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特集/今、障害者の資格制限は

視覚障害者の資格制限の現状と課題

指田忠司

はじめに

 現代は「資格社会」とも言われ、日常生活のあらゆる場面でさまざまな資格が要求される。これら資格は国や地方公共団体が実施する試験やそれに準ずる公的機関が実施する試験に合格することが条件とされる場合が多い。

 ところで、視覚障害者がこのような「資格社会」で生活していく場合、さまざまな制約を受ける。まず各種資格の中には、そもそも視覚障害者がその資格を取ることを禁じているものがある。自動車の運転免許などがその例である。そして、資格そのものの取得が禁じられていなくても、その資格を取得するための試験において障害を考慮した措置が講じられなければ、実質的に資格取得に対する制限となる場合がある。各種の試験において、重度の視覚障害者に対して他の受験者と同じ墨字問題を使用するのは、実質的に資格取得を制限することになるのである。

 このように、視覚障育者が「資格社会」で生きていく上での「制限」には2通りのものがあると言えよう。以下では、各種資格の中から主として職業に関する資格上の制限を中心にその現状を概観し、将来への課題を述べてみたい。

1 資格制限の現状

 (1) 資格取得そのものを禁じている場合

 まず、表をみていただこう。これは、平成7年2月28日現在の「法令データベース」(行政情報システム研究所提供)の中から「目が見えない」ことを、資格取得の欠格事由とする法令を検索した結果である。なお、ここで「目が見えない」というのは、視力を矯正しても、なお、1メートルの距離において、指数を弁別できない程度の視力障害の状況をいうとされる(昭和29年医収第484号)。

表「目が見えない」ことを欠格事由とする各種資格の根拠法
医師法(昭和23年7月30日法律第201号)第3条

歯科医師法(昭和23年7月30日法律第202号)第3条

保健婦助産婦看護婦法(昭和23年7月30日法律第203号)第9条

歯科衛生士法(昭和23年7月30日法律第204号)第4条

毒物及び劇物取締法(昭和25年12月28日法律第303号)

第6条の2第3項第2号(特定毒物研究者の許可)

第8条第2項第3号(毒物劇物取扱責任者の資格)

診療放射線技師法(昭和26年6月11日法律第226号)第4条第1項第2号(絶対的欠格事由)

歯科技工士法(昭和30年8月16日法律第168号)第4条(絶対的欠格事由)

臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律(昭和33年4月23日法律第76号)第4条(絶対的欠格事由)

道路交通法(昭和35年6月25日法律第105号)第88条第1項第2号(免許の欠格事由)

薬剤師法(昭和35年8月10日法律第146号)第4条第1項第2号(絶対的欠格条項)

視能訓練士法(昭和46年5月20日法律第64号)第4条(絶対的欠格事由)

臨床工学技師法(昭和62年6月2日法律第60号)第4条(絶対的欠格事由)

義肢装具士法(昭和62年6月2日法律第61号)第4条(絶対的欠格事由)

救急救命士法(平成3年4月23日法律第36号)第4条(絶対的欠格事由)

 これを一見してわかる通り、ここに掲げられた各種資格は、その業務遂行に際して視覚的情報に依存する度合が極めて高いものばかりである。また、ほとんどの資格が、他人の生命や身体の安全にかかわる業務に関するものである。

 このようにみてくると、この表に掲げられた各種資格における制限には合理性が認められる。ただ、これを諸外国の例と比較すると若干問題がなくもない。たとえば、米国では重度の視覚障害者が精神科の医師として働いている例があるというが、わが国では、このような医師が誕生する可能性はまったくない。もし、視覚障害者でも診療可能な科目があるのならば、そのような可能性をはじめから阻むことが果して合理的かどうかは疑問である。

 次に、法律上欠格事由とはされていないが、その運用によってはそれに等しい結果となる場合をみることにしよう。

 国家公務員法(昭和22年法律第120号)第78条第2号及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第28条第1項第2号は、「心身の故障」のため職務の遂行に支障がある場合や職務遂行に耐えられない場合には、本人の意思に反して後任又は免職とすることができると定めている。これはケース・バイ・ケースの判断の余地を残したものであろうが、その運用の仕方によっては不当に就労の機会を奪う可能性がある。これと同様の規定は、各種資格を定める法律にもみられ、「心身の故障」のみでは資格停止とはならないが、それに伴う職務遂行能力の低下を理由として資格登録が認められなくなる形での制限が付けられているものが多い(例、税理士法、社会保険労務士法等)。

 (2) 資格取得に際して一定の配慮をしないことが制限となる場合

 これは、ほとんどの公的資格について考えられなければならないものである。視覚障害がいわゆる「欠格事由」とされているものを除いては、視覚障害者は基本的にはすべての資格を取得できるはずである。

 しかし現実には、前もってこのような配慮が検討されている場合は希で、視覚障害者が資格取得を希望してはじめてそのための対応策が検討されるのが一般である。資格試験実施者の最初の反応は概ね「受験できません」という否定的なものだが、これに対して視覚障害者本人やその周囲の支援者が情報提供しながら粘り強く交渉し、説得に成功して試験実施に漕ぎ着けたというのが現実である。昭和48年から実施されている司法試験の点字受験、それと相前後して点字受験が認められるようになった地方公務員試験、各地の教員採用試験などは、そうした運動の成果である。

 このような流れの中で、現在では国家公務員試験Ⅰ種及びⅡ種の一部が点字受験できるようになっており、その影響のもと、各地の地方公共団体で点字受験が認められるようになってきている。

2 今後の課題

 以上、視覚障害者の資格制限について現状を概観したが、最後に、将来への課題を記しておく。

 まず、新たな資格制度の制定にあたって、安易に視覚障害を欠格事由としないよう、常に監視していく必要がある。とりわけ、多数の視覚障害者が従事している3療関連の分野における資格制限については注意を怠ってはならないであろう。

 次に、実質的な公平を図るための配慮のあり方について、これまでの取り組みの経験を集大成して、各種試験における出題のあり方や点訳・音訳上での配慮事項、試験時間の延長幅の基準等についてガイドラインを作成する必要がある。これによって、さらに多くの資格試験に視覚障害者が挑戦することができるようになるであろう。

(さしだちゅうじ・障害者職業総合センター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年11月号(第15巻 通巻172号)9頁~10頁