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今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)

第2章 今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方

特別支援教育における基本的視点

 これまでの特殊教育は、障害の種類と程度に応じて盲・聾・養護学校や特殊学級に就学させる等により、手厚くきめ細かい教育を行うことを基本的な考えとしていた。他方、最近の情勢変化に見られるとおり、通常の学級に多く在籍すると考えられるLD、ADHD、高機能自閉症により学習や生活について特別な支援を必要とする児童生徒に対する教育的対応については、従来の特殊教育は必ずしも十分に対応できていない状況にある。これらの障害のある児童生徒を含めて、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な対応を行うという考え方に基づいて対応を図ることが特別支援教育における基本的視点として重要である。

また、障害のある児童生徒にとって、自立や社会参加は重要な目標である。可能な限り自らの意思及び力で社会や地域の中で生活していくために、教育、福祉、医療等様々な側面から適切な支援を行っていくことが求められている。自立や社会参加のための基本的な力を培うため、特殊教育で行われてきた障害に起因して生じる種々の困難の改善・克服のための指導という機能は今後も引き続き不可欠なものである。しかしながら、近年の国際的な障害観の変化も踏まえれば身体機能や構造の欠陥を補うという視点でのみ捉えることは必ずしも適切ではなく、教育の機能を幅広く捉えて、生活や学習上の困難や制約を改善・克服するために適切な教育及び指導を通じて、障害のある児童生徒の主体的な取組みの支援を行うことを特別支援教育の視点として考えていく必要がある。

上記のことを踏まえれば、特別支援教育とは、これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、その対象でなかったLD、ADHD、高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的ニーズを把握して、当該児童生徒の持てる力を高め、学校における生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものと言うことができる。もとより、この特別支援教育は、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するためのものと位置づけられる。この場合に、一人一人の児童生徒の教育的ニーズが何かについて、市町村の教育委員会は、児童生徒本人の視点に立って、専門家はもちろん保護者等関係者の意見等を踏まえて正確に把握するとともに、教育的支援を行う関係者、関係機関等の役割分担を明らかにして適切な教育を行うことが重要である。その際、都道府県の教育委員会との連携や協力も重要な要素の一つになると考えられる。
児童生徒一人一人の教育的ニーズは多様であり、また不変のものでもない。小学校又は盲・聾・養護学校の小学部に入学した者もその実態等に応じて就学先を変更した方が当該者の教育的ニーズに対応した教育が可能な場合があることに留意する必要がある。また、小・中学校の特殊学級や盲・聾・養護学校等の利用可能な人的・物的資源を児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて弾力的に活用して適切な教育を行っていくという観点からも、教育の場を固定したものと考えるのではなく、児童生徒の実態等に応じて弾力的に教育の場を用意するという考え方に立って取り組むことが必要である。

平成11年7月に関係法令が改正され、地方分権の実現に向けて国と自治体との新しい関係の構築や地方行政体制の整備等が図られたが、この中で、就学事務等は機関委任事務から地方自治体が行う自治事務に変更された。今後は、児童生徒の教育についても、地域の実情を踏まえ、また、特色のある地域づくりを行うとの観点に立って自己決定・自己責任の原則の下で各種事務を行うことが求められるため、例えば就学段階においては教育委員会が中心になって、一人一人の児童生徒の教育的ニーズを踏まえた適切な対応が図られることが必要である。これまでの特殊教育においては、障害の程度に応じて、教育や指導上の条件が整った場で手厚くきめ細かな教育を行うことを重視し、障害のある児童生徒の就学指導の制度としては、やや画一的な面があった。前述の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」の提言を受け、国は、学校教育法施行令を改正し、盲・聾・養護学校へ就学すべき基準(就学基準)と就学手続の見直しを行った。これにより、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた教育的対応を適切に行うことが制度的に可能となり、今後は、地方分権の趣旨も踏まえて盲・聾・養護学校など特殊教育において整備された人的・物的資源を活用して、現行制度の一層の弾力化・効率化、教育、福祉、医療等の関係機関の連携の充実等により、一層質の高い教育を行うことが重要である。

障害のある児童生徒への質の高い教育的対応を考えるに当たっては、障害の程度、状態等に応じて教育や指導の専門性が確保されることが必要であることは言うまでもない。教科指導や自立活動の指導を通じて学校生活において中心的に児童生徒と関わる教員は、障害のある児童生徒の身近な理解者であり、日常的なコミュニケーションを通じて相互の信頼関係が醸成されることは教育において非常に重要な要素であり、その意味で、児童生徒の指導に直接関わる教員は、特別支援教育の中でも重要な役割を果たすことは言うまでもない。これまでも、このような認識の下で教員の指導の専門性の向上に向けて様々な取組が行われてきたが、今後は、児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して一層質の高い教育の実現を目指して、教員自ら指導面での専門的な知識や技能の蓄積に努力することはもちろん、児童生徒の理解者という認識の下で保護者の相談にも親身に対応していく努力が求められる。

