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1000字提言

コンステレーション

熊埜御堂朋子

 昨年8月に放送し、今年1月に再放送をした番組『ようこそ私の世界へ「自閉症」・ドナ・ウィリアムズ』には、多くの反響を頂いた。

 「私たちの心にも弱くもろい部分があるのでドナの世界に無関心ではいられない。」「自閉症って聞いたことはあるけれど、よく知らなかった。見終わって思った。他の人と少し違った人たち。それは個性だ。」「現代は言葉に頼りすぎるというドナの言葉に深く考えさせられた。」「ドナを見ていると、自閉症の人はその人の世界の中ではとても整然とした秩序の中で生きているのであり、どちらがおかしいとは言えないのではと思った。」「ドナの世界に触れることで、もう一度、自分というものを見直す機会を与えられた。」

 私は、番組を制作する時に必ず心に思い浮かべる言葉がある。それは、心理療法家の河合隼雄さんに教えて頂いた言葉で、“コンステレーション”という。コン=共に、ステレーション=ステラ・星の複数で、「星座」という意味。心理学用語では「布置」という。例えば、不登校の子供を学校に行かせたい親がいるとする。不登校の要因も含めて、その子供を取り巻く様々な状況が「星座」の如く位置しており、親もその星座を作っている星の一つである。それなのに、自分は無関係だと思っている限り、その子供の治療はうまくいかないという。そして、心理療法家も、その星座の一つに自分の身を置くという。

 私は自分が取材する際に、「私はその人の星座の何処に位置するのだろう」と考える。今回のドナの時も同じである。ドナのことを単なる取材対象として捉え“こちら側”から“あちら側”を撮影するのではないという心の距離感。そして、出来上がった作品にしても「自閉症という障害にもかかわらず、こんなに頑張って素晴らしい生き方をしている人がいる」という感想だけに終わってほしくないという想い。うまく表現できないが、番組を見て、自分自身のことをふと考えてほしいと願っている。見て下さった方の「星座」のどこにこの番組が、そして、ドナが位置づけられたのだろうか……と思ったりする。

 障害があるとかないとかを超えて、そこには、「人」と「人」との出会いしかない。それぞれが自分の人生を生き、いろいろな人生とすれ違い、そして、共に歩む人生も生まれる。ドナは私の星座の中にしっかりといる。

(くまのみどうともこ NHK番組制作局・教養番組部)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年6月号(第16巻 通巻179号)26頁