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特集/今、障害者の資格制限は

今、色弱者の資格制限は

高柳泰世

はじめに

 色盲・色弱をあわせて色覚異常といいます。私は30年あまりの眼科医生活の中で、色覚異常者には「障害」ということばは適当ではないと考えています。

 しかし現実には、障害者と同様、或いはそれ以上の制限があり、色覚異常の理解に問題があると感じ、色覚無常に関わる誤った認識の改善が必要であることを主張してきました。労働省で「色覚異常者の職業上の諸問題」を取り上げることになり、その窓口は「身体障害者雇用促進協会」でした。まさにこの発想が日本には古くからあり、これが色覚異常誤解のもととなってきたと考えられます。

 そこで、10数年に及ぶ色覚異常者への認識改善の経過を示します。

色覚異常者に対する制限調査の発端

 私が眼科診療所を開設したのは昭和48年でしたが、学校検診で石原式色覚異常検査表を誤読するものは工業高校を受験できないことを知りました。

 昭和44年から2年間のアメリカ生活の中で、多くの色覚異常の医学部教授、工学部教授、教員と親しかったため、不思議に思い、日本の484大学から入試要項を取り寄せ、色覚異常者の制限状況を調査しました。表現の違いはありますが『強度色覚異常者は成績に如何に関わらず不合格とする』と明示されていましたので、その不合理を指摘し、文部省及び国・公・私立大学協会では見なおすきっかけとなりました。

工業高校における制限の緩和撤廃

 ここで文部省初等中等教育局に「色覚問題に関する調査研究協力者会議」が設置され、私はその委員の1人となって、制限の実状とその不合理を述べ、日本における高等学校の現状調査と制限の緩和撤廃を要望しました。

 昭和62年に高校入学者選抜実施要項に基づくアンケート調査が実施されました。47都道府県のうち制限している県は18県でした。

 制限を設けている学科は、工業に関する学科(電気科、情報技術科、工業デザイン科、計測科など)、農業に関する学科(農芸科学科、食品工業科、造園科など)、水産に関する学科(漁業科、機関科など)、厚生に関する学科(衛生看護科、看護科など)、その他の学科(美術科、服飾デザイン科など)でした。制限の程度については各県各学科毎に違う表現がしてあり、色覚異常者は選択に困惑したであろうと思われます。制限の理由については、「色覚異常に関する一般的な認識の誤り」によるもので、色覚異常者は色が見えない、あるいは色に弱いとの誤った社会的通念からと思われます。

 上記協力者会議上においてまとめた結呆、『高等学校入学者選抜における色覚に問題を有する生徒の取り扱いについて下記のように取り決めた』として、今後見直しを図ることが望ましいとの通知が初等中等教育局から全国主管課長会議に出されました。

 現在入試要項に色覚異常不可としてある高校はないはずです。

大学入試制限と緩和撤廃の状況

 昭和61年の調査では1学部1学科でも制限をしているところを制限大学とすると、94国立大学では49%、39公立大学では13%、333私立大学では7%、18大学校では28%に制限が見られました。

 大学入試学の研究者佐々木享教授によると、「入学制限は結核と色覚異常であったが、戦後結核が減り、色覚異常が最後まで残った。これは大学の自治に固くガードされていたためである」と述べています。特に制限の多かったのは教育学部、農学部、医学部、工学部などでした。

 盲学生が大学入学試験を受験できるようになったのは昭和24年のことです。昭和61年の私の調査では盲学生は受験できるが、色盲学生は受験できない国立大学がありました。

 「教育を受ける権利」「教育の機会均等」からみて色覚異常者を不合格とする旨入試要項に明記してあるのは間違いであることを日本眼科医会を通して国立大学入試委員会に申し入れました。昭和62年に国立大学人試委員長から各国立大学長宛に、入学者選抜に際しての色覚障害者の取り扱いについて「緩和撤廃の方向にいく旨」の依頼文が出されました。

