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府中市障害者福祉基本計画

-障害者にやさしいまちづくり-

1995(平成7)年3月

広島県府中市

各論

第1 理解と交流の促進

《現状と課題》

 国際障害者年をはじめ、障害者施策を人権問題として位置づけた啓発・広報活動の積み重ねや市民運動の成果として、障害者に対する理解はかなり進んできたが、いまだ十分とは言えず、障害者に対する態度や「障害」そのものに対する正しい認識が求められている。
 障害者は決して特別な存在ではなく、身体に何らかの不自由な部分をもった同じ社会の構成員であって、地域社会や組織の中には必ず一定の割合で存在している同等の基本的権利を有するの市民である。人は必ず老いてゆき、ある日突然に、あるいは老いとともに自分、または家族が障害をもつ身になる可能性は大きく、市民一人ひとりが「障害」は自分自身の問題であることを深く認識しなくてはならない。
 そして障害者自らも、社会の発展に大きく寄与する能力を持っていることを自覚して主体的に日常生活を営み、積極的に社会参加をすることが必要である。
 このため、学校・職場・団体・地域あるいは市民生活のなかで、障害者や障害についての啓発活動を積極的に行うことは、ノーマライゼーション推進のうえからも極めて重要であり、行政をはじめ関係機関・団体がさらに連携を深め、市民の理解と主体的な協力を得るための活動を効果的、永続的に推進していかなくてはならない。
 また、障害を待つ人と持たない人が交流し、ふれあいをもつことは相互理解を深めるうえできわめて大切なことであり、このような交流機会を福祉団体、市民のサークルなどと協議して計画的に推進し、拡大を図っていくことが必要である。

《施策の推進方向》

(1)啓発・広報の推進

  •  多くの市民の障害者に対する理解を深めるには、各種広報紙・マスメディアによる啓発・広報は非常に効果的である。このため「広報ふちゅう」や社会福祉協議会が発行している「社協だより」をはじめ、障害者団体や社会福祉施設の機関紙等での啓発を支援し、有線放送による啓発等も計画的に実施する。
     また、テレビ・ラジオでの放送、新聞への掲載などマスコミ各社の理解と協力を得て積極的に啓発する。
  •  国民の間に広く障害者の福祉についての関心と理解を深めるため12月9日が障害者の日として法的に位置づけられたことを機会に、障害者団体を中心に市民、ボランティア、福祉団体等の協力を得ながらイベントを計画し、交流の場を作るとともに講演・シンポジウム等を実施して人権問題を提起し、啓発活動を積極的に推進する。
  •  障害の有無にかかわらず同じように情報の提供が受けられるよう、コンピューター等を活用した福祉情報システム導入の検討など、障害者ニーズに応じた情報提供に努める。

(2)障害者問題教育の推進

 多くの市民が障害に対する正しい認識を深めるためには、幼少期からの啓発が不可欠であり、家庭、地域はもとより保育所、幼稚園、小・中学校での障害者問題教育を継続的に推進するとともに、福祉教育協力校の指定、社会福祉施設での体験学習、車イスの使用やガイドヘルパー等の体験などを定例的に実施する。また、詩・作文・ポスター・写真等の公募による展示会、障害者団体、社会福祉施設の主催する行事への積極的参加等を図り、交流や相互理解の場を拡大していく。

(3)団体育成と自主的活動の支援

 障害者に対する協力や正しい理解を深めていくために大きな役割をはたしているボランティア団体や、障害者の自立をめざして活動している障害者団体、障害者の父母のグループなどの育成とその自主的活動を社会福祉施設等との連携を図りながら促進していく。

(4)交流機会の拡大

 毎年行なう健康福祉まつりや福祉バザーに加え、障害児・者施設で行われる学園祭・発表会・運動会・夏まつり、作業所での作品展示即売会などの各種イベントに地域住民が参加し、ふれあいをとおして正しい障害者観や理解を深められるよう交流の機会を広げていく。
 また、交流範囲を市内にとどめず、その輪を市外の障害者団体や市民グループなどに拡大していく。
そのためのPRや行事の経費等の助成を検討する。

