札幌市障害者福祉計画
No.1
札幌市
項目 | 内容 |
---|---|
立案時期 | 平成7年5月 |
計画期間 | 平成7年度~平成17年度(10年間) |
はじめに
21世紀社会を間近に控え,新しい時代への期待が高まっている一方で,高齢化,国際化,情報化などの変化はますますスピードを増し,社会・経済構造は大幅に変動してきております。
この間,国際障害者年や国連・障害者の十年などを契機として,各種の福祉施策をはじめ,障害のある方々を取り巻く環境や障害そのものに対する理解も大きく変化してきております。
このような状況を踏まえて,札幌市においては,障害のある方々が安心して暮らせる街づくりや生活の質の向上に着目した施策を新しい時代へ向けて柔軟に対応しながら展開するために,札幌市障害者福祉計画を策定いたしました。
この計画は,本市の障害者福祉施策の基本的方向を示すとともに,市民や企業などに対し広く障害に対する理解を求め,障害のある方自身はもとより,すべての市民の自主的,主体的な行動の方向を示すものであります。
今後,この計画にもとづき,21世紀を展望し,障害のある人もない人も共に生きる市民福祉のまちサッポロの実現のために,全力をあげて取り組んでまいりたいと考えております。市民の皆さまのご理解とご協力を心からお願い申し上げます。
最後に,この計画の策定にあたりまして,幅広い市民の皆さまから貴重なご意見やご提言をいただきましたことに,心から厚くお礼申し上げます。
平成7年5月
札幌市長 桂信 雄
目次
この計画は,身体に障害がある方,知的障害のある方またはその双方に障害がある方の福祉施策について策定しました。
また,精神薄弱という用語については,札幌市においては原則として知的障害という用語で表しており,法令又は事業名として使用する場合を除き,この計画では知的障害の用語を使用しています。
総論
1 計画の策定にあたって
1.計画策定の趣旨
札幌市の障害者福祉施策は,「完全参加と平等」をテーマとした「国際障害者年」(昭和56年)を契機として,各種福祉施策の充実や雇用・就業対策,公共施設の整備・改善などそれぞれの分野において積極的な推進に努めてきました。
また,この間における障害者自身の主体的な努力,障害者に対する市民の理解促進により,障害者福祉を推進するうえで多くの成果を得ることができました。
しかし,障害者福祉は,福祉サービス,保健・医療,教育,就業・雇用など生活全般かかわって進められるべきものであり,そのニーズも個々の障害の程度や生活実態によって多種多様です。
また,最近の人口構造の急激な高齢化,核家族化の進行,生活水準の向上など社会環境の変化は,新しい課題を生み出しており,障害の重度化・重複化に伴う福祉ニーズも多様化してきています。
さらに,国連・障害者の十年の終了後,その理念を継承した「アジア太平洋障害者の十年」が新たにスタートし,国では,障害者のための施策を総合的かつ計画的に推進するための「障害者基本法」が施行されるなど,障害者を取りまく環境は大きく変化してきています。
このような状況のなかで本市の障害者福祉施策は,これまでの成果を見つめ直し,残された課題や新たな課題に適切に対応し,より高い目標を持って推進しなければなりません。
「札幌市障害者福祉計画」は,21世紀に向けて,障害者の自立と社会参加を促進し,長期的展望にたった体系的な施策の方向を明らかにするため策定するものです。
2.計画の基本理念
障害者施策の目標は,ライフステージのすべての段階において全人間的復権を目指す「リハビリテーション」の理念と,障害者が障害のない人と同等に生活し,活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念の下,「完全参加と平等」を実現することです。
この計画は,このような考え方を基本理念として策定し,今後,この計画を着実に実施していくこととします。
3.目標年次
この計画の目標年次は,第3次札幌市長期総合計画の目標年次である平成17年とし,社会経済状況の変化などにより必要がある場合には,見直しを図ることとします。
4.計画の位置づけ
「札幌市障害者福祉計画」は,第3次札幌市長期総合計画の部門別計画として,障害者の生活全般にかかわる施策を体系化し,基本的方向を示す計画とします。
個々の事業・施策の展開にあたっては,札幌市5年計画や札幌市高齢者保健福祉計画などと整合性を保ちながら,推進していくこととします。
5.計画の基本的方向
基本理念を実現するためには,障害者が住み慣れた地域で安心し,いきいきと生活できる街づくりをすすめ,市民の誰もが暮らしやすい都市にしなければなりません。
さらに,都市環境の整備だけでなく,障害者が社会に積極的にかかわっていけるような「システム」や「制度」がなくては,障害者の自立と社会参加は促進されません。
