障害者の自立と共生社会の実現をめざして
春日市障害者福祉長期行動計画
1995年~2004年
春日市
1 総論
1 障害者を取り巻く情勢
国際連合は、国際障害者年(1981年)のテーマである「完全参加と平等」の趣旨を具現化するため、1983年からの10年間を「国連障害者の10年」と宣言し、各国において障害者行動計画を定め、障害者の福祉を推進するよう提唱しました。
さらに、「国連障害者の10年」の最終年となる1992年には、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)において、1993年からの10年間を「アジア太平洋障害者の10年」とすることの決議が採択され、障害者を取り巻く状況は国際的にも新しい局面を迎えました。
一方、わが国では、中央心身障害者対策協議会において、「『国連障害者の10年』以降の障害者対策の在り方について」が取りまとめられ、1993年、政府は、この意見書の趣旨を踏まえ「障害者対策に関する新長期計画」を策定し、以後10年間における障害者施策の基本的方向と具体的方策を示しています。
また、障害者に関する基本理念法である「心身障害者対策基本法」が改正され、題名も「障害者基本法」と改められ、1993年12月3日に公布されました。この改正により、障害者の自立と社会参加の一層の促進という新しい方向が示されました。そして、市町村には、「障害者計画を策定するよう努めなければならない。」(同法第7条の2第3項)と、努力義務を課しています。
2 春日市の状況
1 春日市の取り組み
春日市は、大野城市とともに1979年(昭和54年)に厚生大臣による「障害者福祉都市」の指定を受け、障害者福祉の充実に向けて積極的に様々な施策を展開しました。
主な事業としては、市庁舎等の公共施設に自動ドアやスロープを設置したり、主要道路に視覚障害者誘導ブロックを設置するなどの整備を行いました。
また、障害者の社会参加を促進するために、福祉バス(ふれあい号)を運行し、老人福祉センター「ナギの木苑」に障害者室を設置しました。
市単独の事業としては、身体障害者手帳申請時の診断書料の助成、福祉タクシー利用券の交付、重度障害者等の介護手当支給といったものを制度化しました。
さらに、ろうあ者相談員を窓口に配置することで、聴覚・言語障害者の相談に積極的に対応できる体制を整備しました。
しかし、障害者に対するこれらの施策だけでは、真に障害者が自立するにはまだまだ十分とはいえません。福祉環境の整備についても、点の整備が始まったに過ぎません。今後は、点から線へ、さらに線から面への整備を推進することが必要不可欠であることは言うまでもありません。
2 障害者(児)の実態
春日市における障害者(児)数の状況は、次のとおりです。(平成6年4月1日現在)
等級 障害区分 |
1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 合計 | |
視覚 | 56 | 26 | 13 | 16 | 23 | 13 | (146) 147 |
|
聴覚平衡機能 | 39 | 23 | 15 | 20 | 4 | 45 | (167) 146 |
|
音声言語機能 | - | 1 | 6 | 6 | - | - | (16) 13 |
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肢体不自由 | 128 | 207 | 124 | 157 | 135 | 51 | (538) 802 |
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内部機能(注1) | 223 | 1 | 105 | 59 | - | - | (107) 388 |
|
合計 | S59年 | 145 | 226 | 184 | 172 | 145 | 102 | 974 |
H6年 | 446 | 258 | 263 | 258 | 162 | 109 | 1,496 | |
*上段合計は、昭和59年実数 (注1)内部機能障害=心臓、じん臓、呼吸器、ぼうこう、直腸、小腸の各機能障害 |
程度 |