第2 保健.医療の充実

《現状と課題》

 障害者が主体的に地域社会に参画し、そのもてる能力を十分発揮でき、しかも住みよい社会であるためには保健・医療の果たす役割は極めて大きく、障害の軽減、健康の保持・増進に関する施策の充実は重要な課題である。
 特に、障害者の在宅での生活を支援していくためには、保健・医療サービスが身近な地域で提供されることが必要である。
 本市では、1997(平成9)年を目標に、高齢者・障害者はもとより妊婦・幼児など多くの人が利用できる保健福祉総合センターを建設する予定であり、ここを拠点として健康診断・機能訓練・各種相談・指導をはじめ、軽スポーツ・教養娯楽・会議・福祉団体の事務所など総合的なサービスを提供するとともに、障害者問題を正しく認識した質の高いマンパワーの確保と育成に努める必要がある。
 さらに、幼児期から老年期に至るすべてのライフステージにおいて、身体の機能の促進と維持回復を図るためには、適切な時期に適切な訓令を必要とすることから、特に機能訓練面ではセンター内にリハビリテーション施設を設置し、専門スタツフの充実に努めるとともに、在宅訪問リハビリの実施も検討していく時期にきている。
 今後、関係行政機関・医療機関等と緊密な連携を保ちながら、生涯を通じての健康づくりを目標に、障害の発生予防・早期発見・リハビリテーションについて一貫した保健・医療サービスシステムの充実を図っていくことが必要である。

《施策の推進方向》

(1)発生の予防

 ・母子保健対策

 人間の一生を大きく左右する妊娠・出産の周産期(妊娠28週~出産1週)における母体と乳児の健康管理は極めて重要であり、発達のポイントをとらえた精度の高い健康診査はもとより、思春期から妊娠・出産・育児の一貫した母子健康教育と指導・管理システムの確立が必要である。
 このため、本市では保健所と連携して新婚テキストの配布、思春期講演会、マザークラス等を実施しているが、これらに加えて母子保健法の改正により、1997(平成9)年4月から母子保健事業が市町村に移管されることに伴い、市の主体性のもとで妊婦健診をはじめ、4ヵ月児・10ヵ月児・1歳6ヵ月児・3歳児の各健診を強化するなど乳幼児期の障害発生予防に努め、安心して子どもを生み、育てられるよう支援体制を確立していく。

 ・成人保健対策

 中・高年齢になると、脳血管障害や心臓疾患などの成人病の後遺症や老人性痴呆の発生が多くみられる。
 これらの発生を予防するため、健康診査をはじめ健康教育・健康相談・訪問指導・機能訓練等の老人健康事業を通して総合的な保健対策の推進を図る。

 ・その他の対策

 交通事故や労働災害等による障害発生を予防するため、交通安全施設の整備や交通安全思想の普及を図るとともに、事業所や労働基準監督署などとの連携を密にして労働災害の防止に努める。

(2)早期発見体制の充実

 障害を早期に発見し、適切な処置を施すことは障害を軽減させ、あるいは重度化を防ぐうえで極めて重要なことである。
 乳・幼児期はもちろん、成人病においても質の高い健康診査を定期的に集団・個別を問わず受けられる体制を整え、受診率の向上を図って早期発見・早期治療による障害の軽減に努める。

(3)療育体制の充実

 ・早期療育の体制づくり

 障害が発見された場合、障害の軽減とともに、障害に起因する二次的な発達障害を予防するには早い時期から、それも乳幼児期から障害の状況に応じた適切な治療・療育が必要である。
 そのためには、関係の医療・療育機関等との連携のもとに、一貫した相談・治療・療育が行なえる体制の充実に努めなくてはならない。
 当市では、幼児期から就学期までの間、療育を中心にした心身障害児通園事業を実施し、一定の成果をあげているが、通園療育については可能なかぎり生活の基盤である地域の子どもと共に育つことが好ましいという見地から、地域で障害のない幼児と共に専任の職員を配置しての療育も検討する段階にきており、保育所の適正配置の時期とあわせて見直しを図っていく必要がある。
 また、健診後、発育・発達が順調でない子どもに対する相談・育児指導としての乳幼児健全発達支援相談事業も実施していく。

 ・精神障害者施策

 精神障害者に対する差別や偏見は、精神障害者の地域社会での生活を妨げる大きな要因となっており、市民への啓発を強化して人権の擁護と社会生活を支援する体制の確立に努める。
 県とも連携を強めて、精神保健相談事業やリハビリ、精神障害者就労促進事業など社会復帰施策の一層の充実に努める。