この計画は,障害のある人もない人も社会のなかで,ごくあたりまえに生活できる街づくりを推進していくため,その基本的方向を次のようにします。
(1) 主体性,自立性を確立するために
障害者が障害のない人と同じ社会の構成員であるという考え方にたって,障害者自身が主体的に社会とかかわり,おのおのの持てる能力を十分発揮できるような施策の推進を図ります。
(2) 重度化・重複化,高齢化への対応のために
障害の重度化・重複化,障害者の高齢化の傾向は,本市の実態調査でも顕著であり,こうした重度化・重複化に対応できるように保健・医療,福祉サービスなどの施策を有機的連携のもとに推進していくとともに,高齢化に対応して高齢者福祉施策との調整を図りながら施策の一体的な推進に努めます。
(3) だれもが住みよい福祉の街づくりのために
障害者が住みよい街は,すべての人にとって住みよい街であるという考え方にたって,障害者が住み慣れた地域で安心して快適に生活できるように,とりわけ,積雪寒冷地という気候風土なども考慮した建築物の整備改善や移動・交通対策の推進,住環境の整備を図ります。
(4) ゆとりとうるおいのある生活のために
障害者一人ひとりが心の豊かさやゆとりをもって市民生活を創造していくために,生活の質を向上し,生涯を通して充実した時間を過ごせるよう,障害者自身がスポーツや文化活動などに積極的に参加できる機会の提供や支援を図ります。
(5) 正しい理解を促進するために
障害のある人もない人も共に生活する地域社会を実現するというノーマライゼーションの考え方にたって,障害と障害者に対する理解と認識をより一層深めていくため,啓発・広報活動の推進を図ります。
6.計画の構成
基本理念
リハビリテーション・ノーマライゼーション
基本的方向
1 主体性,自立性を確立するために
2 重度化・重複化,高齢化への対応のために
3 だれもが住みよい福祉の街づくりのために
4 ゆとりとうるおいのある生活のために
5 正しい理解を促進するために
7.計画の体系
この計画の体系は,次の7つの分野とします。
1 福祉サービスの充実
2 保健・医療の充実
3 教育の充実
4 就労の支援
5 生活環境基盤の整備
6 スポーツ・レクリエーションおよび文化活動の振興
7 広報・啓発活動の充実
8.計画の推進体制
この計画の総合的,一体的な推進を図るため,庁内に「障害者対策推進本部」を設置し,これを中心に全庁的に推進するとともに,「札幌市障害者施策推進協議会」をはじめ,障害者の意見を聞きながら,関係団体,関係機関,市民の理解と協力を得て取り組んでいきます。
9.計画の策定方法
(1) 策定体制
平成6年5月に,福祉,保健,住宅,就労,教育などの関係部門の担当部長で構成する「計画策定委員会」および関係課長・係長で構成する「計画策定委員会研究部会」を庁内に設置し,計画策定の中心的役割を担う機関として位置づけ,全庁的な協議を経たあと,平成7年1月の「札幌市障害者施策推進協議会」の協議を経て策定しました。
また,幅広く市民の意見を聞くため,有識者,障害者団体関係者,福祉施設の関係者,一般公募の市民などによる「策定懇話会」を実施しました。
(2) 「札幌市心身障害(児)者実態調査」
計画は,障害者の生活実態と福祉ニーズを把握したうえで策定する必要があるため,平成5年の9月から11月にかけて身体障害者と知的障害者の実態調査を実施し,計画策定の基礎資料としました。
この調査は,「日常生活・介助」「住居」「外出」「医療・訓練」「就労」などを調査項目とし,4,500人を対象として実施しました。
2 障害者福祉計画策定の背景と現状について
1.障害者福祉に関する国際的動向
国際連合は,1971年に「精神薄弱者の権利宣言」を,そして1975年に「障害者の権利宣言」を採択し,障害者の権利に関する指針を示しました。
しかし,この宣言に対する各国の理解不足,国際的行動の必要性が指摘され,1976年の国連総会において,世界規模で啓蒙を行うために,1981年を「国際障害者年」とすることを決議しました。
「国際障害者年」のテーマは「完全参加と平等」であり,その具体的な内容は,1障害者の身体的,精神的な社会適合の援助 2就労の機会保障 3日常生活への参加の促進 4社会参加権の周知徹底のための社会教育と情報の提供 5国際障害者年の目的の実施のための措置の方法と確立です。
さらに,国連は「国際障害者年」の目的を達成するためのガイドラインとして,「障害者に関する世界行動計画」を定めたほか,1983年から1992年までの10年間を「国連・障害者の十年」と宣言し,期間中に各国において行動計画を策定して,障害者の福祉の増進を図るよう要請しました。
