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フォーラム '96

視覚障害者の射撃の現状

鈴木 克子

1 はじめに

 『視覚障害者が射撃をする』。こんな奇想天外なことが、ヨーロッパで実際に行われている。しかも、セラピーの1つとしてではなく、競技として確立しているのである。日本は銃刀法という問題があるが、同様の競技を育てるのも決して不可能な夢ではない。

 以下に、項目ごとにこの競技の実状をご紹介する。

2 射撃の現状

 スウェーデン、デンマーク、フランス、スロバキアなどが視覚障害者がエアライフル射撃を実施している代表的な国に挙げられる。特筆すべきはスウェーデンで、SHIF(スウェーデン身体障害者スポーツ連盟)独自のルールをもって競技運営を実施して20年になる。そのあいだに視覚障害を持つ射手の数は増加を続け、現在170名ほど。全人口が850万人とすればこの人数は少ないとはいえない。IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)にも独自のルールが存在する。SHIF及びIBSAのルールのベースとなっているのはUIT(国際射撃連盟)の一般ルールである。

 ISCD(国際身体障害者射撃連盟)は、視覚障害者の射撃の動向をキャッチするや、ISCDの公式ルールを作成しようと、これらの団体に共同で検討することをもちかけた。長年この分野を手がけてきたスウェーデンをはじめとした4か国でルール検討の委員会が設けられ、1994年「ワールドチャンピオンシップ」、1995年「身体障害者ヨーロッパ射撃選手権」で、委員会編纂ルールによる視覚障害者の立射60発(R12)競技のデモンストレーションが実施されるまでになった。近い将来、このルールをUITに承認申請する計画である。

 これらのデモンストレーションを通じて、同一ルールで試合を実施する国を14か国以上募ることができれば、世界選手権開催への道が開かれる。2、3か国以外はこの数年の間に着手した競技であることからもわかるように、国際的にこれから育っていく射撃競技といえるだろう。

3 装備について

 射撃競技はコート、手袋など独特のものが多いが、視覚障害者だからといってほとんどの装備に関して特別な配慮はない。競技時間もハンディなしである。つまり、射撃はハンディキャップを生み出さないスポーツなのだ。

 他の射撃群と異なる装備は音式スコープとアシスタントだろう。ライフル用の固定倍率式のスコープの接眼レンズ側に光反応素子をとりつけ、標的を光学的にとらえる仕組みである。反応素子にとらえられた光は、光の強弱に対応する形で音の高低に変換される。射手はこの音を手がかりに射撃を行う。一般のエアライフル競技ではスコープを装着することは認められないため、視覚障害群SH3では音式スコープを認め、それに伴い銃の総重量の上限を別に定めている。たとえば立射競技60発であれば、600点満点中580点代をマークする選手がいる。これは、一般の射撃選手の段級にあてはめれば最高位の6段に相当する。スウェーデン、デンマークには4~5段相当の射手が少なくない。

 音式スコープを完全に機能させるためには、標的から一定以上の輝度を得る必要があるわけだが、射手はそのために標的を照射するライトを準備する。

 また、射撃結果の伝達と標的交換を行うためにアシスタントが認められている。彼らはいわば黒子に徹する存在で、射手の射撃に干渉してはならない。

4 日本の動向

 1998年に長野パラリンピックを控え、開催予定競技のバイアスロンに注目したい。視覚障害者のバイアスロンも開催予定だが、その際用いられるのは空気銃(エアライフル)である。IPCルールで使用銃が規定されているため、他の銃は考えられない。つまり、日本チームが参加するなら日本初の銃砲所持許可を持った視覚障害者が誕生する可能性があるわけだ。日本の器量が試される。これをきっかけに、視覚障害者がバイアスロンや射撃に親しむ基盤ができることに期待したい。

 また、平成7年4月に「日本身体障害者射撃連盟(障射連)」が発足したことも忘れてはならない。日本で、肢体不自由のシューターたちはかれこれ十年以上射撃を続け、競技人口は100人ほど。神戸にはビームライフルを扱う弱視者もいる。昨年、北京フェスピックでエアライフル・エアピストル競技の入賞者を出したことで勢いがつき、連盟発足が実現した。主な構成団体は西日本に多く、旗揚げ大会が阪神大震災のため中止されたりと波瀾万丈だが、積極的な活動を展開している。

 その障射連が視覚障害者の射撃に注目している。彼らにとっても、視覚障害者が射撃をしている事実は新鮮な驚きであるという。とりあえず音式スコープを輸入して、ビームライフルに適合させる道を探ろうと計画をはじめた。本稿は10月現在までの進展状況だが、この原稿が刷り上がっている頃には、私が夢想していた世界がかたちをとりはじめるかもしれない。

 1996年10月には、フランスのカンヌでIBSA主催の国際試合が予定されている。ヨーロッパ各国から視覚障害のシューターたちが集うのだろう。R12・R13はアトランタオリンピックの正式種目ではないから、彼らはこの大会めざして練習するだろう。この競技の輪に日本も加わって、1日も早いワールドチャンピオンシップ開催が実現することを祈るばかりだ。

 われと思う視覚障害者のみなさん、射撃は老若男女、障害の有無を問わず競い合えるスポーツです。ひとつ、はじめてみませんか。

(すずきかつこ 函館視力障害センター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年1月号(第16巻 通巻174号) 49頁~52頁