音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

[沖縄]

海と風の宿 沖縄の「海風村通信」

もうひとつの旅 もうひとつの生き方

成田 正雄

●沖縄・海風村です。こんにちは!

 沖縄本島北部は「やんばる」と呼ばれる自然の豊かなところ。僕達の「海風村」(民宿名・海と風の宿)は大浦湾に面した小さな村(瀬嵩/せだけ)の片隅にある。夏の日差しをあびて透明な青い海と緑の森が輝いている。

 ここでは時間の流れがゆるやかだ。2年前、僕たちは横浜から移住した。わが家族は、看板娘の双子の海と風。大黒柱の奈緒ちやん。とっとろ車イスの成ちやん(C8の頸損、僕)と犬のトトロ。『ここは皆が持ち寄って、皆でつくる皆の家』。僕たちの自宅を開放しています。

●北アルプス遠見小屋

 そもそもの発端は、20年前。当時は学生運動の余波が残り、学校→会社という「寄らば大樹」のルートから外れた僕は、生きる方向が見つからず、独り悶々としていた。そんな時、小屋番の話がきた。自然の中で、色んな人との出会いに、仕事にと、もがいているうちに心の何かが溶けてきた。自分の悩みを素直に話すと、相手の心も開いてくる。客が来る度に酒を出し、語り明かした。いつのまにか、山に登らないで停滞する人が続出。山小屋は満杯。「ああ、皆も心の中を話したいんだ。こんな場が必要なんだ!」生まれて初めて夢をみた。

 その後は、アル中、精神分裂、乞食、土方、プロパチ、どや街の立ちんぼ、ホスト、セールス、不動産、運送…。職を転々とし、独りで根暗に生きてきた。そんな人生が交通事故で障害者となって一変した。車イスの善行ボランティア青年になったり! 講演依頼は来るし(付け焼刃はすぐに剥がれるが…)、「県職員」になった時は、ほっぺたをつねりたくなった。人生って、ほんまに不思議やね。まあ、そんな流れがあったので、海風村には感無量の思いがあるのだ。

●海風村の思い

 「此世は自分を探しに来たところ 此世は自分を見に来たところ」河井寛次郎

 「この星で生きる色んな人が、人生の流れの中でゆっくり休んだり、お互いの生を分かちあう。また、心のどこかでつながって、困っている人がいたら皆で支えあう。そんな心の縁(心のネット)ができたらいいな」 経済や競争が優先される社会に長く住んでいると、身体も利己的な体質になってしまう。他人や社会とのつながりがとても薄くなる。自分の自然な感情を相手に向けられない、心をオープンにできない「人間性の障害」(W・シュタンゲ)を多くの人が抱えている。今、僕達日本人が抱えるこの重い障害にどう対応していったらいいのか? 僕なりの小さな試みです。

●海風村のメニュー

①「自分の家のように、ご自由に」/「なんか家にいるみたい。のんびりするね」とよく言われる。数日いると家族みたいになってくる。客が料理を作って、僕らが御馳走になることも多い。ここでは全て、セルフサービス。自発性を引き出す場でもある。

②「心の内面を分かちあう」/昔、易者をやったことがある。運命と性格はとてもクロスしてると思う。人生の流れを聞くのが大好きなのだ。1つの小宇宙への旅。

③「洗面器の水・経済理論」/ここは1泊素泊・泡盛付で¥1,500。短期では、とてもぺイしない。が、長期には必ずペイするはず。洗面器の水と同じで、自分の利益を確保しようと両手で囲むと水は逃げていく。どうぞと相手に差し出していると、水はぐるっと回ってくる。本当は値段を付けたくないが、かえって気を使う人がいるのでこうしている。

④「もう1つの世界の案内」/障害をもって、初めてマイノリティの世界に気づいた。一般の人には、「知り合いを紹介」すると「草の根の現場」に近づき易い。「人のつながり付きの情報」を交流したい。ミニコミ「海風だより」はこれから面白くなるぞ!

⑤「力をあわせる」/タイの障害児の財団と87年より関わってきたが、今年は沖縄にタイの障害者を呼ぶ予定。沖縄とアジアの福祉をつなげたい。1円・5円を集める「沖縄・アジアいちご基金」を準備中。未使用の切手集めの「SEA・WIND地球子供基金」も。

●障者者のみなさーん 沖縄に船でいらっしゃい!

 船でくれば、東京―沖縄往復が障害者割引で2万円(介助者も同額)。船旅は時間がゆっくりで使い方次第で楽しめる。うちに泊まれば安いし、ヨットもある。そのうちカヌーも置いて、障害者のマリンスポーツへのアクセスを楽にしたい。どうぞ全国の障害者の皆さん! 海風村を皆さんの別荘がわりにお使いください。(*阪神の罹災障害者のかたはシーズンオフの宿泊は無料です。よろしかったらお使い下さい。)

●「車イス風呂」設置宿に★★★評価を!! 海風村の提案

「車イス宿泊ガイド」であちこち行ったが、満足な「風呂」に出会った事がない。車イスで使うには、

 ①座面と同じ高さの洗い場

 ②それは「体を横たえる広さ」を持つこと。

 ③洗い場までのアクセス、

 ④「手すり」の適切な設置

 ⑥洗い場と浴槽の段差(五センチ位)

 ⑥マットレス

―が必要です。

 この条件を満たすものを「車イス風呂」と認め「本当の車イス宿」として★★★マークを付けたらどうでしょう。現状の宿ではお粗末すぎます。安全面からも問題があります。―そこへ行くと、障害者本人が一工夫して「民宿」を開いたほうが早いかもしれません。民宿経営は意外と簡単。障害者の宿屋はなかなか面白いですよ。

(なりたまさお)

海風村/Tel:0980-55-8581
〒905-22 沖縄県名護市瀬嵩182


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年10月号(第15巻 通巻171号)