この行動計画は,世界の障害者問題の分析のもとに,各国が今後なすべき課題について,具体性を持つ提案を一冊の計画書の中に集約したものであり,世界的に障害者福祉の進展に多大の影響力を及ぼしました。
この期間の代表例は,「障害をもつアメリカ人法=ADA」が成立したことであり,交通,教育,雇用,住宅などあらゆる場面で,障害者の参加を促すことを行政や民間に義務付けています。
また,「障害は重度であっても人間的な生活は,人が地域で生活しようと施設にいようと保障されるべき」とするノーマライゼーションの思想は,各国の福祉政策の基本となりました。
「国連・障害者の十年」は1992年で終了しましたが,アジアにおいては行動計画の目的が十分に達成されていないという認識から,第48回アジア・太平洋経済社会委員会(ESCAP)は,1993年から2002年までを「アジア太平洋障害者の十年」とし,さらに行動計画の理念を継承して実施していくことを確認しています。
2.障害者福祉に関する日本の動向
このような世界的な流れを受け,国内では,政府の国際障害者年推進本部(昭和55年設置)において,昭和57年3月に「障害者対策に関する長期計画」を決定しました。
さらに,「国連・障害者の十年」の中間年にあたる昭和62年6月には,障害者対策の一層の推進を目指して,これまでの施策の評価を行うとともに,今後重点的に取り組むべき施策を検討した「『障害者対策に関する長期計画』後期重点施策」を決定し,障害者対策の総合的な推進に努めてきました。
この間,国内の障害者施策は新たな展開期を迎え,昭和59年の身体障害者福祉法の改正,昭和60年の職業訓練法の改正などが行われました。特に,平成2年には,在宅サービスの推進,措置権の市町村への委譲などを目指した福祉関係八法の改正が行われました。
「国連・障害者の十年」以降においても,我が国が共同提案した「アジア太平洋障害者の十年」が新たに始まるなど国際的な動きも見られたことから,中央心身障害者対策協議会は,平成5年1月に「『国連・障害者の十年』以降の障害者対策の在り方について」を取りまとめ,内閣総理大臣に意見書を提出しました。
政府は,この意見書を踏まえ,平成5年3月,新たな長期的視点に立った「障害者対策に関する新長期計画」を策定し,「国連・障害者の十年」終了後も障害者対策を総合的に推進することにしています。
【新長期計画の基本的考え方】
1 障害者の主体性,自立性の確立
2 全ての人の参加による全ての人のための平等な社会づくり
3 障害の重度化・重複化及び障害者の高齢化への対応
4 施策の連携
5 「アジア太平洋障害者の十年」への対応
3.障害者福祉に関する札幌市の動向
このように障害者福祉を取り巻く国内外の状況の中で,各地方自治体においても各種の推進本部や推進会議の設置,障害者福祉に関する長期計画が策定されるなど,さまざまな取り組みが行われるようになりました。
札幌市においては,昭和55年に有識者や障害者団体および行政機関による「札幌市国際障害者年推進会議」を設置し,「国際障害者年」に向けた施策の方針決定と推進を行いました。
昭和56年の「国際障害者年」以降は,「地方心身障害者対策協議会」「児童福祉審議会」などにおいて,本市の障害者福祉の在り方についての検討を行ってきました。
「国連・障害者の十年」は,障害者施策を大きく進展させ,障害者自身の社会参加が進んできました。
こうした障害者を取り巻く社会情勢の変化に対応して,障害者の自立と社会参加の一層の促進を図るために,昭和45年に制定された「心身障害者対策基本法」を改正して,平成5年に「障害者基本法」が施行されましたが,この中で,各自治体においても,それぞれの自治体の障害者の状況などを踏まえ,障害者のための施策に関する基本計画の策定に努めるよう求められています。
このため,本市ではこのような状況を踏まえ,中長期的展望に立った「札幌市障害者福祉計画」を策定することとしたものです。
4.日本における障害者の現状について
(1) 身体障害者の実態
国が平成3年11月に行った実態調査によれば,18歳以上の身体障害者の数は,272万2千人で昭和62年の調査に比べ約13%増となっています。
おもな障害の種類別に障害者数をみてみますと,肢体不自由が155万3千人(57.1%),視覚障害が35万3千人(13.0%),聴覚言語障害が35万8千人(13.1%),内部障害が45万8千人(16.8%)となっています。
また,増加の割合では,内部障害が56.0%増と特に高く,次いで,視覚障害の15.0%増などとなっています。
さらに,障害程度は,身体障害者福祉法施行規則「障害程度等級表」によって最も重い順に1級から6級まで分けられていますが,その分布状況をみると,1・2級の障害者が109万2千人(40.1%)で18.3%の増と特に高く,3・4級の障害者が95万4千人(35.1%) で11.0%の増,5・6級の障害者が52万6千人(19.3%)で6.4%の減となっており,重度化の傾向が現れています。
