音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

フォーラム'95

PL法の現在―補装具製造とのかかわり

川村一郎

1、はじめに

 平成7年7月1日から、いよいよPL法が施行されたが、これと補装具製造とがどのようにかかわっているのか、よく分からない。従ってこれにどのように対応したら良いのか頭を悩ますばかりである。いろいろな解説書を読んでも、各種の講習会に出ても一般論ばかりで全く役に立たない。損害賠償を求められたらどうしたら良いのか。賠償を求められないようにするためにはどうしたら良いのか。不安が増すばかりでないか、との声を耳にすることが多い。

 このような不安解消に少しでも役立つことができたら、とまとめてみたが、もとより筆者は法律の専門家でないし、またPL法施行後未だ数か月が経過したばかりで、賠償請求の実例や、その結果に関するデータの全く無い現状で、完全なものを作ることは不可能に近いと思われる。極めて不十分ながら問題点をまとめてみたが、何かの指針となれば幸いである。

2、補装具はPL法の対象になるのか?

 補装具のほとんどは、個々の障害者、患者を対象としてオーダーメイドで製作され、適合される。PL法は、そもそも大量生産、大量消費されている工業製品の欠陥を対象に作られたものであり、個別に製造されている補装具には適用されないのではないか、との疑問がある。法第2条に、この法律において「製造物」とは、製造または加工された動産をいう、と定義されているが、国民生活審議会の報告によると、この法律の対象とすることは適当でない製造物として、未加工農林水産物、全血液製剤、生ワクチン、不動産があげられているが、補装具はあげられていない。従って補装具はPL法の対象になると解釈される。

3、補装具製作業者と、行政機関、医師との責任問題

 補装具は身障法等により支給される場合は、身体障害者更生相談所による判定に基づき製造され、適合判定が行われる。また治療用装具は、医師の処方に基づき製造され、また医師により適合判定された後、患者に装着される。仮に、このようにした補装具に欠陥があり損害賠償を求められたとき、その責任は、判定をした行政機関あるいは医師にあるのではないか、との疑問がある。PL法上、欠陥を持つ製造物につき、責任を負うのは、「製造業者」と規定されており、製造業者でない行政機関や医師は、PL法上の責任を負わされることはないと解釈される。それならば医師が処方を間違って大量に薬を投与し、患者が死亡した場合、薬の製造業者が損害賠償を請求されることになるではないか、との疑問が生ずるが、製品に欠陥がなく、又取扱説明書等に、用法についての説明が確実にされていれば、製品製造者が責任を追求されることはないと考えられる。

 医師への損害賠償は他の法律により行われることになる。

4、責任期間と耐用年数

 PL法ではメーカーの責任期間は、製造物を引き渡してから10年と定められているが、これは厚生省の定める耐用年数より著しく長い。例えば補装具の中で最も多く作られていると思われるPTB型下腿義足の場合、耐用年数は2年である。責任期間と耐用年数との関係はどうなっているのか、との疑問がある。これに対する厚生省の見解は、耐用年数はあくまでも新しく交付するための1つの目安に過ぎない。頻繁に使う人とめったに使わない人とでは耐用年数は異なる。しかし、製造者側からみると、10年間の使用に耐えるよう作られている補装具は全く無いと言っても過言ではなく、これに対応する何らかの手段を講ずる必要がある。もし、10年間壊れない物を作れば、恐らく製造価格は数倍にはねあがり、重さも数倍になり、実用的見地からは存在し得ないことは明らかである。そこで取扱説明書に、耐用年数を明記する、保証書を発行し、保証期間を耐用年数期間とするなどの方法が考えられるが、果たしてこれらが法律的に有効であるか否か、疑問が残り、今後の重要な検討課題であることは間違いないと思われる。

5、品質管理

 PL法対策として、損害賠償を請求されたときそれにどう対応するか、だけを論ずる傾向が見受けられるが、最大のPL法対策は品質管理を完全に行って、事故を発生させないことであろう。

 従来、補装具は技術者の経験とカンで作られるものであり、製造工程の標準化、部品や材料選択の基準、仮合わせ及び最終適合のチェックポイントの設定などなきに等しかったと言っても過言ではなかろう。それにもかかわらず、今までそれ程大きな事故も発生せず、又多額の賠償を請求された例もなかったことは、実にラッキーであったためだけとは考えられない。製造者とエンドユーザーとの間に直接的なかかわりなく、製造品が使用される大量生産物と、医師の処方による採型、採寸から始まる一連の製造工程の中に、常に製造者である義肢装具士等とエンドユーザーつまり障害者、患者との間に直接的な接触があり、しかも第3者である医師らのチェックが行われていることも大きな事故を防いでいる最大の要因であると考えられる。

 また、別の面から見てみると、家電などのメーカーは巨大な会社であり、多額の賠償を要求しても、取れる可能性があるが、補装具製造業者は零細企業であり、賠償請求をしても取れる見込みがないと、被害者が判断してきたことも見逃せない。しかし、PL法の施行とともに、このような泣き寝入りが、今まで通り続くと過言していると、とんでもないことになる可能性もなしとはしない。

 いずれにしても品質管理の徹底により、欠陥商品を作らないことこそ、最大のPL法対策であろう。

6、取扱説明書、警告ラベル

 事故発生の未然防止の第2として取扱説明の充実、表示(警告ラベル等)の実施がある。補装具の場合、品物を障害者や患者に引き渡す際に口頭で取扱説明をしてきているが、それだけでは不十分であり、今後は取扱説明書を手渡す必要があろう。損害賠償を免れるために、あらゆる事態を想定して、多項目にわたる取扱い説明書を作っても誰も読まないであろう。装着の仕方、上下左右の確認、異常が発生したときの医師または製造者への連絡、定期的適合チェックなど必要最小限の説明書で良いのではないか。それに、説明書を手渡すだけでなく、同じ内容を口頭でも説明しなければならない。

 補装具で警告ラベルや表示を必要とするものは今のところ、思いつかないがどなたかお気づきの点があればご教示頂きたい。

7、PL保険

 PL法対策の最後として損害保険への加入をとりあげたい。万一PLクレーム、PL訴訟となった場合、零細補装具製作業者ではこれに対応しきれないことが予想される。従って、必ず何らかのPL保険に加入しておく必要があるが、この場合一企業として加入するよりも業界団体などで加入する方が保険科が安くなる。団体保険の1つとして、中小企業庁の指導で創設された商工会議所等に加盟している業者のためのPL保険があるが、一般の保険に比べて保険科が5割も安いが、事故発生のとき、どのように対応してくれるのか疑問点も多い。

 (社)日本義肢協会では、ある損保会社と団体契約し、比較的安い保険科で損害賠償に対応してきた。損保会社は義肢協会会員企業が他人の生命、身体を害し、財物を滅失、棄損もしくは汚損したことによって生じた法律上の損害賠償責任を負う事による被る損害をてん補している。

 この制度では被害者との交渉なども、損保会社の弁護士に依頼することもでき、大変有利であるが、唯一問題点と思われることは、被害者1人当たり支払われる保険金の限度額が5,000万円となっており、電動車イスの誤作動による暴走事故が死亡事故に至った場合等には、対応できず今後の検討課題である。

8、その他

 中古品(リースの場合など)、修理改造の場合、輸入パーツなどの製造物責任について結論だけ示しておく。

中古品―メーカーに責任あり

修理、改造―修理だけなら責任なし

改造を加えたときには責任あり

輸入パーツ―輸入業者に責任あり

(かわむらいちろう 川村義肢㈱)


 

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年10月号(第15巻 通巻171号)49頁~51頁