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障がい者制度改革推進会議第1~5回レポート -リレー推進会議レポート1-

佐藤久夫(さとうひさお)
日本社会事業大学教授
推進会議構成員
推進会議総合福祉部会部会長

はじめに

 24人の構成員のうち12人が障害当事者、2人が家族で、(広義の)当事者が過半数の推進会議が2010年1月から動き始めた。その意義と初期の検討状況、課題については、本誌3月号に山崎公士がすでに丁寧に紹介している。

 この推進会議の目的は、障害当事者の意見を十分聞かずに決められた従来の障害者法制度を、障害者の意向を主軸に抜本的に改革することである。その改革の基準は、障害者権利条約と障害者自立支援法違憲訴訟裁判の原告・弁護団と政府との基本合意書とされる。

 これまで、表1の日程と主なテーマで第1ラウンドの検討がなされてきた。今夏までには改革の骨子がさらに議論されて確定されるが、本稿では第1回から第5回までの主な論点を紹介する。当然、筆者個人の意見や評価である。

 内閣府の障害者施策のHP(http://www8.cao.go.jp/shougai/index.html)で、文書意見、議事概要、議事録、ビデオが公開されている。議事概要は手っ取り早いが口頭発言を中心に整理したものであり、総合的に理解するには文書意見も参照する必要がある。

1 障害者基本法の改正

 まず、この法律の「基本的な性格」 は、現行では国や自治体の義務(いくつかは強制的な義務だが多くは努力義務)を定めるものであるのに対して、障害者の権利を前面に掲げ、それを実現するために、国・自治体の義務を明記する方向となった。また、個別分野法を拘束する力をもっと持たせるべきとの意見も出た。

 第2に、「地域で生活を営む権利」や「手話を言語とする」ことなど、基本的な権利を規定すべきとの意見が多く述べられた。

 第3に、「障害(者)の定義」については、発達障害、高次脳機能障害、難病等のいわゆる「制度の谷間」と言われてきた障害のある人が適切に含まれなければならないとの合意が見られた。

 第4に、政策・計画策定への当事者参加の規定が必要であり、障害者団体を財政的に支援する制度を検討すべきとの意見が出された。

 第5に、基本法改正で新設すべき項目として、 政治参加、司法参加、虐待防止、国際協力、障害児施策、障害者実態調査などが指摘された。

 機能障害種別の縦割りを解消するのが2006年からの障害者自立支援法の「売り」のひとつだったのに、障害者実態調査の統合はなされなかった。また、科学的な実態に基づかない政策立案が大きな混乱と当事者の苦痛を招いた。従来の施策評価は、政策対象者の生活・社会参加の変化によってではなく、事業の実施件数・か所数や予算によってなされてきた。従って、今後は障害者の生活実態を計画・政策立案とその評価の基礎とすべく、総合的な障害者実態調査を実施すべきである。これは、福祉法より総合法である基本法に規定すべきであろう。

 なお、一般国民を対象とした既存の調査の中に障害の有無を問う設問を入れて、非障害者との比較ができるようにすべきとの意見も出された。

 第6に、権利条約の実行状況をモニターするために、独立性と権限を持った監視機関が必要だとの合意も形成された。

 以上のように、大幅に改正される方向となった。名称に「権利」という言葉を入れるべきとの意見も出た。ただし、障害者の権利保障のための法律へと性格を変更するにしても、基本法であり理念法であるので、具体的な権利義務を明記し、手続き規定を備えたものにはならないと思われる。その役割は実体法が担うことになろう。

 やがて障害者権利条約の批准が予定されているが、条約も基本法も憲法と実体法の間に位置づけられ、障害者の権利保障という点で内容的にも類似する。屋上屋という感がないでもない。しかし条約は勝手に改正はできないのに対して、障害者基本法は日本独自のもので、必要に応じて改正できるものであるので、おのずと役割は異なる。

2 「障がい者総合福祉法」(仮称)の制定

 すでに新政権は障害者自立支援法の廃止を公約で掲げているので、推進会議での課題は、それに代わる新しい障害者福祉の法律をどうするかである。

 推進会議では、まず地域社会で生活する権利とそのための支援請求権の明記が必要とされた。

 第2に、自立の概念をどう考えるかについては、「必要なら支援を利用することを含めた自己決定」との理解がほぼ共通であった。筆者は、世間では多義的に使われている「自立」を障害者分野が独自に定義しても通用しないので、修飾語抜きの「自立」はやめて、代わりに「身辺自立」、「自己決定」などの語を使ったらどうかと述べた。すると、「自己決定という言い方は自己責任に結びつく危険がある」との懸念も表明された。確かにそうだとは思いつつ、「自立=自己責任」という考えでは重度障害者の尊厳が守られないから「自立=自己決定」という自立観を生み出したのに、と思った。

