列島縦断ネットワーキング
[熊本]
日本で一番やさしいまちを目指して
熊本県福祉生活部社会援護課地域福祉推進室
熊本県では、平成7年3月16日に「熊本県高齢者及び障害者の自立と社会的活動への参加の促進に関する条例」(通称やさしいまちづくり条例)を公布し、同年4月1日から施行している。(建築物等ハード関係規定は同年10月1日施行)以下、その経緯・内容である。
条例化へ向けての組織づくり
平成5年8月に高齢者・障害者、学識経験者、建築関係者、事業者等各界の代表者43名から成る「くまもと・やさしいまちづくり推進協議会」を、11県事務所単位に「地区推進協議会」を設置。平成6年には、「くまもと・やさしいまちづくり推進協議会」の下に「条例検討」「建築」「公共交通」の3専門委員会を設置。高齢者・障害者との意見交換会を開催するとともに、各委員会において検討が重ねられ、その内容は同年10月6日に、推進協議会から知事に対して提言が行われた。
条例の特徴
このような体制の下に策定された、本県の条例の特徴として、以下があげられる。
①ノーマライゼーションの理念を基本理念として、高齢者・障害者を取巻く様々な障壁を除去するための条例として性格付けたこと。(いわゆるバリアフリー条例)
②建築物や道路・公園等のハード分野にとどまらず、啓発や教育等のソフト分野を含め、7分野にわたり幅広く規定していること。
③「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(以下ハートビル法)との整合性を確保するとともに、事前協議・勧告・公表制度を規定し、実効性のある内容としていること。
条例の内容
《目的》 高齢者・障害者をはじめとする社会的に弱い立場にある人々を取り巻く環境にある意識上、社会制度上、物理上の障壁を除去し、県民だれもが共にいきいきと暮らせるような社会をつくりあげることを目的とする。
《基本理念》 ノーマライゼーションの理念
《基本方針》
①やさしいまちづくりに関する県民の理解促進と意識の高揚
②高齢者・障害者が円滑に暮らせる社会環境の整備推進
③高齢者・障害者が円滑に利用できる生活環境の整備促進
《取組主体・責務》 県・市町村・県民・事業者
《規定分野・内容》
●啓発・広報 やさしいまちづくりに関する啓発・広報活動、児童生徒への福祉に関する学習の推進、高齢者・障害者への福祉に関するボランティア活動及び高齢者・障害者自身のボランティア活動の促進を規定。
●教育 障害者がその障害の程度、特性等に応じた多様な教育が受けられるよう、教育内容の充実など教育環境の整備を規定するとともに、学校等設置者の施設整備を努力義務付け。また、生涯学習の機会の提供についても規定。
●雇用 高齢者・障害者がその能力に応じ、雇用の機会が得られるよう規定するとともに、事業者にも、これらの人々の能力を活かし、働きやすい環境を整備するよう努力義務付け。
●情報 情報の円滑な利用及び意思表示手段の確保を規定し、電気通信及び放送が円滑に利用できるよう、事業者に努力義務付け。
●スポーツ・レクリエーション・文化 これらの活動への高齢者・障害者が参加できるよう環境整備を規定。
●防犯・防災・交通 安全近年地域の連帯感が薄れたこともあり、高齢者・障害者が犯罪、災害に遭いやすく、また、運動能力の低下等により交通事故にも遭いやすい状況にあるため、防犯・防災対策や交通安全対策の推進に関して規定。
●生活環境 建築物、道路・公園等の公共的施設、住宅、公共車両等の整備について以下のとおり規定。
①建築物の整備 ハートビル法(平成六年九月施行)との整合性を保ちつつ、同法で規定していない事項について条例で補完する形をとっている。具体的には、ハートビル法では、病院、劇場、デパートなどの不特定多数の建築物(以下「特定建築物」)を対象とし、中でも2,000m2以上の建物には指示等ができるよう規定されているが、それに加え条例では、特定建築物を建築する場合、基本的な計画ができた段階で、各土木事務所に事前協議することを義務付け。その対象は、原則延床面積1,000m2以上のものであるが、例えば理髪店や美容院は30m2以上、飲食店・病院・銀行・デパート・物品販売の店舗などは300m2以上と面積要件を切下げ。また、事前協議を行わない建築主に対して、勧告・公表を行うことを規定。また、条例では、ハートビル法で対象となっていないホテルの客室や劇場等の客席等の整備を対象とし、既存の建築物についても整備努力を義務付け。
②公共的施設の整備 建築物以外に、道路・公園・路外駐車場・駅におけるこ線橋又は乗降場等の整備を規定。
③住宅の整備 高齢社会へ向け、住宅における安全性を高める必要があることから、県民及び住宅供給事業者に対し、住宅整備の努力を求めている。
④公共車両等の整備 県及び公共車両等の所有者等に対し、高齢者・障害者が円滑に利用することができるような車両の導入などを求めている。さらに、知事は、所有者等に対し、整備状況の報告を求めることができるよう規定。
今後の進め方について
今後は、条例に基づき、全庁的に施策を展開するため、今年度の秋をめどに「やさしいまちづくり推進計画」を策定し、各課がそれぞれの施策のなかでやさしいまちづくりを推進することとなる。
参考資料・「能本県高齢者及び障害者の自立と社会的活動への参加の促進に関する条例」条項・同条例施行規則
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年10月号(第15巻 通巻171号) 57頁~59頁