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特集/各県の総合リハビリテーションシステムの現状

神奈川県の総合リハビリテーションシステムの現状について

長尾雅康

1 神奈川県のリハビリテーション対策の基本方向

 高齢化社会の急速な進行と障害者の自立への期待が高まる中で、神奈川県でも県民のリハビリテーションにかかわるニーズや関心は増大の一途をたどっています。県では「人々の生活全体に焦点をあわせてリハビリテーションニーズを多角的にとらえ、家族と住民の参加を得ながら、地域社会における各人の『生活の場』においてその展開を図る必要がある」(昭和59年1月神奈川県総合福祉政策委員会・部会提言)という基本方針のもとに、総合リハビリテーションや地域リハビリテーションの展開を目指してきました。

 神奈川県が提唱してきた「総合リハビリテーションシステム」とは、「社会システムの創造」の一環として関係部局の連携による横断的な展開、つまり「政策の総合化」と、生活に密着した地域において市町村、県民との連携のもとに具体的に展開する「地域化」を基本とするものです。システムの構造としては、リハビリテーションニーズに応じて市町村圏域、広域ブロック圏域、広域圏域(県域)の三層構造とするとともに、医学的分野、教育的分野、職業的分野、社会的分野のリハビリテーションシステムが相互に連携を図るものとなっています。

 その中で、県が果たすべき役割の主なものとしては、①地域(市町村)におけるリハビリテーションシステムの展開支援、②医学的リハビリテーションシステムの整備、③職業的リハビリテーションシステムの推進、④多様な教育形態による障害児教育の充実、⑤神奈川県総合リハビリテーションセンターの運営、⑥保健医療、福祉関係従事者の確保対策、などがあげられます。以下、具体的な推進内容について例示的にご紹介します。

2 神奈川県総合リハビリテーションセンター

 まず、県の提唱する総合リハビリテーションシステムの中核的な位置づけにあるのが「神奈川県総合リハビリテーションセンター」です。障害者を大規模な入所施設で生活させるコロニー方式が全国的にブームだった1970年代に、県全域が生活の場であるという考えのもと、ハンディキャップをできるだけ軽減し、社会復帰の可能性を共に追求し、治療・診断・評価・訓練等を総合的かつ一貫して行うために、全国に先駆けて設置された施設です。

 このセンターは厚木市七沢にある約20ヘクタールの広大な敷地に、2つの病院と7つの社会福祉施設、そして研究・研修所があります。そして、厚木市内にある看護専門学校を加え、職員総数は約1,250人、その職種は40種に及んでいます。

 最近では、「高齢者・障害者へのヒューマンテクノロジー応用研究」(注)に代表されるような調査・研究機能、保健婦や福祉施設職員、ホームヘルパーなどに対するリハ技術の教育・研修機能、さらには後述する市町村等への人材供給機能などへの積極的な取組みがなされ、21世紀の時代ニーズに対応した新たな役割を担うべく、リハビリに関するさまざまな情報や技術、そして人材の発信基地として生まれ変わりつつあります。

3 地域リハビリテーション推進に対する最近の取組例

(1) 職業的リハビリテーションシステム

 県では、障害をもつ方に対する一貫した職業的リハサービスを提供するため、職業的リハビリテーションシステムの構築を図ってきました。このシステムは、障害をもつ方の就労を進めるために、保健医療・福祉・教育・労働・企業等から専門家・関係者が集まって話し合い、援助方法(援助方針、援助機関の役割分担等の職リハ計画の作成)を決め、その援助目標に向かって、必要な機関が協力しあいながら就労までの各種サービスを行うものです(図1)。また、就職しても仕事が安定して続くための援助も行います。

図1 職業的リハビリテーションシステムの流れ
図1 職業的リハビリテーションシステムの流れ 

 平成元年度から相模原地区を皮切りに、現在まで、横浜地区、川崎地区、県央地区でケース検討を実施していますが、将来は全県域を対象エリアとしてシステムの地域的な展開を図る予定です。

