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気になるカタカナ

ケア

寺山久美子

 「ケアcare」は、よく「キュアcure」(治療する)と対比して使われる言葉である。「医学が進歩し、長寿社会になった今、cureよりcareが大切になった」ということがよくいわれるようになった。

 「care」の意味をランダムハウス英和大辞典で引いてみると、名詞動詞双方に使われるうち、動詞の項には次のように記されている。

 ①気づかう、心配する、留意する、顧慮する。②(通例、否定構文で)気にする、かまう。例えばI don't care a bit what other people say (世間が何と言おうとかまわない)という風に使われる。③世話をする、めんどうをみる。④好く、愛する、望む。⑤~したがる、~したいと思う。

 このように、ケアとは病気や障害を「治療する、癒す」(キュア)というよりは、「愛をもって気づかい、心をこめて世話をする」ということであり、本来その範囲は広い。日本語でいう看護、介護、介助、リハビリテーション、ある種の医療行為等の全てをその内容に含む。「地域ケア」「在宅ケア」などという時の使い方がそれである。「ある種の医療行為」とは、「リウマチケア」「ターミナルケア」「糖尿病ケア」などのごとく、慢性期や終末期の疾患で「よくはならないが、症状を緩和したり、悪くならないようにする」ための医療行為を指す。

 ところで、最近「看護と介護はどう違うか」が関心を呼んでいる。「看護は看護婦が行うもの、介護は介護福祉士を中心とする介護専門識や家族等の介護者が行うもの」といってしまえばそれまでだが、仕事内容に違いがあるのだろうか。

 ヴァージニア・ヘンダーソンによれば、「看護nursing は、健康、不健康を問わず各個人を手助けすることにある」と広く捉えている。その仕事内容は「療養上の世話と診療の補助」(保健婦助産婦看護婦法)の2つに大別される。一方、「介護とは、健康状態がどんなレベルであったとしてもその人が普通に獲得してきたところの自立生活に注目し、もし支障があれば〝介護する〟という独自の方法でそれを補い支援する活動である」と定義されている(文献1 略)。看護は主として病いをもつひとへの専門的ケアに守備範囲があり、介護は生活場面での入浴ケアなど生活ケアに強いといえようか。

 さて「介護と介助」の違いである。視覚障害者へのガイドヘルプや聴覚障害者への手話通訳、重度脳性マヒ者への移動の手助けに見るごとく、「自らの判断で手助けを頼める人へのケアの場合は〝介助〟、痴呆性高齢者へのケアのような保護的要素が強くなる時は〝介護〟と言う」表現が一般的である。

 最後に、いずれの場合のケアにおいても、ケアの受け手の主体性こそが最も尊重されるべきことであることを強調しておく。

(文献 略)

(てらやまくみこ 東京都立医療技術短期大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年3月(第16巻 通巻第176号) 34頁