(4)マンパワーの確保

 保健・医療・療育を充実させ、効果を高めるためには関係スタッフが専門的な知識や技術を有し、障害者の抱える問題を正しく認識して適切な対応ができることが不可欠であり、質の高いマンパワーの確保が急務である。
 そのため、研修会等の積極的な実施によって関係職員の資質の向上を図り、関係機関、関係施設の職員間のネットワークづくりを推進するとともに、専門職員の計画的養成について国・県へ働きかけていく。

第3 保育・教育の充実

《現状と課題》

 就学前の障害児を地域の保育所で健常児と共に保育することは、障害児が成長発達に合わせて社会へ早く適応していくことはもちろん、健常児との相互理解を促進し、成長してからの障害者観に大きな好影響を与えている。
 一方、早期療育の考え方などから、心身障害児の通園施設で専門的な療育を受けながら地域の保育所にも通うという実態もあり、双方の利点と整合性を考えながら一定の方向づけをする時期にきているといえる。
 教育においては、養護学校の義務制移行を契機に、国際障害者年等各種の施策が実施される中で障害者に対する理解が深まり、地域の子どもは地域で共に生きるという親や子ども達の願いを受け、統合的教育をめざしてさまざまな教育実践を積み重る中で一定の評価はできるものの、障害者一人ひとりの立場にたった施設整備や人的配置等の条件整備は必ずしも十分とはいえない。
 各学校においては、障害をもつ児童生徒の現状や願い・要望をふまえて、障害の程度・能力・適性等に応じた効果的な教育を行うため、一人ひとりの教育的ニーズを尊重した適切な教育が推進できる態勢をつくるとともに、卒業後の進路を展望し、地域社会での生活との関連を考慮した教育内容の創造に努めることが必要である。
 また、障害者の生きがい対策や、健常者の正しい障害者観を定着させるためには、全市民を対象にした社会教育分野での各種学習機会を拡充することが必要であるが、まだまだ十分とはいえず、これらの施策推進が急務である。これらの施策を具現化するためには、幼児期から学齢期・青年期・成人期・老齢期へと続くライフステージに応じた生涯教育の視点から、一貫した教育の提供が不可欠である。

《施策の推進方向》

1.障害児保育の充実

 保育所や幼稚園で措置した乳幼児は、児童福祉法の理念に基づいて養護と教育を一体とした豊かな人間育成の基礎を培っていかなければならない。
 したがって、入所を希望する地域の障害児も可能な限り地域の保育所で措置し、等しく保育していく必要があり、保護者からの入所申請に基づいて対象児の状況を的確に把握しなければならない。そのうえで物的・人的条件を整備して保育の充実を図り、障害児と健常児が共に生活する中でお互いを認め理解し合い、仲間としてのつながりを深め、地域で共に生きていくことを保障できる保育内容を創造する必要がある。
 また・障害児の基本的人権が守られ、あたりまえに生きていける地域づくりを関係機関との連携のもとに推進していく。


2.障害児教育の充実

 障害を持つ児童生徒に対する教育については、個々の可能性を最大限に伸ばし、積極的に社会参加する子どもたちの育成をねらいとする。そして、一人の人間としてそのまま受け入れる社会体制づくり、仲間関係づくりが大切であり、これらを具現化するため、次の項目について積極的に推進していく。

ア.就学指導及び早期教育の充実
 幼児期から適切な情報提供が十分に行われ、保護者が安心して教育の場を選択できるような体制を整える。 障害をもつ児童生徒の就学の場の決定については、児童生徒の実態を的確に把握し、本人や保護者の意思を尊重する。 障害をもつ幼児に対する教育相談等の充実を図る。

イ.教育条件の整備
 障害をもつ児童生徒が快適な学校生活を営めるよう、障害者用トイレ、エレベーター、スロープ、ファックスなど、実態に応じて施設整備の充実を図る。 重度障害や重複障害をもつ児童生徒の就学に向けて、実態に応じて介助等、人的措置を講ずるよう県にはたらきかけていくとともに、市でも対応に努める。 保護者の経済的負担を軽減し、障害をもつ児童生徒が安心して学校生活を送ることができるよう、就学奨励費の充実に努める。 障害をもつ生徒の後期中等教育が保障されるよう、高等学校等との連携を密にするとともに、県にはたらきかけていく。