(2) 地域リハビリテーション人材共同確保システム

 県は、平成5年度に「かながわ高齢者保健福祉計画」を策定しましたが、その中で課題の1つにあげられたのが、市町村は機能訓練会や訪問リハに携わる専門人材としての理学療法士(PT)、作業療法士(OT)を単独で確保することが困難であるということでした。そこで、県はこうした人材を保健福祉圏域(複数の市町村をまたがる地域)で共同確保しようという構想を立て、平成6年度から県西部にある足柄上地域を対象にモデル事業を始めるとともに、県総合リハビリテーションセンターにシステム化の検討を委託しました。その結果、保健福祉圏域内等でPT、OTをもつ医療機関を人材供給拠点とし、県の機関である地区行政センターが、地域(市町村)のPT、OTの必要量を取りまとめ、人材供給拠点と各市町村が業務委託契約を結ぶことで人材を共同で確保する、というシステム案がまとまりました(図2)。

図2 地域リハビリテーション人材共同確保システムの概念図
図2 地域リハビリテーション人材共同確保システムの概念図 

 市町村を地域リハビリテーションの中心に置いたこの人材共同確保システムは、平成8年度から足柄上地域を中心に本格的に実施されます。医療と福祉が人材面で連携しあい、各保健福祉圏域で地域リハビリテーションが展開されることが期待されています。

4 リハビリテーションの新たな普及・啓発に向けて

『神奈川県リハビリテーション物語』の発行

 ところで、リハビリテーションはその内容が専門的かつ複雑なため、一般に理解され普及されにくいことが指摘されています。リハビリテーションに理解をもつことは、本人や家族が障害をもった場合や、あるいは、障害をもつ方々に対してボランティア等で支援を行う際、もっとも重要な力を発揮するといえます。したがって、「普及啓発」は、地道ながらリハビリテーション行政の重要な機能と位置づけられます。そこで県は、県民各層にリハビリテーションに関する共通理解をはかっていただくために、マンガによる普及啓発冊子を発行することにしました〔『神奈川リハビリテーション物語(スポーツ事故障害編)~大空へ翔べ~』図3 略〕。この冊子は、スポーツ事故によって障害をもった高校生が、見事に困難を克服し、社会復帰するという実話を題材にし、病院や訓練施設でのリハビリテーションや、学校、就職、結婚などさまざまな人生の場面で、ボランティアをはじめとする人々の支え合いの姿を描いています。

 マンガは、身体機能面での訓練の様子はもとより、生活の継続性の中で、いかにリハビリテーションが取り入れられているかを理解するのに、非常に効果的な表現方法といえます。今後も、高齢者やさまざまな障害をもつ方々のリハビリテーションの事例をもとに、シリーズ化していく予定です。

5 おわりに

 今までご紹介してきたように、総合リハビリテーションシステムは各分野で進化し、さらなる連携・総合化が図られてきましたが、今後も、新しい時代に適応できるリハビリテーション行政を展開するためには、市町村や民間団体、県民等との結びつきをより強くし、県の新たな役割を模索していく必要があると認識しております。

 県では、「『活力ある神奈川、心豊かなふるさと』の創造」のために、21世紀を展望した、県政運営の新たな総合的指針となるべき新総合計画を現在策定中です。リハビリテーションニーズの変化にも対応できる計画づくりを目指していきたいと考えております。

(ながおまさやす 神奈川県福祉部福祉政策課)

注:高齢者・障害者へのヒューマンテクノロジー(人にやさしい技術)応用研究

 平成3年度から5か年間にわたって神奈川県の「産学公地域総合研究推進事業」として行われた研究事業。県総合リハビリテーションセンターを中心に公民の28の機関が参加し、住居内や日常生活圏の移動機器、都市交通手段、ニューメディアを活用した社会参加などについて総合的に研究を行った。日本家屋の段差を乗り越え可能でかつ、小回りのきく六輪車いすの開発・実用化、新技術を導入したリフト付きバスの開発と試験運行、高齢者・障害者にとって操作しやすいパソコン入力装置の開発及び情報通信システムの整備などといった研究成果が得られている。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年6月号(第16巻 通巻179号)16頁~19頁