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田辺市障害者に係る新長期計画

1 計画の前提

1 計画の目的

1)背景

 国連の提唱した「国連・障著者の十年」は平成4年をもって終了しました。国においては、昭和57年3月に「障著者対策に関する長期計画」さらに昭和62年6月に「『障害者対策に関する長期計画』後期重点施策」を策定し、施策の推進を図ってきました。平成5年3月には「障著者対策に関する新長期計画一全員参加の社会づくりをめざして-」が策定され、平成5年12月に「心身障害者対策基本法」が改正されその名も「障著者基本法」として成立しました。

この法律改正において
(1)法律の目的として、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動へ の参加の促進を規定し、障害者の「完全参加と平等」を目指すことを明らかにしたこ と
(2)法律の対象となる障害を、身体障害、知的障害または精神障害としたこと
(3)基本的理念として、障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他 あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられる旨を規定したこと
(4)国民の間に広く障著者の福祉についての関心と理解を深めるために12月9日を「障 害者の日」として規定したこと
(5)政府は障害者の福祉等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、障害者 基本計画を策定しなければならないとし、地方公共団体においても、これに準じた計 画の策定に努めなければならないとしたこと
(6)雇用の促進等、公共的施設の利用及び情報の利用等の分野における国及び地方公共 団体の責務の規定を整備するとともに、事業主に対し、これらの分野における所要の 努力義務を規定したこと

などが示されました。これらの改正により各都道府県段階では「障害者基本計画」の策定が進み、市町村段階でも「障害者基本計画」の策定作業が進みつつあります。
 田辺市では、昭和56年の国際障著者年のテーマである「完全参加と平等」を実現するために、昭和59年1月に「障害者に係る田辺市長期行動計画」を作成し、平成3年5月には「障害者に係る田辺市長期行動計画の今後の推進目標」を作成し、障害者福祉の充実に努力してきました。

2)実施状況

 上記の今後の推進目標については、平成5年3月に「『障著者に係る田辺市長期行動計画の今後の推進目標』における取組み状況」として、推進目標に掲げられた各項目別に施策の実施状況を取りまとめており、全体として

  • 障害者福祉施策の充実及び新規事業の創設等
  • 障害者自身の自立、社会参加の高まり
  • 障害及び障害者施策に対する市民の理解の高まり

など、障害者福祉は着実に充実が図られています。

3)今後の課題

 障害者福祉は、社会の変化に伴い、より質の高い内容が求められるようになってきており、「完全参加と平等」の実現のため、これまでに引き続き社会の変化や障著者のニーズに対応した適切な施策の充実、創設、推進や市民意識の高揚を図る必要があります。
 さらに、人口の高齢化等に伴い、障害者の高齢化や障害の重度化が進んでおり、こうした新たな課題への対応も求められています。
 田辺市では、平成5年6月「田辺市高齢者保健福祉計画」を作成し、要援護高齢者に対する施策の充実を推進しています。要援護高齢者への施策は、言い換えれば障薯を持つ高齢者への施策を意味しており、今回の計画では「田辺市高齢者保健福祉計画」との調整を図りながら、生涯にわたる全世代を視野にいれた取組みが求められています。

4)計画の目的

 「障害者に係る田辺市長期行動計画」及び「今後の推進目標」の成果をさらに発展させ、さらに「完全参加と平等」の実現を目指して、総合的に計画的に障害者福祉施策を推進させることを目的に「田辺市障害者に係る新長期計画」を作成します。

2 計画の位置付け

①田辺市総合計画の部門計画とし、今後の障害者福祉の基本的方向を示す市行政の指針とします。
②市民や民間企業等に対して広く理解を求め、障害者自身はもとより、すべての市民の自主的、主体的な行動のための目標指針とします。
③国・県に対して計画内容の実現のために必要な制度の創設・改正や財源の確保等について要請を行います。

3 計画の目標年次

 この計画の目標年次は、平成8年度からおおむね10年間(平成17年度まで)とし、社会情勢等の変化により必要な場合には、見直しを行います。

4 計画の範囲

1)「障書者」の概念

 この計画における「障著者」の概念は、1975年12月9日の第30回国連総会で決議された「障害者の権利宣言」(障害者とは、「先天的か否かにかかわらず、身体的又は精神的能力の不全のために、通常の個人又は社会生活に必要なことを確保することが、自分自身では完全に又は部分的にできない人」を意味する。)を基本としながら、平成5年に改正された「障害者基本法」による「障著者」の定義(身体障害、知的障薯、又は精神障書があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。)により今回の計画を作成します。また、「障害者基本法」制定に際してなされた附帯決議による「てんかん及び自閉症を有する者並びに難病に起因する身体又は精神上の障害を有する者」をこの計画の視野に入れ検討を行うものとします。

2)施策の範囲

 この計画において示される施策指針は、単に障著者の生活支援(福祉)サービスに限定されるものでなく、啓発、保健、医療、住宅、生活環境、教育等幅広い分野にわたる内容となっています。

2 計画の基本的な考え方

 これまでの「障害者福祉施策」は、「完全参加と平等」を目標にライフステージの全ての段階において全人間的復権を目指す「*リハビリテーション」の理念と、障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社会を目指す「*ノーマライゼイション」の理念のもと進められてきました。今後もこの目標と理念を基本にさらに各種施策の推進をはかっていかなければなりません。
 国連では、「完全参加と平等」の定着のために「万人のための社会に向けて-啓発から行動へ」というテーマを掲げ今後の活動を展開しようとしています。こうした国連の動きや国・県の動きを踏まえながら「ノーマライゼイション」「リハビリテーション」の理念実現に向け、次の5点を基本的な考え方として計画を組み立てることとします。