 障害者福祉の目的は自立でなく社会参加なのに、つまり自立は目的ではなく手段なのに、なぜ人々は自立(の議論?)が好きなのかと不思議であった。

 第3に、障害者の範囲は機能障害を要件としつつも支援の必要性で定義する合意がほぼ得られた。

 第4に、サービス体系については、障害福祉サービスと地域生活支援事業の区分を含めて大幅な見直しをすべきとされた。筆者はこの際、自立支援医療と自治体での障害者の医療費公費負担制度を含めて全体として見直すべきであり、福祉の中で扱うべきではないのではないか、手話通訳などのコミュニケーション保障とテレビ・インターネット・政見放送などの情報保障も福祉法におく時代ではないのではないか(久松構成員も同意見)、就労関係施設は雇用の枠組みに移し、必要な支援によって労働法(最賃、労災など)の対象とすべきではないか、と「障害者福祉の概念」の再検討も示唆した。

 障害者のことだからと、何でも福祉で担当するしか解決策がなかった歴史を転換するよい機会であろう。

 とはいえ、2013年8月には新法を実施するという「基本合意書」の日程を考えると、関連制度を含めた見直しの時間があるかどうか微妙である。

 第5に、 サービス支給決定については、障害程度区分を廃止して支援ニーズを専門的に評価する方式が支持された。この過程にケアマネジメント、セルフマネジメント、権利擁護支援などを組み込む必要性が合意された。

 第6に、入所施設・病院からの地域移行を実質的に進めること、重度障害者の24時間介護の保障などが必要とされた。 第7に、 利用料負担のあり方については、応能負担から無料まで多様であった。

3 障害者雇用

 まず、障害者雇用の対象者は、医学的基準中心のものではなく職業上の困難で定義することとし、障害種別による制度的格差を解消すべきとされた。

 第2に、雇用率・納付金制度については、多くが雇用率・納付金額アップを求めていた。重度障害者を雇用率上1人で2人分とみなすダブルカウントは廃止すべきとの意見が多く、残すべきの意見は筆者など少数であった。雇用率制度は残しダブルカウントは廃止する場合、重度障害者の雇用をどう確保するのか、明確ではなかったことは不思議であった。

 第3に、 雇用者側の「合理的配慮」義務を規定すべきであり、そのガイドライン作りが重要との合意が得られた。

 第4に、福祉的就労、保護雇用、社会雇用、賃金補填の課題では、多くは福祉的就労という概念自体をなくして、働く障害者には最低賃金や労働災害などの労働法規を適用すべきとの意見であった。

 筆者は、今後の日本の障害者雇用は、雇用率、差別禁止、社会雇用の3輪車とすべきと述べた。社会雇用の特徴は、障害のために労働能力が低下している人でかつ「合理的配慮」によっても通常の最低賃金(あるいは最低賃金プラスアルファ)を稼ぎ出すことが困難な人を対象に、不足分を国・社会が補助することによって企業・事業所の負担を軽減し、その人が労働法規の対象となる労働者として社会参加できるようにする制度である。すでに国に先駆けて滋賀県、大阪府箕面市、神奈川県内の横須賀市などの自治体が実施している。就労継続支援などの福祉サービス利用者であるよりも本人の収入は多く、生きがいは高く、行政からの財政支出は低いと報告されている。

 社会雇用は、個別企業の責任で雇用する差別禁止、集団としての企業に任せる雇用率制度とあいまって、社会(国)と障害者本人の力で雇用されるようにするものである。ただし、障害年金との調整(年金を受けられる場合は賃金補填を減額する)や、最低賃金額・障害年金額・生活保護額の関係の整理など大きな検討課題がある。

4 障害者差別禁止法の制定

 まず、障害者差別禁止法の必要性について合意された。障害者のみを対象にした差別禁止法は好ましくないとの意見はないようであった。

 第2に、障害者差別の類型として、直接差別、間接差別、合理的配慮の否定の3つがあるとのおおむねの合意が見られた。筆者には後二者の違いが明確ではなかったが。

 第3に、カバーすべき分野として、雇用、教育、サービス、情報、交通、などあらゆる分野を規定すべきとの合意も見られた。

 第4に、「差別禁止に抵触する法制度」についても議論がなされた。被後見人の選挙権停止などまだ残る多数の欠格条項、精神保健福祉法の保護者制度、学校教育法の原則分離教育、などが指摘された。

