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1000字提言

人格形成と教育

アキイエ・ヘンリー・ニノミヤ

 カナダのオンタリオ州は1980年に、すべての教育機関は障害児者の統合教育を5年以内に実施することを決めました。毎年、その統合化のプロセスを視察しました。1984年、ケンブリッジ市の小学校を訪問している時、興味ある光景を休み時間に発見しました。電動車いすを使用している5年生の男子がクラスメイトを並ばせて順番に自分の膝に乗せて校庭を1周していました。つまり、車いすを利用して仲間のリーダーシップを作っていたのです。子どもは偏見がありませんから、車いすを使用している友に親しみを覚えたことでしょう。

 障害を持つ友達が学校にいることによって自然に子ども達は、「障害のある人が存在する社会」があたり前だと意識します。そして、それら障害のある人と友達になり一緒に遊んだり、勉強をしたりして成長します。社会に出ても障害を持つ人と一緒に働き、時には家庭を作ることもあるでしょう。

 人格形成理論学者のエリック・エリックソンは学齢期において重要な心の成長は、「遊びを通じて、他の人々と共有しあう世界を学び、人間関係や社会生活のルールや基準を発見する」と言及しています。つまり、障害のある子どもも、障害のない子どもとの遊びを通じて、同じ人格を形成していくのです。つまり、人格形成のノーマライゼーションがなされているのです。

 障害を持つ私の友人は多くの小学校に招待されて、自分の障害や松葉杖のお話をしています。これは教育におけるノーマライゼーションプログラムとしてなされています。子ども達に障害を正しく理解させ、偏見をなくす為にされているのでしょう。しかし、障害を持つ人に学校外から来てもらう状態こそが反ノーマライゼーションだと思います。

 経済大国を目ざした教育制度は生産能力別の差別構造を形成してきました。一流学校、二流学校、三流学校というカースト制度ができ、アウトカーストとして養護学校が位置づけられ、障害児はメインストリームから外されてきました。しかし、これからの日本は生活大国を目ざす必要があります。超高齢化社会が短期間で到来したからです。人間は年を取れば何らかの障害を持ちます。障害のあるなしにかかわらず共に学び、働き、生活する社会が望まれます。心の人格を形成する学齢期を担当する教育制度を早急に改革し、統合教育を実施して、心のノーマライゼーションを創りましょう。

(関西学院大学総合政策学部教授)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年5月号(第16巻 通巻178号) 33頁