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「障害リハビリテーション」入門

ぼうこう・直腸機能障害

牛山武久

はじめに

 膀胱と直腸は4足動物で言えば、体の最後尾にあり尿と便を排出する臓器である。排泄物の一方は液体であり、一方は固体である違いはあるが、両者とも体にとっては不要のものであり、それが並んで排泄されている。排泄物の処理機構は巧妙に出来ており、普段はその恩恵をそれほど意識しないで快適に暮らしているが、一旦、これが「もれる」というような異常事態になるとぬれる、冷たい、臭い、気持ちが悪いというばかりでなく、人間としての尊厳や社会的評価を失い深刻な事態を招く。治療して尿路変更術や人工肛門造設を行ったとしても、その処理にかかわる問題や心理的負担は大変なものがあり日常生活、社会生活に支障をきたすことに論を待たない。

1 膀胱の機能とその障害

 膀胱は300~400mlの尿をため、尿意を感じて排泄する。通常、1日5、6回の排尿を行い、もらすことはない。膀胱の最大の病気は膀胱腫瘍であり、悪性度が高く浸潤の深いものは膀胱全摘出術を行う。摘出後は腸管を利用した代用膀胱(コックパウチ)を造って尿をため導尿したり、腸管を切り取ってこれを尿の導管として尿管をつなぎ腹壁に出口を造って尿を出す方法(回腸導管)が取られる。代用膀胱を造らないで皮膚瘻と呼ばれる種々の方法もある。腎瘻・腎盂瘻は腎臓から皮膚に直接カテーテルで尿を出す方法であり、尿管皮膚瘻は膀胱と尿管を切離し、尿管を腹部の皮膚に出しそこから尿を出す方法をいう。膀胱瘻は下腹部と膀胱をカテーテルでつなぎ、尿を出す方法を言う。膀胱腫瘍以外にも子宮癌の膀胱尿管浸潤や神経因性膀胱による排尿障害、水腎症、放射線治療による膀胱障害などで尿路変更術が用いられる。尿路変更以外の治療法では尿道にカテーテルを留置し排尿する方法や、留置の代わりに自分で導尿する自己導尿という方法もとられる。自己導尿や薬物療法により次第に膀胱機能が回復し自然排尿が可能になる人もいる。

図1 代用膀胱

図1 代用膀胱

図2 皮膚瘻造設術

図2 皮膚瘻造設術

2 二分脊椎による膀胱・直腸まひ

 二分脊椎は昔から良く知られた先天性の病気で脊椎破裂や脊髄髄膜瘤とも呼ばれている。脊椎のうしろの骨の部分が無く、そこから神経が飛び出して腰や臀部に丸い瘤を作る病気である。神経の発生にも異常があり脊髄が割れていたり欠損や発育不全が見られる。腰髄や仙髄と馬尾神経が障害されることが多く、これに支配されている下肢と大腸・直腸、膀胱が障害を受ける。両下肢が麻痺し、便秘、便失禁、排尿困難、尿失禁などの症状を呈する。膀胱障害は更に膀胱の尿が腎臓まで逆流する尿管逆流現象や腎盂腎炎などにより水腎症、腎不全となることがある。

図3 脊髄髄膜瘤の縦断図

図3 脊髄髄膜瘤の縦断図

3 膀胱障害の認定

 膀胱障害の判定は尿路変更しているか、二分脊椎によるものか、人工肛門を伴うものかによって判定する。等級は直腸障害との組合せで1級、3級、4級の3段階に分かれる。尿路変更のみの人は4級である。二分脊椎による排尿障害も4級である。排尿障害の程度は尿失禁があるか、残尿があるか、自己導尿をしているか、膀胱内圧検査が異常かなどによって判定する。膀胱内圧検査は膀胱に水や炭酸ガスを入れながら内圧を計る検査で、排尿反射が亢進しているものを過活動型膀胱と呼び、逆に反射が無いものを低活動型膀胱と呼ぶ。膀胱機能障害の結果、水腎症や腎結石、膀胱結石ができることがあり、その診断にヨード剤を注射してレントゲン撮影をする排泄性腎盂造影や超音波検査が用いられる。膀胱障害は尿路感染、腎障害などをよく合併し、尿の白血球数や細菌、蛋口などを検査することによりそれらを知ることができる。腎が障害されると血液の尿素窒素、クレアチニン、カリウムなどが上昇するので、それらの検査結果も重要である。

4 直腸の機能とその障害

 食物が胃に入ると胃・大腸反射によってS字状結腸の便が直腸に入り、直腸内圧が高まると便意が起こり排便する。直腸が使えなくなる代表的な病気は膀胱と同じように直腸腫瘍であり、治療は直腸摘出術を行い人工肛門を造る。直腸腫瘍以外でも膀胱癌や子宮癌の骨盤内浸潤によって直腸まで摘出しなければならない時は、同時に人工肛門となる。人工肛門を造る原因疾患は直腸悪性腫瘍34.5%、同良性腫瘍15.2%、腸閉塞33.3%、放射線障害1.8%である。人工肛門の位置は病変の位置と範囲によって決められ、回腸人工肛門、上行結腸人工肛門、横行結腸人工肛門、下行結腸人工肛門、S字状結腸人工肛門などがある。人工肛門の合併症は便秘、便による皮膚障害、ストーマの異常、皮膚のしわなどがある。具体灼には皮膚の発赤、びらん、潰瘍、肥厚、掻痒、丘疹、感染、陥凹、しわ、たるみ、傍ストーマヘルニアなどである。便はパウチと呼ばれる便の収納装置をつけて人工肛門を管理し、便秘や排便を定時に処理するために洗腸が行われる。皮膚障害に対しては皮膚保護剤がある。これらストーマ製品は平均月額8000~11,000円かかる。

図4 人工肛門の位置と名称

図4 人工肛門の位置と名称

5 直腸障害の認定

 直腸障害の認定は1級、3級、4級がある。1級はストーマ以外に腸内容がもれる瘻口があり、皮膚のびらんを伴うものである。3級はびらんがないものをいう。4級は人工肛門がありびらんがあるか洗腸しているものをいう。

6 膀胱障害と直腸障害を併せもつものの認定

 前述したように膀胱障害と直腸障害を合併している場合が多く、両者の障害の組合せによって1級、3級、4級となる。障害が重い組合せほど級が高く、例えば尿路変更のストーマと回腸人工肛門又は上行・横行結腸人工肛門があって、ストーマの著しい変形又はストーマ周辺の著しい皮膚のびらんがあるものが1級である。変形、びらんがなく尿路変更のストーマと回腸人工肛門又は上行・横行結腸人工肛門が合併したものは3級である。4級は下行・S状結腸人工肛門と排尿機能障害(腹圧性尿失禁、残尿15%以上等)があるものをいう。(詳細は文献五参照)

終わりに

 現在の膀胱・直腸障害の認定基準は、排尿排便障害に悩む全ての人を網羅するものではない。前述した疾患(尿路変更、人工肛門およびそれに伴う排尿障害、二分脊椎)以外にも排尿・排便疾患患者は沢山あり、中にはカテーテル留置を余儀無くしている患者もいるが、これらも適応範囲ではない。適応となる障害の範囲についてはこれからも多くの議論して行く必要があろう。

参考文献 略

(うしやまたけひさ・国立リハビリテーションセンター病院診療部長・泌尿器科)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年11月号(第15巻 通巻172号) 70頁~72頁