特集/障害者とスポーツ
ゴールボール
近藤和夫
ゴールボール競技の歴史
ゴールボール競技は、第二次世界大戦で視力に傷害を受けた傷痍軍人のリハビリテーションの効果を促進するために考案されたリハビリテーションプログラムの一つであったが、1946年にドイツのハインツ・ローレンツェン、オーストリアのセット・ラインドルの両氏によって競技として紹介されたのが始まりとされている。その後1976年のカナダのトロントで行われたパラリンピック大会、1978年のオーストリアでワールドチャンピオンシップが開かれ世界的に広まっていったとされている。現在では、IPC(国際パラリンピック委員会)の加盟団体であるIBSA(国際盲人スポーツ協会)の公認競技として、パラリンピック大会でも正式種目として競技が行われている。
日本でのゴールボール
わが国でゴールボール競技が初めて紹介されたのは、1982(昭和57)年にデンマークのスポーツコンサルタントのクラウス・ボス氏が来日し東京都立文京盲学校を会場として競技の紹介がなされたが、全国的な普及には至らなかった。1992(平成4)年、財団法人日本身体障害者スポーツ協会によりゴールボール競技の本格的な競技規則の翻訳が行われ、ゴールボール競技の全国的な紹介がなされた。同協会の紹介を機に、東京都多摩障害者スポーツセンター、京都市障害者スポーツセンター等でゴールボール教室が開催され、競技の紹介と競技者の育成がなされた。1994(平成6)年のFESPIC(極東南太平洋身体障害者スポーツ大会)北京大会に日本初参加(結果4位)。同年5月に日本ゴールボール協会が発足し、1995(平成7)年8月、イギリスで開かれたアトランタパラリンピック大会ゴールボール競技予選大会に選手団を派遣。さらに同協会主催により日本ゴールボール選手権、審判員養成講習会が毎年開催され、全国へ競技の紹介及び普及が行われている。
競技の特性
この競技は、視力に障害を受けたことにより残された聴覚能力を最大限に活用し、身体機能(瞬発力、持久力、調整力、巧緻性)を維持、増進させようというものである。このゲームには、ヨーロッパ地方で最も盛んなサッカーのゲーム的要素が取り入れられており、相手の守るゴールにボールを入れ得点を競うといったものである。しかしながら守備面では、サッカーのゴールキーパーに勝るとも劣らない技術、判断力、勇気、闘争心とそして何よりもチームワークが要求されるゲームである。
競技の概要
競技は、2チーム間で行われる。1チーム3名の選手がコート内に入り、鈴の入ったボールを投球し合いコートのエンドにあるゴールにボールを入れるものである(1ゴール、1点)。ここで使用されるコートは、バレーボールで使用されるコートと同じ大きさで、かつ音源が聞き取れるよう静かさを保てるよう配慮する必要がある。競技においては、通常主審1名、副審1名、ゴール審判員4名、オフィシャルとしてスコアラー、タイマー、ショットレコーダー、8秒タイマーが必要とされる。競技開始時の先攻側と守備側の決定は、コイントスで決定する。
競技規則
コート コートは、長さ18m、幅9mの長方形とする(図)。
図 ゴールボールのコート
コートマーキング マーキングは、幅5㎝ではっきり見えるように引かれており、選手が触れることによって簡単に認知できるようテープの下に太さ3mmのひもを通す。さらに、コートは、センターラインを挟んでチームエリア、ランディングエリア、ニュートラルエリア、の3つのエリア(各3m)に大きく分けられる(図)。
プレイヤーオリエンテーションライン チームエリア内には、選手が自分の位置を確認するための6本のオリエンテーションラインが引かれている(図)。
ゴール コートの両エンドには、幅9m、高さ1.3mのゴールがゴールライン上に設置される。ゴールポストとクロスバーは、直径15㎝以下の円柱とされる。
ボール ボールは、男子、女子ともに重さ1.25㎏の鈴入りのボールが使用される。ボールの円周は、76㎝で直径1㎝の穴が8か所あいている硬いゴムでできているものが使用される。
ユニフォーム ユニフォームの前後には、20㎝以上の大きさの番号を付ける。また、着用した時に身体から10㎝以上余裕があってはならない。
