特集/障害者とスポーツ
フロアーピンポン
赤見光二
はじめに
近年、障害者に対してスポーツ・レクリエーションは、いろいろなルールの工夫により病院や施設の中で取り入れられています。それらは独自のゲームや方法なども多いと思われます。これらのゲームが取り入れられるようになった背景には、第一に生活のマンネリ化、第二に障害者の体力や健康面、さらには社会生活面に対しても適度な運動の実施が好影響を及ぼすことが理解されていることも一つの要因であろうと思われます。そこで私達は、脳血管後遺症者の身体機能が重度から軽度の者までそれぞれ参加できる、床上でのピンポンゲーム(以下フロアーピンポン)を考案・実践し、成果を上げていますので、ルール及び指導過程について報告いたします。
フロアーピンポンの経緯
初めは、卓球台を使用して訓練を行っていましたが、ボールが遠くに転がってしまい、患者さんと一緒にボールを取りに行きましたが、台の所まで戻るのに大変だったので、その場(床の上)で行ったところラリーが続いたのがきっかけです。
競技規則
サーブ、コートの選択
① ジャンケンで勝った方が、サーブ及びコートを選択する。
チェンジコート
② コートは1セットごとにチェンジし3セット目は8点目でチェンジコートをする。
サービス
③ サービスはエンドライン後方より行う。
④ サービスはトス及びバウンドの選択をする。
⑤ サービスは2回できる。
⑥ サービスは5回で交代。
ゲーム
⑦ 1セットは15点先取でデュースなし。
⑧ 3セットマッチで2セット先取したほうの勝ち。
その他
⑨ スマッシュレベル以外のサービスカットはなし。
⑩ スマッシュ以外のプレーではツーバウンド可能。
⑪ ツーバウンドゾーンに入ってサイドラインをワンバウンドで割ったらサーバーのアウト。
⑫ アウトゾーンに止まったり、サイドラインを割ったらサーバーのアウト。
⑬ 卓球のルールに準用する。
機能的レベルにおけるクラス分け方法
A 立位
① スマッシュレベル
ダイナミックな動作ができ、ある程度スマッシュができる者。
② ラリーレベル
スマッシュが打てなく、5~10回程度連続してラリーができ、前後左右の動きが多少ある者。
③ 単発ラリーレベル
その場で多少の前後左右の動きがある者。
B 椅座位
バランスが良く、ある程度連続してラリーができ多少の脚のふん張りができる者。
C 座位(長座位、胡座、横座り)介助含む
前後左右の動的座位バランスができる者。
施設の利用
フロアーピンポンは、設置場所を取らず一定の空間があればそこの一角に設置できるため、多くの労力は必要としない。
コートの大きさ
A 立位(図1)
サイドライン6m、エンドライン1.5m、ネットの高さ0.5m、ツーバウンドゾーン1m
B 椅座位(図2)
サイドライン5m、エンドライン1.5m、ネットの高さ0.5m、ツーバウンドゾーン1m
C 座位(図3)
サイドライン1.5m、エンドライン0.7m、ネット下5㎝、アウトゾーン0.5m
図1 立位のコート
図2 椅座位のコート
図3 座位のコート
使用機器
① 卓球用ラケット・ボール
② バウンドテニス用ネット
③ 包帯
指導の手順
(1)ラリーの練習
片マヒ者で利き手がマヒ側の場合、意外と不安定となります。また逆の場合は、比較的うまくできるが動作はぎこちない。このような場合、指導者が同じ力でボールを投げ、繰り返します。慣れてきたら前後左右にボールを投げ全身の動きを引き出します。ある程度練習し、打ち返しができるようになったら指導者と一定の場所にボールを打ち返す、転がすを練習します。立位バランスが悪い者はいすに座るか、座位で行います。
(2)返球の練習
指導者は返球しやすい位置にボールを打ち、確実に返球をさせるようにします。慣れてきたらフリー形式にし、連続でラリーを行います。また自分の打てる範囲を確認させ、ボールの回転、ラケットの角度を十分に認識させます。
(3)サーブの練習
どうしてもボールがネットを越すことができない場合は、ネットを越せる位置から行い徐々にエンドラインに下げて行きます。エンドラインからできるようになったらトス・ワンバウンドにより相手コートに確実に入れさせサーブの強弱をコントロールさせます。
(4)スマッシュの練習
片マヒ者の場合、健足の踏み出しは容易に行えても患足についてはかなり制限されることが多く、合わせて転倒に対する不安が一層動きに歯止めをかけてしまいます。また、ボールを打つ瞬間、筋緊張が強くなると空振りをしてしまうため、スマッシュ練習は十分に行う必要があります。
(5)ゲームの練習
指導者と行い、ラリーが続く中でゲームの流れ及び展開を理解させ、最終的に対象者同士でゲームを行います。
おわりに
対象者の反応は、卓球、テニス、バドミントンに似ているということで比較的受け入れは良好でした。しかし、訓練初期の人は転倒に対して不安を感じることがあり、段階的指導の必要性を感じました。また、練習過程を通して、動作の慣れが生じ、それぞれの機能を生かした動作パターンで行えるようになりました。全体として、レクリエーションに対する意欲も高まり、フロアーピンポンは、日常生活のリズムに対する刺激や心理的賦活に良い影響を及ぼしているように思われました。
<参考文献> 略
(あかみこうじ 中伊豆温泉病院)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年7月号(第16巻 通巻180号)19頁~21頁