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列島縦断ネットワーキング

[新潟]

視覚障害を持つ教師たちの全国ネットワーク

栗川 治

●結成15周年を迎えたJVT

 1981年5月、西日本各地から視覚障害を持つ教師や教職を目指す人が数名、大阪に集まった。この時、全国視覚障害教師の会(略称はJVT)が結成された。時あたかも国際障害者年であった。

 毎年夏には全国研修会を行い、会員も増加してきた。現在、北海道から沖縄まで全国に50名を超える会員がいる。今年(1996年)、JVTは結成15周年を迎えた。

●JVTの目的

 JVTは結成以来、以下の3つの目的を持って活動してきた。

 ①教職にある視覚障害者が、その職務を遂行し得るように、互いに情報の交換や授業方法の交流を行い、あわせて職場における理解を深めるための工夫などを研修しあう。

 ②在職中の教師が今後中途視覚障害者になった場合、当該者の教育職継続を可能にすべく、資料・情報を提供し、当該者や周囲の関係方面に理解を促す。

 ③視覚障害者(児)が将来教育職を志望する場合、我々の実践状況を当該者および周囲の関係者に提示し、その実現を支援する。

●会員の状況

 JVT会員の全体的な状況を紹介する。

 ①地域的分布

 全国20都道府県に会員がおり、それらを3つのブロックに分けている。

 東日本ブロックでは、8都道県(北海道、新潟、長野、埼玉、東京、千葉、神奈川、愛知)に18名の会員がいる。

 近畿ブロックでは、5府県(福井、滋賀、京都、大阪、兵庫)に20名の会員がいる。

 西日本ブロックでは、7県(広島、徳島、福岡、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄)に17名の会員がいる。

 ②学校種別

 会員の約半数は高校の教師で、小学校、中学校、大学、盲学校(普通科担当)、養護学校がそれぞれ数名である。

 ③担当教科

 中学校、高校などでの担当教科としては、英語が最も多く15名、次いで社会の8名、数学の7名となる。理科、国語、音楽がそれぞれ若干名いる。

 ④視力の状況

 全盲と弱視がほぼ同数である。新採用の時から全盲だった人は10名、それ以外は中途失明あるいは視力低下した人、およびもともとの弱視者である。

●おもな活動

 JVTは会の目的を達成するために、次のような活動を行っている。

 ①研修会の開催

 毎年夏に全国研修会を開催している。結成から十年間は近畿での開催だったが、会員の全国的な広がりに伴い、ここ数年は東京、新潟、広島などでも行ってきている。また各ブロックでも研修会を行ってきている。

 ②シンポジウムなどの開催

 視覚障害教師についての理解を深めてもらうために、これまで数回の公開教育シンポジウムを開催してきた。

 ③実践報告集の出版

 個々の会員の実践を集録した実践報告集『心が見えてくる』を1987年に出版した。今年第二集を出版する予定である。

 またJVT前代表の三宅勝さんが『音が見えた』(エルピス社刊)という実践記録を2年前に出版している。

 ④会報の発行

 JVT会報という会員通信を年に3、4回発行している。ここには研修会の報告や会員の近況、その他、視覚障害教師に関わる情報を掲載している。

 ⑤当該者への支援

 中途で視覚障害を持ったが教職を継続したい人、視覚障害のため休職したが復職を希望する人、視覚障害を持つ学生で教職を志望する人などに対し、視覚障害教師に関わるノウハウや情報などを提供し、また関係方面に理解を求めるなど、当該者の支援を行ってきている。

 ⑥各種団体との連携

 障害者雇用や教育問題などに関して、他団体との連携を図ってきた。各種学習会への参加、調査研究への協力、障害保障制度要求の署名への協力など、視覚障害教師の市民権確立への活動を関係者との協力の中で進めてきた。

●視覚障害教師はどのようにして働いているか

 「目の見えない人が教師の仕事をできるのですか」とか「どうやって授業をしているのですか」などとよく尋ねられる。

 個々の会員によってかなり状況は異なるが、一般的なやり方を紹介してみる。

 ①音声ワープロで教材作り

 教材プリントやテスト問題、職員会議資料などは、音声ワープロを使って自分で書くことができる。

 ②教材研究は録音図書などを使って

 教材研究のために様々な資料に当たる必要があるが、点字図書館やボランティアによって提供される録音図書などを聞いて調べることができる。点訳された情報も増えてきている。

 ③黒板の使用

 多くの視覚障害教師が黒板を使って授業をしている。磁石などを手がかりに自分で書いたり、あらかじめ用意しておいた紙を貼り付けたりしている。板書用の教具を開発したりOHPを使ったりしている人もいる。

 ④生徒の力を借りて

 教室内での学習や校内外での移動などの場面において、生徒の協力を積極的に得ている例が多い。ノートなどに書いた文字を生徒に声を出させて確認したり、職員室から教室まで生徒がガイドしてくれる例もある。これらのことにより生徒の積極性や社会性が培われるという教育的効果も大きいようだ。

 ⑤同僚の協力を得て

 同僚との協力、連携によって円滑に仕事をしていくことができる。複数の都府県では教員をプラス配置して、サポートの役割をさせている例もある。

●今後の課題

 ノーマライゼーションの実現のためには、子どもの頃から多様な人間と共に生きる経験を積み重ねていくことが大切だ。また、障害者が働くことがあたり前のこととなるようにしなければならない。そのような観点から言っても、視覚障害教師が学校教育の現場で働くことの意義は大きい。

 JVTはこの15年間で会員を約10倍とし、視覚障害教師に対する理解も深まってきた。しかし今後解決すべき課題も多くある。

 ①孤立した人とのネットワーク

 本人に働き続ける意志がありJVTとの連絡の取れた視覚障害教師のほとんどが教職を継続できている。しかし私たちの知らない所で孤立したまま退職に追い込まれた人も多いようだ。リハビリセンターや病院など関係機関と連携を深め、孤立した人と結びついていくことが課題である。

 ②障害者雇用環境の整備

 職場内介助者や補助機器の配置など、障害者が働くための条件整備は、学校において特に遅れている。障害保障制度の確立など雇用環境の整備が課題である。

 ③教育実践の蓄積と情報発信

 「目が見えなければ教師はできない」という偏見はまだ根強く残っている。それらを払拭するためには、個々の視覚障害教師が教育現場での実践を積み重ね、どのようにしたら働き得るのかの方法を蓄積し、それを社会にアピールしていくことが必要である。

 中学、高校での学習指導や生徒指導については多くの経験の蓄積があるが、小学校教育や中高での学級経営などについては更なる実践の積み重ねが課題である。

 ④現職継続、新採用の実現

 以上の課題は、いずれもJVTの三大目的である視覚障害教師の現職継続と新採用の実現につなげなければならない。

 視覚障害教師をめぐる情勢は、この15年間で大きく前進したとはいえ、まだまだ厳しいものがある。退職を迫られたり、授業から外されたりする例もまだ存在している。ほとんどの県では新採用はなく、点字による受験すら認められない所が圧倒的だ。

 障害があっても働き続けることができるようにすること、障害を持つ教師の雇用を促進することが大きな課題である。

(くりかわおさむ 全国視覚障害教師の会)

 連絡先

長井 仁(代表)

 〒959-13 新潟県加茂市青海町2-7-2 TEL 0256-52-7185

栗川 治(事務局長)

 〒950-21 新潟市内野町621

 (FAX)025-262-3678


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年2月号(第16巻 通巻175号)55頁~ 58頁