要な改革を達成するために、私たちと仲間同志がすべきことは何か

報告書概要

報告書では、地域社会における生活とインクルージョンに関する、知的障害のある人々とその家族の視点が示される。地域社会におけるインクルージョンと地域社会からの疎外・孤立の経験、そして、これらの経験が知的障害のある人々とその家族の生活に与えてきた影響を共有していきたい。

報告書の第一部では、調査にかかわる世界の状況を明らかにする。知的障害のある人々の独自の視点と家族との関係を説明し、地域社会における生活とインクルージョンに対する認識について、地域による違いと共通点を探る。第1章では、調査方法について、95を超える国の参加者が、フォーカスグループやビデオ及び書面による投稿、調査、地域フォーラム及び試験的イニシアティブを通じて、どのように体験談や情報、知識を寄せてくれたかを解説する。知的障害のある人々とその家族、地域社会及び社会との関係を理解することは、人権の促進とより力強い地域社会の構築に欠かせない。第2章では、インクルージョンを進めるに当たって基礎となる、知的障害のある人々とその家族及び地域社会の相互依存について解説する。第3章では、知的障害のある人々とその家族、また、地域社会における生活とインクルージョンの権利に影響を与える、地域共通の課題と各地域独自の課題の背景を紹介する。

第二部では、知的障害のある人々とその家族が追い求め、望んでいる、地域社会におけるインクルージョンのビジョンを示す。第4章では、世界各地の知的障害のある人々とその家族の声から生まれた共通のビジョンをまとめる。

集合写真第三部では、選択の機会、支援及びインクルージョンについて分析する基礎として第19条の枠組みを利用しながら、調査結果を紹介し、そこから、地域社会における生活とインクルージョンの権利の実現に向けた今後の方向性を導き出す。そして、特に施設での経験と施設閉鎖のプロセスについて検討する。第5章では、どこで誰と生活するかを選択できることについて、また、利用しているサービスと支援、そしてそれ以上に、利用できないサービスと支援について、さらには、地域社会と地域におけるさまざまなシステム(教育、医療、雇用など)がどのように組織されているかについて、知的障害のある人々とその家族から聞き取った内容を詳しく述べる。第6章では、政府と地域社会に関する調査結果の意味を検討し、今後の活動の方向性を明らかにする。第7章では、施設が残した影響と、施設閉鎖のプロセスから得られた教訓を語る。

報告書の第四部では、今後の方向性が示される。第8章では、地域社会における改革の主体としてのファミリーと家庭を基盤とする団体の役割について考える。最後に、結論では、報告書で明らかになったことをまとめ、政府、地域社会及びファミリーが、地域社会における生活とインクルージョンの権利を促進する取り組みで取るべき戦略のリストを提示する。


原本書誌情報:
Inclusion International.(2012). Inclusive Communities = Stronger Communities: Global Report on Article 19: The Right to Live and be Included in the Community. Inclusion International: United Kingdom, Retrieved from: http://www.inclusion-international.org/wp-content/uploads/Global-Report-Living-Colour-dr2-2.pdf

「世界調査参加国及び参加者一覧」と「書誌」は、原本を参照のこと。