A(最重度・重度) | B(中度・軽度) | 合計 | |
療育手帳所持者 | S59年 | 74 | 65 | 139 |
H 6年 | 112 | 96 | 208 |
最近の傾向として、障害者の重度化(身体障害者の47%、精神薄弱者の54%)と、障害者の高齢化、あるいは、高齢者の障害者該当件数の増加が上げられます。また、心臓機能障害やじん臓機能障害などの内部機能障害者が増大しています。
精神障害者 | 通院延べ件数 | 310件 |
難病患者 | 特定疾患治療(難病の医療費)受給者 | 193人 |
3 施設措置状況
春日市における障害者の施設措置状況は、次のとおりです。
区分 | 入所 | 通所 | 合計 |
療護施設 | 16 | - | 16 |
授産施設 | 1 | - | 1 |
重度授産施設 | 10 | 1 | 11 |
失明者更生施設 | - | 1 | 1 |
進行性筋萎縮症者 | 1 | - | 1 |
社会事業授産施設 | - | 1 | 1 |
合計 | 28 | 3 | 31 |
区分 | 入所 | 通所 | 合計 |
更生施設 | 21 | - | 21 |
授産施設 | 13 | 1 | 14 |
通勤寮 | 1 | - | 1 |
合計 | 35 | 1 | 36 |
区分 | 入所 | 通所 | 合計 |
肢体不自由児施設 | 3 | 8 | 11 |
精神薄弱児施設 | 5 | 6 | 11 |
重症心身障害児施設 | 9 | - | 9 |
合計 | 17 | 14 | 31 |
春日市内には入所措置施設はありませんが、通所施設として、心身障害者通園施設「螢光園」(通所者8名)、心身障害者共同作業所「白ゆり園」(通所者18名)があり、螢光園は春日市社会福祉協議会に運営を委託し、白ゆり園は春日市身体障害者福祉協会が事業主体となり、市が運営補助を行っています。
また、螢光園の一室を利用して、春日市障害児親の会「あけぼの会」が事業主体となって、義務教育終了後の障害児を対象とした『ドリームひこうせん』を運営しています。
3 障害者計画の基本方針
1 計画の基本理念
この障害者福祉長期行動計画(以下、「障害者計画」という。)の基本理念は、「障害者の完全参加と平等」の具現化であり、障害がある人もない人も、ともに生活できる共生社会の実現です。
この理念の実現に向けて、行政は、様々な課題を克服しなければなりません。そして、この課題は行政だけの力では解決できませんので、社会福祉協議会やボランティアなどの地域福祉団体との連携によって、より大きな力を創造する必要があります。
また、障害者自身の自立に向けての努力も大切な力になります。行政、地域住民、そして障害者、この三者の力が結集され相乗効果を生みだすことによって、この理念を実現させたいと考えます。
2 障害者の範囲
障害者計画の対象となる障害者は、障害者基本法第2条に規定されている障害者とします。したがって、前回策定の計画が身体障害者や精神薄弱者を対象としていたのに対して、精神障害者や難病患者等をも対象に含めて、その範囲を広げています。
3 計画期間
障害者計画の対象期間は、1995年度(平成7年度)から2004年度(平成16年度)までの10年間とします。
なお、この期間内において、社会情勢の変化、障害者福祉ニーズの変化等、現時点で予測できない状況に対処するため、必要に応じて障害者計画の見直しを行います。
4 計画の方向性
今回策定する障害者計画は、障害者基本法に定める「市町村障害者計画」として位置づけます。そしてこの障害者計画は、前回策定した計画を総括し、未達成の課題を再検討し、さらに、10年間の経過のなかで新たに発生した課題についても対処できるよう策定することとします。
また、国の基本計画や福岡県の長期計画との整合性を考慮する必要がありますが、それのみにとどまらず、春日市が抱えている特有の課題についても積極的に計画化することで、より実効性の高い障害者計画を目指します。
4 障害者計画の基本課題
(1)啓発活動の推進
障害がある人もない人も、ともに生活できる共生社会を実現するためには、すべての市民が障害や障害者のことを十分に理解し、障害者に対する誤解や偏見を解消することが重要な課題です。