ウ.教育内容・方法の充実
 児童・生徒の障害の程度や状況に応じて、効果的な教育を行うために教育課程の編成を改善する。 普通学級での障害をもつ児童生徒の受け入れについても、障害の状況を考慮しながら望ましい統合教育のあり方について十分検討しつつ、教育内容・指導方法の改善・充実に努めるとともに、児童生徒や保護者に正しい障害者に対する認識を培っていく。 障害の状況に応じた教育内容・方法の改善・充実を図るとともに、障害児教育に関する教職員研修の充実に努める。

エ.進路保障の充実
 本人、保護者の意向を尊重し、課題を明確にして、展望を持って進路指導を推進するため、学校や家庭と進路希望先、職業安定所等の関係機関との密接な連携のもとに進路保障に努める。

オ.生涯学習の推進
 障害をもつ児童生徒が、地域で安心して生活できるように条件整備を充実させ、その態勢づくりを行うための啓発活動を推進するとともに、1995(平成7)年度から実施される県の補助事業「社会参加活動支援事業」を積極的に実施していく。
 また、社会教育等で行われる講演・講座等の諸活動への参加を促進するため、施設・設備の整備を図り、情報の提供が円滑に実施できる体制の強化に努める。


3.社会教育の推進

ア.学習活動の促進
 障害者の「完全参加と平等」を具現化するためには、生涯学習の観点から障害者のニーズに応じた学習への参加機会を確保する必要があり、そのためには、社会教育の機会と内容をより充実させていかなくてはならない。
 障害者が、地域社会で生きがいと目的意識を持って充実した生活を送れるよう、学校外や学校教育終了後も学習機会を提供することは不可欠であり、特に週休2日制への移行など、余暇時間の拡大にも対応して公民館を中心とした各種講座や教室等の充実を図るとともに、障害者が必要とする情報提供のシステムについても、社会参加促進の立場からも早急に整備を推進していくことが必要である。

イ.スポーツ、レクリェーション、文化活動の推進
 障害者の生きがいを高め、社会参加の促進、体力や社会性の増進を図るため各種スポーツ、レクリェーション、文化活動を企画・実施するとともに、施設の整備や参加機会を拡充していくことが必要である。
 特に、技を競い合う競技スポーツや障害者だけの行事にとどまらず、障害を持たない人たちとのふれあいを拡げるため、公民館、社会体育館、建設予定の障害者福祉センター等を中心に、各種行事を企画・実施していく必要がある。
 1994(平成6)年にコミュニティー助成事業で卓球台を8セット購入しており、これを社会体育館、公民館等の各施設へ配備して拠点とし、卓球教室を開設するなど交流事業の拡大を図っていく。
 また、障害者のスポーツ、レクリェーション、文化活動を促進するためには、これらの施設が障害者にとって利用しやすいことが大切であり、計画的に整備改善をしていくことも必要である。

第4 社会参加の促進

《現状と課題》

 障害者が社会の一員として地域経済活動に積極的に参加し、自立した生活を営むためには、ノーマライゼーションの理念のもとに構築された生活環境の整備と就労機会の拡充が不可欠である。
 働く意思と能力のある障害者が、その適性と能力に応じた仕事に就いて社会経済活動に参加することは、障害者自身にとって生きがいのある人生を送るうえで重要なことであり、社会にとっても有益である。
 障害者ニーズ調査の結果をみると、就労している人が31.6%、就労していない人は68.4%にのぼり、就労していない理由のトップは「病気や障害のため」の49.6%で、「働く場、希望の職種がない」、「通勤が困難」など、働く意思はあっても働けない人が約1割という結果がでており、障害者が職業を持つということが、いかに厳しい状況であるかがよくわかる。
 このため、就労の場の確保にあたっては重度障害者の雇用に重点を置き、事業所に対する障害者雇用促進の指導強化や広報を行うとともに、小規模作業所、通勤寮、グループホーム等、就労の場や就労のための住環境の整備を進めることが急務である。
 政府が障害者基本法に基づいて発表した「障害者白書」によると、「障害者全般の雇用状況は改善されてきているものの、重度障害者の雇用は十分に改善されていない状況にあり、障害の種類別に、その特性に応じたきめ細かな施策を総合的に講じていくことが必要。」と強調している。

具体的には、
・身体障害者
第三セクター方式による重度障害者雇用と重度障害者多数雇用事業所の設置促進などによる雇用拡大。
・知的障害者
障害者職業能力開発校での職業訓練、第三セクターによる能力開発センターの育成事業、教育や企業訓練の充実、推進。
・精神障害者
勤務形態などの職能的諸条件や医療、福祉関係機関との連携・充実、社会一般への啓発、社会復帰施設の整備など社会復帰対策の充実。