児童生徒の指導に直接関わる教員の役割に加えて、校長、教頭等学校教育における指導的・管理的役割を果たすべき者の専門的知識に根ざした児童生徒や地域の実態等を踏まえたリーダーシップの発揮等が重要である。また、障害の多様化を踏まえ、養護教諭、学校医等の学校内の人材の効果的な活用は今後ますます重要になるものと考えられる。また、学校内に限らず、医師、教育心理学者、教員の経験者など専門家を幅広く活用して障害に応じた適切な教育を行う必要がある。例えば、盲・聾・養護学校においては、作業療法士(OT)、理学療法士(PT)、言語聴覚士(ST)等の専門家が教育・指導に参画するほか、小・中学校においても専門家チーム(障害や障害のある児童生徒への指導等について専門的な知識等を有する者の集団で都道府県の教育委員会等に置かれるもの)が巡回相談などの形で学校の教育において有効に活用されている場合がある。このように学校内外の人材の総合的な活用を図るという視点が大切である。

また、家庭において障害のある児童生徒に、教育はもちろん生活全般で幅広く関わる保護者等の役割も重要であることを踏まえれば、保護者も重要な支援者の一人である。保護者が家庭等において子どもと接し、教育や療育との関わりの中で適切な役割を担うことは重要なことであり、そのためには障害や子どもの成長や発達についての知識を深めていくことが必要となる。このため、福祉等とも連携をとりながら相談や情報提供を通じて適切な支援を行うとともに、一般講座やセミナー等の開催を通じて保護者の理解、啓発の促進を図っていくことがこれまで以上に重要なものとなると考えられる。

障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して効果的・効率的に教育を行うためには、盲・聾・養護学校と小・中学校の日常的な情報交換はもちろん児童生徒の教育・指導における密接な連携が不可欠である。また、両機関の教員が気軽に意見や情報の交換を日頃から円滑に行えるように都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会が密接に連携協力することが重要となる。さらに、障害のある児童生徒のニーズは教育、福祉、医療等様々な観点から生じ得るものである。これらのニーズに対応した施策はそれぞれ独自に展開できるものもあるが、類似していたり、密接不可分なものも少なくない。従って、教育という側面から対応を考えるに当たっても、福祉、医療等の面からの対応の重要性も踏まえて関係機関等の連携協力に十分配慮することが必要となる。また、福祉、医療等の面からの対応が行われるに当たっても、教育の立場から必要な支援・協力を行うことが重要である。
また、障害のある児童生徒の教育の重要性を理解し、また、草の根的に、独自のネットワークを活用し、献身的に取り組む「親の会」やNPO等の活動の中には、教育の充実や効果的な展開において重要な役割を果たしてきたものもある。今後、行政関係部局や学校において障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して質の高い教育をより効果的に推進するためにもこれらの会等とも連携を図るという視点が重要である。

「個別の教育支援計画」の必要性

このため、現在、各都道府県等で進めつつある、教育、福祉、医療、労働等が一体となって乳幼児期から学校卒業後まで障害のある子ども及びその保護者等に対する相談及び支援を行う体制の整備をさらに進め、一人一人の障害のある児童生徒等の一貫した「個別の教育支援計画」の策定を通じて、適切な教育的支援を効果的かつ効率的に行うため教育上の指導や支援の具体的な内容、方法等を計画、実施、評価(Plan-Do-See)して、より良いものに改善していく仕組みを取り入れていくことについて積極的に検討を進めていく必要がある。

一人一人の児童生徒の教育的ニーズに応じた教育的対応を行うという取組は、現在、盲・聾・養護学校の自立活動又は障害が重複している児童生徒について作成する個別の指導計画や卒業後の円滑な就労支援を目的とした「個別移行支援計画」の実践研究など、部分的に進められつつあるが、一貫した「個別の教育支援計画」の策定により、障害のある児童生徒の視点に立った各種の教育支援のより効果的・効率的な実施が期待できる。

障害のある児童生徒に対する教育的支援は、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面から多様な取組が求められるため、関係機関、関係部局の連携協力をこれまで以上に密接にすることにより、専門性に根ざした質の高い教育的な支援が可能となる。こうした関係機関等の連携を効果的に行う上でも、「個別の教育支援計画」は有効なものと考えられる。