そのためには、「障害者の日」等あらゆる機会を捉え、市報、地区回覧、福祉団体等の機関紙など様々なマスメディアを活用して、市民に繰り返し啓発・広報活動を推進する必要があります。
また、保育所、幼稚園、小中学校等の保育・教育現場における福祉教育を推進し、子供のころから福祉や人権についての意識を育成することは、将来の福祉増進につながります。
生涯学習の重要性が最近特に注目されていますが、社会教育学級等様々な活動の場においても、障害者福祉について啓発活動を展開する必要があります。
(2)教育の充実
障害者の教育は、一律であってはなりません。障害者一人ひとりのニーズに応じて適切な教育を行うことが大切です。
早期療育、適正就学指導、教育施設整備など、どの課題をとっても教育分野の果たす役割は、広く深いものです。
この課題を達成するためには、障害者自身の自立に向けた努力と、その家族、地域住民、行政が一体となって障害者を支援する体制の整備が前提になります。そして、それぞれが果たすべき役割を認織し、なおかつ連携をとりながら、障害者の社会参加を可能にする教育施策を推進する必要があります。
(3)雇用の促進
障害者の自立を前提とした場合、経済的な自立が最も重要な条件になります。そして、それは、障害者が就労できる雇用の場の確保と、就業職種の拡大を積極的に促進することから始まります。
この課題については、雇用する側の理解と協力なしには達成できません。そのために、事業主等への啓発や協力要請を活発に行う必要があります。同時に、就業職種の拡大を可能にするためには、職業訓練施設の充実と訓練科目の多様化が望まれます。
就業形態については、可能な限り一般雇用を基本方針としますが、障害の種類や程度など障害者個人の特性に応じた就業形態を検討する必要があります。
また、雇用機会の確保だけにとどまらず、労働条件の改善など障害者の働きやすい環境整備にも積極的に取り組むなど、量と質の両面からの施策の展開が図られなければなりません
(4)保健・医療体制の整備
障害者施策において、障害の発生を予防し、早期に発見し、あるいは障害の軽減による障害者の自立を促進することは、積極的で効果的な施策であり大きな課題です。
近年の予防医学の進歩は著しいものがあり、障害発生原因の究明がさかんに行われ、今後は、精神障害、難病等原因究明が十分でない分野についても研究が進められようとしています。これらの情報を活用し、障害発生予防のための保健指導体制と、早期発見のための乳幼児健診等健診体制の充実を図る必要があります。
同時に、健康教育の一環として、「障害=悪、だから予防」というような短絡的で誤った風潮、意識を変革し、障害の有無に関係なく誰もが豊かな人生を送る権利をもっているという「こころの教育」を推進することが大切です。
糖尿病、心疾患、脳血管障害などの成人病や交通事故を原因とする後天性障害が増加する傾向にありますが、これらの障害発生を予防するための健康教育や健診体制の一層の充実を図る必要があります。
また、障害の軽減については、保健・医療機関でのリハビリテーションと、引き続く在宅でのリハビリテーションとの総統の必要性から、障害者とその家族、保健・医療機関、行政が連携したネットワークシステムの確立が望まれます。このネットワークを中核として、有機的なリハビリテーション医療を実施する必要があります。
(5)福祉事業の充実
近年の障害者福祉は、在宅福祉を基本とした地域福祉に重点が置かれています。障害者の自立を支援する在宅福祉事業も、情勢の変化や障害者のニーズに応じたものでなければなりません。
これまでにも、様々な市独自の事策を展開してきましたが、現行事業の見直し、新規事業の制度化等、障害者やその家族を含めた実情に応じたきめ細かな事業展開を行う必要があります。
同時に、市単独事業の中でも多数の自拍体が制度化している事業は、国・県事業として制度化を要望したり、現行制度の改正を含めた補助事業の充実の要望等、国・県に対する積極的な働きかけを行う必要があります。