 一般雇用が困難な障害者に対する施策としては、授産施設、福祉工場、作業所等の計画的整備、適切な施設利用の確保、職住分離等を推進すべき   というもので、当市としても早急にこのことを検討する時期にきており、特に福祉工場の誘致は緊急な課題である。
 一方、市民としての権利を保障するという意味からも、地域の特性や住民のニーズを踏まえて国・県、民間企業、福祉団体等と連携を密にしたうえで福祉インフラの整備を計画的に進め、その機能を十分発揮できる維持管理体制の推進を検討していく必要がある。
 そのうえで、公共建築物・公共交通機関へのアクセスについて可能な限り障害者の利用度を高めるために、「障害者や高齢者にとって住みよいまちは、みんなが住みよいまちである」という認識にたって「ハートビル法」の趣旨に則り、府中市福祉環境整備指導要綱の厳正な適用を維持しなくてはならない。
 また、障害者の社会参加を支援する人的資源として、ボランティアの積極的な育成や障害者相互の援助システム、情報提供システムの推進に努める必要がある。

《施策の推進方向》

(1)雇用・就業の促進

 障害者の自立を図り、社会参加を促進するためには就労機会の拡充が必要であり、そのための施策の積極的な推進、とりわけ重度障害者の雇用促進は重要な課題である。
 「障害者の雇用の促進等に関する法律」により、障害者の雇用対策をはじめとする総合的な対策が講じられ、府中公共職業安定所管内における民間企業の障害者の雇用率は2.33%(1994年6月1日現在)と、法定雇用率の1.6%を上回っているが、ニーズ調査では「働く場、職種がない」「障害に合った職をあっせんしてほしい」「就職がしたい」などの要望があるように、まだまだ十分とはいえず、今後とも障害者の雇用に努める必要がある。
 特に、障害者雇用に際しては、事業主や従業員の理解、協力、人権意識の高揚が不可欠であり、雇用促進に向けて障害者の法定雇用率未達成企業に対する指導や、企業・学校・技術専門校・能力開発校等と行政・公共職業安定所が連携して障害者就労等相談事業の体制を強化し、労働条件や人権問題についての啓発等を積極的に推進していく必要がある。
 今後、関係機関の障害者雇用支援制度の拡大・延長を要請するとともに、市独自の雇用奨励金制度も検討する必要があり、事業主に対しても、短時間勤務、在宅勤務、業務指導者の配置など障害の程度に応じた就労形態導入の検討を要望する。
 また、雇用が困難な障害者、特に知的障害や精神障害のある人たちの就労の場、自立のための生活訓練や教育的活動の場として小規模作業所の果たしている役割は大きく、社会参加や社会復帰を図るための施設として大きな期待がかけられている。本市には現在、心身障害者就労促進事業に
よる共同作業所と精神障害者就労促進事業による共同作業所が計3施設あり、それぞれの特性と指導者の技能を生かして活動をしている。
 しかし、これらの作業所は、県の就労促進事業として若干の運営費助成はあるものの、施設の建設費、維持・管理費、指導員の人件費等の保障がないなど多くの課題をかかえており、建設費、大規模修繕費等については市で予算措置を講じているのが現状である。
 このため、作業所で指導にあたる指導員の労働保険の加入などを検討するほか、作業所での作品を効果的に販売して、障害者の就労に対する還元を図るため、大型店舗内への販売コーナー設置の検討も必要である。
 また、作業所への福祉的な対応が不十分なことから、当面、増築による改善を図っていく。
 今後も民生児童委員や社会福祉協議会、ボランティア団体等と連携をとりながら就労と社会参加の機会を増やし、一日も早い社会復帰、社会進出が実現できるよう施策を推進していく。

(2)生活環境の整備

 ・住環境の整備
 障害者が地域生活で拠点とする住宅は、住みやすい構造・設備でなくてはならない。
 市営住宅建設においては、長期の整備計画をたて障害者団体と協議しながら入居希望と障害の部位とを勘案して、一定の割合いで専用の住宅を建設しているが、個人の住宅建築や住み慣れた地域で引き続き生活できるよう現存の建物の改造をする場合、資金の貸付け、あるいは補助金等の助成措置を講じ、障害者にとって住みやすい住宅施策を推進する必要がある。
 また、障害者が共同して地域生活を送ることのできる、一定の設備が整った施設として通勤寮やグループホーム等があるが、社会福祉法人等と連携してこれらの施設の整備の推進に努めていく。