また、「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、就学前(小学校又は盲・聾・養護学校の小学部就学前までの段階)、就学中(小・中学校、高等学校に就学している段階)、卒業後(高等学校、盲・聾・養護学校の高等部卒業後の段階)、それぞれの段階において、教育、福祉等の関係機関の中から中心となる機関等を定めつつ、地域、都道府県、国の各レベルで連携協力体制を構築していくことが必要である。この場合、例えば、就学中は、盲・聾・養護学校、小・中学校、高等学校等教育関係機関が中心となり、就学前は福祉、医療関係機関、卒業後は福祉、労働関係機関が中心になることが考えられる。これら策定を担当する機関と関係機関との連携協力が円滑に実施されるようコーディネータ的な役割を果たす者の存在が重要であり、また、関係機関においては協力担当者を明らかにすることが効果的である。また、盲・聾・養護学校など策定を担当する機関の中でも、策定を担当する者を明確にするほか、機関内はもちろん他機関との連携や協力を円滑に進めるためのコーディネータ的な役割を果たす者を明確にしたうえで、これらの者の円滑な業務実施を支援する体制の構築が図られることが大切である。

「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、例えば、盲・聾・養護学校においては、学級担任や児童生徒の指導を担当する教員が中心となって、また、小・中学校等においては、障害のある児童生徒の教育の知識・経験を有する特殊学級の教員等が中心となって、他の教科や学級担当の教員の協力を得つつ、児童生徒の障害等の状況の分析、教育的な支援の目標や基本的な内容等からなる「個別の教育支援計画」の作成を行うことが考えられる。また、例えば、教育、福祉、医療等の分野の専門家や有識者から構成される委員会を関係機関等の連携により設けることは計画の策定作業の円滑化のために有効な方法と考えられる。その際、保護者との話合いをもとにその意向を把握し、児童生徒の状況の分析や指導の目標について理解を得て、教育的支援の目標に向けて学校や家庭における活動の連携を図ることが大切である。

「個別の教育支援計画」については、多様な教育的支援の円滑な実施を確保する性格から複数の関係者や関係機関がその作成、実施等の過程で関与する。例えば、乳幼児期において福祉や医療関係機関が得た障害や発達に関する情報や盲・聾・養護学校が教育相談を行うに当たり、保護者から得た情報など様々なものが考えられる。これらは、適切な方法及び内容の教育的支援を行う上で必要なものであるが、個人情報であることに留意してその情報の取り扱いについては保護者の理解を得られるようにすることが不可欠である。このため、各自治体において、例えば、教育委員会が中心になって、または教育と福祉部局が共同で検討の場を設定する等により情報の取扱いの方法について具体的な検討を行っていくことが重要と考えられる。


特別支援教育コーディネータの役割

教育の立場から適切な対応が求められる学校については、学校内の協力体制だけでなく、学校外の関係機関との連携協力が不可欠である。盲・聾・養護学校には、専門性のある教員や障害に対応した施設や設備があり、ほとんどの教育・指導上の活動は学校内で工夫・実施されることが多いが、例えば、医療的ケアの必要な児童生徒への対応など、医療機関や福祉機関との連携協力が不可欠な場合や、学校外の専門家を非常勤講師に活用することにより、効果的な指導が期待できる場合があるなど、常に児童生徒のニーズに応じた教育を展開していくための柔軟な体制作りを検討することが肝要である。また、小・中学校においては、教職員の配置又は施設若しくは設備の状況から盲・聾・養護学校や医療・福祉機関との連携協力が一層重要である。学校内及び関係機関との連携を円滑に行うためには、障害のある児童生徒等の発達や障害に関する知識を持った者が連絡調整役として学校内の関係者、関係機関、保護者等と情報や意見交換を的確に行うことが求められる。このため、各学校において、例えば「特別支援教育コーディネータ」(仮称)のような、学校内及び関係機関との連携調整役としてコーディネータ的な役割を担う者を指名することにより、関係機関の連携協力の体制整備を図ることが重要である。

地域における教育、医療、福祉等の連携支援体制の構築

 さらに、各都道府県の実態に応じつつ、一定規模の地域を全体的にとらえて、盲・聾・養護学校や小・中学校、医療・福祉機関等が連携協力しながら、地域全体で障害のある児童生徒の多様な教育的ニーズに柔軟に対応していく体制を構築していくことについて積極的に検討を進めていく必要がある。この場合、都道府県において教育委員会から福祉等関係部局を含めた部局横断型の委員会を設置するなど、各地域の特別支援教育の推進体制を促進するための企画・調整・支援等を行う組織を設けることが有効と考えられる。また、地域によっては都道府県又は盲・聾・養護学校と連携を図りつつ市町村が地域の取組の中心となる場合があるが、その場合には都道府県がその取組への協力や支援を行うことが重要となる。

このような仕組みは、障害のある児童生徒が在籍する学校や地域での取組を中心としつつ、当該児童生徒の教育的ニーズに十分対応しきれない部分について関係機関が周りから当該児童生徒の支援を補完していく体制を構築していくものであり、盲・聾・養護学校は、各地域においてその専門性を十分発揮してセンター的役割を果たしていくことが期待され、都道府県教育委員会等においては、関係部局と連携しながら全体的な企画調整を積極的に進めていく必要がある。また、国は、このような各都道府県、各地域の取組を支援していくため、モデル案の提示や、先進的な取組の紹介等、調査研究や情報提供等を進めていく必要がある。