第36回報告 -リレー推進会議レポート14-
川﨑洋子(かわさきようこ)
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事長
理念的視点の転換
まず最初に、この「基本計画」は平成14年に策定され、この10年間の障害者問題の変化を踏まえ、理念的視点の転換が求められるとの意見が出された。
現行の基本計画は「リハビリテーション」と「ノーマライゼーション」の理念に基づいているが、この10年の国際的な障害者に関する制度として大きく取り上げられるのは、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」である。この条約の目指すことは、保護の客体でしかなかった障害者を権利の主体へと転換し、インクルーシブな共生社会の創造にある。この条約の批准に向けて、日本も障がい者制度改革推進体制が築かれ、現行の障害者施策の見直しが行われている。障害者基本法の改正は実施され、障害者総合福祉法、障害者差別禁止法が制定されようとしている。
これらの制度改革の基本的な考え方は、障害者権利条約の人権の保障である。どんなに重い障害をもっていても、地域で生活できる権利を有することである。基本計画もこの考えに則って見直されなくてはならない。
「障害者基本計画」の見直しに向けて
資料として出された「障害者基本法」(今回改正されたもの)の見出し一覧と現行の「基本計画」(平成14年の閣議決定のもの)の枠組みを参考に意見交換がなされた。 「基本計画」の分野別施策の8項目の基本的方向についての意見を報告したい。
◇啓発・広報
今回の制度改革の大きな視点は、障害者を医学モデルから社会モデルという観点に位置づけたことである。今後の啓発は国民がこのことを広く理解するような活動が必要である。
◇生活支援
生活支援の基盤とも言える相談支援体制の整備が十分でないことが指摘された。特に、地域自立支援協議会が全市町村にいまだに設置されていないことに関しては、早急に解決されるべきとされた。
また、地域移行に関しては、精神障害者の地域生活への移行が進まないことは長年の課題で、地域の社会資源として住む場の確保、所得保障、24時間の相談支援体制の充実が強く要望された。
◇生活環境
住宅、建築物、公共交通機関等のハード面に関しては、バリアフリー化が進められてきたが、今後はこころのバリアフリーに対する国民の理解の必要性が強調された。
◇教育・育成
障害児者の個別支援を行うためには、各関係機関等の連携による支援が必要であるが、活用されていない状態である。今回の制度改革でも言及されたことであるが、教育、福祉、医療、保健、労働関係機関などが連携し情報を共有して、一人ひとりのニーズに応じる支援体制が必須である。
◇雇用・就労
就労して社会参加でき、職業的な自立を図ることは、障害者が生きがいをもって生活するためには、重要なことである。しかしながら、障害者雇用の促進に関しては、多様な制度が実施されているが、働くことを希望する障害者の需要を満たしていない。障害者基本法の障害の範囲を考えると、障害者雇用率制度の見直しも必要となり、今後の課題である。
◇保健・医療
「基本計画」は障害の予防・早期発見・早期治療を掲げ、うつや自殺防止を目指したが、自殺者数は毎年3万人を超えている。
早期発見・早期治療には、訪問型の支援体制が必要と言われている。「障害者総合福祉法」の骨格提言にもある多職種チームによる訪問支援体制の構築が必要である。
◇情報・コミュニケーション
今回の東日本大震災の経験から、障害特性に対応した情報提供の必要性が明らかになった。「基本計画」にも聴覚障害者情報提供や字幕番組、手話番組の制作の促進・視覚障害者への広報媒体として「音声広報CD」や「点字広報誌」の充実が図られているが、さらなる充実が望まれる。また、手話通訳者、盲ろう者通訳・介助者などの不足があり、人材養成が必要とされた。
◇国際協力
国連の「障害者権利条約」の締結に関しては、わが国の障害者も多く参加した。その結果、わが国の障害者制度の在り方を考える「障がい者制度改革推進体制」が作られ、いまや障害当事者・家族の立場から制度の改革が行われようとしている。
国際的な視野から、障害者制度は考えられるべきである。特に差別的な精神障害者の社会的入院問題は、他の国にはあり得ない状態であり、国際的な非難のもと改善されるべきと考える。
精神障害に関する制度は、いまだに医学モデルとしてとらえられ、社会保安のための制度であることは、国際的にも恥ずべきことである。
今回の「基本計画」の見直しでは、精神障害者とその家族が地域社会で差別されることなく、人権が保障されて生活できるような制度の改革と「基本計画」が策定されることを強く要望するものである。
原本書誌情報
川﨑洋子.第36回の報告(リレー推進会議レポート14).ノーマライゼーション 障害者の福祉.2012.1,Vol.32, No.1, p.42-43.
月刊「ノーマライゼーション障害の福祉」2012年1月号 目次
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