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1000字提言

人生のネットワーク

小西勝巳

 社会に出て今日まで27年間、業界こそ転じたが、この間ずっと企業の人事畑を歩いてきた。「人」がテーマの仕事だけに、多くの企業はもとより行政、学校関係の方々にも多くの知遇を得ることができた。このような私がノーマライゼーションの分野に携わるようになって、あっという間に5年が過ぎた。私としては企業の人事畑の仕事の一つとして、この課題に取り組んできたという印象である。

 ところが最近あることに気がついた。それはこの5年間を振り返って見ると、巡り合い影響を受けた方々の数が、それまでに比べて比較にならないほど多くかつ幅広いということである。

 若いときから夫婦で施設を育て守ってこられた施設長さん。一人世界を旅して心を閉ざした子供達や末期ガンの老人達の心を開く女性ハーピスト。企業の中にあって一人でも多くの障害者の働く場を開拓しようと頑張っている部長さん。フィランソロピーの風土を広めようと、寝食を忘れて動き回る心豊かな団体の事務局長さん。障害ある子をもちながら、明るく全国のママさん達とネットワークしている親の会の皆さん。そしてこうした地道な福祉に携わる人の本を出版し続けている小さな出版者の社長(彼はこう呼ばれるのを嫌う)さん。そして、知的障害をもちながらそれはそれは美しい詩と美しい絵を描く人。こうした人生ドラマを素直に伝えようと、ライトの向こうで涙を浮かべながら取材するテレビディレクター。数え上げればキリがない様々な人達。

 官庁時代に障害者福祉関係の仕事をしておられ、ある県の県知事になられた方から会いたいという連絡が、この春入った。いろいろな人からお名前が出ていたので、私も是非会いたいと思っていた方だ。1時間程であるが親しくお話をさせて頂いた。初対面のような気がしなかったのは、お互いに共通の知遇が多くいたせいであろうか。

 別れ際に彼が「この仕事をされて、いろいろな友達ができたでしょう」と問いかけてきた。正にその通り。そしてそれは何故だろうかとも考えてみた。答えは簡単、このテーマは「生活」「仕事」「家庭」「社会」すなわち「人生そのもの」だからである。一人では解決できない、様々な人と強力しあって行動しなければ実現が難しい課題だからである。今後も企業とか福祉とかいう枠を超えて、こうした真のネットワークを大切にしようと誓った。それが私自身の人生を豊かにしてくれると信じて。

(こにしかつみ ㈱イトーヨーカ堂教育訓練部)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年8月号(第16巻 通巻181号) 28頁