なお,不明は15万人(5.5%)となっています。
身体障害者数の推移
(注)内部障害については、昭和42年8月から心臓・呼吸器機能障害が、昭和47年8月からじん臓機能障害が、昭和59年10月からは、ぼうこう又は直腸の機能障害が、昭和61年10月からは小腸機能障害が、それぞれ身体障害者の範囲に取り入れられました。
身体障害者の等級別状況実態
資料:(財)テクノエイド協会『体の不自由な人びとの福祉’93』
(2) 身体障害児の実態
国が平成3年11月に行った在宅の身体障害児の実態調査によれば,身体障害児数は,8万1千人となっており,昭和62年の調査に比べ約12%減少しています。
おもな障害の種類別にみると,肢体不自由が4万9千人(60.5%),視覚障害が4千人(4.9%),聴覚言語障害が1万1千人(13.6%),内部障害が1万7千人(21.0%)となっています。
また,障害程度では,1・2級の障害児が4万9千人(60.5%)と重度児が多く,3・4級の障害児が2万1千人(25.9%)5・6級の障害児が6千人(7.4%),不明5千人(6.2%)となっています。
障害者の種類別、身体障害児の推移
- | 40年8月 | 45年10月 | 62年2月 | 3年11月 |
---|---|---|---|---|
視覚 | 14,400人 | 7,000人 | 5,800人 | 3,900人 |
聴・言 | 26,000人 | 23,700人 | 13,600人 | 11,200人 |
肢体不自由 | 76,200人 | 57,500人 | 53,300人 | 48,500人 |
内部 | - | 56,00人 | 19,800人 | 17,500人 |
総数 | 116,600人 | 93,800人 | 92,500人 | 81,000人 |
身体障害児の障害の程度状況 (単位:人)
- | 実数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 不明 | |
3年11月 | 81,000 | 32,000 | 16,500 | 14,100 | 6,800 | 2,900 | 3,400 | 5,300 |
62年2月 | 92,500 | 25,300 | 19,000 | 20,600 | 6,600 | 4,700 | 2,700 | 13,600 |
増加率 | (87.6) | (126.5) | (86.8) | (68.4) | (103.0) | (61.7) | (125.9) | (39.0) |
- | 構成比 | |||||||
総数 | 1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 不明 | |
3年11月 | (100.0) | (39.5) | (20.4) | (17.4) | (8.4) | (3.6) | (4.2) | (6.5) |
62年2月 | (100.0) | (27.4) | (20.5) | (22.3) | (7.1) | (5.1) | (2.9) | (14.7) |
増加率 | (100.0) | (144.2) | (99.5) | (78.0) | (118.3) | (70.6) | (144.8) | (44.2) |
資料:(財)テクノエイド協会「体の不自由な人々の福祉’93」
(3) 知的障害児・者の実態
国が平成2年9月に実施した精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査によれば,在宅の知的障害児・者はおよそ28万4千人となっており,このうち,18歳以上が16万8千人(59.3%),18歳未満が10万人(35.2%),年齢不詳が1万6千人(5.5%)と推計されています。
なお,施設入所の知的障害児・者は,10万1千人(18歳以上8万6千人,18歳未満1万5千人)となっていることから,我が国における知的障害児・者の総数は,およそ38万5千人と推計されています。
知的障害児(者)総数
- | 総数 | 在宅 | 施設入所 |
---|---|---|---|
総数 | 385,100 | 283,800 | 101,300 |
18歳未満 | 115,100 | 100,000 | 15,100 |
18歳以上 | 254,400 | 168,200 | 86,200 |
不詳 | 15,700 | 15,700 | - |
(注)在宅は、平成2年の基礎検査結果による。施設入所は、社会福祉施設検査(平成2年10月1日)等による。推計数は四捨五入してあるため、総数が合わない場合がある。
資料:全国社会福祉協議会「’93社会福祉の動向」