アイシェード 試合中選手は、スキーゴーグルタイプで、完全に見えないアイシェードを付けなければならない。
クラス 競技は、男子、女子に分けて行われる。出場資格は、IBSAのB1、B2、B3のクラスの者。
チーム編成 1チーム選手3名、控え選手3名の6名で構成される。
競技時間 前半7分、後半7分の14分間で、ハーフタイムは3分間とされている。
延長戦 14分間の試合で勝敗が決しない場合は、前半3分、後半3分の延長戦が行われる。延長戦でも勝敗が決しない時は、フリースローを行う。
フリースロー 試合前に提出したオーダー表に記入された順番で攻撃側1人、守備側1人(1対1)の選手によって行われる(サッカーのPK同様)。フリースローの投球回数は、両チームの登録選手の少ない方の人数に合わせて行われる。フリースローでも勝敗が決しない場合は、サドンデスフリースローを行い、勝敗が決するまで行われる。
チームタイムアウト 各チームは、試合中45秒のタイムアウトを3回行使することができる。
サブスティテューション(選手交代) 各チームは、試合中3回の選手交代が認可される。ハーフタイムの交代は、回数には数えない。交代の際には、主審にハンドシグナルで必ず知らせる。
違反 次に挙げる違反があった場合は、得点は無効となり、ボール所有権が相手側へ移る。
プリマチュアスロー 審判の投球認可の合図の前に投球した場合。
ステップオーバー 投球の際、選手がコート外から投球した場合。
パスアウト チーム間のパス交換の際ボールがサイドラインを越えてしまった場合。
ボールオーバー 相手側の投球を守備側がブロックしたにもかかわらずゴールがセンターラインを越えて相手チーム側まで跳ね返ったとき(クロスバーに当たっても同様)。
デッドボール 守備側の選手がボールに触った後ボールコントロールできずにボールが止まってしまったとき。
ペナルティー 次に挙げる行為があった場合は、得点は無効となり、ボール所有権が相手側へ移り、相手側にペナルティースローが与えられる[パーソナルペナルティー(パーソナルP)、チームペナルティー(チームP)]。パーソナルPは、ペナルティーを犯した選手がコート内に1人残されペナルティースローを受ける。チームPは、ペナルティーを犯したチームの最終投球者がコート内に1人残されペナルティースローを受ける。
ハイボール 投球後のボールの第1バウンド目が自領のチームエリア、ランディングエリアを飛び越えてニュートラルエリアまで達してしまった場合(パーソナルP)。
ロングボール 第1バウンド目が自領のチームエリア、ランディングエリア内に落下したがニュートラルエリア内に一度も触れることなく相手側のランディングエリア、チームエリアに達してしまった場合(パーソナルP)。
アイシェード 選手は、試合中審判の許可なしにアイシェードに触れてはならない(ハーフタイムを除く。パーソナルP)。
サードタイムスロー 選手に許される競技中の連続投球は、2回までで、3回以上続けて投げた場合(パーソナルP)。
イリーガルディフェンス 選手は、チームエリア内で守備をしなくてはならない。チームエリア外で守備をした場合(パーソナルP)。
パーソナルディレイオブゲーム 個人的試合の遅延行為(パーソナルP)。
スポーツマンシップに反する行為 非紳士的行為、反スポーツマンシップ的行為と審判が判断した場合(パーソナルP)。
8秒 選手またはチームは、次の相手の攻撃に対し守備の用意ができてから8秒以内に投球しなくてはならない。8秒を経過しても投球されなかった場合(チームP)。
チームディレイオブゲーム チームの試合の遅延行為(チームP)。
スポーツマンシップに反する行為 チームとしての非紳士的行為、反スポーツマンシップ的行為と審判が判断した場合(チームP)。
イリーガルコーチング タイムアウト、ハーフタイム以外でコート内の選手に指示をした場合(チームP)。
(こんどうかずお 東京都障害者総合スポーツセンター)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年7月号(第16巻 通巻180号)13頁~16頁