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列島縦断ネットワーキング

[愛知]

バリアフリーをめざして

高濱 潔

先進技術と福祉の出会い

 愛知県は工業生産の盛んなところで、自動車・航空機・工作機械・ロボットなど、先進技術が集積された製品を大量に産出している。その優れた技術を、福祉の分野・バリアフリーに活かせないものかと考え、平成6年3月、この地域の研究者・企業・利用者・福祉関係者などが同じテーブルで語り合える場として、『名古屋テクニカルエイド研究開発懇談会』を名古屋市総合リハビリテーションセンターが事務局を担当して設けた。懇談会の最初の事業として、同年5月「先進技術と福祉の出会い」をテーマにセミナーを開催したが、前年に「福祉用具法」が施行されたこともあり、企業・研究者の参加が予想以上にあって、この問題に関心を寄せる人の多いことを認識させられた。その後地元マスコミからの取材もあり、こうした機会を重ねていく必要性を各方面に呼びかけていった。第17回総合リハビリテーション研究大会においても、「障害者の生活環境とサポートテクノロジー」を分科会のテーマの1つにしたところ最も多くの参加者が集まった。

 これまで、障害者・高齢者など使う側と、研究者・企業など作る側の交流が少なく、使う側は福祉用具に不満があっても伝える方法がなく、作る側はどこに焦点をおいて製造すべきか不安を抱いたまま作り続けてきたと言ってよいだろう。街づくり・住まいについても同様のことが言える。その改善には、リハビリテーションセンターや県市の工業研究所など使う側と作る側の接点にいる者が、積極的に交流の場を創り使う側と作る側の協力体制を築く必要があると考える。それも、それぞれの現場で直接関わっている人達の交流が盛んになるようにしたい。

フォーラム「バリアフリーをめざして」の開催

 昨年の活動が認められてか、名古屋市の7年度予算にバリアフリーの啓発事業が盛り込まれた。早速『バリアフリーフォーラム実行委員会』を組織して企画・運営にあたることとした。委員会の構成は、名古屋市・(福)名古屋市総合リハビリテーション事業団・(財)バリアフリーシステム開発財団・(株)国際デザインセンター・(社)新日本建築家協会東海支部・(財)愛知県シルバー振興会・名古尾テクニカルエイド研究開発懇談会である。さらにNHK名古屋放送局・同厚生文化事業団中部支部に共催をお願いした。

 このように各方面に参加を呼びかけたのは、各団体で行われているバリアフリーについての取組みの成果をこのフォーラムに結集させようということと、各団体のネットワークを通じて、われわれが知らないところで活動している人を発掘しようという目論見からである。

 このフォーラムでは、障害者・介護者からの問題提起と事例研究報告を柱として、相互の意見交換を行うディスカッションに焦点をあてることを企画している。しかも、事例報告については、一般公募と委員会委嘱によることとした。一般公募は募集パンフレットを各団体等を通じて広く配布し、応募報告のうち4~5件についてフォーラムにおける発表とディスカッション参加をお願いすることとしている。名古屋市では、「車いすデザインコンペ」をこれまでに3回実施してきたが、バリアフリーについての意見発表を公募したことはなく、結果について期待と不安が交錯している。

 フォーラム全体の概要は次のとおりである。

日時
 平成7年12月5日(火)・6日(水)・7日(木)

場所
 シンポジウム…愛知県芸術文化センター小ホール
 福祉機器展…NHK名古屋放送センタービル1階

日程
 五日(火)NHK福祉フォーラム
 六日(水)基調講演1
  愛知工業大学助教授 曽田忠宏氏
  障書者・介護者からの問題提起
  事例・研究報告
 七日(木)基調講演2
  通産省医療機器・福祉機器産業室長
  後藤芳一氏 事例・研究報告
  ディスカッション

 街づくり・住まいの改善・福祉用具の普及のどれをとってみても、必要とする者にとっては、どこにどのようなものがあるのか、それは自分にとって有益なものなのか、どうしたら利用できるのかなどの情報不足で困っている。つくる側にとっては、どういう人が利用するのか、どれくらいの人が使ってくれるのか、公的補助はあるのかなどやはり情報不足に悩んでいる。また、どこでどのような研究・開発が行われているのかも、つくる側にとって必要な情報だろう。

 単発の啓発事業では、このような情報提供の一部しか行えないだろうが、ここに集まった人達相互の交流が盛んになることで、それぞれの人を中心としたネットワークの輪が広がっていくことが期待されている。私どもが始めた名古屋テクニカルエイド研究開発懇談会も、人から人への紹介があり徐々に輪が広がってできていった経過がある。各界の代表による公的機関も必要であるが、人と人の出会いとふれあいによるインフォーマルな組織のほうが活発な意見交換と具体的な行動が期待されるように思っている。フォーラムの開催をそのきっかけにしたい。フォーラム開催のもう1つの効果は、実行委員会構成メンバーの交流が一層深まっていくことである。そのエネルギーが次の行動につながっていくに違いないと考えている。

福祉用具開発研究会

 (財)科学技術交流財団は、研究者・技術者の幅広い研究交流活動や共同研究の促進と、中小企業の異業種交流グループ活動などを目的として設立され、愛知県内の企業・大学・研究機関と経済界が参加している団体である。 愛知県工業技術センターと共催する活動の1つに分野別研究会活動があり6つの研究会が属している。その中に『福祉用具開発研究会』があって平成6年度から年間を通じての活動が始められた。在宅高齢者・障害者のための福祉用具開発、中間ユーザーとの交流による福祉用具の製品評価を目的としており、6年度は3回の研究会が間催され延べ206名の参加があった。第1回の参加者内訳は、企業3.2%、医療・福祉・教育等35.2%、工業・デザイン21.6六%であった。内容は、企業の異業種交流に加えて医療・福祉等の異分野との交流による共同開発をめざして、開発事例の報告、中間ユーザー(医療・福祉)の開発経験事例および利用者のニーズ紹介などが行われた。

 7年度は、年間五回の研究会開催が予定されており、前年度の流れに沿いながらも、2回目からは「移動」「入浴」「開発課題」の3分科会を設けて、参加者相互の意見交換が活発に行われるようにした。その結果、参加者から「簡易入浴装置」の共同開発事例や上肢障害をもつ事業主の「自助具」の開発事例が発表され、これまでにない活気をみせた。なお、分科会のテーマは今後の進行状況によって変更されることがある。

 県内の企業の中には、福祉用具開発のための専任スタッフをおいているところもあれば、何かうちで出来ることはないか模索しているところもあり、どこに的を絞って研究会を運営すべきか試行錯誤が続くと思われる。当面、医療・福祉サイドからの利用者側の情報提供を積極的に行う必要があるだろう。

トータルシステムへの期待

 この地域における、バリアフリーをめぐる具体的な活動は、まだ導入期にあってネットワークを拡充する段階にある。上の3つの取組は相互に関連を持っているが、街づくり・住まいの改善などの分野でも異業種交流が進められているので、バリアフリーを目指すトータルシステムが構築されるのも遠くないものと期待している。(たかはまきよし・わらび福祉園園長)

照会先

名古屋市総合リハビリテーションセンター

企画研究室 Tel 052-835-3811


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年11月号(第15巻 通巻172号) 55頁~57頁