(4) 障害者問題の社会的背景
○ 障害者を支える人的援助の変化
我が国の労働人口は,1960年代の高度経済成長期をピークに大都市に集中した結果,地方では,若く介護能力のある人口層が減少し,かつては自然発生的であった相互の生活支援の機能が失われつつあります。
一方,大都市では,人口の移動も激しく,地域共同体としての住民意識が希薄となり,相互扶助志向も芽生えにくい状況にあり,大都市の中の障害者は,生活支援のネットワークから疎外されやすいという傾向になっています。
○ 核家族化と介護能力の低下
家族意識の変化などによって核家族化が進行し,従来からの家庭の介護能力が低下してきています。
さらに,大都市では,土地の高騰などによってゆとりある住宅の確保が難しく,障害者との同居を困難なものとしています。
また,同居するにしても,障害者を介護する家族の身体的,経済的な負担は大きなものがあります。
障害者を抱える家族の負担軽減を図るためにも,地域の支援システムのあり方が重要な課題となっています。
○ 障害の重度化と高齢障害者の増加
昭和46年に実施した精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査によれば,重度・最重度の割合は,26.3%であったものが,平成2年の調査では,43.5%と大幅に増加しています。
また,昭和62年の身体障害者実態調査では,1・2級の身体障害者は38.3%であったものが,平成3年の調査では,40.1%と増加しています。
一方,我が国の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は,昭和20年代から昭和30年代までの4~5%から,昭和45年には7.1%となり,高齢化社会に入りました。
その後,昭和60年には10.3%に上昇し,厚生省人口問題研究所の推計によりますと,平成8年には15.0%にも達します。
この高齢化が進むと,健康な人々でも加齢とともに視覚,聴覚,肢体などが不自由となっていき,障害者となりうる可能性が大きくなります。
厚生省が行った昭和62年の身体障害者実態調査では、身体障害者の総数に占める50歳以上の割合は77.7%,60歳以上では57.7%であったものが,平成3年の調査によると,それぞれ79.9%,62.7%と増加しており,高齢障害者の増加傾向がみられます。
障害の重度化と障害者の高齢化は,所得保障や介護,医療,住宅などの面でより多様な福祉ニーズを生み出しており,しかも,在宅志向が高まるなかで,このような状況に対応した施策の展開が大きな課題となっています。
年齢別身体障害者の数 (単位:千人)
照査年別 | 総数 | 18~19歳 | 20~29 | 30~39 | 40~49 | 50~59 | 60~69 | 70~ | 不詳 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
昭和40年8月 | 1,048 (100.0) |
15 (1.4) |
73 (6.9) |
112 (10.7) |
172 (16.4) |
215 (20.5) |
231 (22.0) |
231 (22.0) |
- () |
45年10月 |
1,314 (100.0) |
13 (0.9) |
97 (7.5) |
127 (9.7) |
209 (15.8) |
274 (20.8) |
319 (24.4) |
275 (20.9) |
- () |
55年2月 |
1,977 (100.0) |
11 (0.6) |
86 (4.3) |
135 (6.8) |
260 (13.2) |
417 (21.1) |
508 (25.8) |
558 (28.2) |
- () |
62年2月 |
2,413 (100.0) |
8 (0.3) |
78 (3.2) |
182 (7.5) |
269 (11.1) |
483 (20.0) |
638 (26.4) |
756 (31.3) |
- () |
平成3年11月 |
2,722 (100.0) |
16 (0.6) |
16 (2.6) |
136 (5.0) |
266 (9.8) |
467 (17.2) |
789 (29.0) |
918 (33.7) |
58 (2.1) |
資料:全国社会福祉協議会「’93社会福祉の動向」
在宅知的障害者の程度別数
- | 重度、最重度 | 中度 | 軽度 | 不明 | 総数 |
---|---|---|---|---|---|
昭和46年 | 26.3% | 31.4% | 41.6% | 0.6% | 312,600人 |
平成2年 | 43.5% | 27.2% | 24.4% | 5.2% | 283,800人 |