1 人権の尊重と障書者の主体性、自立性の確立

 障害者は特別な存在ではなく、基本的人権を有する一人の人間として最大限尊重されなければなりません。そのためには、その持てる能力が十分に発揮されることが必要であり、社会の他の構成員が享受しているものと同等の権利を有し、また果たすべき義務を負い、責任ある個人として主体的に自身の生活を設計し、社会の発展に能動的に参加していくことが期待されています。
 このため、障害者自身が主体性、自立性を確保し、社会へ積極的に参加していくよう努力することが必要であると同時に、その能力が十分発揮できるように各種施策を推進していかなければなりません。

2 すべての人々の参加によるすべての人々のための平等な地域づくり

 障害者を取り巻く社会環境においては、物理的な障壁、制度的な障壁、文化・情報における障壁、意識上の障壁があり、障害を受入れないことが多く、障害者は社会経済活動の参加に当たって様々なハンディキャップを負っています。これまでの社会は、障害者に対する配慮を十分に行ってこなかった現実があります。例えば、障害を理由とする多くの資格制限が設けられているという制度的な問題、公的機関のサービス利用に際して点字や手話などによるサービスが少ないため視聴覚障害者が必要な情報の収集・伝達が行えないという情報面での問題、あるいは、障害者を「普通の人々」と違った、例えば庇護されるべき存在としてとらえる固定的な障害者観に代表される意識上の問題があります。こうした障壁があるため、障害者が就労の機会を制約されるなど、その持てる能力を十分発揮できない状況を変えていく必要があります。
 障害者は、決して障害のない人々と違った存在ではなく、社会の中に障害者が存在し、社会経済活動を行っていくことが正常な社会の姿であり、障害者が各種の社会経済活動へ参加することを阻んでいる現在の社会の姿こそがむしろ問題であります。このため、例えば、物理的な障壁を取り除き障害者が公共交通ターミナルや公共施設を利用できるようにしたり、障害を理由とする資格制限等の制度的な障壁を除去するなどにより、障害者がいかなる障壁もなく各種の活動に自由に参加できる平等な社会づくりを目指すことを施策堆進の基本的視点とすべきであります。
 障害者に対する施策は、分野によっては障害者が現実に有している困難を除去・軽減するため、福祉を担当する行政機関などの専門的な組織やスタッフを中心に、障害者だけを対象とする特別な福祉的措置として行われてきました。今後は、こうした福祉的措置を引き続き充実させていくことは、もちろん重要ですがさらに、障害者施策に一般的な広がりを持たせ、各種の障壁を取り除いていくためには、こうした福祉的措置だけに依存することには種々の困難があります。
 障害者の能力が十分発揮できるような社会をつくっていくためには、障害者を特別に対象とした措置を講ずるだけでなく、社会の様々な場面の措置がそもそも障害者の参加や利便を前提に考えることが重要となっています。例えば、建築物の設計・建築、工事等における作業環境の設計や勤務時間の管理などにおいて、障害者が利用し、働くことを念頭においた配慮を行うことが必要となります。商品の開発などに当たっても、障害者の購入、使用を前提とした配慮を行っていくべきであります。
 また、障害者施策については、行政が中心となって取り組んでいくべきことは、言うまでもありませんが、真の意味での「ノーマライゼイション」を実現するためには、住民、企業、団体等社会の全ての構成員が障害者を取り巻く諸問題を理解し「すべての人々の参加によるすへての人々のための平等な地域づくり」を実現していかなければなりません。

3 障害の重度化、重複化や障害者の高齢化への対応

 障害者の中には、障害が重かったり、重複している等その障害の程度によっては、日常生活上の介護を常時必要とする方もいます。特に、重度障害者の割合は増加する傾向にあります。重度障害者の方の自立や社会参加を進めるための様々な施策を推進する必要がありますが、このような常時の援護や保護を受けている重度・重複障害者の自立や社会参加には、多くの困難が想定されます。しかし、こうした状況の中でも、人間的な生活が保障できるようその生活の質の向上に努める必要があります。
 また、人口の高齢化に伴い、障害者の高齢化が進んでいます。さらに、高齢者の中でも障害を有する方が多くなっており、高齢化への対応を進めていく必要があります。

4 一人ひとりの生涯を通じた対応

これまでの障害者施策の中心的な措置は、福祉的措置として身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法さらには精神保健法等障害の種別に応じて、手帳制度に見られるように対象者を限定することにより行われてきました。一人ひとりの生涯を考えたとき、これらの施策をさらに効果的に行うとともに総合的に対応できるシステムの構築が求められています。
 障害者を取り巻く障壁をいかに一人ひとりの立場にたって除去・軽減していくのか、現実的な施策の実施に当たっては、こうした視点を持つことが重要であり、行政が中心賢となって各種施策欄整を図っていくことが必要となっています。

5 啓発から行動へ

「国連・障害者の十年」の活動や国・県さらに田辺市の行動計画による様々な活動を通じて障害者に対する社会の認識は深まってきている状況にあります。しかし、今後の障害者施策の推進を考えるに当たっては、単に問題点を明らかにし認識を深めるだけではなく、これを踏まえいかに「完全参加と平等」の目標実現に行動してくのかが重要な課題となっています。


主題(副題):田辺市障害者に係る新長期計画

発行者:田辺市

発行年月:1996(平成8)年3月

文献に関する問い合わせ先:
〒646-8545 和歌山県田辺市新屋敷町1
電話 (0739)22-5300