 ・福祉のまちづくりの推進
 障害者の社会参加を進めるうえで、市庁舎、文化センター、福祉会館、図書館、体育館、公民館、児童館などの公共建築物、デパート、スーパー、銀行、病院など公共的性格の強い民間の建築物はもちろんのこと、道路、鉄道、バスなどの交通手段についてもバリアフリー化への改善・整備が必要である。府中市においても「ハートビル法」の精神や、府中市福祉環境整備指導要綱に定める福祉環境整備基準によって、民間事業所の協力を得ながら都市施設の整備に努めているが、今後も国・県と連携し民間事業所の理解と協力のもと、福祉インフラの整備、公共交通機関、とりわけ乗降のしやすい低床式の車両、駅舎、バス停など障害者や高齢者に配慮した整備・改善を早期に進めるよう要請していく必要がある。
 また、ハード面での整備だけでなく、市民一人ひとりがノーマライゼーションの理念を理解して正しい障害観を持ち、ごく自然に障害者に手を貸したり、障害者のための施設やスペースを守るなど、お互いが啓発をしながら福祉のまちづくりを推進していくことが必要である。

 ・防災体制の整備
 障害者にとっては、火災や台風等の災害、家族の急病や事故など緊急時の迅速な対応をすることが困難な場合が多い。
 このため、緊急通報システムの設置を検討する必要があり、同時に防災知識の普及や消防署、警察、町内会等による緊急連絡、避難誘導を行う防災組織の検討も急務である

(3)社会活動の促進

 ・移動手段の確保と拡充
 障害者が教養・文化、娯楽、スポーツ、交流会など社会活動へ積極的に参加し、生きがいのある充実した生活を送るためには、公共交通機関、自らが運転する自動車、車イス、徒歩等での移動手段によって外出することが必要となってくる。
 そのためには、これらの手段を障害者がスムースに利用することが必要であり、自動車の改造費、運転免許の取得費、タクシー料金の助成拡大やガイドヘルパー派遣事業等の充実に努めるとともに、障害者用駐車場の拡充、自動車税等の税制的優遇措置等について関係機関への要請を行う。

 ・情報の提供
 社会参加をするためには、社会環境の整備状況や各種の文化・スポーツ等各種事業、催し物の情報が必要であり、これらの情報を盛り込んだ広報、福祉マップをはじめ、電話、ファックスなどにより視覚、聴覚の障害者に伝達できる体制づくりを検討する必要がある。

 ・ボランティアの育成
 地域において障害者の自主的活動を推進するために、ボランティアの果たしている役割りは大きく、特に視聴覚障害者のコミュニケーション手段を確保するためには手話、点字、要約筆記等の専門技術を有するボランティアの育成が急務であり、各種の講座を積極的に開設するとともに、社会福祉協議会や関係団体の協力を得ながらボランティア及び指導者の育成に努める。
 いま、市内では「自発・無給・奉仕」の精神で、多くの人たちがボランティアとして活躍中であるが、全市民を対象とした福祉の風土づくりを推進するため、保健福祉の総合プランの中で「ボランティアシティ府中」構想を策定しており、このプランとの整合性をもって進めていく。
 また、公共性の高い講演会、フォーラム、説明会の催しについては、手話通訳者や要約筆記者、ガイドヘルパー等の派遣を行うとともに、すべてのボランティアに対して勤務先事業所の理解を得ながら、ボランティア休暇等を積極的に導入するよう呼びかけ、活動に要する経費援助も検討していく

第5 生活支援の充実

《現状と課題》

 障害者が地域社会で自立した生活を営むためには、経済的な安定とともに、在宅福祉サービスの充実、それに福祉施設の整備が欠かせない。
 とりわけ、生活の根幹をなすのは所得の保障であり、障害者は就労が困難なことや、せっかく就労しても所得が低いことなど間題も多く、生活基盤確立のための経済的援助が必要となってくる。
 また、障害者が充実した社会生活を送るためには、個々の障害に対して適応した各種福祉サービス、特に日常的に介護を要する場合や、コミュニケーションの手段を欠いている場合の支援など、きめ細かい在宅福祉サービスの充実を図っていくことが大切である。
 特に、心身障害児・者の在宅支援については、国の制度として「精神薄弱者生活支援事業」「心身障害児・者地域療育拠点施設事業」等があるが、府中市の場合、人口比からみて登録可能人数が充足できず事業認可とならないため、単市事業として更生施設内に支援センターを設置し、コーディネーター、ケースワーカー、ヘルパー等の配置を行って障害者ニーズに応えられるよう検討する必要がある。
 さらに、障害の重度化、重複化、また障害者や介護にあたる人の高齢化が進んでいるという現状から、入所・通所の福祉施設の整備、それにレスパイトケアー(家族も含めた休息や安らぎの提供)を充実していく必要がある。