(注)推計値は、四捨五入してあるため、総数があわない場合がある。
資料:厚生省「精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査
○ 施設福祉から在宅福祉への変化
今日,障害者自身の意識の変化や在宅福祉事業の法定化が図られるなかで,障害者の在宅志向が進んでいます。
障害者が地域の中で一般市民と同じように生活するという「ノーマライゼーション」の理念を実現するためには,在宅福祉サービスの充実,福祉施設機能の地域への開放,地域における障害者の自立を支援する体制の整備などの課題があります。
5. 札幌市の障害者の現状について
(1) 障害者人口の増加
札幌市の障害者数(手帳交付者数)は,平成5年度末で61,817人で,市民のうち,約30人に1人が何らかの障害を持っていることになります。
これを昭和60年度末の40,118人と比較すると,数にして21,699人,率では54%増と急激に増加しています。この間の全市の人口の伸び率は,12%であることから,障害者の増加率は大きなものがあるといえます。
増加の傾向は,特に知的障害者数で著しく,昭和60年度と平成5年度を比較すると,数にして2,819人,率では95.9%増と大幅に増加しています。
また,身体障害者でも,18,880人,50.8%の増となっています。
増加の原因はさまざまに指摘されていますが,平成5年度の本市の実態調査によると,障害の原因として,身体障害で「疾病」の割合が半数を超えています。
疾病などにより障害者になる可能性の高い高齢者人口の増加が見込まれることから,今後も,障害者人口の増加の傾向は続くと予想されます。
障害者数の推移 (人・%)
年次 | 人工 | 身体障害者 | 知的障害者 | 計 | 人口に占める割合 |
---|---|---|---|---|---|
昭和60年度 | 1,542,979 | 37,180 | 2,938 | 40,118 | 2.6% |
平成2年度 | 1,671,742 | 48,814 | 4,715 | 53,529 | 3.2 |
3年度 | 1,696,056 | 51,130 | 5,255 | 56,385 | 3.3 |
4年度 | 1,716,624 | 53,526 | 5,486 | 59,012 | 3.4 |
5年度 | 1,731,670 | 56,060 | 5,757 | 61,817 | 3.6 |
(注)人口のうち、平成2年までは総理府統計局「国勢調査」。平成3・4・5年は、期確証政局企画部による推計。障害者数は、民生局障害福祉部による手帳交付者数。
人口は各年10月1日現在であり、障害者数は各年度末現在である。
(2) 障害の重度化・重複化
障害者人口が増加する一方で,障害の重度化の傾向が著しくなっています。
特に,身体障害児・者でこの傾向が見られ,身体障害者数に占める重度障害者(1・2級)の割合は,昭和60年度には全体の39.4%でしたが,一貫して上昇を続けており,平成5年度では45.6%と半数近くを占めるようになっています。
また,身体障害児では,重度児が全体の67.5%と7割近くを占めるなど,より重度化の傾向が著しくなっています。
一方,実態調査によると,重度者ほど障害の重複をかかえる割合が高くなっており,特に身体障害と知的障害の重複障害が多いという結果になっています。
等級別障害者数の推移
年次 | 身体障害者 | 知的障害者 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
重度 | 中軽度 | 重度者の割合 | 合計 | 重度 | 中軽度 | 重度者の割合 | 合計 | |
昭和60年度 | 14,661 | 22,519 | 39.4% | 37,180 | 1,355 | 1,583 | 46.1% | 2,938 |
平成2年度 | 21,315 | 27,499 | 43.7 | 48,814 | 2,006 | 2,709 | 42.5 | 4,715 |
3年度 | 22,718 | 28,412 | 44.4 | 51,130 | 2,221 | 3,034 | 42.3 | 5,255 |
4年度 | 24,114 | 29,412 | 45.1 | 53,526 | 2,302 | 3,184 | 42.0 | 5,486 |
5年度 | 25,562 | 30,498 | 45.6 | 56,060 | 2,413 | 3,344 | 42.0 | 5,757 |
(注)障害者数は、各年度末現在
重複障害者の割合
区分 | 療育手帳重度 | 療育手帳中軽 | 区分 | 身障手帳重度 | 身障手帳中軽 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
