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第12回~15回の報告 -リレー推進会議レポート4-

尾上浩二(おのうえこうじ)
DPI日本会議事務局長

 今年1月から始まった障がい者制度改革推進会議の議論も一つの山を超えた。前・福島みずほ担当大臣からは「改革のエンジン部隊として歴史を変える議論を」との指示を受けて、月に2~3回、1回4時間とハイピッチで議論が進められてきた。

 そして、半年に及ぶ議論を経て、6月7日に「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」(以下、第一次意見と略)がまとめられた。

 本稿で取り上げる推進会議の第12回~15回目は、この第一次意見の最終取りまとめの時期であった。そのため、主に構成員と事務局との間でやりとりが進められた。

第12回(5月24日)

 まず、推進会議担当室の東室長より、第一次意見の素案が示された。この第一次意見について「第一次意見であって最終報告ではない。これまでの議論の主立った部分を中心に書いている。今後12月にまとめる予定の第二次意見に足りない点や、今後議論する部分は反映させる」といった基本的な性格についての指摘がなされた。

 また、「推進会議としての問題認識」を示すとともに、政府全体としてどういう方向で改革を進めていくかというスタイルでまとめる、そのため、一方で推進会議で意見集約を行いながら、各省庁との調整も並行して進めていくとの説明もなされた。その上で、素案の章立てに沿って議論が進められた。

 素案では冒頭に、戦前・戦後から現在に至る施策の経緯が詳細に述べられていた。だが、この点は、歴史をどう捉えるかといった問題とも関係し、構成員からも多様な意見が出されたこともあり、「施策の経緯」については推進会議メンバーの中から起草チームをつくり、文案をまとめることになった。

 続いて、「Ⅱ障害者制度改革の基本的考え方」では、「地域で生活する権利」ということを明記すべき、家族依存からの脱却や病院・施設からの地域移行といったことを打ち出すべき、といった意見が出された。

 「Ⅲ障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方」では、差別禁止法の制定と合わせて欠格条項等の差別的な規定の見直しが必要といった意見や、言語・コミュニケーションの権利の明記、モニタリング・人権救済機関の設置について等の意見が提起された。

 さらに、その後の各論では、賃金補てんをはじめとする福祉と労働にまたがる問題の解決、インクルーシブ教育の実現、社会的入院や強制医療等の精神医療の問題、医療的ケア、虐待防止、政治参加等についても重要な指摘がなされた(一つ一つ紹介する紙幅は与えられていないので、インターネットで配信されている動画等でご確認いただきたい)。そして、障害のある女性や地域間格差の問題等についても、さらに記述を深めるような提起がなされた。

 この回の議論で、知的障害者等向けの「わかりやすい第一次意見」を作成していくことや、重要なキーワードである「障害の社会モデル」についての注釈を作ることも決められた。

第13回(5月31日)

 引き続き第一次意見の取りまとめに向けた議論が主要な議題であったが、冒頭に「地域主権改革」についての担当部局からのヒアリングが行われた。

 「地域主権改革」の検討では、障害者計画の義務づけやバリアフリー法・基本構想策定の当事者参画の義務づけの廃止や、障害者福祉予算等も含めた国からの予算の一括交付金化の議論がなされてきていた。ただ、障害者制度改革では、これまでの施設・病院中心の施策から地域生活中心に転換しようとしている。どこに住んでも地域で必要な支援を受けて安心して暮らせるようにすることが必要だ。そのためには、地域基盤整備を国レベルで行い、地域間格差を解消することが重要となる。そうした障害者制度改革の方向と齟齬が起きないようにしてほしいとの意見が、複数の構成員から出された。

 続いて、前回の会議で決められた起草チームから「はじめに」の序にあたる部分の文案が示された。序の部分は、コンパクトにまとめ、障害者施策の経緯の詳細については、整理した上で文末に持っていくとの提案があった。

 前回に続いて、第一次意見に関する意見交換が進められた。前回の議論を受けた修正版を元に議論を行った。地域主権改革の動向も踏まえて地域間格差の解消の明記を求める意見や、障害の表記についての速やかな検討、実態調査等を改革の方向性の中に盛り込む提案がなされた。また、各論では、前回の議論に加えて、所得保障や情報保障・コミュニケーション等、多岐にわたる分野について意見が出された。

第14回(6月7日)

 この4月から推進会議の下に総合福祉部会が設けられ、月1回のペースで議論が進められてきた。この時の会議の冒頭で、総合福祉部会から推進会議に報告がなされた。一つは、総合福祉法の実施までに必要な「当面の課題」についてである。総合福祉法は遅くとも2013年8月までに実施されることになっているが、それまでに必要な対応についてまとめた文書である。もう一つは、推進会議の尊重を求める要望書である。当面の課題をまとめる議論をしていた最中に、情報提供もなく「自立支援法一部改正」が進められようとしたことに対して「強い遺憾の意」を表明するとともに、推進会議や部会での議論が尊重されることを求めたものである。

 以上、2点が佐藤・総合福祉部会長から報告されるとともに、当面の課題については、第一次意見とともに推進本部に配布されること、また、推進会議の議論尊重の要望書を推進本部に上げることが確認された。

 続いて、第一次意見の取りまとめの最終確認的な議論が進められた。起草チームから示された序並びに歴史的な経緯についての取り扱いが確認された。また、社会モデルの解説についても起草に当たった福島構成員から文案が示され、検討がなされた。障害の表記の今後の検討予定や各論についての最終確認的なやりとりが相次いだ。これらの議論を踏まえて、第一次意見の最終取りまとめを行うことが了承された。

