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1000字提言

農の力が障害者を快活にする

ツルネン・マルティ

 先日瀬戸内海に浮かぶ大崎上島で「ふれあい農園」という心身障害者の共同作業所を訪ねました。2月なのに太陽が暖かく農園の土を照らしていました。新鮮な空気を一杯吸いながら、明るく楽しそうに園生たちが主任やボランティア指導員と一緒に土を耕していました。彼らは突然訪れた私たちを暖かく迎えて、自分たちの仕事ぶりを自慢げにみせてくれました。小さな農園でしたが、そこで作られた農産物は町のバザーで販売したり、家に持ち帰ったりするそうです。

 彼らの農園は一般市民の住宅に囲まれているので、社会から決して孤立していません。そこでは人とのふれあいと並行して自然とのふれあいができるので、大地の恵みをもっとも自然な形で生活の中に受け取ることができます。

 作業所と呼ばれている日本型の障害者のデイケアシステムには、素晴らしいところがたくさんあるので母国フィンランドにも紹介したいと思っています。しかし、数多くある作業所の中にはまだ社会から疎外された、例えば機械部品の単純な分類作業を狭い部屋の中でやっているところもあることは残念です。そのようなところではノーマライゼーションを実行することは困難です。もし、障害者の作業所を全部農園に切り替えて農薬や化学肥料を一切使わないで、生ゴミなどを堆肥に自然農法で作物を育てることができれば、自然の生命力を肌で体験できるようになって心身の障害を和らげる効果も現れるはずです。農園のための農地をわざわざ買わなくても、人手不足で荒れ地になってしまったことろを借りることも、都会でも十分できると思います。

 ノーマライゼーションを実現するために、障害者のデイケア農園を各市町村で用意した〝市民農園〟の一角に設置することを進めましょう。障害者が自分の家族と同居しながら、昼間は地域社会や自然と触れ合えることが本来あるべき姿です。健常者にとっても障害者の存在を忘れないために、常に共に生きる心を持つことが大切です。

 湯河原駅から毎朝作業所に通う障害者たちが数人います。夕方になると彼らは、他の通勤者と同じように湯河原に帰宅します。私が議員を務めた4年間は、月1~2回妻と一緒に駅頭で通勤者に朝のあいさつをしてきましたが、一番明るくて元気な声で私のあいさつに応えてくれたのはその作業所へ通っていた心身障害者たちでした。私にとって彼らのほほ笑みは、強い励ましになりました。

(元湯河原町議員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年5月号(第16巻 通巻178号) 32頁