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高度情報化社会にむけて

頭部操作による電動車イスの経験

井上剛伸

 行きたい所へ自分の力で行けるということは、とてもすばらしいことです。宮内麻千子さんは重度の脳性マヒのために、自立移動をほとんど経験したことがありませんでした。でも、動きたいという、強い意志を持っていました。頭部操作式電動車イスの開発は、そんな宮内さんがいたからこそ成しえたのです。

 まずしっかりとした姿勢で座り、センサーの取り付けてある帽子をかぷると準備完了です。左右のヘッドレストのスイッチを押すことで、前進と後退を選びます。走り出すと頭の動きだけが頼りです。正面を向いているとまっすぐ進み、右又は左を向くとそれぞれの方向に曲がります。頷くと止まります。操作は彼女の得意な動作にあわせて設定しました。

 当センターでの練習を経て、昨年3月に自宅へ導入しました。幸いすぐ近くに広い公園があり、その中での使用ということにしました。それ以来、休日にはほとんど公園を散歩しています。ちよっと慣れてくると、彼女は1人で行きたいと主張するようになりました。お父さんが隠れてついてこないかどうか、1周回って後ろを確認してから出かけます(彼女には内緒ですが、お父さんは見つからないようについていくのが大変です)。その甲斐あって、なんと中学校の頃からの念願だった〝家出〟を敢行したのです。信号をちゃんと渡って、高校の友達の家まで行ってしまいました。とても満足そうだったとのことでした。でも、怖いこともあります。迷子になったのです。それはそれは恐ろしい経験だったのでしょう。ご両親が発見した時、今までに見せたことがないような笑顔を見せたそうです。

 彼女は今年の3月高校を卒業しました。電動車イスで、バリバリに緊張しながら、卒業証書をもらいに行きました。おそらく大きな自信につながったことでしょう。電動車イスは楽しいこと、怖いこと、危ないことまで、いろいろな経験を実現します。ノーマライゼーションという視点で考えたとき、最も効力を発揮するのではないでしょうか。

(いのうえ たけのぶ 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年11月号(第15巻 通巻172号) 39頁