施設福祉においても、従来の閉鎖的な措置形態が地域住民の誤解や備見を招く原因でもあったようです。行政は、市内外の各種施設との連携のもとに地域密着型の開かれた施設福祉を目指すとともに、これらの施設(社会資源)が、その専門技術、知識・経験などのノウハウを在宅福祉にも生かし、地域福祉の中核施設としての役割を担うことも重要となることから、より一層の連携の強化が望まれます。
(6)生活環境の整備
障害者の社会参加を阻害する最大の要因として、段差や階段など障害者の移動における配慮がなされていないという物理的要因と、一般住民を対象とした各種催し物等において、障害者の参加を前提としていないものがまだまだ多数を占めているなどの言わば心理的要因が上げられます。
バリアーフリーの概念が注目されていますが、建築物の福祉環境整備、公的住宅を含む住居の整備、交通対策の推進など、様々な障壁(バリアー)を除去(フリー)することによって社会参加を促進することが、障害者の自立のための前提条件になります。
そして、この課題を達成するためのこれらの環境整備は、障害者のための特別な配慮として行われるのではなく、通常の整備が当然障害者の利用を前提としているという意識のもとで行われなければなりません。この基本原則での整備では対応できない場合に限って、障害者に対する特別な配慮、整備を行うことが大切です。
(7)組織の育成
障害者の自立を促進するために、行政、社会福祉協議会、福祉ボランティア団体、地域が一体となった支援体制を確立するとともに、障害者自身が組織を強化し、自立に向けた努力を積み重ねることが求められています。
現在、身体障害者福祉協会をはじめ、いくつかの障害者団体や障害者支援団体が組織されていますが、組織率も低く活動も活発とはいえません。また、団体間の交流や情報交換といった連携も十分ではありません。
障害者間、団体間が交流することにより、他の障害者への理解が深まり、自己意識の変革が可能になります。また、障害者が主催する交流会に市民の参加を呼びかけ、障害や障害者に対する理解を深めるなどの、障害者による啓発活動を行う等、新しい発想による取り組みも検討する必要があります。
障害者の枠にとらわれない、枠を超えた交流が本来の社会参加でもあり、この社会の実現に向けて、行政にも、広い視野をもって支援する積極的な姿勢が要求されています。
(8)文化・スポーツ活動の推進
障害者は、障害のために趣味や楽しみを制限されることがあってはなりません。障害はひとつの個性に過ぎないという意識を障害者自身も認識し、この意識を地域社会にも浸透させる必要があります。このような地域風土を育成することで、文化・スポーツ活動への積極参加が可能になります。
もちろん、文化施設やスポーツ施設が障害者にも利用しやすいように配慮されなければなりません。そして、スポーツやレクリエーションに楽しく参加できるように、それらの指導者やスポーツボランティアを育成することも重要な課題になります。
何よりも大切なことは、障害者自身が、健康でいきいきとした生活をするために、文化・スポーツ活動に積極的に取り組む姿勢を持つこと、そして、そのためのあらゆる支援を社会全体で行う意識を育成することです。
5 障害者計画の推進体制
障害者計画を有効に実現するためには、行政、福祉団体、地域、障害者それぞれが各自の果たすべき役割を正しく認識し、なおかつ相互に連携しながら着実に計画を推進していく必要があります。
特に、行政の果たすべき役割は大きく、障害者福祉の将来に多大な影響を及ぼすという重大な責任があることを深く認識し、障害者計画の推進役を果たす必要があります。
1995年度(平成7年度)に策定予定の障害者福祉長期行動計画推進計画(仮称)の中で、具体策を検討することになりますが、障害者福祉担当所管を中心とした全庁的な取り組みとなることから、各所管が、主体性を持った計画を策定し、実施しなければなりません。
また、障害者計画の推進について、障害者福祉を含む総合的な福祉に関する協議機関等を設置し、連携をとりながら計画を実現していくなどの方策も検討する必要があります。
主題(副題):
春日市障害者福祉長期行動計画 1995年~2004年
発行者:
春日市
発行年月:
1995(平成7)年3月
文献に関する問い合わせ先:
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