身体障害者 | 重度 | 1.5 | 0.0 | 知的障害者 | 重度 | 16.3 | 3.5 |
中軽度 | 1.4 | 1.0 | 中軽度 | 4.7 | 6.1 | ||
身体障害児 | 重度 | 8.9 | 2.2 | 知的障害児 | 重度 | 20.2 | 2.4 |
中軽度 | 19.5 | 4.7 | 中軽度 | 0.0 | 2.8 |
(注)数値はそれぞれの障害区分の手帳所持者の割合であり、横軸の障害区分の者が、他にどのような手帳を持っているかを示したもの。
資料:「平成5年度札幌市心身障害(児)者実態調査」
(3) 障害の実態
障害の種類でみると,身体障害者では「肢体障害」が全体の60.1%を占め,次いで「内部障害」の18.8%,「聴覚障害」の10.6%の順となっています。
最近は,成人病などの増加に伴い,「内部障害」の増加が大きく,昭和60年度と比較すると,約2.3倍と急激に増加しています。
また,知的障害児・者では重度者(療育手帳A)が,全体の41.9%を占めています。全体の数では昭和60年の約2倍に増加しており,障害者数の増加の傾向が著しくなっています。
障害別身体障害児・者数の推移 (人・%)
年次 | 障害区分 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
視覚 | 伸率 | 聴・言 | 伸率 | 肢体 | 伸率 | 内部 | 伸率 | |
昭和60年度 | 4,204 | - | 4,879 | - | 23,677 | - | 4,480 | - |
平成2年度 | 5,041 | 2.5% | 5,855 | 3.3% | 29,790 | 4..4% | 8,128 | 11.1% |
3年度 | 5,133 | 1.8 | 6,045 | 3.2 | 31,058 | 4..3 | 8,894 | 9.4 |
4年度 | 5,222 | 1.7 | 6,263 | 3.6 | 32,367 | 4..5 | 9,674 | 8.8 |
5年度 | 5,335 | 2.2 | 6,488 | 3.6 | 33,694 | 4..1 | 10,543 | 9.0 |
(注)伸率は、対前年度比である。障害者数は、各年度末現在
障害等級別知的障害児・者数の推移 (人・%)
年次 |
重度 |
伸率 |
中軽度 |
伸率 |
合計 |
伸率 |
昭和60年度 |
1,355 | - | 1,583 | - | 2,938 | - |
平成2年度 | 2,006 | 5.6% | 2,709 | 9.0% | 4,715 | 7.5% |
3年度 | 2,221 | 10.7 | 3,034 | 12.0 | 5,255 | 11.5 |
4年度 | 2,302 | 3.6 | 3,184 | 4.9 | 5,486 | 4.4 |
5年度 | 2,413 | 4.8 | 3,344 | 5.0 | 5,757 | 4.9 |
(注)伸率は、対前年度比である。障害者数は、各年度末現在
(4) 障害者世帯の状況
人が生活する場である家庭環境の変化は,介護,在宅施策を推進するうえで,大きな意味を持っています。
本市の実態調査によると,身体障害者世帯では,世帯員が「2人以下」の家庭が約半数であり,次いで「3人世帯」(20.4%)となっています。
また,知的障害者では2人以下の世帯が36.6%,3人(25.9%)となっており,家庭での介助が少ない世帯員によって担われている状況となっています。
介助の状況については,主な介助者は「妻または夫」「子ども」「父母」がほとんどとなっています。
世帯の人数
- | 一人ぐらし | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | 6人以上 | 無回答 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
身体障害者 (N=2,104) |
16.4 | 34.2 | 20.4 | 14.4 | 7.7 | 6.4 | 0.4 |
知的障害者 (N=378) |
27.8 | 8.5 | 25.9 | 22.0 | 10.6 | 5.0 | 0.3 |
身体障害児 (N=477) |
2.1 | 2.1 | 21.0 | 43.0 | 22.6 | 9.2 | 0 |
知的障害児 (N=241) |
2.5 | 1.7 | 22.4 | 42.7 | 22.8 | 7.9 | 0 |
資料:平成5年度札幌市心身障害(児)者実態調査
(5) 障害者の疾病と医療機関への受診状況
実態調査によると,本市の障害者の医療機関への受診率は全国値を大きく上回っており,「年間で31日以上の通院者」は,全国調査が19.7%であるのに対し,本市は38.7%となっています。
