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ワールド・ナウ

イギリス

障害者専門の乗馬クラブ

-ダイヤモンドセンター-

山田みゆき

 わらしべ園と馬との出会いは、当施設の創設者である村井理事長の目にとまった1つのテレビ番組が始まりでした。

 下半身不随という障害をもった米国の弁護士の乗馬シーンに新鮮な感動と感銘を受けたのです。

 それは車いすに乗った彼が馬に近付き1本の鞭と声とで膝を折って地面に伏せさせ、鞍に跨がり合図1つで立ち上がり、ひと運動して戻ってきたときには乗ったときと同じように伏せさせて車いすへ、そして鞍や頭絡を外すまでのすべてを1人で行うというものでした。この一場面より得た馬と人間お互いへの信頼関係とそれから成るあらゆる可能性を求め、平成4年より大滝わらしべ園にて障害者乗馬を取り入れることになりました。そのため、乗馬・障害者乗馬の先進国である英国のダイヤモンドセンターに職員が研修派遣されると共にわらしべ園では厩舎が建てられ、ドサンコ2頭が仲間入りをし、帰国したのち訓練の1つとしてスタートしました。

 同センターへの研修派遣は今回で3回目となり、すでに四名の職員が研修を終えています。

障害者専門の乗馬クラブ

 ロンドンから電車で南へ30分行くとカーシャルトンビーチ駅に着きます。これより歩くこと40分、見渡すかぎりの丘陵地帯に広がる、広大な放牧場を横目に坂を登るとそこにはダイヤモンドセンターが見え、隣には病院・障害者施設が並び、また向かいにはゴルフ場と緑のつきない所にありました。

 1968年に屋外で障害者専門の乗馬クラブとして始まりました。年々希望者は増え、また冬季期間の天候に左右されることが多かったため、その必要性を感じて1974年に事務所とビッグスクール(20m×40m)・スモールスクール(20m×20m)の2つの覆馬場、そして、現在は体高120cmから150cmぐらいの馬34頭を有して、多くのライダーを受け入れレッスンが行われています。

さまざまなボランティアの活躍

同センターの職員はわずかで、管理職員と厩舎スタッフの合わせて10名程です。そのほかはというと、すべての人がボランティアで参加していました

 一言に“ボランティア”といっても幅は広く、金銭面の援助をする人、子供が乗っていたが大きくなって乗れなくなったからと馬を提供する人(もちろん質は選びます)など、あらゆることに何らかの形で参加することすべてをボランティアといっています。表に出る人ばかりではなく、朝早く来て掃除をして皆の来る前に帰る一人の女性、参加者の休憩時にコーヒーや紅茶を入れてくれるおばあちゃん方のように陰の力になっている人もいました。レッスン内容や個々の騎乗方法を検討し修正・指示を医師・PTより受け、7~8人を1グループとして中心になって指導するインストラクターの多くの方々はRDA(英国障害者乗馬教会)・RDI(国際障害者連盟)の指導的立場の方ばかりでした。

 このほか多くの人がヘルパー(引き馬や馬の横での介助者)で参加していますが、これは特別な条件はありませんが、所定の用紙に記入しその後に面接してレッスンに参加します。面接はしますが、断ることはなくやる気の確認といったところです。参加者には主婦、定年退職した方、受刑者とさまざまで、中には仕事をもっている人もいて自分の休みを利用して来ている人、また学校帰りの高校生、年齢層は広く上は七十歳ぐらいの方までいます。朝十時に始まるレッスンは1人1時間の騎乗で夜遅くまで続けられ、毎週280名以上のボランティアで1日のプログラムを消化しています。

毎週400名以上が利用

 ライダーといわれる騎乗者には、所定の申し込み用紙に記入し医師からの所見を必ず必要とします。医師の中には“障害者乗馬”について知識のない人もいるので効果やアプローチを添付し理解をしてもらいます。受け入れはインストラクターやPTによって検討され、決定していきます。参加者は身体障害・精神薄弱の施設入所されている方、養護学校に通学されている方など毎週四百名以上の人がセンターを訪れます。希望者は多く425名以上の方が2年近く待機しています。

 同センターでは、ボランティアで参加している方が自らバザーを開催したり、そのほかにも小さな子供がわずかなおこづかいを募金したりと、一人ひとりの小さな気持ちの集まりが運営の一部にあてられているそうです。また、英国障害者乗馬協会に所属するクラブや団体のほとんどがこうして運営されているということです。

 以上これ程までの建物・設備・ボランティア・ライダーとすべてにおいて欧米でも屈指の最大規模といわれている障害者乗馬専門の施設でした。

誰もが楽しめる乗馬を

 イギリスにこれ程までに広がった障害者乗馬、私たちが興味をもつのは「どれ程の機能回復がなされているのか」ということだと思いますが、ここでは特別な誰かが乗馬をするのではなく、誰もが楽しめる乗馬を目的としていて、結果は求めるのではなく、自然とついてくるものだといわれます。参加者の多くは自分で大きな馬を動かすことは精神的喜び・自信につながっているようです。

 そして休憩室の壁には次のような1つの詩が飾られていました。

歩けない子供を見た
彼は馬に乗り、笑いながら
ひなげしの咲く野を駈けていく
足を持たない子供を見た
いつも椅子から見ていた緑の草原へ
馬に乗って向かっていく
はうことしかできない子供を見た
馬に乗り、背をのばして座っている
それから馬を歩かせて、
不思議顔の私に笑ってみせる
こんな子供を見た
生まれた時から、彼の手足は
     とじたまま
彼は手綱をにぎりつぶやいた
神さま、ありがとう僕に道を
     示してくれて

(やまだみゆき 大滝わらしべ園)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 77頁~79頁