第15回(6月28日)

 冒頭、東室長より、翌日開催される推進本部の際に、第一次意見を本部長である菅総理大臣に手渡すことが報告された(翌日手渡され、同日、「第一次意見を最大限尊重する」とした閣議決定がなされた)。その後、今後の障害者基本法の抜本改正に関連して、検討を要する分野、これまで議論をしていない分野についての議論が進められた。

 住宅確保の部分では、障害者が自分で住みたい場所、地域で暮らせるようにすることが必要、社会保障政策の重要な分野として住まい方支援を位置づけるべきといった意見が出された。また、これは現行の障害者基本法全体に言えることだが、障害者は施策の対象として位置づけられているので、これを障害者は地域で住む権利を有する、そのために行政はこうした施策を行うという書き方にすべきだ、といった意見も出された。

 文化・スポーツについては、文化とスポーツはそれぞれ固有の重要な領域であるから別々に議論をすべき、障害のない人と平等に享受できる、そして、社会を豊かにする活動でもあることを強調すべきといった意見が出された。

 発生・予防については、前身の心身障害者対策基本法の時には「障害の発生予防」としてトップにあった、その尾ひれが残っており、発生予防の項目を削除した上で、難病施策は別の項目に入れるべきとの意見があった。

ユニバーサルデザインについては、当事者が担い手として参画できる体制や評価システム、柔軟に見直せる仕組みの重要さを指摘する声が相次いだ。

 最後に、今後の予定として、総合福祉部会に続いて差別禁止法部会を立ち上げていくこと、JDF等の協力も得て地方フォーラムを開催していくこと等が示された。

第一次意見の意義と今後の課題

 7月に参議院選挙を控えている中、何としても6月上旬には第一次意見をまとめあげなければならない―東室長をはじめとする推進会議メンバー全体のそうした共通の意志の下、何とか第一次意見がまとまった。

 第一次意見は、「私たち抜きに私たちのことを決めるな」との書き出しから始まる。その目次の見出しには、これまで障害者運動の中で語られてきた言葉がずらっと並ぶ。「権利の主体」「差別のない社会づくり」「社会モデル」「地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会」「言語・コミュニケーションの保障」…このようにキーワードをピックアップしただけでも、これまでの政府機関の報告には見られなかった言葉が並んでいることが分かる(もちろん、各省庁との調整の関係等でさらに詰めていかなければならない点があることは言うまでもない)。

 第一次意見には画期的な内容が含まれていることは確かだが、一方で、過剰とも言える反応も一部に見られる。無用な誤解を解くために、少し解説をしたい。

 障害者権利条約では、インクルーシブな教育制度の確保が必要とされている。第一次意見でも、「障害者が差別を受けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)の実現」が記されている。ただ、そのことをもって、「来年から特別支援学校が無くなる」といった受け止め方も、残念ながら聴こえてくる。

 推進会議全体として合意した問題認識として、第一次意見では次のように記されている。「障害の有無にかかわらず、すべての子どもは地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則とし、本人・保護者が望む場合のほか、ろう者、難聴者又は盲ろう者にとって最も適切な言語やコミュニケーションの環境を必要とする場合には、特別支援学校に就学し、又は特別支援学級に在籍することができる制度へと改める」

 まずは障害のあるなしで入口を分けない仕組みにしようとしているのであって、「特別支援学校の廃止」云々の記述は第一次意見にはない。

 障害のあるなしにかかわらず地域の学校に行けるようにし、希望する場合は特別支援学校等を選べる。そして、どこで学んでも必要な合理的配慮と支援を得られるような仕組みにしようというのが、推進会議としての問題認識である。だから、こうした仕組みになっても、希望する本人や保護者が特別支援学校を選べなくなるわけではない。また、そうした方向に沿った仕組みは、すでにいくつかの自治体で実施されており、現実にかなった制度でもある。こうした点は、推進会議の一構成員としては丁寧に伝えていきたいと思う。

 もう一点、この第一次意見で示されている日程について触れておきたい。 来年の通常国会を皮切りに向こう3年間は、障害者政策をめぐって重厚な法律が毎年の通常国会に出される、その全体像を確認しておくことが重要だ。2011年に障害者基本法、2012年に障害者総合福祉法(仮称)、2013年に障害者差別禁止法という日程だ。いずれも、5年、10年に一度といっていいような法律の準備を、これから毎年していくことになる。

 さしあたって、これから年内にかけて第二次意見の取りまとめが重要になってくるだろう。その中で第一次意見で不足している部分は補いつつ、障害者基本法の抜本改正に重なる内容を準備していかなければならない。「抜本改正」の名に値するだけの改正を何としても実現し、そのことによって各分野の議論・検討に影響を与えていけるような展開にしていきたい。そのためには、推進会議のメンバーがその責任を果たさなければならないことは言うまでもないが、制度改革の動向に多くの注目が集まり、障害当事者・関係者の声が高まることが極めて重要だ。

 なお、第一次意見をまとめていた時期に、福島みずほ大臣が退任されることになった。担当大臣として、国会開会中も含め超多忙な日程の中、毎回の推進会議に参加され、構成員の議論を後押しするようなご挨拶をいただいていた。本稿の最後にお礼を申し添えておきたい。


原本書誌情報
尾上浩二.第12回~15回報告(リレー推進会議レポート4).ノーマライゼーション 障害者の福祉.2010.9,Vol.30, No.9, p.38-41.

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2010年9月号の特集は「推進会議と新たな障害者政策の方向」です。