 文部省高等教育局長より各国立私立大学長及び大学入試センター長宛に『色覚に障害のある入学志願者に対して入学制限などの規定を募集要項などに設けている例が見受けられる。これらの取り扱いについては、当該障害を有するものの進学の機会を確保する観点から真に教育上止むえない場合のほかは、これらの制限を廃止或いは大幅に緩和する方向でその見直しを行なうことが適当である。』と通知されました。

 なお平成五年には文部省高等教育局長から同じく各国立私立大学長及び大学入試センター長宛に同様の文章に加えて『調査書の「色覚」の項を削除したので留意すること。』と通知されました。ここで漸く小学校から大学まで、調査書の中から「色覚」の項が削減して、先進国並に教育上は色覚異常者が差別されることはなくなりました。

 文部省管轄である466大学では、大きな改善が見られ、現在制限している大学は、国立大学の東京商船、神戸商船、公立大学は零、私立大学は早稲田大学教育学部地埋学専修と東海大学海洋学部の四大学のみとなっています。これも早晩改善されるものと思います。

47都道府県政令指定都市における教員採用制限の撤廃

 制限の多かった大学教育学部の門戸が開かれても、教職員採用に際しての制限があれば、就職浪人が出てしまいます。昭和61年では26県5都市が制限していたのが、平成3年には5県3都市のみとなり、平成5年では零となりました。

企業入社制限

 昭和61年に国立大学に送付された1822社の入社要項により、色覚異常者制限の状況を調査しました。要項に制限を明示している企業は13%でした。

 制限理由の調査では、慣用によるところが多く、職業上の仕事の内容から掛け離れた色覚検査によって、その結果のみから個人のもつ能力を過小評価するのはまさに人材の損失です。文部省のような要がないので、制限緩和の方向への指示を何処から出すかが難しい所です。

名古屋市消防職員採用要件から色覚の項削除

名古屋市人事委員会は平成3年消防職員の採用基準となっていた「色覚正常」の身体的要件を撤廃しました。理由は望楼勤務の消失、全国医学系大学での制限撤廃などの流れを受けて合格基準を変更したのです。名古屋市産業医の話では、色覚異常者が入って働いているが、何も問題なくやっているとのことです。

なお残る色覚が合否の基準となる主な国家試験、資格試験

 労働省が「色覚異常者の職業上の諸問題」について調査研究しましたが、私もヒアリングに出て現状を話しました。その結果が平成7年6月に報告されました。この調査研究の中間報告書の末尾に、主な国家試験、資格試験制限の一覧表が掲載されました。この制限理由を読みますと、国全体で正に「色盲」と「全色盲」を混同し、驚くべき誤解による誤った能力評価がされていることが判ります。

 警視庁警察官・・犯罪の捜査において、犯人の服装や車の色が決め手になる場合などに支障がある。(正常であること)以下理由は同じようなものです。交通巡視員、東京消防庁消防官、自衛隊自衛官、海上保安大学校学生、気象大学校学生、入国警備官、皇宮護衛官、法務教官、刑務官、航空管制官、航空保安大学校学生、労働基準監督官、薬物劇物取り扱い責任者、オートレース選手・審判員、モーターボート選手・審判員・検査員、競馬騎手、競馬調教師。

おわりに

 色覚異常があるから将来の進路に希望を失い、武豊のような騎手になろうと思い立って競馬場を訪れた中学生が、ここでもダメと云われ、母親から貰った遺伝子で将来の夢を潰されたと養護教諭に訴えた例があります。

 石原表を暗記して医学部に入り、世界的な学者になった人もいます。

 日本における色覚問題は、色覚異常者の能力を正当に評価するために、学校保健の色覚検査を参考にしないで、まず現場の能力テストをする機会を作ることが必要です。色覚異常者の社会生活における問題点は、これから、成人の色覚異常者から、情報の提供を願い、色覚異常者自身の体験からまとめていく必要があると思います。

(たかやなぎやすよ 愛知視覚障害者援護促進協議会会長・本郷眼科)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年11月号(第15巻 通巻172号) 11頁~13頁