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特集/各県の総合リハビリテーションシステムの現状

兵庫県の総合リハビリテーションシステムの現状

澤村誠志

1 その背景

 兵庫県における総合リハビリテーション(以下リハと略)システム構築のルーツは、昭和35年以来取り組んできた身体障害者更生相談所による巡回移動相談にある。年間約50回にわたって、県下6地区に分けて保健所を拠点とし、保健と福祉の連携を意図した。この巡回移動相談を通じて多くの障害をもつ人々(平成7年度3,878名)に接してきた。そこで得た教訓は、障害者のニーズに合うサービスには、リハ医療だけでなく、雇用・生きがいを目指す職業リハ、福祉用具、住宅改造、バリアフリーのまちづくりなどの社会リハなど、多方面にわたる総合的なリハサービスの必要性であった。また、必要に応じての家庭への訪問を繰り返す中で、真のリハニーズと学習は、施設ではなく在宅であることに気づき、これが、ノーマライゼーションをゴールとする私どもの地域リハ活動によせるあつい思いとして現在も息づいている。

 このエネルギーは、まず県域のリハ中核機能をもつ総合リハセンターの設置に向けられた。リハの現場から、昭和38年に、医療、社会、職業、相談、研修、研究などの総合的な機能をもつリハセンターのプランを作成し県知事に提出した。難産の末、県議会の協力を得て昭和44年に建設された。しかし、その後の25年間の高齢化と疾病構造の変化、そしてノーマライゼーションの理念の普及に伴い、総合リハセンターの再整備の必要性が生じ、平成元年より8年間で県福祉部主管のもとに再整備が行われている。しかし、県域を中心とする総合リハセンターの整備だけでは、地域における障害をもつ人々や介護を必要とする高齢者が地域に住みつづけるための条件が整わない。そこで登場したのが、住宅から5キロメートル範囲内での第2次保健医療圏域ごとのリハ中核病院の設置であり、兵庫県地域リハシステムとして、保健環境部主管のもとに昭和63年に設置されている。筆者は、この両者のプロジェクトの責任者として整備にあたってきたので、この機会にご紹介したい。

2 兵庫県におけるリハビリテーションに関する社会資源

 兵庫県は人口551万人、本州の両端を除いては、唯一太平洋側と日本海側に接しており、都市部、工業地帯、漁村、過疎地、離島などをもつ日本の縮図ともいえる県である。65歳以上の高齢者人口は13.6%、75歳以上は5.3%、65歳以上の寝たきり老人は11,936人、独居老人は12,426人で平均世帯人数は2.96人で核家族化が進行している。

 兵庫県は、生活重視、福祉優先、共生社会の創造を県政の3本柱とし、高齢化社会への対応として、「すこやか長寿大作戦・高齢者保健福祉計画」を平成12年までに実現する方向にある。一方、障害者対策としては、「すこやか障害者福祉プラン-新長期計画」を人権尊重とノーマライゼーションの理念のもと作成し実行に移している。この中で、昨年1月17日、予想だにしなかった阪神・淡路大震災が10市10町を直撃し、6,308人の尊い生命を失った。兵庫県では、創造的復興の基本理念としてバリアフリーの福祉のまちづくりにおいている。つまり、ノーマライゼーションの理念にもとづいた地域安心拠点をもつ、福祉・医療・保健サービスと一体化となった住宅と地域環境を基本として整備する方向にある。

 兵庫県下の身体障害者手帳交付者は、159,731人で、肢体障害が59.8%と大半を占める。知的障害者は18,193人である。県内医療施設は、病院数358、診療所は64,262、許可病床数は64,262床、老人保健施設は35である。県内のリハ承認施設は、総合(PT5施設、OT5施設)、Ⅱ(PT103施設、OT39施設)、Ⅲ(PT21施設、OT1施設)である。身体障害者施設は、重度更生援護施設4施設(300床)、療護施設12施設(640床)、授産施設8施設(入所110床、通所178床)、重度授産施設8施設(入所420床、通所52床)、心身障害者小規模通所作業所83か所である。高齢者の在宅ケアの拠点としては、老人デイサービス135か所、在宅介護支援センター54か所、養護老人ホーム43施設(2,974床)、特別養護老人ホーム111施設(7,250床)である。