《施策の推進方向》

(1)経済的支援の充実

 ・年金、手当等の充実
 障害者の経済的な安定を図るための所得保障制度として、障害年金、特別児童扶養手当、特別障害者手当などの各種手当が国・県の制度としてあり・障害者の生活の質を高めていく上で、これらの制度は欠かせないものであるが、今後とも充実・改善を国・県へ対し要望していく必要がある。
 また・市独自の制度として重症心身障害児福祉年金等の経済的支援を行っているが、国・県が支援制度として実施するまでは補完的に引き続き充実させながら継続をしていく。

 ・税の減免・割引・貸付制度等の充実
 障害者に対する経済的支援の一貫として、税の減免措置、放送受信料の減免・交通機関等の運賃割引等の制度が実施され、障害者の経済的負担の軽減や社会参加に大きく寄与している。
 これらの制度がさらに拡大・充実して適用されるよう、関係機関に要請していく必要がある

(2)在宅福祉サービスの充実

 ・総合相談機能と情報サービス機能の強化・充実
 障害者の自立を支援し、生活上の広範なニーズに適切に対応するためには、誰もが気軽に相談できる体制と、障害の内容・程度・性別・年齢・居住地等により、大きく異なるニーズに必要な情報が提供できる機能も合わせもっていなくてはならない。
 これらの相談窓口として、市では福祉事務所、県では児童相談所、更生相談所、保健所等がそれぞれの立場で、資格をもった職員や嘱託員が専門的に相談・指導を実施しているが、障害者のニーズも多様化・高度化の傾向にあり、あらゆる相談に的確に応じるには各相談窓口間の連携をスムースに行なうためのネットワークづくりを急ぐとともに、聴覚・言語障害者の相談に対応できるよう専任の手話通訳者の配置を検討する必要がある。
 また、公共機関のネットワークだけでなく、各地域に民生児童委員や身体障害者相談員、精神薄弱者相談員が委嘱、配置され相談・指導にあたっており、市社会福祉協議会においても、福祉相談(障害者相談・法律相談・住宅改善相談・巡回相談・日曜相談・夜間相談等)を積極的に実施していることなどから、これらを総合したきめ細かい地域での相談推進体制を確立することが必要である。
 そのためには、公的機関、社会福祉協議会、民生児童委員、相談員等の総合窓口を設置して、各分野の相談・指導が緊急に必要なとき、身近な地域で即刻対応できるシステムが求められており、これらのネットワークをコーディネートできる機能の充実が急務である。
 さらに、地域における障害者の多様なニーズに対し、受け身で相談を待つのでなく、積極的に障害者ニーズの早期発見・早期対応を図るためのキャッチシステムを確立しなければならない。と同時に、幅広い情報提供をするため、現在は市の「広報ふちゅう」「福祉ガイドブック」や、社会福祉協議会の「府中市社協だより」「ボランティア特集号」朗読ボランティアによる「声の広報ふちゅう」等を発行しているが、今後は定期的に「点字情報」「情報ガイドブック」等を発行して障害者に対するサービスを充実する必要がある。