 第5に、行政から独立した救済機関が必要であり、その活用を含めて相談支援できるシステムが必要との合意も見られた。

5 障害者虐待防止法の制定

 まず、障害者手帳所持者に対象を限らない虐待防止法が必要との一致が見られた。

 第2に、虐待行為者の範囲として、介護者、福祉従事者、使用者、学校関係者、医療従事者などが例示されたが、行政関係者、警察・司法関係者などもカバーすべきであり、介護者以外の家族も虐待する可能性があるなどの意見が出た。漏れを生まないために、範囲を列挙しないほうがよいとの意見も出た。

 第3に、虐待の類型として、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト、経済的虐待の5つが適当であるとの合意がほぼ見られた。

 第4に、虐待を発見した者への通報義務(または努力義務)を課すとともに、誤解で通報した場合の免責規定も必要とされた。

 そのほか、救済機関、相談支援システムについても議論された。「高齢者」、「児童」など他の制度との統合された機関とするか、障害者独自のものとするか、については意見が分かれたが、後者が多かった。

6 「障害」の表記

 (法制度上での)「障害」という表記を見直すべきかどうかについては、見直すべきという意見とその必要はないという意見とに分かれた。後者には、自分たちはすでに環境によって生み出された困難という意味で「障害」を使っているので、変える必要はない、などであった。

 そうした構成員を含めて、変えるとすれば「障碍」が望ましいという意見が多かった。ただし「障碍」も「障害」も会話では同じ発音であり、あまり大きな変更にはならないとの不満感も多い。「チャレンジド」などへの支持はなかった。

 東俊裕室長はまとめ的発言で、このテーマは引き続き障害当事者などの意見を聞きつつ検討すること、法律上の表現をどうするかはさておき、「碍」を使いたいという人がいるので、これを常用漢字に含めるよう文科省文化審議会に要望すべきではないか、と述べた。

7 障害児教育

 障害児の教育では、現行では一定以上の障害があると、原則として特別支援学校や特別支援学級に就学することとされており、通級による指導や交流教育などが進められてはいるが、基本が分離的な教育となっている。障害者権利条約のいうインクルーシブ教育をどう実現するかが課題とされた。

 そして、原則として地域の小中学校の通常学級に学籍を持つこととし、できるだけそこでの配慮された教育を受けつつ、同時に、親の希望によって特別支援学級や特別支援学校を併用できるようにする、という方向性にほぼ合意が得られた。

8 政治参加

 選挙公報・政見放送などの情報保障の不十分さが、特に視覚障害者・聴覚障害者から指摘され、これらの改善が課題とされた。

 第2に、ここでも成年被後見人の選挙権の欠格が問題とされた。財産管理などの判断能力が弱いからといって、応援したい人を選ぶ力がないわけではないから当然であろう。

 第3に、投票所のバリアフリーや投票所まで行けない人の投票権の確保が課題とされた。施設などでの「不在者投票所」の指定をより柔軟にとの意見や、逆に不正が起こりやすいので、この制度を廃止すべきとの意見も見られた。

 第4に、障害者団体の結成やその活動を公的に支援することについて、多くの構成員が賛成であるとした。

表1 「推進会議」の日程と主なテーマ

第1回 2010年1月12日 議長選出、運営、日程等
第2回 2010年2月2日 障害者基本法
第3回 2010年2月15日 障害者自立支援法、総合福祉法
第4回 2010年3月1日 雇用、差別禁止法、虐待防止法
第5回 2010年3月19日 障害の表記、教育、政治参加
第6回 2010年3月30日 障害児、医療、司法手続き
第7回 2010年4月12日 交通・建物・情報アクセス、所得、財政
第8回 2010年4月19日 団体ヒアリング
第9回 2010年4月26日 省庁ヒアリング(文科・総務・法務)
第10回 2010年5月10日 省庁ヒアリング(総務・厚労・国交)
第11回 2010年5月17日 省庁ヒアリング
第12回 2010年5月24日  

原本書誌情報

佐藤久夫.障がい者制度改革推進会議第1~5回レポート(リレー推進会議レポート1).ノーマライゼーション 障害者の福祉.2010.6,Vol.30, No.6, p.42-46.

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