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特集/市町村障害者計画

市区町村長アンケート調査結果をみて

広田和子

 1991年2月アメリカの障害者が横浜の講演会で「ブッシュがデュカキスより先にADAの支持を表明したので大統領選に勝利した」と語った。彼の言葉の背景には、1つに公民権、ウーマンリブ、消費者というアメリカのそれぞれの社会運動の歴史と、2つ目に2億人の人口に対し高齢化に伴う障害を含めた障害者人口4000万人という捉え方があると思う。その時点で国連はすでに精神障害者を病気と生活障害と社会的不利益をもつ存在として理解し支援することを提唱していた。しかし、我が国の精神障害者には福祉法もなく、治療の保障というよりきわめて治安色の強い精神保健法だけしか存在しなかった。

 私は彼の言葉を聞いて「いつかADAのようなものを日本に」と思った。その後わずか10日間であるが1991年10月にアメリカへ行く機会に恵まれ、その思いを強くした。1993年にやっと精神障害者も障害者基本法の対象者に入ったが、私の周辺の生活は好転していない。そんな現状が障害者プランでどう変化し、市区町村はどう取り組むのか。

1 協議会の設置と多くの障害者の参画を

 我が国のプランはタテ割りである。ゴールドプランは誰もが高齢者になるということでマスコミの扱いも大きく社会の関心も高いが、障害者プランは障害者、家族、関係者以外の関心はきわめて低い。それは今回のアンケート調査結果からも読みとれると思う。

 (1)全国3255市区町村中で本人の回答は80。各自治体責任者がこのプランをどう捉えているのか見えない。

 (2)障害者計画を「策定済」、また「策定中」と回答したところが合計で230。各自治体のお金のなさ、人手のなさと、このプランが義務規定でないための結果だと思う。この項については後で他の項と共に述べたい。

 (3)地方障害者施策推進協議会を「設置済」と「予定中」と回答したところが240。設置しない理由に「審議会がすでに存在するから」等のコメントがあるが、各種審議会に障害者はほとんど入っていない。協議会は当然のことだが障害者の枠が法的に位置づけられているのでぜひ設置してほしい。なお各種政策立案時は公聴会を開き、審議会にも障害者の枠が法的に入るべきである。横浜市の協議会は私を含め三人の障害者が入っているがそれでも少ないと思う。それは障害者といえば少なくとも肢体、視覚、聴覚、内部、知的、精神が入るべきだと考えていたのでアンケート調査結果(抜粋)の3-(3)の回答にはため息が出る。このようなとき「家族でなく障害者本人を……」という論議もおこるが、精神障害者の分野でいえば、家族が多くの作業所等を誕生させ、質の良い社会資源にするため補助金の要望を行政に陳情したり各種課題に取り組んでいる活動をみる時、〝家族か本人か?でなく両者共に〟と私は思う。

 (4)精神障害者相談窓口として181か所あるが、この数字に800の保健所と精神保健福祉センター51は入っていない。重複障害者もいるので市区町村で窓口を設けるとき障害別に分けないでほしい。そして市民がどこでどういう相談を受けることができるのかという情報を、組織に属していない人にも発信する役割を行政が担うべきだと思う。

2 少し思いをふくらませて

 このアンケート調査結果で精神障害関係は国や都道府県に対する要望の中に見られるだけで、重要施策に他の障害とリンクするものはあるが固有のものはない。しかし現実には34万人の入院者がいてそのうち3分の1の10万人は社会的入院者といわれて久しい。一説によれば20万人、「地域ケアを十分にすれば30万人」という説もある。入院者の約4分の1は65歳。そもそも病院への収容施策は50年代に始まり、1964年にライシャワー米国駐日大使刺傷事件の犯人がたまたま精神障害者であったことから社会防衛上急増した。国は低金利でお金を融資して民間医療に依存した。今、国は精神医療費を削るため入院者数を減らす政策を展開しているが、そのお金をすべて社会資源設立に回すべきだと思う。そしてそのお金に基づく政策を各自治体にまかせれば地域性のあるものができると思う。

 退院者の大きな課題は住居と生活の場の確保である。住居は、グループホームに合わない人もいるので公的住居の整備が望まれるし、ハードの整備のみならず国と自治体で公的保証人制度を確立してほしい。生活の場としていろいろなものがあるが、小回りのきく作業所が1万位は必要だと思う。自治体が作りやすいように1か所500万円位、国が補助してほしい。作業所は9時~5時という従来型のもよいが、もっとバリエーションをもたせ2時~8時位までにして夕食と入浴ができたらいいと思う。

 国や都道府県に対する要望の中で「整合性のある施策が望まれる」という声には私も全く同感だ。たとえば横浜市の「ゆめはま2010プラン」の場合、高齢者の地域ケアプラザを中学校区に1つずつで160。身体障害者のデイサービスセンターを各区(18区)に1つずつ。知的障害者のデイサービスセンターを各区に2つずつ。精神障害者の生活支援サービスセンターを各区に1つずつ等の設立が盛り込まれているが、サービスを利用する側からするとやがてはみんな高齢者になるのだからハードとしては1つがいい。それを生徒数の減少する学校へ入れると、すぐそばに高齢者や障害者と接することで福祉教育の場にもなり、本物のボランティア精神を身につけた市民の誕生も期待できるだろう。

 障害者施策を展開するうえで重要と考える項目の2番目に「ボランティアの育成」がある。これは昨年の阪神大震災での活躍が評価されて出てきたのだと思うが、行政のすることではないと思う。ボランティアとは心の豊かさや、やさしさがあればいつでも誰でもできる。それには日頃から家庭、学校、職場でゆとりのある生活が求められる。

 このアンケートには出ていないが昨年10月、精神障害者にも〝手帳制度〟がスタートしたが、現状は取得してもほとんどメリットがない。早急にサービスを提供してほしい。手帳に写真をはれないと現実もある。将来的には障害者も高齢者もサービスを利用するという見地から〝社会福祉サービス手帳〟に一本化したほうがいいと思う。

 最後に、障害者とその家族や高齢者は相互支援や生活者としての経験者であり、先輩でもあり、ボランティアも社会貢献もできるという視点を忘れないでほしい。国、県そして私達に一番身近な3255の地方公共団体の取り組みを多いに注目したい。

(ひろたかずこ 精神医療保健福祉ユーザー)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年8月号(第16巻 通巻181号) 15頁~16頁