 地域のリハを支えるマンパワーとして、PT589人、OT248人である。同じ人口数をもつデンマークと比較すると、看護職3分の1、PT10分の1、OT15分の1、ホームヘルパー13分の1にすぎない。新ゴールドプランの数値目標では、地域の中で安心して、老後を託せる地域社会を形成することは到底不可能であり、抜本的な総合リハシステムの導入とマンパワーの大幅アップが必要である。

3 兵庫県下における総合リハシステム

 第1次保健医療圏域であって住民の最も身近な隣保から小・中学校区のコミュニティにおける総合的な地域リハシステムの確立が市町の最も重要な果たすべき役割である。介護を必要とする障害者や高齢者が、地域の援助の中で住みつづけるためには、まず、住宅と福祉のまちづくりによる面的なバリアフリーの環境を基盤とし、これに、医療・保健・福祉に分かれている医師、看護婦、PT、OT、ST、ホームヘルパーなどの共同できる地域安心拠点を24時間体制の中で形成していくことがゴールでなくてはならない。しかし、現実には、ほとんどの市町が財源の不足と意識啓発の不十分さにより完結した総合リハシステムをとっていない。そこで、もう少し広域的に、さらに全県域的に総合的なリハシステムを作り、市町を支援していくことが肝要と思われる。兵庫県における取りくみを紹介してご批判を得たい。

 (1) 第2次保健医療圏域におけるリハ中核病院の設置とその役割(図)

兵庫県における地域リハビリテーションシステム
拡大図

兵庫県における地域リハビリテーションシステム

 兵庫県は、地域保健医療計画にて地域の包括的な保健医療サービスの完結を目指す圏域を、第2次保健医療圏域とし、10圏域に分けた。この圏域内で、早期リハから専門リハ、そして通院リハ、通所リハと一連のリハサービスの流れを目指すために、リハ中核病院を選び、これにPT、OT、STなど市町を支援するための専門職を配置している。

 このリハ中核病院の機能は、①圏域内の住民に対する早期リハ、専門リハ、通院リハの総合的なリハサービスの提供、②圏域内の医療機関・市町(機能訓練事業など)に対する技術指導、③圏域内の関係者に対する教育・研修とリハ情報の集積・提供および関係機関の連携の中核的機能などがあげられる。この各圏域のリハ中核病院間の情報の交換と連携を図る目的から、兵庫県病院協会にリハ部会を設けて各圏域間の情報交換、脳卒中等情報システムの作成などを行っている。厚生省は、老人保健福祉審議会の報告の中で、地域リハセンターや訪問リハ提供機関などの必要性をのべている。その意味では、兵庫県の地域リハの取り組みは先駆的なものといえよう。

 最近、県保健所と福祉事務所を一体化して、在宅福祉と医療を総合的に推進する動きが各地でみられる。兵庫県でも、地域保健福祉活動の拠点として、但馬地区にて「但馬長寿の郷」としてモデル事業が展開されている。この役割は、①在宅介護・在宅医療に関する総合相談、住宅改造、福祉用具などのテクニカルエイド機能による市町の支援、②家庭医、看護婦、家庭奉仕員などマンパワーの研修養成や派遣などによる市町の在宅介護支援センターや訪問看護ステーション機能の統括・補完にある。

 (2) 兵庫県における総合リハシステムの推進

 ①医師に対する県下3か所におけるリハ研修、②看護婦・保健婦に対するリハ実技研修(昭和50年より実施)、③PT・OTの確保対策としての奨学金の貸与、④各保健医療連絡協議会等におけるリハ連携システムの推進などを行なっている。

