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列島縦断ネットワーキング

[岩手]

われら「まちづくり」奮闘中

石川紀文

 岩手県では平成6年4月生活福祉部内に「ひとにやさしいまちづくり推進室」を発足させ、庁内には知事をトップとした推進会議が、庁外には障害者、関係団体等による推進協議会がスタートしました。翌7年「ひとにやさしいまちづくり条例」が公布され、平成8年4月から施行されます。本県は積雪寒冷地帯という気候に対応するため道路の消融雪施設の設置基準や公共工作物(公衆電話所、交通信号機、金融機関の現金自動支払所)にも高齢者、障害者等の利便に配慮した整備を求めています。

●アクセシブル盛岡発足

 さて、民間の任意団体である「アクセシブル盛岡」は平成6年10月に12人で発足しました。きっかけは筆者が車いすバスケットボールの役員として盛岡とカナダとの交流を計画し、平成3年盛岡のチームがバンクーバーと盛岡の姉妹都市ビクトリアを訪問、試合や視察などさまざまな交流を行い、翌四年にはビクトリアチームが盛岡を訪問しました。その際盛岡を一望する岩山展望台に介助で階段をあがったのを見て、スロープがあればという思いにかられ早速、市に働きかけましたがいい返事はもらえませんでした。そこで、ホテルの仕事で出会ったさまざまな人や車いすバスケットの人に呼び掛けスタートしました。テーマは「障害者のアクセスを考える」、集まり方は「酒を飲みながら」というのが発足時12名の考え方でした。

●展望台にスロープ完成

 2回目の集まりは岩山展望台現地調査会を開催しスロープ計画書を作成、これが基になり盛岡市は平成6年度予算にスロープ設置を計上、平成7年6月完成、ビクトリア市長も参加し完成式典が開かれ現在『ビクトリアスロープ』の愛称で親しまれています。

 このようにしてスタートしたアクセシブル盛岡は2周年の平成7年10月時点で会員80名、福祉行政、福祉団体、医療機関、旅行業、報道、ホテルをはじめ会社員、OL、学生などさまざまな人が集まっています。会では会員募集は行わず口コミで広がりました。約3分の1が障害者で肢体不自由、聴覚障害、視覚障害、内部疾患等さまざまな障害の人がいるのもこの会の特徴であります。またこの会には会則とか年会費、年間計画というものはありません。しかし議員は会員として受け入れないという暗黙のルールがあります。役員も代表1人のみ、費用も参加者の割勘、一言で言えば“アフター5の会”という表現が合っています。

 「酒を飲みながら」でわかるように月1回の例会は酒が飲める所ということで、居酒屋やホテル等市内を転々としています。これはそのような場所の人に障害者への理解を深めてもらう意味も含められています。

●酒をくみかわし仲間にする

 例会にはゲストとして交通機関や旅行業、商工関係等さまざまな方を招き、酒を酌み交わしながら「仲間にひきいれてしまう、相互に理解しあう」ことを念頭にいれています。ゲストとして参加したことがきっかけになり、ある大手スーパーでは社員の手話教室を開催するようになったり、市内最大手のデパートでは駐車場を兼ねた新店舗ビルの設計段階からアクセシブル盛岡との交流を深め、ひとにやさしいデパートが完成しました。障害疑似体験を行う「アクセシブル・ピクニック」は今までに四回実施し、1回目は報道記者、2回目は県会議員、市会議員、高校生、3回目は中学生、4回目は県知事夫人を含めた若い女性を対象に、日曜日の繁華街の雑踏の中で行っています。

●アクセシブル居酒屋

 また私達の会は「叱るより誉めろ」で、障害者のアクセスに努力しているところに『アクセシブル大賞』や『障害者にやさしいお店(酒を飲めるところ)認定』を行っています。ただし、居酒屋でアクセス可能な場所は盛岡市内には少なくまだ2店舗のみで、この反省を生かし平成8年は居酒屋シリーズを展開し「アクセシブル夜の街ゲリラ隊」という名称をつける予定です。

 「楽しむ、遊ぶ」感覚は旅行にも生かされ、障害を持つ人も持たない人も参加できるハワイ旅行をとアクセシブル盛岡が企画しました『地球ピクニックinハワイ』は、障害者の旅行促進のため日本旅行業協会岩手県地区会が協力して県内八旅行業者が共同販売を行い、一般募集という形で呼び掛けた結果、県内15市町村から56名が参加、その内32名がさまざまな障害を持つ人たちでした。地元TV局が同行し特別番組を作り、岩手県内の障害者に海外旅行を促しました。アクセシブル盛岡は平成8年には国内旅行2回、海外旅行2回を企画しており、やはり県内に呼び掛ける予定です。国内旅行は『スカイピクニック』、海外旅行は『地球ピクニック』という名の旅行企画を旅行業者と一緒になって各地に広げたいと考えています。

●東京の支援組織

 また平成7年10月にはさまざまな交流で知り合った東京在住の人たちによってアクセシブル盛岡の東京での支援組織AMITA(Accessible Morioka In Tokyo Area)が発足しました。この東京支部は旅行や交通、航空、大学、行政等の関係者で構成されています。

 その他、盛岡市議会には障害者の議会傍聴に関する要望、盛岡市公園緑地課には市内の公園の周辺整備を働き掛け、議会傍聴については議会内で協議が開始されており、公園については一部の公園で修繕が行われました。

 アクセシブル盛岡は今後いわゆる民間団体や事業所、教育関係者への働き掛けが重要と考え、『飲みながら理解しあう』というアクセシブル盛岡独特の進め方で社会全般への障害を持つ人や高齢者にやさしいまちづくりの啓発を図っていきたいと考えております。岩手県でも庁内の推進会議と庁外の推進協議会を連動させながら条例施行後のやさしいまちづくりを進める計画です。特に民間のまちづくり推進のためには新たな視点での活動が重要となり、そのような意味でアクセシブル盛岡の一風変わった活動に県民からの期待もよせられています。

(いしかわのりぶみ アクセシブル盛岡)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年2月号(第16巻 通巻175号) 63頁~65頁