また,重度障害者では25.0%と,4人に1人が入院しており,各政令都市などと比較しても,本市の医療機関への受診率が高いという傾向になっています。
これからは,疾病の早期発見,早期治療体制やリハビリテーション体制の充実,在宅ケアシステムの整備などが求められ,障害があっても地域で安心して暮らせる環境づくりが必要になっています。
各政令指定都市との比較
- | 受診率 | 一人当たり助成額(千円) | - | 受診率 | 一人当たり助成額(千円) |
---|---|---|---|---|---|
札幌市 | 1,740.3% | 197千円 | 大阪市 | 1,522.3% | 127千円 |
川崎市 | 457.0 | 36 | 神戸市 | 662.6 | 47 |
横浜市 | 1,404.6 | 100 | 広島市 | 1,715.2 | 98 |
名古屋市 | 1,607.1 | 116 | 北九州市 | 1,672.0 | 226 |
京都市 | 1,344.4 | 124 | 福岡市 | 1,511.2 | 177 |
(注)受信率は一年間の受信件数(現物給付のみ・平成5年度末現在)
資料:保険医療部「札幌市重度心身障害者数医療助成事業」
(6) 障害児・者福祉施設の状況
札幌市の障害児・者福祉施設の設置状況は,平成6年3月31日現在,児童福祉施設12カ所,身体障害者更生援護施設9カ所,知的障害者の援護施設24カ所となっており,着実に整備を図ってきました。
障害者の増加とともに,住み慣れた地域で生活しやすいように,多様な施設ニーズに対応した施設整備を進めていく必要があります。
障害者福祉施設の整備状況 (ヵ所・人)
- | 児童福祉施設 | 身体障害者更正援護施設 | 知的傷害の更正援護施設 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
施設数 | 社員 | 施設数 | 社員 | 施設数 | 社員 | |
昭和63年 | 10 | 854人 | 9(2) | 390人 | 17(3) | 813人 |
平成元年 | 10 | 854 | 9(2) | 390 | 19(3) | 902 |
平成2年 | 10 | 854 | 9(2) | 390 | 20(3) | 932 |
平成3年 | 10 | 846 | 9(2) | 400 | 20(3) | 936 |
平成4年 | 10 | 846 | 9(2) | 400 | 23(3) | 1,041 |
平成5年 | 12 | 929 | 9(2) | 400 | 24(3) | 1,093 |
(注)
- ()内の施設数は、入所施設数のおける通所事業実施施設をあらわし、別掲である。
- 身体障害者更生援護施設の定員は、身体障害者が利用する身体障害者福祉センターなどの3施設は含まない。
- 施設数には、道立施設を含む
(7) 就労の実態
平成6年6月1日現在の札幌公共職業安定所,札幌東公共職業安定所管内における民間企業での障害者就業状況は,3,472人となっており,年々,就業者数も増加してきています。
しかし,障害者雇用率は増加しているものの,法定雇用達成企業数の達成率は下がってきている傾向にあることから,一層の障害者の雇用促進に努める必要があります。
民間企業への障害者就業状況
- | 企業数 | 法定雇用達成企業数(達成率) |
対象労働者数 |
うち障害者数(雇用率) |
---|---|---|---|---|
平成元年 | 729 | 369(50.6%) | 183,097 | 2,601(1.42%) |
平成2年 | 760 | 383(50.4%) | 190,155 | 2,732(1.44%) |
平成3年 | 871 | 473(54.3%) | 206,769 | 3,023(1.46%) |
平成4年 | 871 | 417(47.9%) | 212,813 | 3,134(1.47%) |
平成5年 | 921 | 435(47.2%) | 218,653 | 3,317(1.52%) |
平成6年 | 977 | 452(46.3%) | 228,541 | 3,472(1.52%) |
資料:本表は、各年6月1日現在の札幌公共職業安定所、札幌東公共職業安定所管内における調査結果。
(注)民間企業の規模は、63人以上。障害者数には、2級以上の障害者及び3級の障害を2つ以上重複してもつ者については、同一人を2人として計上
主題:
札幌市障害者福祉計画 No.1 1頁~18頁
発行者:
札幌市
発行年月:
平成7年5月
文献に関する問い合わせ先:
〒060 札幌市中央区北1条西2丁目
札幌市民生局障害福祉部
TEL (011)211-2936