 (3) 第3次保健医療圏域(全県域)を対象とした県立総合リハセンターの設置

 県立総合リハセンターは、前述したように、昭和44年に設立された。その後の高齢化、障害の重度・重複化と増大するリハニーズに対応するために、この県立総合リハセンターを高度で専門的なリハが総合的に実施できる県域の中核施設として再編整備されつつある。具体的には、医学リハを担当するリハ専門病院(300床)、社会心理リハを担当する自立生活訓練センター(重度更生援護施設と体育施設、自動車訓練施設、150床)、職業リハを担当する能力開発センター(能力開発課、授産施設50床)、これに福祉部として得養ホーム(100床)、救護施設(100床)、そして相談機能として、身体障害者更生相談所が併存している。ここには全県域を対象とする研修・情報・研究機能が要視されなければならない。

 兵庫県では、平成4年の福祉のまちづくり条例の制定以後、従来の福祉機器や義肢装具の研究開発に加えて、障害者等の利用に配慮した建築物、住宅、公共交通機関などの面的なバリアフリーのまちづくりに向かっての研究開発を行う「福祉のまちづくり工学研究所棟」を整備しつつある。ここには、各都道府県に設置されつつある介護実習普及センターに相当する「家庭介護・リハビリ研修センター」が福祉用具の展示ホールとともに移転充実の方向にある。これは、介護研修には、リハ専門職の参加が不可欠と考え、マンパワー獲得のために介護とリハの2課制としたためである。この研修内容は、年々充実の方向にあり、平成8年度の介護研修は、センター内85コース、2,625人、巡回研修では、138コース、3,955人、リハ研修では、センター内14コース、412人、巡回84コース、923人となっている。

 兵庫県立総合リハセンターは27年を経過したが、我々の経験からすれば、その存在意義はきわめて高く、今後各都道府県ごとに設置されるべきと思われる。

 (4) 兵庫県リハビリテーション協議会の経験

 リハに関係する専門職は、医療、教育、福祉、職業、住宅などいろいろな縦割り行政枠で活動している。そこには、有機的な横割り連携を行い、情報を交換する場がなく、多面的なニーズをもつ障害者や高齢者のノーマライゼーションのゴール達成に障害となっている。

 そこで、昭和47年に、リハセンターと身体障害者更生相談所に事務局をおき、障害者団体、行政担当者を含めた各組織の代表者からなる理事会をもつ兵庫県リハ協議会を発足させた。その主な活動は、①リハ研究会の開催(本年は第25回)、②各分野におけるリハネットワークの形成、③リハに関する資料、リハ便覧の作成、④地域、現場からのニーズを行政に反映させる組織活動にある。本協議会による地域リハ活動は、厚生省により認知され、各都道府県に推進をすすめられているが、事務局をおく身障更生相談所の機能と組織に問題がある限り、多くは期待しがたい。

 本協議会とは別に、リハ医療関係者による兵庫県リハ医療研究会(県立総合リハセンター・リハ療法部に事務局をおく)が昭和55年より開催されている。また、医師のリハに対する関心の低さを底上げする意味と、県医師会との連携を密にするため、昨年度から兵庫県リハ医学会を発足させている。その他、兵庫県では、寝たきりゼロ作戦推進委員会、福祉のまちづくり推進委員会、地域安心拠点委員会、脳卒中等情報システム委員会、障害者福祉新長期計画委員会、保健福祉復興計画委員会など多くのプロジェクトが、ノーマライゼーションを目指して活動をしている。

 以上、兵庫県において、障害をもつ人々や介護を必要とする独居老人が、24時間ケアと住宅・まちづくりの体制充実の中で、生き生きと住みなれた場所で心豊かに住みつづける社会の形成を目指して取り組んできた総合的なリハサービスの現状を報告した。現在、仮設住宅で将来を見出せない震災弱者に、明日への生きる希望を見出すためにも、今後とも微力ながら努力していきたい。

(さわむらせいし 兵庫県立総合リハビリテーションセンター所長・県立福祉のまちづくり工学研究所々長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年6月号(第16巻 通巻179号)12頁~15頁