 ・介護サービスの充実
 在宅の重度障害者には、日常生活を営むうえで、その障害ゆえの多くの不自由があり、本人はもとより介護にあたる家族にとっても身体的、精神的、経済的な負担が大きいのが実状である。
 ニーズ調査の結果、室内での移動、食事、トイレ、入浴、衣服の着脱、外出など日常生活についてみてみると、一部介助が必要と回答した人が平均12.4%、全部介助が必要な人9.2%と、実に障害者の2割以上の人が介護なしでは日常生活が営めないという結果がでている。
 また、介助者をみると、配偶者が50.2%、子17.1%、親13.0%、その他の家族を合わせて86.6%の障害者が自分の家族に介護を受けている。
 福祉サービスの要望については、複数回答で26.1%がホームヘルパーなどの援助、19.9%がショートステイなど入所施設の充実、15.8%がデイサービス施設の充実を望んでおり、障害者の重度化・重複化や介助者の高齢化傾向の中で、多くの障害者が在宅福祉面での介護支援制度の充実を必要としている、という結果がでている。
 当市における主な介護支援サービスとしては、重度身体障害者に対するホームヘルパーを3名、重度心身障害児・者に1名、計4名の配置をはじめ、障害者のデイサービスやショートステイも実施しているが、他施設との共用ということから利用の回数や定員に制限があって受け入れができなかったり、障害児の場合は市外の施設利用で、遠距離のため利用が困難という実状もあり、在宅重度障害者のニーズに十分応えられていないというのが現状である。ニーズに合った施設整備などデイサービス、ショートステイ事業の充実を急ぐことが必要である。

 ・移動、社会参加に対する支援の充実
 障害者の自立と社会参加を促進するためには、移動やコミュニケーションを容易にする施策が必要である。
 移動をスムースに行える支援としては、福祉タクシー、自動車改造費給付、運転免許取得費給付、車イス等の補装具や日常生活用具の給付、ガイドヘルパー派遣等の事業。コミュニケーションを行うための支援としては、手話通訳者、要約筆記者の派遣、手話通訳者宅へのファックス設置等を実施している。
 また、これらのボランティアを養成するため手話講座、要約筆記講座を定期的に実施している。
 今後も障害者の社会参加を促進するため、これらの施策を拡充する必要がある

(3)福祉施設の整備

 障害者対策の分野では多くの施策があるが、特に大きなニーズとして求められているのが福祉施設の整備・充実であるといえる。
 居住型の施設としては、市内に社会福祉法人の精神薄弱者更生施設(大日学園)が1箇所と、社会福祉法人の通勤寮(川辺荘)が1箇所設置されており、施設の機能を活用してショートステイ、通所作業、グループホーム事業など、地域との交流を深める事業を積極的に実施して、各種在宅福祉サービスの提供、ノーマライゼーション理念の啓発等を行っている。
 それに加えて、大日学園内に知的障害者のミニ・デイサービスセンター、支援センターを設置して在宅福祉サービスを充実させていくことも緊急な課題である。
 今後も施設の諸機能を有効に活用するため、1995年度からの大日学
園の老朽改築にあたり、建設費の補助をするなど運営主体である社会福祉法人の費用負担の軽減を図って、計画的な施設の整備、運営の健全化を促進していく。
 次に利用型の施設として、障害者団体、ボランティアなどの福祉団体等の活動・研修の場となっている福祉会館があるが、障害者や高齢者等の多様なニーズに対応するには狭隘であり、複合的な機能を備えた施設の建設が望まれていた。
 このため、地域福祉推進の拠点として、障害者や高齢者だけでなく、妊娠・出産から老齢期まで、生涯を通じてのライフステージにおける障害の発生予防、早期発見、早期療育及びリハビリテーションに至る一貫した保健・医療・療育の機能はもとより、軽スポーツ、作業所、浴場、教養娯楽、会議、福祉団体の事務所などのスペースを備えた総合福祉保健センターを早期に建設し、ニーズに応えていく必要がある。

第6 推進体制の充実

  1. この計画の推進にあたっては、市の内部組織として府中市障害者施策推進検討委員会を設置し、障害者施策の総合的かつ効果的な実施を図るとともに、計画の進捗状況等フォローアップを行うものとする。

  2. 障害者施策の推進にあたっては、関係行政機関及び医療機関、福祉施設、関係福祉団体等と密接に連携して、広く障害者の意見・要望を的確・迅速に反映させるよう努める。

  3. 策定中の府中市新総合計画、府中市保育ビジョン、都市マスタープラン、実施中の府中市同和対策計画、府中市保健福祉の総合プランなどの基本計画に関わる障害者施策と、この計画との整合性を保って相乗的な効果を図るものとする。

  4. 計画の変更や緊急かつ強力に推進する必要が生じるなど、検討委員会では対応困難な場合は、府中市障害者施策推進協議会の機能活用を図るものとする。

主題:
府中市障害者福祉基本計画

発行者:
府中市

発行年月:
1995(平成7)年3月

文献に関する問い合わせ先:
広島県府中市府川町315
府中市市民生活部 福祉事務所
TEL (0847)43-7148